【完結済】シルヴァリオ アリアンロッド   作:湯瀬 煉

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 能力の説明、なんでしなかったのかって?
 こっちでやるつもりだったからだよ!!


人造言語/Esperanto

 星辰体感応奏者(エスペラント)

 星辰体あふれるこの世界で、新たに出現した兵科である。

 

 初めて登場したのは新西暦1021年。当初はアドラー帝国が技術を独占しており、他の国はこの新兵科の凄まじさに圧倒されるしかなかったのだが、1032年、世界最初の星辰奏者(エスペラント)であり、アドラー最強とされた英雄、クリストファー・ヴァルゼライドの死亡により、その技術が国外に流出する。

 以降、星辰奏者製造技術は各国で独自の発達を遂げ、今では戦場の花形となったのである。

 

 何がすごいって、簡単なことだ。超人製造技術といえばいいのか、人間兵器(エスペラント)は一人だけで戦車などの兵器を凌駕(りょうが)する。

 高濃度の星辰体を人体に照射し、星辰体に感応する触媒となる専用金属を加工した物を所持させることで生み出せるエスペラント。まず身体能力が圧倒的だ。五感は研ぎ澄まされ、内臓器官は強化され、負傷も治りやすくなる。それに加えて、個人の拘りや諦観、理想に応じた異能の力(アステリズム)まで目覚めるときた。

 戦車を数千台そろえるよりも、それより強力で超常の力を使える強化兵が重宝されるようになるのは当たり前の流れだった。

 

 

 

 

「久々だね、仕事。やっぱりいろいろあったし」

 

 去年の話だ。

 突如、地面を掘るだけでざくざくと採れる資源が出現した。翠星晶鋼(アキシオン)と呼ばれるそれは、大気中に満ちる星辰体が凝固したような結晶であり、オーパーツに思えるほどに便利な代物である。だがしかし、オーパーツ()()()というべきか。世界は今、アレの解析に大忙しなのだ。それは”暁の海洋”が属するアンタルヤも同じように。

 

 まあつまり、戦うほどどの国も暇じゃない。

 そうなると傭兵も仕事がない。たまに他所(よそ)はどうなっているのか、という類の調査を引き受けることはあるがそれだけだ。

 なんなればカンタベリーに至っては国の実質支配者であった教皇をはじめ、守護騎士団総代聖騎士、研究機関の長官にして枢機卿などの死亡で国全体がまだガタついていて、領土復活どころではない。勿論アドラーやアンタルヤも『復興支援』という名目で領土を拝借しているしで……などなど。とにかくお仕事が回ってこなかったのだ。

 

 私が柊に声をかけると、奴は奴で得物の手入れをしながら頷いた。

 

「そんなゴタゴタ期に”暁の海洋(ここ)”に入れてもらったことには、感謝しないとだな」

「……そうだね、ほんとに」

 

 なんでも団長は、以前気まぐれで拾った子のおかげで結構いい思いが出来たので、今回もとりあえず拾ってみたとのこと。私はとりあえず、その子にきちんと感謝しなければならないだろう。

「とりあえず今日のところは寝ておけよ、ベルン。流石に明日キツイぞ。護送任務らしいじゃん。いちばんメンタル削られるタイプの仕事なんだしさ」

「へーい。じゃあまた明日ねー」

 

 ひらひらと手を振りつつ、私は柊の部屋を出た。

 

 

 

 

 翌朝。

 私たちはアンタルヤの最西端にある港にいた。

 

 アンタルヤは通商で栄えた国である。人も財も集まり、必然資本競争が苛烈になり、豪商たちが寄り集まり、お互いに牽制し合いながら連合国を築き上げた、特殊な建国経歴を持つ。

 

 今の雇い主である十氏族が一角のお家は、カンタベリーとの密な関係性と専用の運輸ルートを持っている。それゆえ、カンタベリーに物を送ったり逆に取り寄せるということに関してはアンタルヤでもトップクラスとなる。

 

 そう、今回の任務はカンタベリーへ派遣されていたとある()()()のお迎えに我々が駆り出されたのである。その人物と団長が仲がいいらしく、何なら義理の弟なのよ、などとあの人は言っていたが。

 

「傭兵を雇わなきゃならないほどに高貴なお方なのかよ」

 

 私としては眉唾もんである。とはいえ、今回の雇い主以外にもミツバという十氏族とも契約していたというし、ベテラン傭兵であるアリス・L・ミラーの顔の広さは侮れないということか。

