【完結済】シルヴァリオ アリアンロッド   作:湯瀬 煉

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こ れ が 書 き た か っ た ! !


光の共鳴、新たな旅路/Silvario Arianrhod

 カルラの極晃は次元震発生。空間範囲で攻撃を仕掛けられる他、協力者が桁違いに多いゆえに無制限に味方を増やせるという利点がある。

 他の極晃星(スフィア)と異なり能力そのものの攻撃性は著しく低い。正確にいえば、次元震ひとつで辺り一面消し飛ばせる反面、技がそれしかないともいえる。

 理論上は、そうだ。

 しかし新西暦において、そんな理論理屈は大した意味を持たない。

「お前たちの願い、俺が今ここで叶えてやろう」

 カルラのその一言で、劫火が津波のごとく柊へと放たれた。

 第二太陽は取り込んだ日本国民の願いを反映し、地球の環境を変化させていた。同様にカルラの第三太陽も協同者の願いを選別し、カルラが願いを叶えるという名目で超常現象を引き起こす。引き出しは無限大。不都合、不要な願いは無視出来るため、足を引っ張られる心配もない。

 効率よく、かつ様々な方法で敵を排除でき、次元震のように一度に過激な破壊を起こすこともない。星辰"革奏"者は、ゆえに理論上は誰に対しても有利に立ち回れる。

 理論上は、そうだ。

 しかし新西暦において、そんな理論理屈は大した意味を持たない。

「退けェッ!!」

 柊が己の得物である刀を振り下ろすと同時、凄まじい光熱が火焔の津波を真っ二つに切り裂いた。

 星辰"創奏"者である柊の目覚めた能力は、無制限の星辰付属能力。つまり、後付けでどこまでも強くなれる能力。今回は集束性を極限まで引き上げた上で、核分裂・放射能光発生能力を自身に付属したのである。

 通常はただ、自身に能力を付加するだけ。しかし今回は選んだ能力によるものか、或いはカルラの巻いた種によるものか、柊の想定以上の集束性と、あまりに雄々しい意志が上乗せされた。

『──かつて、君たちを処断すべく動きかけたことがあった。マドロック家……カルラの目論見はやがて、帝国臣民をも巻き込み、消し飛ばし、奴ひとりの地平を生むことになる。

 俺は悪に対するカウンターとして、君とベルンを含めた関係者の殲滅をすることに何の躊躇いもない。仮に創奏を名乗る貴様らが帝国の敵となるならば、そのときも俺は容赦なく刀を抜くだろう。

 ただ……元を辿れば俺の不始末でもある。俺という男がギルベルト・ハーヴェスという男の暴走を招き、ギルベルト・ハーヴェスという男の暴走が、カルラをここまで導いた。ならばこそ、俺の手で道を拓こう、若人よ。

 願わくば君たちも、俺などではなく、アシュレイ・ホライゾンのような英雄をこそ目指し進むがいい』

 高位次元の流星と化した閃奏、ケラウノス。彼の持つ概念すら断ち切る殲滅光が込められた斬撃は、カルラの肉体を袈裟に叩き斬った。

「は……ァ!?」

 しかもケラウノスの光は放射能性物質。傷口から遺伝子ごと敵を殺していく代物である。治る治らないではなく、単純に()()

 革奏の能力の特性上、治癒は簡単だ。そういう願いを選んで、叶えれば、カルラの肉体は即座に完治するのだから。しかし、痛みは、痛かったという記憶は抜けない。トラウマになる。

 

 かつて、天上を騙る氷結の魔星が、天神の雷霆に討たれたごとくに。開幕の一撃にて、すでに精神的な優劣が決まろうとしていた。

 

「だが、まだだ」

 

 しかしこの対決は、まだ何も始まっていない。

「意見を聞こうか、柊」

 カルラは、対話によって様子見に出た。極晃星は極端に二人の思想が表に出た能力が生じる。能力を探るためにも、そしてその思想を折るためにも、知らなければならない。

 柊は理解していた。先程の一撃の火力は、何らかの援助ありきであること。そして同様の支援は、もう得られないこと。ゆえにこれからは、ベルンと二人きりで、万を超える援軍を持つ革奏と渡り合わねばならない。

 しかし問題は無いさ、柊。私たちなら戦える。

「意見?」

「そうとも。俺は第三太陽を通じて全人類を幸福にする。そのために極晃星(スフィア)を描いた。通常、既に極晃星(スフィア)を描いているお前たちと星を掲げることは出来ない。しかし眷属に加えるなど手はあるだろう。……お前の望みも、場合によっては俺の星で叶うかもしれないぞ?

