ベルンと柊との対決。
その決着の瞬間に、彼らは特異点に完全に干渉することに成功した。もっとも、ベルンが接続した先は望んでいた光ではなく、闇の冥星だったわけだが。
カルラ・マドロックは自らの興奮を抑えつけて、冷静に過去を振り返る。計画に抜け目がないかを慎重に検討する。
……本当の問題は、両者が特異点に飲まれてしまったということだった。過去にも、他の実験で判明した事なのだが、特異点に飲まれてしまうと、座標がズレて、全く違う場所へ飛ばされてしまうことがあるらしい。ゆえに、無論、すぐに追いかけた。
貴重なモルモットを、ここで逃す訳にはいかない。
しかし命令を出した直後、自分たちの意識は消し飛んだ。何が起こったかは分からないが、意識を取り戻した後も記憶が混濁しており、ようやく正気を取り戻した時には既に、実験から一日が経過していたのだ。
だが冷静に考えて、これは運命の導きだろう。
新西暦はいつも『こう』なのだ。少数の誰かを中心に、劇的な物語が幕開ける。
ならば、それも良しと。
その運命、過去に俺がいる以上は必ず俺も参戦するはず。その流れに身を投げて、望みを達成するとしよう。
他の人間ならばこういうことは出来ないだろう。何かをしかけ、巧妙に仕組み、自分の所へ手繰り寄せるしかない。
「だが違うんだよ。この俺だけは」
必要なピースは、過去の因縁を清算すべく俺の手元に来るはず。
そして後は接触さえしてしまえば。
全ては、計画通りに進んでいた。
「お前は……何がやりたいんだ………?」
俺の手駒を確実に仕留めながら、滅奏が吠える。
血を吐くような、心からの憎悪をぶつけるような台詞。むき出しの殺意を受け止めながら、涼しげに私は笑う。
「最初は、最強の軍隊を作りたいだけだった。
これからの時代は第三型魔星の量産化、或いは
ヴァルゼライド亡き今のアドラーで、機密情報を絶対漏らさずにいるなんて不可能だ。確実に、数年もすれば魔星は当たり前の戦力になる。
……では当家はどうするのか? 時代に追いすがって、その研究に取り組むか? まあそれは間違ってはいないんだろうが。
いいや、私は魔星技術なら自前で何とかできる。
俺の話を聞くと、苦虫を噛み潰したような顔になる極晃星たち。
確かに、決して簡単なものでは無いのだろう。安易に手を伸ばしていい分野でないのは分かる。彼ら一人ひとりの物語があるのだと、そういう事なんだろう。
だが、それでも。
「だが、ああ、そうだ。俺は神になりたかったんだよ。
目の前に
まあ、必要なのはベルンだけだ。二人で先に
空気中の
既に高位次元への干渉は始まり、第二太陽から注がれる粒子がこの空間に集っていく。
あと数分、いや数秒も経てば“
もはや間に合わない──と思われた瞬間。
「天昇せよ、我が守護星──鋼の恒星(ほむら)を掲げるがため」
俺の体は、勢いよく地面に叩き付けられた。
……なんだ? 何が起こった?
「栄華を求めて旅立つこの航海。玉座を求めて幾星霜。ああ愛しの我が魔女よ、お前なしにそこへは至れまい。
高い教育と豊かな実りを我が王国に。
座礁と共にこの身が擦り潰れたとて、決して夢は潰えはしない。分かっているとも、我が妻よ。俺の女は真実お前だけ」
立ち上がることには成功した。
理解した次の瞬間、重い蹴りを受けて俺は屋外へと蹴り飛ばされた。
無様に地面を転がる我が身。まるで小石のように、今度は体が軽い。
「支配するこそ愛の証明。
蕩けて混ざって交合おうぞ。この求めを受けぬならば、自軍をもって処断するのみ。
この決闘を受けるがいい。
毎日毎晩戦い続け、我が掌で踊るのだ。
至高の女王に跪け。さらば、朽ちた死肉となっても愛してやろう」
この声は。
この力は。
いやありえない。奴はもう、心臓を破壊されたはず。
これはどういうことだと、目を見開くが。
その視界に映るのは、その、ありえない現実のみ。
「
マサシ・柊・アマツが、立っていた。
「神になりたいだって?
そんなことの為に、俺とベルンを巻き込んだのか!」
マドロックの極晃星量産実験の過程で、柊にもベルンにも、特殊な金属が埋め込まれている。
オリハルコンと呼ばれるそれは、高い再生機能も有しており。空気中の星辰体濃度が増した今なればこそ、彼は消し飛んだ心臓を再生することに成功したのだ。
奇しくもそれは、別の世界線でアシュレイに牙を向いた
柊の資質は光に近く。ゆえに死んだ程度で止まりはしない。
「許さんよ。ここで死ね」
マドロックの計画に、崩壊の兆しが訪れた。
R.I.P.マドロック。
本物の光狂いと戦ったことないからこういうことになるんだぞ。