すんごい緊張する。
会議/ Calm before the storm
殺せど殺せど、湧いてくる警備兵。人数に限りはなく、いつまでも湧いてきやがる。
ゼファーが放り投げて爆散させた死体だって、血の霧以上の効果はなかった。
死した者に対して傷ついたり、怖気づくということを知らない破綻者の集団。むしろゼファーが参戦した途端に、兵士たちの士気は上がったようにすら思う。
これまでの犠牲に報いるのだ、という心が聞こえてくるかのようだ。揃った動きで全力突撃をしかけてきやがる。
振り下ろされた一撃を刀で受け止め、押し返して逆に斬り捨てる。横からの一閃を受け止め、背後から柊が貫く。柊に殺到する兵士たちを、ゼファーが斬首して動きを止める。そうして近付いてきた兵士を片付けたら、今度は全力で駆け抜ける。
質量軽量化、粒子高速噴射によって極限まで加速し、前方の脅威はあらかじめゼファーが
殺さない限りあの兵士は止まらないし、かといっていつまでも殺していてはいつの間にか包囲されて逃げられなくなってしまう。だから戦闘は最大限避けて、避けられないものは最短で片付けるしかなかった。
いくら
少しでも走るスピードを落とせば、首の真横を通る刃の音がする。横道に配備された兵士が至近距離から短機関銃を乱射する。これが、連続する。
「はあ、はあ、はあ、はあッ」
「止まるな、あと少しだッ」
だが、マドロックの敷地を飛び出せればこれは止むだろうと、私は確信していた。この兵士は明らかに普通じゃない。マドロックの技術が活かされている可能性もある。もし仮に、これが今マドロックの進めている研究成果によるものだとすれば――他家から監視されているかもしれない外に出してしまうのは、リスキーではないかと思うのだ。虎の子だからこそ、最後まで隠したいと思うはずと。
ゼファーの”あと少し”という言葉にはそういう意味が込められているはずと、私は解釈して駆け抜ける。
工場から飛び出す刹那、「止まれ」という言葉を聞いた気がした。
そして、警備兵の追撃が止まった。
かくして、私たちは命からがら、マドロックの工房を脱出することに成功したのだった。
■ ■ ■
「………ざっくりと、俺たちの任務はこんな感じだった」
場所は再び、リベラ―ティの屋敷。
その応接間で、偵察隊の隊長を担うゼファーが同盟の中心人物たちに報告を行っていた。
今この場にいるのは五名。
軍事帝国アドラー最強の剣、チトセ・朧・アマツ。
リベラ―ティ家次期当主、セシル・リベラ―ティ。
特務外交官、アシュレイ・ホライゾン。
偵察隊隊長、ゼファー・コールレイン。
偵察隊隊員として私と柊。
他のメンツは応接間の外で待機している。
全員で情報は共有すべきというのは事実だろうが、まずは今後の方針など、重要人物だけで語りつくしておくというのは組織の基本である。
まず会議をして、そこから末端へと決定事項を伝えるのだ。その方が議論は滞りなく進むというもの。全員の話を聞くというのも限界はあるのだ。
まず最初に口を開いたのは、ゼファーを雇っているチトセだった。
「報告、ご苦労。とりあえず無事生還してくれて何よりだ。別に落ち込んだりする必要はないぞ、ゼファー。何かあると掴めたこと、そして何より、鬼面の警備兵……だったか。鬼面にしてやられたことがある我々アドラーとしては十分に、警戒すべき対象だろう。
これは大きない一歩だ」
おそらく話しているのは、帝国を襲ったという悲劇……大虐殺と呼ばれる事件の話だろう。鬼面の怪物が帝都を襲撃し、大量殺戮を行ったのだとか。
……うなじが、ちりちりと痛む。
チトセの次に話し始めたのは界奏……アッシュである。
「窮地になるほど強くなる、揃った動き……となると、
本人が好むかどうかは不明ですが、天奏や閃奏に似た雰囲気を感じます。しかし、光狂いの軍隊というにはあまりに……」
第三世代型魔星というのは確か、1年前カンタベリーに現れた存在だったか。アリスさんが「うへー」って顔で話していたのを覚えている。
天奏や閃奏という
しかし、カンタベリーにいた第三世代型魔星と関わりのあるセシルは、アッシュの推理を否定した。
「……ありえないわね。アイツは個性の極みよ。そりゃ連携も出来るでしょうし軍も率いれるでしょうけど、黙って静かに敵を殺す、なんてタイプじゃないわ。
そこまで機械的なのが、心ひとつで限界を超える連中と繋がれるものかしら」
つまり、本来光狂いというのは「誰かの為に! 光の為に!」と素晴らしい言葉を叫び、雄々しくお前の犠牲は無駄にしないと誓いながら戦うものらしい。
……なにそれすごく怖い。
まあとにかく、静かに機械的に敵を排除する、という行動は基本的にイメージに合わないようで、代表者たちはすっかり首を傾げてしまっている。
私も、一応その場にいたものとして、ここにいる人たちから知識を借りつつ考えては見るものの、全くマドロックの研究が分からない。
あの警備兵の量産だとして、ではあの警備兵は何なのか。まず何がどう違うのか。隠している意味は?
