ですので久し振りに前置きを書いてみようとかと思います。
突然ですがこの小説のタグである[弱主人公]についてですが、こちらを[主人公成長系]
と変更させていただきます。
理由としましては、筆者がノリノリになるあまり意外と主人公さんが善戦してくれていたからですね。申し訳ない。
ですが今後執筆していく中で、主人公のステータスを底上げするチート能力、世界観に影響を与えてしまう成長要素を取り入れることは決してありません。
実際に主人公の特殊能力は現時点で発現していますが、一切戦闘面に関わる事はありません。
「着きましたわ!」
「おぉ~」
思わず感嘆の声を上げる。
大通りに面したその建物は三階建ての立派な建物だった。
「ここはギルド直営店でして、この建物一つで武器から防具、さらにはポーションなどの消耗品が全て揃いますのよ!」
はぇ~便利なものが合ったもんだ。てっきり装備品それぞれで別の店を駆け巡る事になると思ってたけど…
「ちなみに武器だけとか防具だけっていう店はあるんですか?」
「勿論ありましてよ。ただそのお店毎で店主さんが実際に作成した物がほとんどですので、わたくし達のような駆け出し冒険者はまずここに立ち寄ることになりますわ。」
この防具はここで作成した物じゃありませんけど、と付け加えた。
「じゃあ、防具はそこで買う事にします。武器は…」
チラリとコートを捲り腰に携えている剣に目を向ける。この剣がどれだけの性能を誇っているのかは知らないが、他の武器には乗り換えたくない。
お金や性能では無く心の問題だ。
「俺はこの剣を使い続けようと思います。」
「そうですか……分かりましたわ。」
少し残念そうに彼女は答える。
「それじゃあ、さっそく中に入ってみましょうか!」
そう言って彼女は歩き出す。
つまりここで買うのは消耗品だけではあるが、折角の機会だ。色々見てみることにする。
あ、と言ってフェイデルは振り返る。
「少し訊ねにくいのですが、ご予算は幾らぐらいあるのでしょうか?」
船で移動する際に5シルバー、ギルドカードの名前変更に3シルバー使用している。
ケルバの渡した額が正確であれば残りは72シルバー残っていることになる。
「70シルバー?くらいですかね…」
「それでしたら問題ありませんわね!宿屋の方もそこまで高望みをしなければ問題無しですわ。」
そう言って店に入る。
おぉ、ポーションだけでは無く使用用途の分からないアイテムが並んでいた。
とりあえずフェイデルに従ってポーションと解毒薬、それに俺が以前使用していた物よりもやや小さいランタンを購入する。ちなみに割り勘だ。
「ついでに武器、防具も見ていっていいですか?」
「勿論ですわ!」
2階には武器、3階は防具とそれぞれの階によって品揃えが違っていた。当たり前か。
階段を上り武器コーナーに着く。それぞれ武器の種類が分けられて壁に掛かっている。それぞれの武器でも3種類くらいの幅があった。
だがそれでも満足だった。モニター越しでしか見る事の出来なかった光景が今目の前にあるのだから。一々武器の解説をしてくれているフェイデルには悪いがほとんど話が入ってこなかった。
値段は大抵の物が3シルバー50カッパーという価格設定になっている。やはりシルバーの下があったようだ。メモメモ…
そこから使用者に合わせてオーダーメイド費用が発生するとの事。心が躍る。
それでも俺にはこの剣で十分だ。満足して3階へ向かう。
色々な種類の防具がある。関節のみを守り必要最低限の音しか出さない防具もあれば、フルプレートの鎧もある。中には木製の鎧もあった。
こんなんで守れるのか…コンコンと叩くと見た目はやたら薄いのに恐ろしい程分厚い板を叩いている感触がした。
「鉱石によりますが、金属よりも木製の方が魔力を宿しやすい材質もあるようですわね。」
フンと胸を張って先輩顔をしたフェイデルが注釈してくる。
「ただ魔力を宿すには特殊な加工技術が必要となりますので、お値段はちょっと張りますけれど。」
なるほど、ただ安物買いの銭失いという諺がある。死ぬくらいなら散財したほうがマシだろう。
ある程度見まわったところでフェイデルに声を掛ける。
「じゃあ、次はフェイデルさんが防具を買った場所に行ってみたいです。」
「あら、わたくしの買い物にも興味を持ってくださるなんて嬉しいですわ!」
彼女は顔を綻ばせて言う。
「こちらですわ!」
そう言って彼女は歩き出した。
フェイデルが向かったのは店を出て、やや左に流れ細い道に入った先だった。
そうして辿り着いたのは、知る人ぞ知る!といった見た目のややボロい店だった。
扉を開けるとチリリンと鈴が鳴る。
中に入ると強面のおっさんがチラリとこちらに目を向ける。
今日はやけに不愛想な人間に出会う日だ。もしかすると異世界人は大体こういう感じなのか?
