最強。
この二文字に魅せられない人などいないだろう。少なくとも男ならば、最強は誰かという話題は好んで話す事柄だと思う。
ではこの新西暦、最強は誰だろうか。
一人は始まりの
何より、帝国が
もう一人もまた故人。カンタベリーにて最強の騎士とされたウィリアム・ベルグシュラインである。彼の星辰光は剣閃延長能力。斬撃を遠くへと飛ばせるというだけの異能なうえに、能力に対して拡散性も低い、一版には使い物にならない能力の
そして最後の一人は、唯一の存命者である。
チトセ・朧・アマツ。ヴァルゼライドなき今のアドラーにおいては最強の
ゆえに戦争においても、個人間の闘争においてもチトセ・朧・アマツは最強。その認識は、国内外でも一切変わらない。女傑とは、まさに彼女のことだろう
そんな有名人、チトセは今、私の目の前にいた。
正確には、私たちの雇い主たちの前、だが。
赤いドレスに身を包み、美しくあでやかな黒髪を流している姿は絵画のようで、気を抜けば見惚れそうになる。整った顔に着けられている眼帯すら、美貌の前にはそれが正しい形のように思えてしまう。
すごい光景だ。
セシルはテーブルの上に委任状を置いており、すなわち今のカンタベリーを仕切っている人間からこの場に代わりに出てほしいと依頼されていたことが分かる。
今カンタベリーは忙しいわけだし、交渉術ならばアンタルヤの領分だ。信頼できる友人がやってほしい分野を得意としているのなら、利用しない手はないだろう。
そして、なかなか豪華なメンツで何を議題としているのか、それはこの会合を開いたチトセのみが知っていることである。
そんな彼女は、アリスさんに傭兵を傷つけてしまったことを謝罪し終わったあと、気配を消していた部下――ゼファーを呼び出し横に侍らせたうえで、話を切り出した。
「うちの諜報機関は優秀でね。アンタルヤで危険な動きがあるとの情報が入った」
アンタルヤで不穏な動きがあるなどいつものことではないか、という反応である。まあ実際、三国で唯一、十氏族による連合国という形であるがゆえ、他の家を阻害するため、出し抜くために、策謀が針目ぐされるこの国ではいつも不穏で治安が悪い。
だが、アドラー帝国はそれを知っているはず。
ゆえに、特別な何かがあるはずなのだが、そんなもの思い浮かばず。
ゆえに沈黙。
その反応を予期していたように、チトセは頷き、続きを話した。
「我が帝国も
他の氏族が足を引っ張った程度では止められんし、むしろ真正面から潰されるだけだろうさ」
ほかならぬ十氏族のひとつであるリベラ―ティの前でいうことではない。だがしかし、ここで怒鳴り散らかして話し合いをぶち壊すのは失策だとセシルは知っている。ゆえに、興味がわいた、という風に笑みを浮かべて、相手から話を引き出そうと企む。
それがとるに足らぬと判断したならば、セシルは自分の手駒で妨害工作を開始するだろう。だが手に負えないと思えば帝国と手を組み事に当たる。
……と、冷静に構えていたのだが。
「アンタルヤ最大の国、マドロックで
その一言を聞いて、大きく目を見開く。
さらにアリスさんもチトセの顔を凝視していた。
ただアッシュという男だけは少しだけ、悲しそうに目を伏せ、すぐに決意に燃える双眸をチトセへ投げた。
明らかな動揺。それもそうだろう。極晃星とは世界の王冠なのだ。一人その国にいるだけでパワーバランスが崩れかねない。それを量産したいなど、正気の沙汰ではないだろう。そもそも量産できるような安易なものでもない。
「まあ、私としても眉唾な話なのだがね。人工的に
そこで、ゼファーが少し前に進んで発言を求めた。
もちろん、誰も拒否しない。
「俺が軽く見てきた感じでは、兵器量産工場って感じだった。かつてアドラーに侵攻して来た魔星ってやつの構造と似てるから、チトセの推理はあながち間違いじゃない気もするんだが……深部に潜る前に命の危機だったもんで逃げ帰ったから仔細は不明なままだ。……本当にすまん」
「生きて帰るのが一番だと何度も伝えただろう。まずおまえが見つかるなんて異常事態が起こっているだけでも十分に警戒に値する。
私の相棒は、諜報や侵入任務ではトップクラスなんでな」
さりげない惚気のようなものを見せつけられた気もするが、ともかく実際にすでに偵察はしていたことと、
魔星、という単語が特に不穏だ。
人造惑星とも呼ばれるそれは、ヴァルゼライドがアドラーの総統に上り詰めるきっかけとなった事件、『アスクレピオスの大虐殺』を起こして以来、たびたび現れる星辰体運用兵器である。
人間の死体を素体として用い、アダマンタイトよりも上位の干渉触媒であるオリハルコンを埋め込んで作られたものは、極晃星ほどではないものの、
そんな魔星と思わしき物の製造ラインがあるだけで十分に怪しい。
「というわけでな。可能ならば速やかに、マドロックが何を企んでいるのか突き止めたい。そこで君たちだ」
つまり、リベラ―ティ家及びカンタベリー、アンタルヤの腕利き傭兵”暁の海洋”、星辰”界奏”者の力を借りたい、と。
「推論通りなら我々だけではどうにもならん。
どうか至らぬ私たちに助力してほしい」
それは言外に、チトセ・朧・アマツほどの女傑でも、アドラーほどの軍事大国でも、勝率は低いと見ているという意味をもつ。
群雄割拠のアンタルヤではまずリベラ―ティの一氏族で十氏族最大の勢力を持つマドロックに対抗などできないし、カンタベリーは今、地固めの途中。
つまり、ここで乗らなければマドロックの企ての前に敗北する可能性があるということであり。
逆に勝てば、アドラーと共に正義の名のもと、マドロックの利権をぶん捕れるかもしれない。
この時点で、選択肢など無かった。
そしてアッシュは、おそらく話を聞いた時点で腹をくくっていたから。
ここに、同盟は成る。
運命という歯車が、静かに動き始めた。
チトセがどうやって情報を手に入れたのか?
まず、自分の利益のためなら自国の情報でも売り飛ばせる優秀な諜報部隊長がいます。この方がいつもの通り「おやおやおや、なんかあるぞ?」と引っかかります。
続いてアドラーの『オトナの街』を統括している女性がマドロックの関係者を体とお酒で骨抜きにして寝物語をちゃ〜〜〜んと聞きます。
更にダメ押しと言わんばかりに我らが駄狼、ゼファーさんを商国に送り込んで情報を集めてもらいます。命からがら帰ってきた狼を自室に引きずり込み、あれやこれや労おうとしながらちゃんと聞きます。
その情報を元に半ば勘で人造極晃星を創ろうって言ってたどこかの眼鏡の協力者、優秀な理系アマツさんに話を聞きます。後はさりげなく大変優秀な平民の匠、ミリィさんに話を聞きます。
よし、怪しい。ちょっと外国にいる知り合いに呼びかけて協力を仰ごう!
的な流れがあったわけです。
アッシュくんがどうして「俺がやんなきゃ」ってなってるかは多分、片翼と「絶対裏に眼鏡みたいな糞野郎がいる。止めなければ」って話になったんじゃないですかね。
あれ、このメンツなら主人公要らなくね?