異世界放浪記   作:isai

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同業者

「……きろ………起き……ろ…」

うるせぇな…人が惰眠を貪っているというのに起床を促すとは何者だ。

俺は激怒した。必ず、かの邪智暴虐な奴を除かなければならぬと決意した。

俺には起床する必要性が分からぬ。俺は転生者である。適当に冒険家業を営み、魔法使って遊んでいた。けれども睡魔に対して人一倍に敏感であった。

そんなくだらない事を考えている内に全身を冷たい衝撃が駆け抜けた。

「ぶわっ!冷たッ!!!」

「起きたか?」

おかげさまでね。

朝っぱらから俺に水をぶっかけてきた邪知暴虐な奴はディゼルであった。

「さっさと着替えろ。食事が出来てる。」

「どうせまたキノコっすよね。」

「何か問題でも?」

「問題しかねぇよ!?」

 

そんなやり取りを続けながら魔力を失い、所々が歪んでいる防具を身に纏う。下に着るシャツなどの替えは勿論ない。

水に濡れた生地が肌に張り付き不快な感触を覚えるも、絶賛野宿中なのだ。元々一人で旅をしようとしていた俺にとって覚悟は出来ていた物の実際に体験すると想像以上に精神的苦痛を感じた。

「歩いていれば乾くさ。」

シャツを引っ張っていた俺を見かねてディゼルが声を掛ける。

「何で濡れてるんですかねぇ?」

「お前が起きないからだ。」

 

「知ってるか?キノコの傘の色によって毒の有無が分かるんだ。アレを見てみろ、傘が青いだろ?アレは食える。それとな…」

出発してから数時間経つだろうか、歩くスピードは変わっていないのにディゼルの口は加速し続けている気がする。一方、キノコ爺は我関せずと言った様子で黙々と歩いていた。

最初の方はディゼルが出すキノコ知識に注釈をつけてくれてはいたのだが、流石に鬼の体力に付いていけなくなったらしく今では相槌すら打つことを諦めたようだ。

「黄色の傘には気を付けろ。あれは毒がある。」

「そういやディゼルさんっていつからキノコが好きになったんですか?」

流石にディゼルも延々と聞き流されていると不機嫌になる気がする。この一団の主戦力であるディゼルが拗ねてしまうと俺の負担が増えてしまう。

それだけは避けたい俺は遂に質問を投げかけ、聞いてるアピールをする。

「ん?あぁ…そうだな。」

俺の意図が伝わったのか、それとも単純に聞かれて嬉しかっただけなのか、はたまたどちらもなのかは分からないが、今までよりも少し饒舌に話し始めた。

「色々と省くが、まず私はコイツの奴隷だという所からか?」

ディゼルはキノコ爺を指さす。

「え?マジ?」

「あぁ、キノコを運ぶのに力仕事が得意な奴隷を欲しがった所から始まるな。」

「懐かしいのぅ…あの頃のディゼルはこんなだったのじゃぞ?」

そう言ってキノコ爺は俺の頭頂部に手を沿わす。いや、充分デカくね?

「まぁ経緯は追々話すとして、キノコが好きになったキッカケか…」

「儂が調教したのじゃ。」

「言い方ヤバすぎでしょ。」

そんなくだらない話を心地良く感じながら歩を進める。

この森を抜けたらどんな景色が待っているのだろう。そんな事を考えながら…

 

ディゼルによるキノコ講座が終わりを告げ、遂に森を抜ける。

森を抜けた先に見えた光景に思わず息を飲む。

広がる草原と遠くに見える街並み。その全てが新鮮で、異世界に来たという事を改めて思い知らされた。

滝を昇り随分と高所に連れていかれたのだろう。ここまでの景色を見せる現在地は一体どの辺りなのだろうと崖の縁まで歩み寄る。

眼下に広がる光景に、気の遠くなる感覚を覚える。

別に高所恐怖症という訳ではなけど…これは…

今まで森の中で彷徨っていたせいか、眼前に広がる非現実的な光景についつい見惚れてしまう。

「あんまり覗き込むと落ちるぞ。」

ディゼルに声を掛けられハッと我に返る。

声がした方を見ると、俺のすぐ隣に立っていた。

「すみません、なんだか新鮮で…」

「あれがイドラの街じゃな。」

 