店内を見渡す。
「おぉ……」
思わず感動の声が漏れる。
壁には盾が飾られ、棚には籠手や脛当て、頭を覆う兜などが置かれている。
フェイデルは奥のカウンターに肘を付いている店主に話しかける。
「お久しぶりね、お元気だったかしら?」
「あぁ……防具の調子はどうだ。」
「上々よ!」
「そりゃ良かったな。」
それだけ会話を交わして店主はまた視線を手元に戻す。
俺はというと店主の放つオーラに気圧されて、声すら出せずにいた。
「あの、この方がわたくしのパーティーメンバーですの。」
「は、初めまして。シロと申します。」
「……」
店主は無言のままチラリと俺を見る。
「……ふむ……」
そして小さく呟く。
「、その剣を見せてくれねぇか。」
「えっ、あっ、はい。」
言われるがままに剣を渡すと受け取った剣を様々な角度から眺めている。
「そのローブといいどこで拾って来たんだ。」
そう言って剣を返してくれた。
「大事な人から貰ったっていうか…」
「じゃあ聖堂とはなんの関係もねぇんだな?」
そう言って彼は俺の目を見る。怖ぇし…聖堂とかも聞いた事ないし…
「多分関係ないと思います。聖堂自体もよくわかっていないです…」
「そうか。」
そう言ったきり、店主は黙ってしまった。
沈黙に耐えかねた俺は彼に尋ねる。
「あのー、防具を購入させて頂きたいのですが…」
「予算は。」
こいつも中々に失礼な奴だな。初っ端から予算聞いてくるとか日本なら一発解雇案件じゃないの…?
そう思いつつも今出せる金額を考えてみる。手持ちのシルバーは先程アイテムを購入した事もあり60シルバーと少々。これから宿屋に掛ける金、クエストの結果が赤字になる事も考える。
さらに食事代等もかかることを踏まえ、
「10から15シルバーくらいですかね。」
「駆け出しにしては思い切った金額を出すな。悪くない、防具はお前の身を守る為の物だ。ここで惜しむ奴から死んでいく。」
「あ、ありがとうございます。」
「バルガ・グランディスだ。」
何とかおっさんからの高評価を得た。
そこからは防具の試着や採寸を済ませていく。俺からの要望も聞きつつ、最終的には素材が軽く必要な個所を守る防具が必要だ。と言われた。
理由はもちろん俺の体が貧弱だから。いくら素材が軽いとはいえ全身鎧を着れば自重で動かなくなるし、固い素材で一部を守ろうとすれば防具に重心が引っ張られるらしい。
幸いにも俺が提示した予算は中々の物だったらしく、要望通りの品が出来るそうだ。防具は元々店にあるものを加工して出来るそうなので店の中で待たせてもらうことにした。
店に置いてある長椅子に体を預けると、横にフェイデルが座ってきた。
「良い防具が出来上がりそうで何よりですわ!」
「そうですね。」
フェイデルは笑顔で言うが俺は少し気まずかった。なんだか俺の予定に合わせて引き留めてしまっている感じがしたから。
これこそがコミュ症の王たる由縁だろう。
それからしばらく無言の時間が流れる。
「……そういえば、シロ様はどうして冒険者になろうと思ったんですの?」
唐突にフェイデルが尋ねてくる。
「あぁ、実は……」
どこまで話したものか…と思案する。あんまり重い話をしても困らせるだけだろう。さらに彼女は嘘をかぎ分ける事に長けていると思う。嘘と本当の事を織り交ぜて話す。
「自分に掛かった呪いを解くためです。その為にミレーバルに行こうと思っているのですが、受付嬢さんから今の能力では外に出るには危険だと。ですのである程度能力を付けつつ金を稼いで移動手段を見つけようとしてました。」
なぜだろう。言葉がポロポロ出てくる。きっと浮かれているのだろう。
「最初は一人で全部やろうとしてましたが、受付嬢さんからこの街でやっていくのはパーティーが不可欠だと聞いて。」
初めてのパーティーに。初めて同業者と話し合えたから。
「そこで紹介されたのがフェイデルさんです。正直に話すと…」
だから言わなくても良い事まで言ってしまう。