 

 港にそれはそれはご立派な船が到着すると、積荷が下ろされ、次に最初にピンク色の髪の毛のお嬢様が降りてきた。

 私たち傭兵団の雇い主、セシル・リベラーティである。

 

「お迎えありがとう。()()()()()もあなたたちのことは信用してるみたいだったし、何より腕がたつって評判だったから雇ってみたけど……うん、私の選択は間違ってなかったみたいね」

 

 適度に散らした兵士、ネームド、つまり有名で分かりやすく危険な奴は雇用主の側にいることで牽制、と。基本的なことではあるが、これをきっちりやり通せるというのが、顧客からの信頼獲得に大切なのである。

 

 とはいえ、箱入り娘にはなかなか見抜けぬ工夫だろう。勿論、女狐とまで言われているミツバの女ならば即座に看破も可能かもしれないが、それはそれ。何せミツバといえばアンタルヤでも悪名高かった傭兵団を雇い、日夜テロリズムに精を出していたお人である。他の商家とは比較できない。

 ゆえに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()彼女もまた、薄汚い道にも通じる人物であるのだろう。優秀な星辰奏者(エスペラント)だとか、カンタベリーで教皇を殺したのは彼女なのではないかという暗い噂も立つほどには。

 もっとも、私たち(雇われ兵)としてはそんなものは大して気にならない。よほど道理を外れた外道なら嫌悪はするが、お金をくれるなら頑張らせてもらうとも。

 

 彼女に続くようにして、現れたのは黒髪を尾のようにまとめた少年と、銀髪ロングの少女だった。

 

「護衛を雇ったとはいえ、飛び出さないてください、お嬢様。何かあったらどうするんです」

「その時はあなた達が何とかしてくれるでしょう。信じているもの」

 

 そう、私たちの任務とは()()()()()()()()()()()()。彼女の護衛は既に決まっているのだ。

 

「はじめまして、終焉吼竜(ニーズホッグ)。しばらくの間、よろしくお願いしますね」

 

 アリスさんがにこやかに握手を求めると、少し戸惑うように少年──終焉吼竜(ニーズホッグ)は握手を交わした。

 

「はい、短い間ではありますが、よろしくお願いします。

 俺はラグナ・スカイフィールド。こっちのツレはミサキ。セシルの護衛を務めてる者です」

 

 硬い握手は信頼の証、というよりは牽制だ。裏切んじゃねぇぞオラ、みたいな黒い会話が見える。まあ、アリスさんはそういう人じゃないし、ラグナの方は、うん、少しずつ信用していくしかない。

 

 

 ついでにセシルたちへ新顔である私たちの紹介を済ませつつ、護衛対象を待っていると。

 

「ああ……死にたい。腹を切らせて欲しい……頼むから」

「別にわたくしはいつでも、と言いますか。そのまま()()()()()()も良かったのですが……」

「アヤちゃんはブレないわね」

「それ言ったらアッシュのラッキースケベ体質(スタイル)もブレてないけどな」

「スタイルじゃない……! そんなの嫌だ絶対にッ」

 

 何やらこう、目に毒なもの(ハーレム)が降臨なさった。

 

 不思議なメンツだった。

 1人は銀髪に金色メッシュが入った優しそうな男の人。それを囲うようにアドラーの軍服を着た黒髪の少女と、カンタベリーの星辰奏者(聖騎士)らしき金髪の女性、そしてアンタルヤの傭兵らしき銀髪の少女。

 お淑やか、大人、かわゆいと三種の女の子に囲まれながら疲れきったような顔で下船する男。

 

 これが………外交官?

 

 そんな私の視線に気付いたのかこちらを見ると、表情を引き締めて、今度はきちっと歩いて近付いてきた。

 

「わざわざ護衛、ありがとうございます。俺なんかに必要か分からないですけど……」

「何言ってるのよ。むしろ最重要人物なまであるんじゃない? 途中で何かあったら国際問題よ、国際問題。そこらへん、アッシュくんは理解した方がいいと思うな〜?」

 

 そうでした、すいません、なんて謝る仕草に裏はない。なんというか全体的に素直な感じである。

 

 これが………外交官?

