異世界放浪記   作:isai

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三人

視線を集めながら冒険者ギルドを後にする。ギルドから出る瞬間、気になる事をゴズたちは話していたが気に留める余裕はない。

…そういえば頭蓋骨の名前を聞くのを忘れてたな。まぁもう二度と会うこと無いからいいか。

 

情報は得た。思い立ったが吉日という諺があるように、準備が整い次第出発しよう。

とりあえず宿に防具は無かった為、おそらく防具屋にあるのだろう。

早速、馴染みの防具屋の扉を開ける。

「バルガさーん。俺の防具預かってるー?」

 

店の奥に向かって叫ぶ。

しばらく待っていると、奥からヤクz…バルガが出てくる。

バルガは一瞬驚いた表情を見せ、再び店の奥へ戻っていく。そうか、一ヶ月来てなかったもんな。

暫くすると店の奥から俺の防具を持ったバルガが出てくる。

「…生きていたとはな。」

「えぇ、おかげさまで…え?」

何故かバルガが持って来た防具はパーツが多いように思える。

「何か多くないです?」

「ミラから話は聞いた。お前体重が軽いから前面で守れたとしても背面でのダメージが多いらしいな。それと時間もあったから防具の素材を強化しておいた。」

それはありがたい話なのだが…

「ちょっと金が…」

「出世払いで良い。」

了解です。そういう事なら俺にお任せを。ミレーバルで呪い解いて超越者ぶっ殺したら払いに来るわ。

踏み倒す気満々の俺は早速防具を付けてみる。

「おぉ、また軽くなっている気がする…」

素材を強化したというのはこの事だろうか。軽く動く事も出来るし、動きやすくなったと思う。

そこでふと気付いたことがあった。

あれ?ローブどこやったっけ?

エリーゼから頂いたローブは朝出る時に必ずつけている筈なのに今日は忘れていた。

まぁ、宿屋にあるだろ。

納得し、バルガに礼を言ってから店を後にする。

 

次に来たのはギルド直営のアイテム屋だ。

携帯食料やポーションなど普段使用している物を多めに買っておく。旅は長いし、こういう所でケチってもしょうがない。

必要な物は揃えたので後は出発するだけになった。多分。

後はパーティーメンバーに別れを告げるだけとなった。

反対するか、それとも別れを惜しみながらも賛成してくれるのか。

どちらにせよ、少し寂しい気持ちになりそうだ。反対されたとしても行かなければならない。

その後は街を見て歩く。

この街にも随分と見慣れてきたものだ。

だが、これからは一人で生きていかなくてはならない。

今までのように甘えられない。

でも、だからこそ得る物も多いはずだ。

そうしている内に辺りは暗くなっている。ミラと合流する為、宿屋へ戻ることにした。

 

今からミラ達にミレーバルに行くことを伝えると思うと足が重い。

しかし、伝えることは伝えなくてはいけない。

覚悟を決めろ。

ミラの部屋の前に着くと中からは談笑している声が聞こえてくる。

あ~あ、入りたくねぇな。

だが、入らない訳にはいかない。

ドアノブに手を掛け、深呼吸してから扉を開く。

「あら?シロさん。おかえりなさい。」

「…お帰り。」

言うのだ。覚悟を決めて口を開く。

「飯、行かね?」

結局いつも通りだった。

 

俺達は夕食を食べ終え、今は食後の休憩を取っている。

ちなみに今日のメニューは魚介スープとパンとサラダだ。

食事を終え、皆が落ち着いたところで本題に入る。

「俺、明日遠出するから暫く帰んないわ~。」

アルコールに任せ、口が滑るように言葉が出てしまった。が、後悔は無い。もう言ってしまったのだ。

 

「はい?」

「……何?」

二人共反応は同じだ。そりゃそうか。いきなりこんなこと言われても困るよな。

「ミレーバルって所行くんだけど…」

ここからが正念場だ。

二人の反応を見る。

エルダは黙ったまま下を向いており、表情は読み取れない。

一方、ミラは顎に手をやり、考え込んでいる様子だ。

あくまで軽い用事のように話すのだ。そうすれば深刻にならずに済む。

するとミラが顔を上げ、こう言った。

「聞いた事の無い名前ですが、ここから遠いのでしょうか?」

その口調はやけに軽い。まるで呆れられているかのようだ。

頭蓋骨から貰った地図を卓上に広げ、黒塗りの部分を指さす。

「随分と遠いですわね…」

「……遠い。」

必要な情報は教えた。後は押切るだけだ。

「そんな訳で、明日行ってくるわ~。」

「お待ちください!いくら何でも急すぎますわ!」

「……準備が必要。」

準備というのは様々な手続きだろう。帰ってこない俺をパーティーに入れておく必要は無い。仮とはいえパーティーから除外するのだろう。

「パーティーの事?俺も行かなきゃなんない感じ?」

「当たり前でしょう。明日ギルドに行きますわよ。エルさんはアイテムの準備をお願いします。」

「…心得た。」

「明日までに街出れる?」

「何でそんなに急いでるのか分かりませんが…まぁ昼頃には出られるのではないでしょうか。」

じゃあいいか。

「……ミレーバルに行く理由は?」

遂に来てしまったか。これも軽く言えば何とか…ならないか。みんな優しいもんね。

「呪い解きに行くんだよね。結構ヤバめの呪いみたいだからさ。」

「……何故それを早く言わないのですか?」

「……そういう事はもっと早めに教えて。」

怒られました。

「ごめんなさい。」

「はぁ…だからお金に執着していたのですね。」

その通りでございます。だが、これで納得して貰えた。

あとは出発するのみだ。

 

