異世界放浪記   作:isai

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奴隷

ルウのギルドカードはどうなんだろうと盗み見をしようとすると、サッと隠されてしまった。

「あっごめん。」

「あっごめんなさい。」

沈黙が訪れる。

「さて、用事も済んだし帰りましょうか」

「そうだね……」

「じゃあまた明日会いましょう」

「はい……」

こうして俺は冒険者になれなかった。

ん?明日?これから放り出されるの?俺。と絶望感に打ちひしがれていると受付嬢が口を開く。

「あの、失礼ですが……本日お泊りになる宿は決まっていますでしょうか?もしなければ紹介状を書きますが」

「いや、紹介状以前に無一文なんですよね…」

と頭を掻きながら答える。

「駆け出しの冒険者であれば、ギルド内で無料の部屋を貸し出しているんですよ。」

「でもこのギルドカード空欄しかないんですけど…」

「それでも冒険者である事には変わりありませんから」

笑顔で答える受付嬢に突っかかるも受け流される。このあと俺が何を言おうと「それでも冒険者である事には変わりありませんから」と言われるのは分かりきった事であった。

「それじゃあ、お言葉に甘えて…」

 

そうして渋々ギルドを出ると外は既に暗くなっており、街灯のような物が道沿いに並んでいた。

そういえば電気がないのに明るいなぁと街灯に目を向けると、中にいし尿なものが入っている。魔法が使われているのだと理解する。

まっすぐ行けばギルドから紹介された宿屋があるのだが折角だから街を見て回ろう。と夜の街に繰り出して行った。

 

数時間後…

迷いました。完全に。

かなり遠いところまで来たのであろうか、街の雰囲気はそっくり変わっていて街灯すらないような場所を歩いていた。

そこでふと声が聞こえた気がした。そこに目を向けてみると気の所為ではなかったらしく、建物の間に地下へ降りれるだろう階段があるのが確認できた。

この時の俺はどうかしてたのであろう。吸い込まれるように鉄格子を開け階段を下りて行った。

階段を下るとそこは薄暗い通路が続いていた。

少し歩くと牢屋が見えてきた。

どうやらここは牢獄のようだ。しかし人の気配はなく、誰かいるのかと思ったがよくよく見ると、牢屋の隅で膝を抱え込んで座っている人影があった。

「大丈夫ですか?」

そう声をかけてみるも反応がない。疑問を抱きつつもその場を後にしようとすると違和感に気付く。

「あんなに広いのに一人しか入ってないなんてことあるか?」

そう思いつつもう一度目を向けるもその判断をひどく後悔させる光景がそこにはあった。

「一人じゃ…ない…?」

 

牢屋は暗く鮮明に見えなかったものが意識して見てみると床に何かが転がっているようだった。

それは骨であった。人の形の並べられているような骨がそこにはあった。

え?と思い周囲に目を配ると両手を壁に貼り付けられた人間のような姿があった。

ようなと表現したのは本来あるはずである下半身がそこには付いておらず、フィクションでしか見たことのないような臓器がぶら下がっているだけであったからだ。

一瞬にして体温が下がる感覚に襲われ足早にその場を立ち去ろうとしたその時だった。

 

「どなたか、いるのでしょうか?」

と暗かったため気付く事ができなかったであろう通路の奥からやや高みがかった男性の声が聞こえた。

「っ!」

咄嵯の判断で元来た道を戻ろうとするも、目の前には先程声の主であろう男性が立っていた。

「おや、どちら様でしょう。こんな場所に一人で来られるとは珍しいですね。」

男性はニコニコしながら話しかけてくる。

「あぁ、道に迷ってしまって来ちゃったんですよね。”こんな場所に”。」

ほんの少し軽口を混ぜて答える。

「道に迷われたのでしたら出口まで案内しますよ。」

「い、いえ結構です!自分で帰れますから。」

「そう言わずに。こちらです。」

そう言って手招きしてくる男性は今まで来たであろう道とは逆方向の道に誘っている。

ここで逃げて機嫌を損ねるよりは大人しく従う方がいいだろうと思い、手招きされる方に足を進める。

その前に、と男性が口を開く。

「折角、”こんな場所に”足を運んでいただいたのですからおもてなしをしなければ。」

と蛇のような顔に笑顔を張り付けている男性は軽口のラリーをする。

「あぁ、自己紹介が遅れてしまいましたね。私の名前はジャバウォックと申します。以後お見知りおきを。」

「ぼ、僕は太郎です。よろしくお願いします。」

「そう緊張なさらずとも。ただの挨拶ですよ。」

相手が話好きであると何故か断定した俺は軽率にもこう問う。

「ちなみにですけど、こんな状況でずっと笑っているジャバウォックさんめっちゃ怖いですよ。」

と愛想笑いを含めながら問いかけると

空気が凍ったような気がした。

「あっごめんなさい。」

慌てて謝罪するも、彼は無言のまま俺を見つめている。

 

