【完結済】シルヴァリオ アリアンロッド   作:湯瀬 煉

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オリキャラがメインで暴れ回る回です。
ご了承ください


死闘/Solomon

「誰だよアンタは!」

 

 柊は私たち共通の疑問を投げかけながら、私の背中を押した。するとすぐさま転進して、仲間の間を走り回っていく。

 

 柊の星光はカバー寄りだ。もちろん、攻撃に用いても強力ではあるのだが、こうして他者に付属(エンチャント)して回ったほうが有効だ。そして逆に私は突撃担当。仲間のカバーなどより、積極的に戦場を乱していく。

 

 ゆえに。

 

「せりゃああああッ」

 

 星辰光(アステリズム)基準値(アベレージ)から発動値(ドライブ)へ移行。粒子を高速噴射して敵陣へと切り込み、一秒の間に二、三人を斬り捨てていく。狙うのは主に鬼面の兵士たち。顔なじみを切るのは抵抗があったし、身体能力のバフなどあることから、洗脳のような星辰光(アステリズム)で操られているのではないだろうか。

 ゆえに峰打ち。知り合いは気絶させるに留める。甘いといわれてしまうかもしれないが、身内同士で殺し合うなんてよくないと思うから。

 

 そんな私の立ち回りを、マドロックは可笑しそうに眺めていた。

 

「どうして加減なんかしてるんだ? ああつまり、後で治せやしないかと思っているわけか?

 ははは、可愛いな、相変わらず優しいじゃないか。なに、おまえならその星光を当ててやるだけでなんとかできるはずだろう。そういう能力じゃないか。

 ……その様子じゃ、自分の能力も覚えていないのか。こりゃ困ったな。育ての親である俺のことも忘れているらしいし、ここはひとつ、()()しておくべきか」

 

 そう言ったマドロックが私を指さすと、兵士たちは他に目もくれず一目散に私へと突撃して来た。

 

 やはり想像通り。こいつの能力は洗脳。自分の意のままに他人を動かす力なんだろう。

 刀を再び力強く握り、今度は奴の言う通り星の力も浴びせてみようと思考を巡らせた刹那。

 

超新星(Metalnova)――無窮たる星女神、掲げよ正義の天秤を(Libra of the Astrea)!」

 

 疾風が吹き荒れて、私の周りにいた兵士たちを吹き飛ばした。風の発生地点を見れば、アドラーの決戦兵器、チトセが己の得物をマドロックへと向けて笑っていた。

 

「ひどいじゃないか、御曹司殿。最初に貴殿に目を付けたのは私達だぞ。

 それを放って……彼女らとの関係含めて洗いざらい吐いてもらおうかァッ!」

 

 セリフの終盤はもはや聞こえなかった。裁剣(アストレア)の異名を持つ女傑が戦場を駆け抜け、刀を振りぬくと、刀身が複数の小さな刃へと分かれ、ムチのようにしなりながら軌道上の敵を一掃していく。俗にいう蛇腹剣。扱いは相当難しいはずだが、彼女はまるで己の手足のように自在に振り回していた。

 

 だが鬼面の兵は格別だ。自由自在に飛び回る蛇腹の刃を(かわ)し、受け流しながら接敵し、己の得物である光刃を振り下ろす。

 だが。

 

「───させるかよ」

 

 ゼファーが素早く兵士の背後に回り込み、手首を掴んで攻撃を阻止した上で首を刈り取った。

 チトセが広範囲に攻撃を届かせ、殲滅(せんめつ)すれば、ゼファーはその取りこぼしを確実に、かつ相手の意識外から暗殺する。

 二人のコンビネーションは完璧だった。万能型と一点特化型のコンビは、互いの弱点を互いに補いながら効果的に敵軍を削っていく。

 

 だが。

 しかし。

 マドロックの手駒は尽きることを知らない。

 

「ベルン、セシルは俺が守るよ。君は攻撃に回ってくれ」

「了解ッ」

 