翌日、俺はミラと共に冒険者ギルドへ向かっている。

エルダは既に外出しているようだった。二人でギルドの扉を開け不愛想な受付嬢の元へ向かう。

カウンター越しに要件を伝える。こういったことはミラの方が得意なので全部投げてマルデさんの方へ向かう。

「こんちは~。マルデさん今良いですか?」

「はい。どうなされましたか?」

俺の呼び掛けに対し、笑顔を浮かべながら返事をしてくれる。

でも騙されてはいけない。この人は散々俺に厄介事を押し付けてきた張本人なのだ。

それでも面倒を見てくれたのは事実だし、会えるのは最後なので一応挨拶だけはしておく。

「暫くこの街から離れることになるんですよね。なんで一応挨拶に来ました。」

「それは寂しくなりますね。」

よく言うわコイツ。内心では厄介事を押し付ける奴が消えて残念がってるんだろうな。

 

まぁいいや。

「まぁ、また戻って来るんでその時は宜しく頼みますわ~。」

「えぇ、こちらこそ。」

それだけ言うと、今度はミラの元へ戻っていく。

すると珍しく不愛想な受付嬢から話しかけてくる。

「シロ様。」

「なんすか?」

「必ず、生きて帰ってきてください。」

「珍しいっすね。アルゼータさん。」

「約束、ですよ。」

いつも名前を呼ぶと異常にキレてくる受付嬢は意に介した様子もなく心配をしてくれる。

何だかんだで依頼を受ける際は毎回この人にお願いしてもらったのだ。ミラに次いでこの街で長い付き合いだろう。

別れを告げるのは感慨深いものがある。だがこれで最後なのだ。

最後に一言だけ伝えておくことにする。

きっとこれが最後の会話になるからだ。

深々と頭を下げ、言葉にする。

「今までお世話になりました。アルゼータさん。」

「いってらっしゃいませ。」

そうしてギルドから出る。

 

街の門へ到着するとエルダがすでに待っていた。

「……やっと来た。」

そう言いながらも少し嬉しそうだ。多分。

最後だ。

俺は二人の前に行き向き直す。

「本当にありがとう。二人が居なかったらここに立つことも出来なかったと思う。」

最後の挨拶だ。目頭が熱くなる感覚を覚える。二人は何も言わず優しい笑みを浮かべていた。

「ミラ、前も言ったけど最初にミラを紹介された時は正直不安だったんだよ。でもいつの間にかミラと居る時間は結構好きになってた。」

「ふふ、私もシロさんと一緒に過ごす時間は楽しかったですわ。」

「本当にミラとパーティーを組めてよかったと思ってる。ありがとう。」

「こちらこそ。」

俺は泣きそうになっているというのにミラは笑みを浮かべたままだ。

強いな。本当に。続いてエルダの方へと向く。

彼女は無表情のままだ。何を考えているのか分からないが、彼女もミラと同じ気持ちだろう。

感謝を伝えなくちゃいけない。

「エルダさんは初めて見た時、怖くて仕方なかった。この人とは上手くやっていけないなって思った。でも今は全然違う。」

「……うん。」

「意外と毒舌な部分もあって、冗談も言ってみたりもして。人は見かけによらないなぁって思った。エルダさんが居なかったら俺もミラも死んでたと思う。」

「……ん。」

「短い間だったけど、エルダさんとはいつまでも仲良く出来そうな気がしたよ。本当にありがとう。」

「……こちらこそ。」

エルダも笑ってくれた。

これで終わりにしよう。これ以上話したらただでさえ潤んでいる眼から汗が流れ出てしまう。

「じゃあ、そろそろいくわ。」

そう言って足を踏み出す。目的地はミレーバル。長い旅になるがきっと辿り着いて見せる。ここまで生かして来た人達に胸を張れるように。

二人の姿は見ない。見てしまうと今度こそ涙が出てくるからだ。二人の位置から少し離れ、最後にフェーデルを眺めてみる。

 

すると、すぐ後ろには先程別れた筈の二人が居た。

「え?なにやってんの?」

「何ってミレーバルに行くのでは?」

「はい?」

え?どういう事?

「……ミレーバルに行くんでしょ?」

「えっと、はい。」

「はぁ…」

呆れたようにミラは今世紀最大のため息を吐いた。

「あのね、シロさん。あなたは呪いを解くために旅立つのでしょう?」

「えぇ、まぁ。」

「なら、私たちも一緒に行けば良いのですわ。」

「……そういうこと。」

「え?」

つまりあれか?三人で旅に出るって事?

俺の野暮用に二人を付き合わせるつもりは無い。これは俺だけの旅なのだ。

ミラはその真面目な性格を生かし、冒険者として成長を続けていくのだろう。

エルダは魔法の才を生かし、一切の不自由を感じる事無く過ごせる筈だ。

なのに

「なんで?」

それらの夢を捨て去ってまで俺に着いてくる必要は無い筈だ。なのに何故。

「「パーティーメンバーだから。」」

…らしいです。

 

そうして三人の旅が始まった。


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