 

 と、なんかさっきと同じ感想に至ってしまった。

 外交官をするならもっとこう、キレて裏は見せないみたいな人がいいんじゃないだろうか。

 

 呆れるような、憐れむような目で彼を見ているとアリスさんが背中を押して彼の前へと自分と柊を立たせた。

 

「こちら、ウチの新顔ちゃん。

 2人とも、この人ときちんと仲良くしとくんだぞー。なんせ今、三国が競って手に入れたがってる星辰“界奏”者(スフィアブリンガー)様なんだから」

 

「はえー、は、えぇぇぇ!?」

 

 別に、はえーを2回に分けて言った訳では無い。

 星辰界奏者、というのはそれだけ有名な人物なのだ。

 

 その話をするには、まず、極晃星(スフィア)について説明しなければならないだろう。

 

 星辰奏者は普通、1人につき1つの異能を持つ。それはどんなに強力であっても兵器程度の驚異であり、今や大国ならどこでも有している戦力だ。

 

 だが、極晃星(スフィア)だけは話が違う。

 

 自分の想いを共有できる相手がいること。

 通常の星辰奏者(エスペラント)が用いるアダマンタイト以上の触媒──オリハルコンの使用。

 発動値の出力や星辰光(アステリズム)に存在する六つの性質の内一つ以上が抜きん出て高い(評価AAA以上)などの諸々の条件が果たされて顕現するこの世界の王冠のことである。 

 

 その能力は正しく、魔法のランプといっていい。本人に星辰奏者では比較にもならないほどの絶大な強化が施され、強力無比な異能が発現し。更にはその極晃星と接続さえ出来れば接続者に無制限に恩恵を与えるとまで来た。

 そもそも()()()()()力であり、どの国も、研究として、戦力として、こぞって手勢に加えたがっているのは言うまでもないことである。

 

 

 界奏(スフィアブリンガー)は四番目に生誕した極晃星である。他人への星辰光(アステリズム)付属(エンチャント)、自身への星辰光(アステリズム)付属(エンチャント)を可能とし、本人の戦闘力は低くとも圧倒的な()()()で横の繋がりを広げていく極晃星だという。

 

 そんなわけで、各国が彼に最も近い女性を送り込み()()()にきているとは聞いていたが、なんかこう、誑かすってよりはただただイチャついているだけのような気がする。爆ぜろリア充め。

 

「そんな畏まらなくていいですよ。気軽にアッシュって呼んでください。

 アリスさんが絡むなら、長い付き合いになると思いますし」

 しかも私たちにまで気が遣えるリア充らしい。

 なんだろう、この敗北感。

 朝から「どっちが早起き出来たか勝負しよう!」とか言ってくるどこかのアマツとは出来が違う。あのアマツは本当にアマツなのだろうか。

 

「取り敢えずこんな所で立ち話するのもなんだし、私たちの拠点に移動しましょうか。

 カンタベリーから帰るだけならそもそも、あなたたちを呼ぶまでもないって分かるでしょう?」

 

 挑発とも取れかねないセシルのその言葉に、アリスさんは頷いた。彼女は界奏……アッシュと呼ばれる青年と仲がいいらしく、彼を信用しているから自分を頼るからには異常事態だと判断しているようだった。

 

「ま、積もる話もあるでしょうし。拠点(そこらへん)含めてリベラーティ家を頼っていいのよね? アッシュくんはどうする? うち泊まる?」

「ええ、もちろん」

「………後半に関しては丁重にお断りさせて頂きます」

 

 

 ■ ■ ■

 

 その夜。

 界奏、リベラーティ、“暁の海洋”のメンツの一同がリベラーティの家に集っていた。

 

 目的は会談、とのことで、私たちは外にいた。特別にアリスさんがそうしろとは言っていなかったが、何となく夜風に当たりたかったのだ。

 よってリベラーティの屋敷の屋根に登り、天に輝く月と第二太陽(アマテラス)を見ていた。

 

「アリスさん、結構顔広いんだな」

 

 柊の呟きに頷く。いやほんと。ビックリした。さすが熟練の傭兵というべきか。

 

「今日だけで一生会えそうもない人と沢山会えたしさ」

 特に極晃星なんて一生に1度、会えない人の方が多かろう。

 

「何かこう、()()()()()に巻き込まれたみたいな奇跡で、ビックリだよ。特に俺らなんて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだから」

 

 そう、私と柊は新西暦への知識や、何故かどこかで戦ったという記憶はあるものの、生まれや育ちに関する記憶は上手く思い出せないのだ。アリスさんに拾われたというのが最古のハッキリとした記憶になる。

