「え?」
軽快な音と共に冒険者の体が脱力する。
弛緩した体はゆっくりと地面に向かっていき、二度と動くことは無かった。気付けば冒険者の口元からは血液が流れだしており、その光景に先程の俺の最期が重なる。
「用が無くなった、行くぞ。」
振り返ったディゼルが何事もなかったかのような口ぶりで告げる。
こういう時、どんな反応をしていいのか分からないが少なくとも俺の頭に浮かんでいる言葉を口に出すことは憚られる。
別に殺す必要の無かった者を殺した事については特に気に病むことも無いけど、これは流石にアカンか?
いや…それでも持ち物を失った俺にとっては街で待っているであろう二人に対して、
やっほ!久しぶり!急で悪いんだけど持ち物失くしたから金貸してくんね?
ただでさえ少ない信用を無くすよりマシだと言い聞かせながら俺は自身でも最低な行為であると自覚しつつ、口を開いた。
「ちょっとこの人達の持ち物見てってもいいですかね?」
そう、死体漁りである。
その後、特にお咎め無しで済んだのは、二人はその事に対して何も思わない程の境遇だったからだろうか。それとも単に興味が無かったからだろうか。
その答えはきっと二人にしか分からない。きっと俺が知ってもどうすることも出来ない。
二人はお互いの事について語る事は滅多に無い。会話をするにしても、ただ必要な事項を告げるだけで雑談の一つすら交わすことは稀だ。…キノコを除いては。
他人と関わるのは同時に余計な責任を背負い込む事になる。
だから俺は他人に必要以上に干渉しない。それは転生する前でも、そして今も変わりはない。
無干渉。
それが自身の身を守る為の唯一の方法だと、俺はこれまで生きてきた中で培ってきた。
それでも、ふとした時に心の奥底に小さな違和感を感じてしまう事がある。
その理由は……恐らく俺自身、気付いている。
それでも俺は何もしない。
今を変える事がどれだけ面倒なことか、想像もしたくないからだ。
それがミラやエルダであってもだ。必要なら切り捨てるその決意をしなければならない。
「ここで終わりだな。」
唐突にディゼルが口を開く。
なんぞや?とディゼルの方を向き直すと先程までの光景とは違い、いつの間にか森を抜けだしているようだった。
どうやら自身でも周りの景色が見えなくなる程、思考に耽っていたらしい。
さほど遠くない位置に城壁が見える。あれがきっとイドラの街だろう。
それにしてもディゼルの発言が理解できない。終わりだ、というのは俺の命がここまでなのか或いは…
「あれがイドラの街じゃ。儂等はこっちじゃからの、ここでお別れじゃ。」
「え?一緒に行くんじゃないですか?」
キノコ爺の言葉に思わずそう返す。
二人は俺の質問に対し、不思議そうに首を傾げる。
「初めて会った時に言ったろ?私たちの目的地はイドラじゃない。」
確かに言われたけど、てっきり俺は二人の目的地が俺と同じイドラだと思っていた。
だって二人とも山籠もりしてるわけじゃあるまいし、ディゼルのハルバードだって壊れたまま置いて来た筈だ。
それじゃ、と言って二人は歩き出す。
俺は呼び止めるべきか悩んでいたが、やがて小さくなっていく背中をぼんやりと見つめていた
不意にディゼルが振り返る。
「青いキノコには気を付けろ、黄色いキノコは食える。覚えとけ。」
それだけ言うと、またすぐに視線を戻した。
俺はディゼルの背中に向かって、大きな声で感謝を叫んだ。
なんともディゼルらしい、いやそうでもないか?
そんなアドバイスを残して二人は消えていった。
喪失感のような、寂しいような。
そんな気持ちを抱きつつ街に向かって足を踏み出した。
ディゼルとキノコ爺の出会いや、過去についてはサイドストーリーとして今後投稿する予定ではあります。モチベーションがあれば…
その他登場人物についても、随時サイド―ストーリーを作成していこうと思っています。