【完結済】シルヴァリオ アリアンロッド   作:湯瀬 煉

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 人の技術ではプロジェクトスフィアって糞眼鏡レベルの天才がいないと達成できないレベルの偉業なわけですが、マジでなんだあの人。
 神祖レベルの先読み術と頭脳だったんじゃね疑惑が私の中で膨れ上がってます。
 生きてても糞眼鏡なのであんまり安心できないけど、死んだら死んだで帝国的にはデメリットでかいな。


極晃創星実験 / Flash back

 極晃創星実験(プロジェクトスフィア)

 かつて帝国、商国、皇国の三国の領土がぶつかる古都プラーガにて行われていた実験の名前である。その目的とは、名前の通り、世界の王冠たる極晃星(スフィア)を生み出すこと。

 当時の帝国軍の東部制圧部隊部隊長、ギルベルト・ハーヴェス主導で秘密裏に行われ、多くの若者の人生を狂わせた狂気の実験だったと聞く。

 成功して生み出された極晃奏者も、寿命を大幅に削ることになったとか。

 

 カルラ・マドロックがやりたかったのは要するに二番煎じ。()()()()()()()である。

 クリストファー・ヴァルゼライドの人生を他人に転写し、最後にはやはり光と光の衝突を引き起こさせ、兵器として安定している天奏(無限に出力上昇する核兵器)を生み出していく。

 

 ギルベルトの実験との相違点は三つ。

 ひとつは、記憶の転写などはマドロックの星辰光(アステリズム)で行われたこと。

 もうひとつは、光と光の衝突は実際に人間で行われたこと。すなわち、天奏役と踏み台役のふたつを用意したということ。

 そしてもうひとつは、実験台は人さらいなどではなく、身内の駒を用いたことにある。

 

 そう。

 すなわち。

 

「私は………」

 

 ベルン・アリアンロッドなんて人物ははじめから、マドロックの計画のために生かされ続けていた、滑稽な操り人形に過ぎなかった。

 

 

 覚えている。

 思い出した。

 過去の痛みが全身を駆け巡る。

 

 忘れがたく、忘れていたあの記憶を──。

 

 

 ■ ■ ■

 

 その実験――マドロックの極晃創星実験(プロジェクトスフィア)は二人一組で行われる。

 つまり、片方が天奏へと羽ばたく側で、片方が踏み台である。ただ強さに明確な違いはなく、場合によっては天奏になると見込まれた側が踏み台側へシフトすることもあった。

 

 ただどちらであろうとも被験者に悲観はなく、ただ明日のため、マドロック家の繁栄のために止まらない光狂いと化している。

 二人で共同の任務を行い、成績を競い、互いに不倶戴天の敵、宿敵と見定めながら唯一無二と認め友情を結び、そして最後には誇りすら抱いて相手を殺すのだ。

 

 とはいえ、その行動以上に大切なことは特異点への接続だった。

 いかにヴァルゼライドの生涯を反復しようとも、特異点と繋がりうる素質が発現しなければ意味がない。

 

 こればかりはどんなに精神を()()()()に変えても可能とは限らない。マドロックも苦戦しているところだった。

 

 

 数百人という犠牲を生み、義理と仁義を重んじる父親にも咎められていたところで、奇跡は起こる。

 

 ベルン・アリアンロッドとマサシ・柊・アマツの二人組が、かすかだが特異点との接続を果たした。

 よって、嬉々として二人による聖戦は執り行われる、はずだった。

 

 

「いざや往かん。ここで死んでもらうぞ柊。”勝つ”のは私だ」

「いいや、”勝つ”のは俺さ」

 

 互いに剣を携え、微笑みながら、私たちは見つめ合った。

 場所は地下闘技場。コンクリートだか鉄で作られた、三十メートル平方の空間。

 

 相手を殺すことにためらいはない。目指す理想のためならば、親友だろうが乗り越えるのみ。

 

 ゆえに、先に仕掛けたのは私だった。

 

「創生せよ、天に描いた星辰を――我らは煌く流れ星」

 

 しかし詠唱は同時。

 超高速で相手へと突撃した私は、超重量に変わった柊の剣によって止められてしまう。

 

 質量操作。

 メインの使い道は他人の軽量化だが、もちろんそれしか出来ないわけではない。質量増大による重量化を行えば、こちらの加速に乗せた攻撃でもびくともしなくなる。

 

 左右からのほぼ同時の一閃が防がれた。さらに振り下ろしも受け止められ、振り上げられた剣に軽々と体が持ち上がる。そのまま後方へ飛んでいきかけた体を、柊は足を掴んで止めた。

 

「な……っ」

 

 もちろん、友情からではない。情が湧いたなんてありえない。

 

「落ちろ」

 

 地面に沈む肉体。突然、肉体が()()()()。だが――相手の方が更に重い。

 

 柊の蹴りが刺さり、身体が軽々と吹き飛んだ。しかし、私の星辰光(アステリズム)の発動は厳しくなってしまっている。

 

 単純に、身体が重くて噴射する出力を上げなければ飛ぶのも加速することも出来ないのだ。だがその誤差ががかなり困るもので。

 

「まずいッ!」

 

 立ち上がった私の眉間を目がけて刀が投げられた。

 咄嗟に回避したが、もし直撃していればどうなっていたかは、刀が当たった壁を見ればわかるだろう。

 

 ひび割れ、崩壊寸前だ。

 当然だろう。今のあれはミサイルのような破壊力を持っているのだから。当たれば即死、掠れば吹き飛ぶ。人外レベルのパワーは、星辰奏者(エスペラント)という規格すら超えている。