キノコ爺が指さす方向を向くと城壁に囲まれている街が見える。地図上でも中々の大きさが見て取れたが実際に見ると想像以上に大きく感じられた。

それでいて予想していたよりも数多くの住宅が確認出来る。この街の住人はかなりの人口なのではないだろうか。フェーデルほどの大きさではないもののこの異世界では都会と言っていいレベルかもしれない。

もしかすると既にミラとエルダはあの街に到着し、俺との合流を待っているかもしれない。

そう思うと今までの疲労が少し楽になった気がした。

 

「まずは降りんとな。」

そうだった…ここ崖じゃん。

今見えている街に真っすぐ行けるわけでは無い。空飛ぶ絨毯でもあれば話は別なのだが足で進むしかない俺達は崖に沿って降りていく他ないのだ。

な~んか折角気分が楽になったのにまた森に戻るとなったら気が滅入りそうだなぁ。まぁ崖際だったら気もそんなに生えてないからマシなのか?

そんな期待と裏腹に二人は再び森の中へ入っていく。

どうやら崖際には鳥型の魔物が目を光らせており、そんな場所で戦闘になろうものなら最悪、転落する可能性もあるらしい。

何気なく崖際に近付いたが、よく考えたら自殺行為も甚だしいことをしているなと気付き俺は黙って二人の後を追った。

 

「静かに…!」

ディゼルがキノコ講習を途中で打ち切り、姿勢を低くするようにジェスチャーを飛ばす。

「え?」

突然のことに驚き、二人に習って腰を低くする。

そうしている内に前方から木々を揺らす音と共に二人が発する声とは別の声が聞こえた。

だが距離が遠すぎるせいか会話の内容は定かではないものの単独では無いという事は裏付けられる。

「どうします?」

「まぁ無視じゃろうな。」

小声でキノコ爺と意見のすり合わせを行うもディゼルは俺達の声が届いていないのか、食い入るように声の主へと視線を向ける。

「ディゼルさん?」

「シッ!静かに。」

ディゼルに声を掛けようとしたその時、前方の茂みから複数の人間が現れた。

数は四人、それぞれ毛皮を基調とした防具を身に纏っている。山賊と言われればそう見えるし、冒険者だと言われるとそうとも思える。

だが善良な冒険者であればディゼルは俺達に隠れるよう指示はしない筈だ。

つまりあれは前者である可能性が高い。

反射的に腰に手を伸ばすも、治りきっていない右手に痛みが走る。このままではロクに剣を振るうことも出来ない。

左手であれば魔法を放つことも可能ではあるが対人相手だとどれくらい効果があるか分からない以上、下手に撃つことは出来ない。

それにディゼルには手持ちの武器が無い。昨夜の戦闘にて砕け散ったハルバードは魔法の力で元通り、なんて都合の良い展開が起こる筈もなく素手で戦うことになるだろう。

キノコ爺?多少は戦えるみたいだけど魔法メインで戦う老人を庇いつつ戦えるほど器用じゃないし、相手の力量も分からない。

 

結論。

 

「見なかったことにしません?」

「奴らに聞きたいことがあるんだ。」

ディゼルが四人組から目を離さず告げる。

「え?でも……」

「何かあった時はお前が爺を守れ。」

「え?」

ディゼルが腰を上げたと思いきや俺の肩を叩き、

「任せたぞ。」

それだけ言い残し、四人組へと飛び掛かっていった。

「ちょ!?」

呼び止めようと手を伸ばしたが、すぐに空を掴むだけに終わった。

まぁ…でも出来る事限られてるし…

見るところ四人全員がディゼルと戦っているわけでは無い。二人はディゼルを手持ちの武器で追いやっており、残りの二人は戦闘の邪魔になるからなのか少し離れた場所で見学をしている。

そんな訳で、ディゼルに掛かりきりの二人以外の奴等に魔法を浴びせてやれば良いだけなんだけど…

「あの二人どっちか殺れますか?」

「儂の魔法は詠唱が必要じゃからのぅ…」

使えねぇなぁこのクソジジィ!