 俺の星は、願えばなんでも叶うのだからな」

 実際、第二太陽から降り注ぐ星辰体(アストラル)により発現した星辰光(アステリズム)の多様さを見ても、カルラの発言に嘘は無いだろう。しかし──。

「嘘つけよ」

 カルラの極晃には問題がある。

「お前の極晃は第二太陽を模倣したものだ。しかし、第二太陽と違い、お前という明らかな主体が存在する。つまり……お前が()()()()()()()()()()()。逆にいうと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだろう? 何が幸せになるだ、何が願いが叶うだ。結局、願いを全部叶えてるのはお前一人だけじゃねえか」

 守りたい、救いたい誰かが初めから居ない、完全な自己満足、自分の欲求を満たすためだけの極晃だ。そんな独りよがりにより縋って生きろだなんて、私たちをあまりにナメている。

「お前は偉くなりたいってだけだろ。聖人ぶって上から幸せにしたげるなんて言われたって、迷惑なんだよッ」

 私の持つ星辰体噴射による加速で相手に猛接近しながら、膂力強化、さらに触れた対象を実質的に消滅させる分子結合分解能力を自身に付属(エンチャント)しながら刀を振り下ろす。直撃すれば、天下の名剣で断ち切られたように、綺麗な断面を晒しながら一刀両断されるところだろう。しかし──

()()()()()()()()()()()

彼は斥力を発生させることで相手を弾いた。そして柊の言葉も、カルラにとっては想定内の言葉に過ぎない。

「俺の望みは叶う、それは確かだ。だが、俺に祈った奴の願いも叶っている、それも本当だろう。

 そもそも、なんの努力もなく、ただ願うだけで望みが叶う確率なんて現実では皆無だろう? それを、俺の極晃星(スフィア)だけは叶えてやるのだ。俺が王になるそれだけで、望みが叶うかもしれないと希望を抱ける。

 まず、第三太陽となる時点で物質的なしがらみからは開放されているのだ。俺がどうあれ、結果的に多くの人間が幸福になれるのなら、それで問題ないじゃないか」

 強者の理論であり、結果論であり、新西暦で多くの光狂いが唱えた理論──結果的な多くの人間を幸福にすることで、過程で生んだ犠牲に報いる、ということ。確かに、その考えは間違っているとはいえない。少ない犠牲で最大のメリットを作るのは為政者の基本だ。

 直接被害を受けなければ、確かにそれでいいといえるかもしれない。柊も私も、潔癖なわけじゃない。ただ、潔癖じゃない凡人でも、許せないラインってものがあるんだよ。

「だから大人しくしてろってか。叶えて()()、幸せにして()()……見下してるのが言葉の節々から透けて見えるんだよ。

 ふざけるな。俺たちは俺たちなりの方法で幸せになれる。お前に、夢を叶えてくださいお願いしますなんて頭を垂れろなんて嫌だね、そんなん」

 斥力発生による反発現象はしかし、衝撃波などとは違い永遠に吹っ飛び続けるわけじゃない。一定距離を取れば力は弱まる。近寄れないだけだ。近寄る方法を考えるより、遠くからでも出来る攻撃を選択するべきだろう。

付属(エンチャント)改造(アレンジ)増幅(エコーチェンバー)……!」

 選んだ星辰は地形再整形。カルラの足元の地面を散弾のように爆発させていく。そのうえで、舞い上がる砂ぼこりや砂礫に対して柊自身の星辰光(アステリズム)である質量変化を付属させる。これにより、巨岩にも等しい質量の砂礫が、砂塵が、カルラひとりに殺到する。もちろん相手も極晃星(スフィア)であり、尋常ならざる生命力を有しているのだから、この程度は決着には至らない。

 だからこそ間髪入れず、私の星辰光(アステリズム)である星辰体噴射に物質再整形と質量変化を再付属。変形しながら迫る巨大質量の破壊光線を生み出し、得物の切っ先から発射する。

「……見下されるのが嫌だから従わない? それは少し、子どもっぽくないかな。そんなどうでもいい理由で、この俺の、新西暦に救いを求める人々の思いを踏みにじるつもりか?」