全く違うとすれば、あの警備兵との関わりはあるのか。
偵察して何かが分かるどころか、むしろ警備兵なんて強力な兵器が出てきたおかげで余計に分からなくなった気までする。
「分からないならば、教えてあげようか」
背後から、声がした。
そこに立っていたのは、オレンジ色の短髪の男。黒いスーツを着こなしている。声や見た目はとても若いのに、不気味なほど”完成”していた。
なんというか、大人びているというには行き過ぎているほど達観している。
今も落ち着きを払った態度のまま、私たちの傍まで歩み寄ってきている。
セシルが信じられないというように首を横に振った。
「……外に護衛がいたはずだけど? マドロックのとこのお坊ちゃま」
「無論」
知っている、と微笑みを浮かべたまま、侵入してきた男――マドロックの嫡男だという男は信じられないことを口にした。
「大半は寝返らせた。残りは寝かせてある。
ザルな警備とは言わないが、少し相手は悪かったな」
その言葉の直後、私は相手へと飛びかかっていた。
こいつは危険だ。
どうやって寝返らせたのだとか、色々と聞きたいことはあるが、すみやかに排除せねば手遅れになる。
抜刀してから、高速の居合。相手の首を音すら置き去りにして切り落とそうとした瞬間。横から飛び蹴りが入って阻止される。
「……こいつッ」
誰かと思えば、”暁の海洋”に所属している身内だ。
虚ろな目で、自らの得物である剣を構えている。さらにマドロックの背後から続々と、私たちの護衛をしていた人たちが集まってきた。
……いや、寝かせてある、としか言われていない以上、安心など出来ないか。
すぐに柊が横に並び立ち、会議に参加したメンバーも武器を構えたものの。人数差は数十倍。おそらく、マドロック家の手駒もいるのだろう。
「俺の研究が気になるのだろう? いいとも、味わうといい。
俺は狭量でも秘密主義でもない。求められれば、示してやろう。親父からは切り札は隠せと教わっているがね」
恐れることは何もない、と。
両腕を広げ、堂々と笑って見せる。
しかも次の瞬間、私たちはさらに驚かされることになった。
「過去の因縁との対決だぞ、ベルン、マサシ。心して挑むがいいさ。
はははは、はははははははははははははははッ」
なぜ。
なぜこいつは私の名前を知っている……?
私は相手の名前も知らないというのに。
あまりの唐突さに思考が漂白され、動きが固まる。だが知らんと言わんばかりに、マドロックは言葉を続けた。
「過去からの完全なる脱却か?
過去のすべての痛みに逆襲か?
輝かしい明日に向かって勝利か?
いいぞ、貴様らどうせ運命だろうと思って放し飼いにしてやったのだ。今こそ覚醒して”勝利”を掴むがいいッッ!」
訳が分からないと思ったのでしたら、それは私の計画通りです。
詳しい説明は後々やるので、今はその疑問を忘れぬように。