「すみません。言い過ぎまし……」

「はははははは」

男性は腹を抱えて笑い出した。

「こんなこと言われた事なんて今までありませんでしたよ!いやぁユーモアがある方だ!」

どうやらジャバウォックのツボを刺激することに成功したらしい。

延命は出来たようだ。

「はは、面白い人ですねあなたは。」

「はは、ありがとうございます……」

「まぁ、ここに来たからには私の相手をしてもらうことになるんですけどね。」

「はは……」

と、会話していると不意に空気を裂くような甲高い悲鳴が上がる。

「びっくりしたぁ…」

「申し訳ございませんね。ウチのが失礼をして」

と先程の悲鳴を意に介することなく告げられる。

「それで今のは…?」

「あぁ、申し遅れましたね。私はジャバウォック。この世界の奴隷商を統括する者です。」

「奴隷…?」

奴隷?ドレイ?どれい?奴隷ってあの奴隷だよな。自問自答していると、

「おや?奴隷をご存じないのですか?奴隷というの…」

「あれですよね。働かせたり召使いをさせるっていうあの…」

「えぇ、えぇ、そして自身の欲望を吐き出す性奴隷など」

平和ボケした日本に住んでいた身からして”奴隷”という言葉は等しく異世界においても蔑まれる対象という現実を突きつけられる。

「では、こちらへどうぞ」

と、牢屋が並ぶ通路を歩き一つの牢屋の前で止まる。

「これは?」

「ふふ、見ればわかるでしょう?」

「いや分かりますけど。なんで?」

「お客様に楽しんでいただくためです。」

中には見た所小学生や中学生のような体つきをしていて角を生やした少女が居た。

「えっとこの娘は…?」

「世にも珍しい竜の血が混ざっている竜人族と呼ばれるモノです。」

貴重なんですよ?と後に付け足し牢屋の鍵を開けるジャバウォックに対して俺は、

「いや、そうじゃなくて…え?」

困惑する俺を尻目にジャバウォックはこう告げる。

「太郎様は退屈であった私の日常にほんの少しですが色を付けていただいた方です。であればそんなお方にはそれ相応の対価を渡さねば。」

と強引に少女を立たせる。

「いや…そういうのはちょっと心の準備が…」

と言い訳している間にジャバウォックは布切れ同然だった少女の服を乱暴に破り捨てる。

その瞬間目に映りこむのは健康とは程遠い、痩せ切った体に何度も打ち付けられたのであろう血を滲ませた鞭の跡が無数についていた。

流石のグロテスク耐性のある俺も少し引いてしまう程にその体は凄惨であった。

俺の考えを汲み取ったのかジャバウォックは、

「コレは中々に強情でしてねぇ。竜人族持ち前の耐久力もありこうなってしまいましたが、未使用でしてね。ナカは極上だと思いますよ。」

と俺に差し出してくる。だが俺は手を出さずに、いや…それは…とモゴモゴしている内にジャバウォックはハッと気付いた顔になり、

 

「あぁ、太郎様はこういうのがお好きでしたか!」

と言い徐に懐から取り出した短刀で少女の肌を削り取る。声にならない悲鳴が少女の口から漏れ出す。

その光景に唖然としていた俺にジャバウォックは、

「どうです。これでもまだお気に召しませんかね?」

と少女の傷口を指差しながら聞いてくる。

言葉が出なかった。だが間違いなくこの娘を助けたくなった。悲鳴も上げられず腕を掴まれ、座り込むことも出来ない少女を思うと居た堪れない気持ちになる。

答えが浮かんできた。

買取ります。この娘を。

口に出そうとした。出せなかった。目の前で起こるスプラッターショーに対し全身の筋肉が強張りついて口も動かせなかったのだ。

その様子を見かねたジャバウォックは残念そうな顔を張り付け告げた。

「ふむ…コレでは満足できませんか…」と

短刀を少女の喉元へ突き付けた。その瞬間、

「買いま…!」

裂けた。

少女の喉元にあったはずの短刀はいつの間にかそこにはなく。

代わりにあったものは自身の体に流れているモノと同じ赤色の液体であった。

ジャバウォックが少女の腕を離すと同時に少女の体は糸の切れた人形の様に倒れた。


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