 カルラの問いにしかし、柊も私も、どう答えるべきかは決まっている。

「当たり前だろ。

 俺たちは勝手に生まれて、勝手に幸せになったり、勝手に不幸になったりするんだよ。それが人生だ。

 たまに生きていくのが嫌になったり、たまに生きててよかったって思ったり、たまに人を恨んだり、逆に恨まれたり……。色々安定していなくて、色々と不安で、先が見えなくて、力不足に悩んだり、自分には手に負えない、何かデカい国政とか他国とかを好き勝手言ってみたりな。……そういう中で誰かに救って欲しくてたまらない日もあるよ。でも」

 柊の光線を不可視のバリアで防いでいたマドロックの体が、くの字に折れて吹き飛ぶ。訳が分からないと、不思議そうな顔をしているが、そんな暇はないぞ。

 カルラへめがけて何もない空間から雷が生じ、集まっていく。しかし友好的な気配は一切なく、すべてが落雷による感電死を狙っているような、容赦のない雷の雨あられである。

「誰かに支配されて、何の悩みもなく苦しみもなく、山も谷もなく、ただずっと幸せな人生は……、誰かの掌の上で踊り続けるような人生じゃ、まるで自分がないじゃないか……!」

 カルラの第三太陽に取り込まれたとして、結局はカルラの下で、自分は幸せだと実験に利用されていた過去の生活と何が違うというのだろう。自分の手で何も叶えていないくせに満たされてしまっている人生など、それじゃカルラの家畜に成り下がるのと同じだ。

「ふむ。では質問を変えよう、柊、ベルン。

 では君たちは、どうやって人類を救うのだ。その極晃星(スフィア)という王冠で、俺以上のことが為せるのか?」

 雷を空中分解してみせたカルラは、遠距離は不利と感じたか、今度は向こうから突撃して来た。おそらく誰かの願いによって威力が倍以上に跳ね上がっているだろう拳による打撃を、柊は硬質化と質量変化の星辰光(アステリズム)で耐え凌ぐ。

「分からないさ。

 だけどその、より強い奴が上に立って下々何とかするって態度が気に食わない。

 言っただろう。人間、勝手に生まれて勝手に幸せになったり勝手に不幸になるんだよ。極晃星(スフィア)だからとか、星辰奏者(エスペラント)だからとか、男だからとか女だからとか、誰も決めてない、誰も頼んでない立場に相応しい責任(ノブレス・オブリージュ)背負った気になるんじゃねぇ。

 俺たちは平等に、いろんな答えに至りながら、いろんな悟りを開きながら、絶対者なしに強く聡く生きていくよ。

 帝国が合議制になったように、聖教皇国が残った貴族やら他国との連携でなんとか立ち直っていくように。敗走兵が逆襲劇を描いたり、誰よりも弱かった商人の子供が誰よりも強く優しい英雄になったり、故郷を失った復讐鬼が新西暦をさらっとしれっと救ったようにな。

 つまり、お前のやってることは、ただひたすら上から目線でウザい上に必要ないんだよ」

 はっきりと伝えきった柊を見て、カルラに明らかな動揺が走る。

 柊の言葉そのものではなく、それが引き起こした変化に対して、である。

「これは……!?」

 極晃星(スフィア)を描く相手が、カルラの賛同者がぐんと減った。

 他の極晃と異なり、共有する思いの普遍さ、曖昧さ、総じてカルラ自身が設定した『加入しやすさ』は、裏を返せば気が合わなければ簡単に抜け出せてしまうことも意味していた。神天地のように否定要素も肯定するのではなく、全員を自分とひとつにするのが第三太陽であるゆえ。

「……起動せよ、通信衛星。回答ヲ求ム。

 気が付かなかったのか、カルラ。俺は念話でずっと、お前の協同者達に向けて話しかけ続けていたんだよ。

 お前がどんなに上辺だけ取り繕ったところで、結局はお前が王になれるだけの極晃星(スフィア)だってこと、ようやく皆も分かってくれたらしい」

 革奏の強みは共同者の多さ。

 次元震そのもの以上に、協同者の多さに応じて無限に増える手数だった。ならばこそ、数の利を崩していく作戦になったのだ。

 

 

 元々この作戦は私や柊が立てたものではない。

 カルラに二人が敗れた時。二人は戦場から放逐されると同時に、界奏に接続された私たちは、直後、レイン・ペルセフォネの星辰光(アステリズム)により特異点へと転移させられたのだ。彼の特異点は唯一、光も闇もない地平であったという、それだけ。きっと界奏……アッシュ自身も、咄嗟に二人を同じ場所へ導くことにしたのだろう。阿吽の呼吸でレインが動き……果たして私たちは彼らに繋がることに成功した。

