異世界放浪記   作:isai

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基本的に主人公の一人称視点で物語を進めようと思っています。
ですので主人公の周囲を取り巻く登場人物の心情や環境はなるべく描写しないよう心がけております。




ここよ。入って」

「お邪魔します……」

家の中に招かれるとそこには簡素な部屋が広がっていた。

ベッド、テーブル、椅子、様々な家具があるがその全てが木製であったことはここが異世界であるという実感をさらに深くした。

兎にも角にも女性の家へ入ったことのない経験からしてこの次のフェーズが分からずその場で立ち尽くしていると

「どうしたの?」

「いや…凄いなって家具全部木で出来てるのって」

正直な感想を口にする。すると彼女は驚いたように目を丸くしこちらを見てくる。

「もしかして他の世界からきたの?」

「はい、多分そうですね。」

「やっぱりそうか……たまにいるのよ、別の世界の人。私も初めて見た時は驚いたもの。」

「そうなんですね…」

会話が途切れる。またしても地獄

「座ったら?」

「アッハイ」

お言葉に甘えて…木製の椅子に腰を掛けるもそこから又地獄

「…」

「……」

気まずさマックスである。

何か話題は無いものかと考えていると彼女が話しかけてきた。

 

「名前は?」

「佐藤太郎です」

咄嗟に偽名を名乗る。特に意味はない。偽名ってカッコいいよね。佐藤太郎は違う気もするけど

「変わった名前ね。」

「よく言われます」

「歳は?」

「22です」

「若いのね。」

面接かな?ここからの返答次第で追い出される?道覚えてないよ?死ぬよ?

心の中で自問自答をしていると少女は質問を重ねてくる。

「どんな所に住んでいたの?」

「北海道というところに住んでいました。」

「ホッカイドウ……聞いたことがない地名だわ。」

「僕が住んでいた場所とは結構離れていますし。」

「貴方はどこから来たの?」

今北海道って言わなかったか?発音が悪かったか?そう考えていると彼女はなにやら察した様子で

「言いたくないことは言わなくてもいいのよ」

と言ってくれた。

「ありがとうございます」

反射でお礼が出てきてややこしいことになったぞ。どうするんだこれ…

「貴方はこれからどうするつもりなの?」

「取り敢えず人の居る場所に行ってから考えようかと思ってます。」

「人が住んでいる場所までここからかなり遠いのだけれど…」

「まぁ…何とかします」

「何とかって具体的には?」

グイグイくるなぁ…一刻も早くこの場から去りたいので話を切り上げようとするもあっけなく一蹴される。

「いや……歩いて?」

「具体的に」

「……」

「……」

「……」

「……」

「すみません」

「何が?」

「……」

「……」

「……」

「すみません」

「謝らなくて良いのよ」

泣きそうなんだけど…泣いてもいい?泣くよ?成人して2年経つ大の大人が泣き喚くよ?

問答(?)を繰り返していると少女は鶴の一声を上げた。「分かったわ。私が送っていく。」

「えっ!?本当ですか!」

「ええ。ただ条件があるわ。」

「えっと……それは……」

「そんなに怯えなくても大丈夫よ。簡単なことだから。」

「はい……」

「敬語をやめて」

「え?」

「敬語をやめて」

「いや…これは素の話し方で…」

「…」

「すみません」

怒っているとも悲しいとも取れるような眼差しで見つめてくれる少女に対し俺は

「すみません……」

「すみ……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……オーケーっす。これでいい?」

「うん。それでよし。」

「じゃあそれで」

よくわからない返しをしたところで不意に睡魔が襲ってくる。

「ごめん、ちょっと眠くて……」

「そういえばまだ夜中だったわね。」

「寝かせてもらうね。」

「おやすみなさい」

その言葉を聞いた直後、意識が途切れた。


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