 

 光と光の衝突とはそういうものだ。相手の姿を見て、無限に進化し続ける。ゆえ、限界などない。

 

「どうした、覚醒しろよ」

 

 止まらない。

 終わらない。

 ”勝つ”までは。

 

 回避先に飛び蹴りを繰り出した柊は、さらに重量を上げていた。

 鉄製の壁が沈む。だが柊の動きはまだ軽い。

 

 回転しながら振り下ろされた拳を刀を横にして受け止めるが、後方へと吹き飛んでしまった。

 普通ならば致命傷だろう。だがそうはならない。そうさせない。まだだ、まだだ、勝つのは私の方だと、思うから止められないのだ。

 

 追いかけけてきた柊の剣は空を切った。寸前で私はジェット噴射にて飛び上がったからだ。

 そのまま空中で回転して相手の頭を叩き斬ってやろうと仕掛ける。完璧なタイミングで仕掛けられたカウンターはしかし、相手を仕留めるには至らない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()程度では止まるはずがないと、信じているゆえ予測されている。

 振り上げられた剣で弾かれてしまえば、バク転の要領で着地する。己の重みで地面にヒビが入るが、お互いに気が付かない。

 

「加重程度で止まるかよ。私は必ずお前を超えて、これまでの犠牲に、この家に、報いるのだ」

 

 高速噴射されたエネルギーに乗って加速。そのまま連続して剣を振り回す。速度があり、かつ重さもある攻撃だ。一撃でも当たれば相手を一刀両断できるだろう。

 そして。ならば当たらなければ問題はないんだろうと相手が考えることも必然だった。

 

 口にする信念は、植え付けられた忠誠心に過ぎない。だが本気で()()()()()()()()()()()()()()()私にしてみれば当たり前の言葉だった。

 

「いいや。もう苦しまなくていいぞベルン。おまえの役目は俺が必ずまっとうする。

 俺がおまえを救ってみせる」

 

 守るために殺す、殺して守る、意味不明の破綻した理論を掲げ、柊は私の攻撃を回避しつつ、隙を突いてに反撃を繰り出した。

 質量は増し、体積は変わっていない私の体は密度が異常なはずで、ゆえに刃など通るはずもないのだが、そもそも質量を操作しているのは柊である。

 

 突然、身体が軽くなる。軽くなりすぎる。

 

「ぬゥッ!?」

 

 質量軽量化。プラスしすぎたものを、ゼロに戻すのではなくマイナスにするという暴挙である。重さを勘定に入れた立ち回りは瓦解し、僅かな隙はかなり強引に大きな隙に変えられた。お返しは、超重量の刃である。

 

 だが、しかし。

 

 そんなもの、一瞬で慣れれば問題は無い。

 柊の刺突を、身体を回転させながら回避。そのまま首へと刃を落とそうと――したところで、柊は腕で私を振り払う。

 

 私の体はあまりに軽い。それだけで簡単に吹き飛んでしまうのだ。

 問題無し。再加速して襲撃する。むしろ少量のエネルギーで加速できると思えば有利になったのだ。

 

「その程度の速度、もう慣れたよッ」

「ほぉ、そりゃどうだかな」

 

 ジグザグに飛行して瞬時に相手の背後を取り、背後から切りつけた。

 高速飛行、精密機動はこちらの得手だ。活かさない手はないだろう。

 

 その後も、何度も、何度も。

 剣がぶつかり、拳を脚の応酬が繰り広げられる。攻撃、攻撃、攻撃攻撃攻撃攻撃――終わりなど見えないほどに、削り合う。攻防を繰り広げるのではなく、攻撃を繰り広げる戦闘である。

 

 そしてついに柊の剣を弾くことに成功すると、私は剣を振り下ろそうとした。

 必殺、トドメの一撃。

 

 だがしかし、その一撃は直前になって()()()()()()()()()()()()()()()

 

「え……?」

 

 理由を思いつく間もない。その瞬間――。

 

 私を中心に、闇が広がる。

 それは反星辰光(アンチアストラル)粒子。すなわち、マドロックが望んだ光ではなく、闇の象徴だった。

 

 

 重要なのは、反粒子が広まったことにより、私と柊に与えられていた洗脳が解けたということ。

 

「私は――」

「俺は――」

 

 私がどうして闇に目覚めたのか。どうして柊にトドメをさせなかったのか。

 その理由は。

 

「おまえと、死に分かれるなんて嫌だ。私はおまえと一緒に居たい!」

「俺は、お前を守りたかった!」

 

 必ず殺し合って別れるという運命(レール)を、どうしようもなくぶち壊したかったのだ。

 

 強烈な闇が空間すら破壊して、私と柊を包む。

 

 

 そして次の瞬間。私たちはマドロック家の工房の外にいた。

 しかし、まごついてはいられない。いつまでもここにいれば、やがて私たちは捕まってしまうだろう。

 

 必死に走り出して、走り出して……しかし途中で意識を失ったのだ。

 

 私は知る由もないことだが、同時刻にカンタベリーにて大規模な環境改ざん能力が発動していたのだ。それはまさしくこの世界全体をも変えかねないものであり……私たちはそれに巻き込まれたのだろう。

 それはマドロック家の人々も同様で、ゆえに私たちが失神している間に捕まるということこそなかったが。

 

 

 環境改ざんの影響か。

 私は記憶を、失ってしまったのだ。

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