 しかしそんなアッシュの選択が、思わぬ追加効果を発揮する。

 

 それは、二人で戦場へ戻ろうとしたとき。

「失礼。少々、お時間いただけるかな?」

 私たちを呼び止めたのは、黒縁メガネの美丈夫だった。

「自己紹介は省かせてもらおう。私は既に死人ゆえ、君らに名乗る名前はない。……状況は理解しているとも。そのうえで、特に呼ばれはしていないが、主君の勝利に必要と判断したのでここに馳せ参じた」

 アドラーの軍服。この声。この態度。カルラに刷り込まれた記憶に存在する男に間違いないだろう。

 ギルベルト・ハーヴェス。ヴァルゼライドの信奉者にして、危険すぎる思想を持ちながらあまりの有能さに、ヴァルゼライドですら断罪せず首輪を付けるに留めた、神算鬼謀の天才。白夜のごとき光の審判者。

「おそらく、君らが参戦しなければ新西暦は終わるだろう。しかし、君らが参戦したところで勝率はそう高くはない。

 そこで、だ。既に完成した極晃星(スフィア)に対してできる助言は多くないが、まだ未完の君たちにならば私でも役に立つことはあるだろう。なに、君たちの答えをとやかく言うつもりは無いさ。ただし、カルラ・マドロックへの対抗策ならばいくらでも思いつく」

 晴天のように曇りなき眼で語られる計略は、酷く単純なもの。だが実際上手くいっているのだから恐ろしいのだ。

「彼は顕示欲が強い。ゆえに次元震という大規模な攻撃を主体に戦うことはまず無いだろう。緊急時、他に手がない時以外は、だがね。

 同様に、君らも手数のみで勝負をしかけ、決して追い詰めすぎないことが肝心だ。次元震を使うという選択肢を最後まで切らせず、油断しきったところを急激にハシゴを外し、仕留める。……あまり好みでは無いが、暗殺のようなスタイルこそが彼を仕留めるには、これが最も成功率が高いだろう。ああ、暗殺とはいっても勘違いはしないで欲しい」

 彼いわく。

 ──仲間を奪うには君たちの方が魅力的でなければならず、そして最後の一撃も君たち自身が奮起せねばならないだろう。だが私は君たちを信じている。さあ、頑張ってくれたまえ。

 とのこと。

 結局は気合いと根性。英雄信奉は相変わらずブレない。そして誰もが英雄になれると、信じて止まないのだ。

「君たちの決意の是非は私が決めることでは無い。

 だが可能ならば決して折れず、諦めず。英雄のごとく雄々しく突き進んで欲しい。不可能や限界などはなく、全ては心ひとつなのだから」

 

 

「は───?」

 そして今、カルラ・マドロックは一気に協同者を失い混乱に陥った。

 ギルベルトの用意した舞台が、整ったのである。

「行くぞ、ベルン」

「任せろ、柊」

 ベルンの肉体が再構築される。当然である。極晃星(スフィア)は二人でひとつ。柊ひとりで戦うわけでもはなく、私ひとりで戦う訳でも無く。

 私たち二人は、二人で、壁にぶち当たったり、絶望したり希望を抱いたりしながら、私たちだけの人生を進むのだ。

 それが、それこそが、私たちの極晃星(スフィア)──星辰“創奏”者(スフィアドライバー)なのだから。

 

 次の瞬間。ハサミのように両サイドから刃を振るった私と柊は、カルラの首をはね飛ばすことに成功した。

 

 

 アッシュは流星のごとく、特異点から地上へ戻っていく人々の姿を眺めていた。

「カルラの極晃星(スフィア)を解体するってプラン──。ああ、アイツの入れ知恵か。……ま、今回ばかりは功労賞をやるか」

 ゼファーはただ突っ伏して、全身の疲労を癒している。

「あー、疲れた。もう二度と働きたくねえ。チトセの依頼とかもう絶対受けない…………」

 ラグナは相棒の鉄塊剣を抱えながら、静かに新たな極晃の帰還を待つ。

「───」

 戦場と化したリベラーティ家の別邸の惨状を何とかしないといけないし、革奏という極晃は無闇に大規模に作用する代物だっただけに、後始末は大変なことになるだろう。

 ただ、今だけは。

 勝利の余韻に浸るくらいは許されるだろう。

 

 三組の極晃星(スフィア)が待つ地上に、最後の流星が流れる────。




エピローグなど除き、これが最終回となります。
これまでのご愛読、ありがとうございました。
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