暁の海洋/Scylla
布の擦れる音。柔らかい温もり。可愛らしい寝言が聞こえる。
目を開くと、クリクリとした瞳と目が合った。
「オハヨー、ベルンちゃん。昨晩はお楽しみだったわね!」
「えっ」
「もう、惚けないでいいのよん。それとも私の口から直接聞きたい?」
「えっ」
私が2度聞き返すと、さすがに面倒くさくなったのか、踊り子衣装の少女はベットを降りた。
そう、彼女とお楽しみなんて記憶はない。多分イタズラ好きな彼女が、早起きしたもんだから取り敢えず弄りやすそうな私のベットに潜り込んだのだろう。
「───ぶぅ。つまらないわね。やっぱりここは初心で慌てやすい真面目なコじゃないと」
拗ねたように口を尖らせる彼女は、アリス・L・ミラー。私たちが所属している傭兵団、“暁の海洋”のトップである。
普段は踊り子を装って情報収集に徹しているが、見た目年齢以上に年増で腕利きである。
見た目は10代かすごく幼い20歳にしか見えないのだが、実際何歳なんだろうか。
「おやおや〜。なんだか、すっごい失礼なこと考えてない、キミ?」
「気のせい気のせい」
よっこいせ、とベッドから降りると彼女の方も何事も無かったかのようにベッドから抜けて部屋を出ていこうとした瞬間───
「おはよーベルン! 今日は俺の方が早、起き……」
私の部屋に入ってきた
「べ、べ」
「べ?」
硬直すること、約3秒。
私たちの拠点に響き渡るような絶叫が轟いた。
「団長がベルンに喰われたァァァァァ!!」
ああ、頭が痛い。なんでこう、こうなるのか。ジタバタと喚く男を眺めて、私は天を仰いだ。
“暁の海洋”には悪魔が3人いる。
1人は私に夜這いを仕掛けた振りをしたアリス。
あと2人は、表向きの稼業である酒屋でメイドをやっている双子である。
「いやー、隅に置けませんねー。団長がぐんず解れつしてるのはいつもの事ですが」
「女の子で団長を食べた子は初めてですね。処女卒業、おめでとうございます」
くふふー、だの。むふふー、だの。あからさまに私をジロジロ見ているのはティナとティセ。この傭兵団の古株である。
主に妖艶さで男女問わず惑わせてその反応を楽しむのがアリスのやり方とするならば、この双子はそうして惑った結果アタフタする野郎や女に死体蹴りを仕掛ける担当である。最低なコンビネーションだな。
「いやー、私も遂にこの立場になるとはねー!」
「ベルン、えっち……」
アリスさん、楽しそうに笑わないで欲しい。あといつまで純情やってるんだあの野郎。
「おいコラ柊ー。いい加減遊ばれてるだけだって気付いてるだろお前」
私の部屋に不法侵入した挙句、あることないこと言いふらしやがった男の名前はマサシ・柊・アマツ。いとあてなる立場にいらっしゃるはずお名前なのだが、実際はこうして傭兵をしている実に変な男である。
「てへぺろ」
おかしい。私が知ってる話だと
私の顔を見て何を言いたいのか察したらしく、柊は呆れたように私を見た。
「おいおい。俺はアマツの家系でも非常に残念な立場のアマツだぜ? 品性その他諸々期待してくれるなよ」
「それはそんな堂々言うことじゃないと思うんだが……?」
アマツ。
日本人の血を受け継ぐ
日系人が優秀なんてことは
旧暦の末期、深刻な資源不足に陥った世界は、新たな資源発掘や効率のいい資源の利用に四苦八苦していたらしい。それを解決するような画期的な資源こそ、今や世界のどこにでも存在するといわれる
「……?」
いいや。星辰体が副産物だとか、そんな話は
そんな星辰体だが、発見したのが日本という小さな島国だったのがよろしくなかった。
日本は第二次世界大戦あたりで敗戦国となり、世界の中の
当時の世界情勢的に、資源輸出国は世界のトップもしくはリーダーという立場に君臨出来ることは間違いない。それを良しとしない諸国が戦争を仕掛け、第五次世界大戦が勃発した。
結論から言うと、この戦争は勝者不在のまま終わる。日本にある星辰体を用いた核融合炉にどっかの工作員が仕掛けをして暴走させてしまい、日本からユーラシア大陸の右半分までもが消し飛ぶ
大破壊の影響は、世界が消し飛ぶ程度にとどまらない。空気抵抗の増大、電気抵抗の消失、星辰体の十万など、世界規模で環境が大きく変わってしまった。
最大の変化といえば、今も空に浮かぶ
そんなこんなで結局、日本は地上を離れて神様みたいな存在となっており、大和だのカミだの神国だのと、信仰の対象となっている。
日本がもたらした
新西暦において中心となる三カ国も、ほとんどが大和のどのような遺産を有しているかで特色が決まり、立場が決まっている。
かつて人類が大河を中心に文明を築いたように、
大和の軍事施設を有するアドラーは軍事帝国に。
様々な大和の遺産を集めに集めた島国であるカンタベリーは聖教皇国に。
それら2つの大国に接したアンタルヤは通商で大国に食らいつき、商業連合国に。
武力ではアドラー帝国がトップなのは変わらないが、商売や駆け引き、人材の豊富さはアンタルヤ商国が優るだろう。そして世界的な宗教である大和信仰の中心地という意味で、最も味方が多いのはカンタベリー聖教皇国だ。三国は拮抗状態が続いており……いや、
そこら辺の細かい話は後に回すとして。
アマツの家系はそんな、世界的に信仰される日本人の血筋であるからして、この新西暦に適した人間がよく産まれてくる。身体能力や知性補正、そして大半アマツのお家は貴族のような立場へとなる。なる、のだが。
柊の家系は特殊というか、生まれがアンタルヤという実力がすべての国であり、当時から十氏族という豪族たちがトップにいた関係もあり、
「まったく。アマツのお家なんだし、もう少しはお淑やかになれよ」
「大和男児は豪快だったらしいぞ。つまり問題ないってことだな!」
そんな暴論通るかよ。
いい加減、空気が弛み切ったところで、
「はいはーい。じゃあそろそろ切り替えましょ。
実は皆にお仕事がありまーーす!」
お前が始めたことだろうが、と言いかけたが口をつぐむ。ここでひっくり返しては話が一向に進まない。
それに、仕事があるというのはそれだけでありがたいことなのだ。
「明日、私自慢の妹を迎えに行くわよ。ついでに、今の雇い主さまもね」
またベルンですが違うベルンです。いつものことですね。
”暁の海洋”は個人的に好きなグループなので主人公をぶち込んだわけですね。
ロリな姉ちゃんに分からされたい。