「最初に見た時、あぁ…この人は色々なパーティーから断られてきたんだろうなって…」
この際、彼女が貴族だから。戦闘の時に役に立たなさそうだとしても。
「でも断らなきゃって、貴族に見えるから立派な理由で冒険者なんてやってないと思い込んで。」
彼女は初めて出来たパーティーメンバーなのだから。
「最後に笑顔で立ち去ろうとするフェイデルさんを見て、申し訳ないなって思いました。それで呼び止めたんです。」
俺と同じ外れ者にされてきたんだろうなと勝手に思い込んでしまった。
「でも、今日フェイデルさんはアイテムや武器防具の説明をしてくれましたよね?それで分かったんです。」
もう彼女の事を他人だとは思えない。
「きっとフェイデルさんは冒険者になる為にいっぱい勉強してきたんだなって。だからパーティーを組んで後悔はしていないです。」
彼女は俺の友人だ。同じ思いを共有する同類だ。
いずれこの街を離れることになっても彼女の事は決して忘れることは無いだろう。
そこまで言って俺はとてつもない後悔をした。
恥ずかしっ!誰だこの勘違い自己中男は!冒険者の経緯を聞かれたのに話がとんでもないことになっている。
自分の首を絞める為に顔を上げると、フェイデルの顔が視界に入る。
涙を流していた。
判決、被告人を死刑に処する。
「え、ちょっ、なんで泣いているんですか!?」
「だってぇ…だってぇ!」
そう言って泣きじゃくるフェイデル。誰か助けてくれぇ!
「わたくしっ…パーティー候補の方が居るとお聞きしてっ…グス…舞い上がって…!」
嗚咽を漏らしながらも彼女は続ける。
「それでもっ…シロさんのお顔を見てっ…この方も今までの方達と同じ目をしてたからっ…断られるって。」
「だからっ……わたくしっ……諦めかけていたんですのっ……そしたらっ……シロさんが優しくてっ……!」
「わたくしっ……嬉しくてぇっ……!」
そう言ったきり彼女は嗚咽を上げ続ける。この時に背中を擦れるだけの度胸があればこんな場所には来ていないだろう。
やがて落ち着いたのか嗚咽が止んだ所で彼女は口を開く。
「わたくし、ミラ・ヴァーリアル・フェーデルと申しますの。ミラ、と呼んでくれて結構ですわ。」
フェーデル。この王国の名前。偶然ではないだろう。やばい。下手な事やったら。衛兵。殺される。
心の中がプレッシャーで押しつぶされそうになる。地雷かと思っていたら核爆弾そのものでした。
「よ、よよ喜んで、お、お、お受けいたしますわ。」
俺は声を震わせながら答える。
「ほ、本当ですのね!?」
「はい……」
「ありがとうございます!!」
「いえ、こちらこそ……」
「それではこれからよろしくお願い致しますわ。それと敬語もいりませんわ!なにせ…」
頼むから現実を突きつけないでくれ。何かの間違いだと言ってくれ。キモいからパーティー解消だと言ってくれ。
「パーティーメンバーですもの!!!」
そうこうしている内に奥から店主が出てきた。
「待たせたな。お前の要望通りの性能を持った防具が完成したぞ。」
そう言って差し出された防具は銀色に鈍く光るパーツのような物だった。
明らかに防護できる部分が少ないように感じるんですが…
「えっと…これは…」
「安心しろ。防具が小さいのには訳がある。それに小さい分、全てに魔力が籠っている。」
お前の体では動きを阻害する物は装着できない。全身鎧など以ての外だ。
それにお前が着ているそのローブ、斬撃や打撃に加え多少の魔法に耐性がある。
故に一番攻撃を受けるであろう正面。咄嗟にガード出来る前腕。上腕は重しになるので装着はしない。肘。膝などの関節。壊されると致命的になる足。
この部分だけに装着することによって、動きを阻害することの無く立ち回ることが出来る。
「はぇ~」
「分かっているのか?」
「多分。」
はぁ、とため息を吐き続ける。
注意点としては魔力が籠っている防具に関してだが、攻撃を受けると防具に宿っている魔力から削れ始め、防具自体には傷が付かない。