と、とりあえずあの二人がいつディゼルに襲い掛かるかも分からないし、俺がやるしか無いよな。

出来る限り音を出さずに二人の背後まで忍び寄る。

「あ?誰か居んのか?」

服に擦れる枝葉の微かな異音に気付かれた。

くそっ…やっぱりただの雑魚じゃなかったか。

それでもまだ十分な距離が二人の間にはある。

左手を突き出し魔法を詠唱する。

 

放たれた閃光は迫りくる敵対者に向かって真っすぐ向かっていく。

視認する事が困難なまでの速度を伴った電流はその内の一人に吸い込まれる。

「ゼンッ!」

「大丈夫だ!大した威力じゃねぇ!」

あ、マジか。大した威力じゃないらしい。俺の放った電撃は一人の冒険者の体勢を崩すことは出来たものの、倒すまでには至らない。

 

『ペランガ』

 

突如、地面から生えてきた植物は一人の冒険者の体に絡みつき動きを封じ込める事に成功する。

多分キノコ爺の魔法なんだろうが一人逃がしてるんだよなぁ…

迫り来る冒険者は勢いを殺さず俺の首を掴もうとする。

が、俺もそう易々と捕まるつもりはない。

左腕に込めていた魔力を解き放つ。

「嘘ぉ!?」

放たれた魔法は冒険者が突き出した肩に命中するも霧散し、何も起きないまま終わる。

俺の魔法に全く臆する様子の無い冒険者を見て、俺は自分の置かれた状況を改めて思い知らされる。

「調子乗ってんじゃねぇぞクソガキ!」

「許し…ぐぅっ!」

勢いを殺さぬまま首を掴まれ、気道が塞がる。

両手で首を掴まれているせいか、窒息よりも先に首が折れてしまうのではないだろうか。

掴まれている腕を引き離そうとするも明らかに俺の筋力を上回っており、引き剥がす事が出来ない。

一か八か

冒険者の腕を掴んでいる右手を離し、腰にある剣に手を伸ばすと微力ながらも抑えていた冒険者の腕が更に強い力で締め上げてくる。

「死んどけやぁ!!!」

視界が白く染められていく。それでも治りきっていない右手が剣を握った痛みによって意識は繋ぎ止められる。

 

「がっ…ぱ…」

首を掴んでいた腕が脱力する。

冒険者の口からは生暖かい液体が零れ出し、俺の頬を汚していく。

気が付くと右手に握られている剣は冒険者の喉元を貫いていた。

「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」

塞がれていた気道から新鮮な空気が流れ込み、俺は大きく咳き込む。

「生きとるか!?」

「ごほっ……はぁっ……だ、だいじょう……げほっ」

キノコ爺が心配そうに声を掛けてくるも駆け寄ってくる様子が見られない。

恐らくもう一人の冒険者を抑え込んでいるんだろう。

ディゼルは?

目を向けてみると蔓に絡み取られている冒険者の背後に迫っており、戦っていた二人は既に地面に倒れ込みピクリとも動いていなかった。

キノコ爺はディゼルが冒険者を拘束したことを見て取るとようやく魔法を解除した。

 

「聞きたいことがある。正直に答えろ。奴らのようになりたくはないだろう?」

「何でも答えるからっ!許してくれよぉ!」

ディゼルは冒険者の襟首をつかみ尋問モードに入ったようだ。

その間、俺は自身の手で殺した冒険者の死体を眺めていた。

不思議と罪悪感を感じない。同じ人間を殺したというのにだ。

昨日今日で色々ありすぎて感覚が麻痺しているのかもしれないが、何の感情を抱かないところを考えると俺自身、心のどこかで人を人と思っていないのかもしれない。

それはそれで問題のような気がするが今は考えないことにしよう。むしろ好都合だ。人間だからと言って殺すのに躊躇していればこちらが危険になるのだ。こういった思い切った考えが必要になってくるかもしれない。

 

「紫紺の髪に片角、紅色の瞳を持つ鬼族だ。知らないか?」

「し、知らねぇ!俺は奴隷商じゃねぇぞ!」

ディゼルの問いに男は恐怖の表情を浮かべたまま必死に否定する。ここで嘘を吐くほど奴らも考えなしではないだろう。

ディゼルは人探しでもしてんのか?よく分からんけど頼まれていないのに首を突っ込んでディゼルの機嫌を損ねたくは無いので聞き耳だけ立てておくことにする。

「分かった。ならば死ね。」

「コロシアム!お、鬼族ならコロシアムにでも居んじゃねぇのか!?イドラの!」

「探していないとでも思ったのか?随分と馬鹿にしたものだな。」

「ひぃいっ!」

ディゼルの怒号に怯えた男は情けない声を上げる。

まぁ、気持ちは分かる。顔立ちは良いもののディゼルは鬼族だ。キレた表情であんだけ迫られたら余裕で漏らす自信はある。

だが冒険者は相当やり手なのだろうか、ズボンが濡れている様子は無い。

 

「え?」

軽快な音と共に冒険者の体が脱力する。

 

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