 アンタルヤでは珍しくもない。人命が軽いこの国において、捨てられた子供や薬物などで記憶障害を起こすことは()()()()ことなのだ。

 

 

 

 懐古に浸る私たちだが、次の瞬間、素早く体のスイッチが切り替わる。

 殺意の感知。闇夜に紛れて何かがいる。

 屋敷の屋根へと素早く駆け上がるそいつの銀刃を、腰の刀を抜いて受け止める。だが──

 

「シィッ」

 

 素早く後方へと駆け抜けて背後から首へと刃が迫る。それを防いだのは、間に割って入った柊だ。だが次の瞬間、横から彼の体は蹴り飛ばされ、屋根を転がり落ちてしまった。

 

「柊ッ!」

「お前も同じところに送ってやるよ」

 

 首へと刀のような刃が、左太ももへと短刀のような刃が迫り、慌てて後方へ飛び下がり、屋根を飛び下りる。

 

 着地したのは、リベラーティ家の玄関前、いわゆる正門。ここなら明かりもあるだろうと判断したがゆえ。横を見遣れば、柊も立ち上がっていた。

 

「創生せよ、天に描いた星辰を──我らは煌めく流れ星」

 

 声が、聞こえた。

 襲撃者の内一人が基準値(アベレージ)から発動値(ドライブ)へと移行させ、星辰光を発現させたのだ。

 星辰光とは即ち、自身を最小単位の星とする技術である。地球には地球の、月には月の惑星環境があるように、己だけの異星環境を展開する。

 発動値ともなれば出力が上がり、異能も開帳される段階。もはや油断は許されず。

 

「うわっ!?」

 

 などと思っている内に烈風が吹き荒び、体勢が大きく崩される。風でまともに目も開けられないならば、もはや明るさ等()()()()()()()()()()()()()()()()()──

 

「まずいッ」

 

 咄嗟に前方へと身を投げれば微か後ろを刃が通る気配があった。そのまま突っ立っていれば首がはね飛んでいたことは想像に難くない。何よりも恐ろしいのは()()()()()()()()()()()()()ということ。

 だから今も、直ぐに背後を振り向いたにもかかわらず気付けば相手はもう移動していて。

 次の瞬間、強烈な()()を感じた瞬間に足場が崩れて、背後に回り込んだ敵手の刃が喉に突き刺さりかけた。

 私は急ぎ肘で相手の胴を殴って体を揺すぶり相手を振り落とす。

 

「もういいぞ。下がれ狼」

 

 凛とした声。

 それだけで下手人は下がり、風も止んだ。

 

「失礼。大切な会談と聞いていたゆえな。間諜の類かと思って部下をけしかけてしまった。ふむ、君たちは確か“暁の海洋”の新兵だったか。

 敵と勘違いさせてしまったならば済まない。私もこの場に呼ばれた者の1人だよ」

 

 そんな無茶苦茶な、とはいえない。知らん顔が会合先の屋根に登っていたら怪しいだろう。だからと言って戦うのかよとは思うが。

 

「悪かったな。怪我ないか?」

 

 下手人の方は心配そうに此方を覗き込んでくる。

 良い人なのか何なのか、判断に困るところである。

 

「ええ、まあ、はい………」

 

 どう答えようかな、と困惑しつつ頷くと、心底申し訳なさそうに相手は頭を下げた。殺し合いでは容赦なく首を切り落としに来るのに、存外ビビりらしい。

 

 こいつ信用できるんかな、という空気の中、屋敷に扉が開けば、戦闘服を着たアリスさんが出てきた。

 

「あら、ようやく来たのね」

 

 どうやらこっちの人とも知り合いらしい。

 そしてようやくというかなんというか。私たちを襲った二人組は名乗りを上げた。

 

「アドラー帝国、“黄道十二星座部隊(ゾディアック)”が一角、第七特務部隊、“裁剣天秤(ライブラ)”の長。チトセ・朧・アマツという。

 こっちは私の右腕のゼファー・コールレイン。

 以降よろしく頼むよ、諸君」




取引先の屋敷の屋根で、武器を持ってヒソヒソ話している傭兵はあまりに怪しすぎた。

ところで歴代主人公が勢揃いしましたね。
……おかしいな、私のプロットではラグナの登場はもっと先のはず───。
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