だが残量が無くなると防具自体にもダメージが入る。一番危険なのは魔力があると勘違いをしてその戦い方を続けることだ。。防具に付いてある水晶を見てみろ。
それが大まかな魔力の残量だ。余裕がある時は常にチェックしておけ。それに魔力が満杯の状態でもそれ以上の攻撃を受けるとダメージは通るから気を付けておけ。
「ありがとうございます!」
そう言って懐からシルバーを出す。17シルバーぽっきりだった。
予算より多いものの、説明を受けている後だと良い買い物をしたと思わせるような丁寧な説明だった。
「防具の修復なら俺の店に来い。以上だ。用が済んだのなら出ていけ。」
「ね。この防具屋に来て正解だったでしょう!」
「確かに、為になる事は多かったかな。」
そう言って店の外に出ると既に日が暮れ、夜になっていた。
「じゃあ、後は宿屋までお願いしてもらっていい?」
そう聞くとミラは額から汗を出しながら答える。
「あ、あ、あ、あ、あの!シロさん!」
「は、はい…。」
何事だ。
「よ、よろしければ…こっこの後、お食事に行きませんか!?」
「あ、あぁ…喜んで…」
「じゃ、じゃあ行きましょう!すぐそこに美味しいレストランがありますの!案内致しますわ!」
そう言うと彼女は俺の腕を掴んで走り出す。
ん?このお方王族ではありませんこと?お値が張りやがるのでは…?
そんな不安を抱えながらも彼女の後ろ姿を見つめる。
初めて見た時から思っていたが、防具を纏っていても一目で分かる高貴さがあった。
「着きましたわ!」
「えっ……ここ……です……?」
着いた先は貴族が入りびたるような正に高級レストランそのものだった。
「ちょっと俺、懐が心許ないし、こんな格好で入る事出来ないかなぁ…」
いいから、いいからと彼女に引っ張られた先は高級レストラン…の前にある通りを挟んだこれまたボロ臭い酒場だった。
あ、ここね。ここだったらなんとか…
「すみませーん!」
「いらっしゃい!」
「2名様ご来店でぇす!」
「あいよぉ!」
店内に入ると中年の男性店員が注文を聞きに来る。
「いらっしゃい!何にするかい?」
「とりあえずエールを2杯とセ―ディロンを二人前お願いしますわ!」
「かしこまりぃ!」
「あとは適当に頼めば大丈夫ですわ!」
そう言いながら席に着くミラ。俺はメニューを手に取り価格を確認する。
カッパーという文字がやたらと並んでいる辺り金に困る事は無いだろう。
「お待たせしました!」
運ばれてきたのは野菜炒めのようなものと薄い緑色の液体が入ったコップ。
「まずは乾杯ですわね!」
そう言って彼女はジョッキを掲げる。俺もそれに倣いながら
「か、かんぱいっ……」
と小声で呟く。
「ぷはぁ!やっぱり一日の終わりと言えばエールこれに限りますわ!」
確かに美味しい。日本ではあまり感じたことの無いような爽やかな口当たりが広がる。
その後、異世界の食べ物に舌鼓を打ち宿屋へと向かうことになった。
「今日は本当にありがとう。」
「いえいえ、こちらこそ楽しかったですわ。」
そう言って手を差し出してくる彼女。握手を求められているのだろうか。
「それじゃあ、お休みなさい。」
「えぇ。お休み。」
そう言って別れるはずだったのだが
「えっと……なんでついてくるの……?」
「あら?だって同じ宿屋じゃない。」
「そうなんだ。」
「えぇ、紹介しておいて自分が宿泊しないなど相手に失礼ですわ。」
なにかあったら隣の部屋にいますので。と言ってミラは部屋に入っていった。
「はぁ、疲れた。」
ベッドに倒れ込み天井を見上げる。
なんか…色々あったなぁ。イツワ村を出て間もないというのに随分と前のように感じる。
結局、航路での出来事は何だったのだろうか。俺が海に落ちたことは間違いないが人魚云々は夢だったのだろうか。
もし夢では無ければ俺の呪いは軽くなっている筈だ。それを自覚することも出来なければ、寿命が延びているのかも定かではない。
いずれにせよ、ミレーバルに行く事は確定だ。
もう、遅いし寝よう。考え事をすると眠れなくなる。
そうしてフェーデル王国の一日目が終了した。