「お前は魔力の使い方を知らない。」
「おっしゃる通りでございます…」
迷宮に潜り込んでいた時の事を思い出す。便利な魔法のはずなのに滅多にミラは魔法を使用しなかった。その理由は常に身体に魔力を付与していたからだ。幾ら燃費の良い魔法だと言っても俺みたいにバンバン魔法を使っていればすぐに枯渇する。ミラからして俺は相当異質な存在に映ったに違いない。
という事は今からでも魔力を付与しながら戦えばチート染みた戦闘能力が期待できるのでは!?
魔力を制限した状態で戦っていた俺からしたら今までは魔力縛りで戦っていたようなものだ。
制限を解除した瞬間、俺に隠されていた潜在能力が覚醒する。
「それはないな。魔力の有無に関わらずステータスの値に潜在的なものは無い。」
「あっはい。」
「それと、魔力の使い過ぎには注意しろ。魔力欠乏症に陥る可能性がある。」
「それなら何回か経験あるんで大丈夫だと思います。」
「そう思っている内は危険だがな。」
さてと、そろそろ泣くか。現状ディゼルの口から出てくる言葉は俺の心をえぐる棘のようなものばかりだ。余程成人男性の泣きじゃくる姿が見たいとみえる。
「ディゼル、その辺にしてやらんかい。シロもまだ若い。失敗の一つや二つあって当然じゃろう。」
キノコ爺からの助け舟が来た。
「それもそうだが……。」
「お前が焦ってどうする。なぁシロ?」
「あぁ、まぁ…勉強は出来てるんでそこらへんは有難いっすけどね。」
「死んでから遅いんだっ!!!」
ディゼルの怒声に肩が跳ね上がる。
恐る恐るディゼルの顔を覗き込むと先程まであんなに穏やかな表情をして説明していた人物と同一とは思えない程、鬼のような形相がそこにあった。
「いや、あの……」
「いいか?魔力の使い方も知らないで街の外へ出るなど自殺行為に等しい。運良くここまで生きていたから勘違いをしているのかもしれんが、今この瞬間死んでいてもおかしくは無かったんだぞ?」
「すみません…」
「謝ったら魔物が許してくれるとでも?」
もうね、はい…はい…って呟きながら首肯する他なかった。鬼族であることは昨日の時点で分かっていたことだがキノコを食べている最中や、戦闘の手解きをしている時の温厚な彼女は見る影もない。
俺の身を案じていることは言葉から十分に伝わってはいるものの、その心配が度を越している事もまた事実だった。
「ディゼル。」
「っ…!もういい。」
キノコ爺の呼びかけにより、ようやく怒りのボルテージは収まったようだが以前のように穏やかな表情は浮かべていない。
目を伏せ何かを思案するような素振りの後、ディゼルは口を開いた。
「要するに魔力の使い方を正しく知ればいいだけだ。」
「…と言うと?」
「魔法を放つ時、腕に魔力を籠めるだろう?その感覚を全身へと巡らせれば良い。」
そんなこと言われても…ねぇ?そりゃ他の冒険者にとっては当たり前の技術なんだろうがそれを知らないで今まで過ごしてきたのだ、いきなり目の前に書類の束を投げ出され「皆やってることだから。」と言われて仕事を押し付けられる感覚に似ている。やり方を知らないのに急にやれとか言われてもねぇ…?とはいえ物は試しだ。やってもいないのに最初から出来ないと決めつけていても何も始まらない。
全身に電流が駆け巡るイメージをする。するとどうだろうか、体がほんのり温かくなっている気がする。
「………」
「…どうした?何故やらない。」
「集中してるんで…」
「まぁ、誰にでも向き不向きはあるからな。」
「ちょ、まだやってる途中でしょ?」
ディゼルからの冷たい視線が突き刺さるが気にせず続ける。
以前、血液の流れがどうのこうのって聞いた気がする。聞いた時はさっぱり意味がわからないものであったが今は藁にも縋りたい気分だ。血流の流れなんてものはよく分からないが自身の体にくまなく蔓延っている血管に電流を流すイメージ…自分の血管なんて見たことは無いけれど…
それでも目を閉じ集中を続ける。
「なんかいい感じかも…!」
最初こそ腕を中心に体温が上昇していたが徐々に全身へと広がりつつある。ほんのりと熱を帯びた身体は今にも暴れ出したい衝動を必死に抑えているかのようで、その熱を早く解放したくてしょうがない。
「なら打ってみろ。」
そう言ってディゼルは俺の前に立ち背負っていたハルバードのような武器を構える。
え、やっちゃっていいんですか?今の俺は魔力を帯びたパーフェクトウルトラスーパー冒険者なんですよ?いくらディゼルが俺より身長が高くて鬼族で一等級冒険者だったとしごめんなさい、どんな手を使ってもディゼルさんには勝てそうにないです…
ならばやることは一つ、手加減などいらない。胸を借りて全力で叩き込むだけだ。
「こんのぉぉぉぉ!!!」
火花が走る。
ディゼルが構えたハルバードが一瞬沈んだ気がした。瞬間、体ごと持っていかれそうになる程の衝撃が走る。
「うわっ」
「それを戦闘中維持し続けろ。」
いや無理です。今の一撃だけで息切れしてるんですけど…そんな意義を含めた視線を受け取ることなくディゼルはスタスタと歩いていく。
「まぁ、分かってくれ。あの娘にも色々あるんじゃ。」
キノコ爺が背中を叩いて励ましてくれる。ちょっと待て今俺の背中叩いた手、苔生えてねぇか?
汚れが付いてしまった箇所を見る為、久し振りに防具を見やる。
「オーマイガ…」
魔力切れちまってるぜ…
ただの鉄板を装備し直した俺は二人の後を追いかける。
あれから幾度となく魔物との戦闘を終えた俺達は日が暮れてきた為、野宿の準備をしている。
「ちなみあとどれくらいで着きます?」
「早くて一日だな、今日の調子だと二日かかるが。」
「それって俺の戦い次第って事ですか?」
「それもあるが、最近はいつにも増して魔物の数が多くなっている。」
お前には関係ないがな、とキノコ爺は付け加えた。
ふ~ん、あっそ。興味ないね。
結局イドラの街へ着けさえすれば何でもいいし二人が同行してくれている限りは多少魔物が多い所で最悪、ディゼルが何とかしてくれるだろう。
その日もキノコを腹に詰めるだけ詰めた後、見張りはディゼルに任せテントに入る。
正直まだ魔物と戦うという行為に恐怖心が抜け切っていないのだが今更弱音を吐いたところで何が変わる訳でもない。
今日もまた、毛布に包まり朝が来るのをただじっと待つだけだ。そんな事を思いながら眠りについた。
「ん…」
妙な違和感を感じ、意識が戻る。
辺りはまだ暗く、恐らく深夜だろう。
こんな時間に目が覚めることなど滅多に無いことだ。不思議に思いつつも再び瞼を閉じる。
昼間に感じていた温かさが嘘のように消え、代わりに感じるのは背筋が凍えるような悪寒。
「ディゼルさん……?」
テントから身を出すとディゼルは眠る前と同じ姿勢のまま焚火の前に座っている。
「起きたか…。」
「なんか寒くて目覚めちゃいました。」
「上出来だ。」
何が、とは言えなかった。目の前に広がる光景があまりにも現実離れしているからかもしれない。
目の前には数メートル先の木々も見えない程、濃密な闇が広がっている。いや、違う。これは…
「敵襲だ。」