異世界放浪記   作:isai

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昇級試験

翌日

宿屋でミラと合流し冒険者ギルドへ向かう。今日は昇格試験だ。試験官との実戦もあると聞いてはいるのだが体の調子はというと、

 

「まぁ、目立った傷は付いてないしいいか。」

ボロボロになった防具を捲り、胸部を確認する。未だに包帯は巻いてあるが触っても痛みは無いし多分大丈夫だろう。

それよりも防具の修理はどうしようか。前行った防具屋に預けてからギルドへ向かうとするか。

その旨をミラに話すとあっさりと承諾を得たため防具屋に赴く。

 

「ちわーっす。」

防具屋に入ると相変わらず不愛想なおっさんがチラリとみてくるだけで返答は無かった。

客商売としてアリかどうかはこの店の主であるバルガが決める事だ。俺が文句を言う筋合いはない。

「修理お願いしていいっすか?」

ボロボロになった防具をカウンターに置くと流石のバルガも目を向いた。

「お前…一日でこんなにしたのか?」

「冒険者に使われる防具からしても本望じゃないっすかね。」

「そもそもダメージを喰らわない事が防具にとっての本望だと思うが?」

うるせぇよ。屁理屈ばっかり捏ねやがってよ。ちょっとは素直になれってんだ。

「とりあえず修理お願いします。」

「……分かったよ。一日で終わる。今日は静かにしとけ。」

そう言って修理代の紙を出してくる。

 

「たっっっっっっか!」

「当たり前だろ、防具の修繕に魔力の補充。俺の優しさで10シルバーにしてやってるんだよ。」

買った時、17シルバーだったろ。ぼったくりやがって…でもここまで来た以上他の店を探すのは怠いし任せるしかないか…

渋々袋からシルバーを出す。

「おなしゃーす…」

「まいどあり。」

そう言うとおっさんは奥の方へと消えていった。

さてとギルドに向かうとするかぁ…

 

ギルドに着き、いつも通り受付嬢の元へと向かおうとすると、何やら騒がしい様子でギルド内は賑わっていた。

気になって近くにいた人に話しかける。

「どしたんすか?」

「おぉ、新米の!見ろ、あれがこの都市最強のパーティーだ。全員1等級か2等級で構成されてる。」

目を向けてみる。

 

先頭に居るのは銀色で統一された全身鎧に、所々赤い宝石が組み込まれているぱっと見で分かる最強装備を付けたイケメン。見るからに人間の様に見える。

 

イケメンの隣で楽しそうに話しているのは前面に銀色のプレートを付けた全体的に緑色の薄い布を着ているエルフっぽい人。やけにクルクルした弓を背負っている。

 

その又、隣には全体的に光を吸収しているかのような黒色の衣服に鍔の大きい帽子を被って不満げな顔をしている魔法使いっぽい人。種族は分からん。

 

少し離れた位置には、一枚一枚が大きい鱗に覆われたデザインのタンクトップを着ていて、背中に仰々しい大剣を背負っている鬼っぽい人。肌の色は人間と変わらない。

 

そして最後に見えるのはボロボロの黒いマントを着用し腰が異常に曲がっていて全貌が不明。頭らしき所からは動物の頭蓋骨が出ている生物。多分マントの下は人間じゃない…と思う。

 

全員が一癖も二癖もありそうなメンバーだ。

そんな事を思っていると、ギルドへの報告を終わらせたのかギルドから出ていく。その時、最後尾にいた謎の生物の目がこちらを見た気がするが多分気のせいだろう。

なぜならば頭蓋骨の眼窩には空洞が広がっていたから。

「なんか、皆強そうだったねぇ…」

隣のミラに話しかけてみる。

「そうですわね。」

しかし、彼女は上の空といった感じだ。

「どうかした?」

「いえ、何でもありませんわ。」

そう言って首を横に振る。

「それより早く昇級試験を受けに行きますわよ。」

「あ、はい。」

そう言って不愛想受付嬢の元へ向かう。

「昇級試験ですか?昇級試験ですね。ではギルドの二階へ行ってください。待っていればすぐに面接官が来ます。」

 

そう言って受付の奥にある階段を指差す。

もう流石にこいつの対応にも慣れてきた。道端で会ったら感電死させてやろうかな、と思いつつ指定された部屋に入ると暫くして顔の知らない受付嬢さんがやってきた。

どうやら面接官らしい。

 

面接官さんはミラを別の部屋に誘導し、一対一の面接が始まった。

面接とは言ったがそんなに踏み込んだ話はしなかった。最後に面接官さんは犯罪行為の有無について聞きたかったという趣旨を話してくれた。

そこで不意に思い出す。

「そういえば、エルミナスでレンタルしたランタンを洞窟に落としてきちゃったんですよね…弁償ってできますか?」

「その一言を待っていました。」

 

そう言って制服の内側から赤い宝玉のような物を出す。

「これは対象者の虚言について反応するアイテムです。シロ様との会話にてやや反応しておりましたので最後に問いただす予定でした。」

危ねぇな。先に言えよそういう事は。先に言ったら駄目か。

「今回はシロ様からの申し出があった為、不問としておきますが以後気を付けるようお願いいたします。」

「かしこまりました。」

そう言って袋から手数料含め2シルバーを渡す。ケルバから貰った金がどんどんと消えていく…

「では面談は終了いたしましたので次はギルドを出て左にある修練場へとお向かい下さい。実践試験があります。」

そう言われて俺はギルドを後にし修練場へと向かう。

ギルドを出て左側を向くとそこには大きな広場があり、そこでは冒険者達が武器を使った模擬戦を行っていた。

奥の方を見ると闘技場の様になっている場所もある。

 

「シロとフェーデルだな。今回の実践試験を行うダーリッシュだ。」

そう言って現れたのは白髪混じりの短髪をオールバックにしている髭面のおっさんだ。

「よろしくお願いします。」

「早速だが始めさせてもらうぞ。」

おっさんは木剣を放り投げ、それをナイスキャッチする。

どこか懐かしい感触だ。外見もどことなく似ている気がする。だが以前の記憶よりも軽くなっている気がする。

本当に軽くなっているのか、俺のステータスが上がってるかは定かではない。

木剣を正面に構える。

「ルールは手の甲が地面に付くと負けだ。魔法の使用はアリだ。全力で掛かって来い。」

これまた聞いた事のあるルールだ。ならばやることは一つ。

木剣を正面に構えたまま全身に力を入れる。

「いくぞっっっっ!!!」

「来い!」

そう言って木剣から左手を離す。おっさんの顔が驚愕に包まれていた。

奇襲。

ステータスの低い俺が唯一強者に歯向かえる手段。

『イカヅチ』

雷鳴が轟き、閃光が走る。

おっさんに閃光が吸い込まれるもやや体を震わせ、

「あったまってきたな!」

「マジか…」

おっさんが木剣片手に走りこんでくる。

左上からの袈裟切りを木剣で受け流す。

「魔法は魔力で軽減できるのは知ってるよな!?」

再び来る斬撃を受け流す。

「初耳っ!」

今度は俺の攻撃だ。おっさんの剣を絡めるように木剣で押さえ左足で蹴り飛ばす。

「魔法が来る事がある程度予想出来ていれば、全身に魔力を纏わせて軽減が出来る!こうやってな!」

おっさんの剣から弱弱しい緑色の刃が飛んでくる。試験のため手加減してくれているのだろう。腕に電流が流れるイメージをする。

斬撃が腕に衝突する。やや衝撃を覚えるものの刃は霧散していった。

「だが魔法を駆使した地形ダメージの軽減は出来ん!」

そう言って再び放たれた刃は先程よりも鋭く濃い色をしていたが、地面に衝突する。

地面に衝突した刃は霧散するも衝撃で飛び散った破片が襲い掛かってくる。

姿勢を下げ危なく回避する。

「上等だっ!」

おっさんが再び切りかかってくる。寸での所で回避し脇腹に横薙ぎを放つ。

 

ガァァァンッ!!!

 

鎧に当たったのかやや高い音が聞こえる。

もう一度横薙ぎを放つために剣を引くとおっさんは自分から手の甲を地面に付ける。

「合格だ。9等級おめでとう。」

どうやら合格したらしい。

「最後にっ!」

おっさんが距離を取る。

「魔法を俺に撃て!」

慌てて魔法を射出するとおっさんも先程の刃を剣から放つ。やがて刃と衝突した閃光は緑色の刃を霧散させおっさんの体へと吸い込まれていった。

だがおっさんはピクリともしない。

「魔法同士が衝突した際は、魔力がより籠っている方が打ち勝つことが出来る。」

最後にアドバイスをもらいミラの番になった。

ミラも俺と同様に戦闘を行いつつアドバイスをもらっているようだった。

ミラの戦闘を横目にして考えに耽る。

 

確かに俺の魔法は直で当たったら即死と言っても過言ではない電流が流れているであろう。ゴブリンやダイアウルフが死んでいったように。

だが実際におっさん含め直撃しても立ち上がり続ける敵は何度か見にしてきた。つまり奴らは体内に魔力を有している敵だという事だ。

これから等級が上がり続けるとさらに手強い相手に出くわすことになるだろう。そうなったとき今の魔法では不十分だ。

ミラの魔法もどちらかと言えば攻撃手段ではなく場を有利にする魔法だ。他にも見せていない魔法があるのかもしれないが定かではない。

残るは、

 

「あれやったら腕超痛いんだよなぁ…」

零距離の敵に対し腕に直接電流を流して殴る例のアレ。剣を両手で振り回している身からしてアレを撃てば最後、戦闘能力は格段に落ちてしまう。

となると今の魔法を根本から見直す必要がありそうだ。

俺の魔法は体に存在する僅かな電流を増幅させる魔法…のはず。

飛ばす、殴る以外の使い方。金属製の武器に流し込んでみるとか?

エリーゼの剣を触ってみる。刀身はおそらく金属だと思うが柄の部分は違う材質な気がする。

ちょっと流してみるか…そう思い刀身に手を触れ魔力を流し込んでみようとするも上手くいかない。

だがIQ200の俺はあることに気付く。

「名前…」

武器に属性を付与するなど、一つしか単語が思いつかない。

 

『エンチャント』

 

そう言って魔力を流し込んでみると淡く刀身が光り出す。

「おっ!………あばばばばばばばばばばば」

全身から物凄い勢いで魔力が引き抜かれていく感覚がしたので刀身から手を離すと淡く光っていた刀身は元の色に戻っていった。

「燃費悪すぎだろ…それでも。」

新しい魔法は手に入れた。後はどう調整していくかだ。

「ありがとうございましたっ!」

ミラの声が響く。

どうやら彼女も無事に実践試験をクリアしたようだ。

俺たちはギルドへ戻り報告をする。

不愛想な受付嬢がギルドカードを受け取るとカウンターの奥に行って何かをしている。

暫くしてギルドカードを返されると9等級の文字が右上に浮かんでいた。


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