 やさしく肩を叩かれ振り向けば、アッシュがセシルの手を引いてマドロックとは反対側の壁へと走っていた。あいつも普段一緒にいるやつらと離れているだろうに、戦闘の用意をしていなかったセシルの方へと気を遣っている。そのことに感謝しつつ頷くと、入れ替わるように柊が飛んできた。

 

「行くぞ、ベルン。何だか知らんが、アイツぶちのめせばたぶん分かるだろ、たぶん!」

「おう!」

 

 そうしてチトセの攻撃とゼファーを追い抜いて再び前線へと駆ける。自分が側を通ると周囲の攻撃が少しだけ穏やかになるゆえ、被弾の心配はしていない。

 その辺の理屈も分かっていないが、目の前にいるこいつを叩けば分かることだろう。

 

 そして同時に。

 

「──俺たちの雇用主(しんゆう)に、何をしてやがる」

 

 マドロックの背後から、声が聞こえた。

 

 セシルの護衛──ラグナとミサキの気配がそこにある。

 

「なッ───」

 

 何が起こったかは不明。だがマドロックはこちら目掛けて吹っ飛んできた。

 ならば好機だ。必ず仕留める。

 

 駆け出した私たちに、マドロックは何故か笑顔を向けていて。

 

 指が鳴らされた瞬間───

 

 

 

 

 ぼんっ

 

 

 

 

 可愛い音と共に、隣を走る柊の胸に風穴が空いた。

 

「は…………?」

 

 理解ができない。思考とともに足が止まった瞬間に、マドロックは真正面から私の顔面を殴り飛ばす。無様にまともにそれを食らった私は数メートルにおよび吹き飛び、部屋の端に激突して止まった。

 

 悔しいし、立たねばと思うが、しかし脳内はそれどころでは無かった。

 

 氾濫する記憶。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なん、だ………これッ」

 

 視界が霞む。意識が押し流される。

 ただ胸だけは軋むように傷んで。チリチリとうなじが痛む。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ように。存在しないはずの記憶が駆け巡り、一年ぽっちのアリスさんとの、柊との、“暁の海洋”での日々が置き去りにされていく感覚。

 

「創生せよ、天に描いた星辰を──我らは(きら)めく流れ星」

 

 淡々と、マドロックの詠唱が開始された。

 

 

 

 ■ ■ ■

 マドロックは求めた女の顔面を殴り飛ばした瞬間、自分の勝利を確信した。

 未来は確定した。これで己の勝ちだ、と。

 

「神を仰ぐ、愛すべき我らが民よ。

 無限の希望と絶望と共に歩む人間よ。

 神の時代は今、始まった。

 

 我が声を聞け。其は未来を照らすもの。

 我が道を見よ。其は勝利を約束するもの。

 共に生き、共に栄えるというならば、我が手を取るがいい。

 

 いざ、七十二の眷属よ。

 人を愛し、世を愛し、王に従属するならば、俺に力を貸してくれ。

 

 我ら、明日の勝利を目指し、進撃するのだ

 

 そもそも、ベルン・アリアンロッドと、マサシ・柊・アマツに接触出来た時点で、マドロック側の計画は八割成功している。

 

 マドロック家次期当主──カルラ・マドロックは、勝利を確信した上で、想像以上の抵抗を見せたことに感心していた。

 柊、ベルンの二人は計画外の存在だった。ゆえ、彼らを起点に運命が動くだろう、と直感的に理解していた。だがそれでも。

 アドラー帝国が動き、他の十氏族が動き、界奏が動いた。想像以上に敵は手強い。

 

 だから幸運だった。まさか、あんなに都合よく()()()まで吹き飛ばしてくれる存在がいるとは。

 

 終焉吼竜(ニーズホッグ)だったか。

 去年あたりカンタベリーへと居を移したらしいとは聞いていたが、彼もまた、何かあるのだろう。

 

 だが、それでも。

 ベルン・アリアンロッドに触れられた時点で、勝利は確定した。

 

 カルラ・マドロックは勝者で揺るがない。

 

超新星(Metalnova)───

 

 王者の資格、其は全知全能なり(Revenant Solomon)

 

 彼の星辰光(アステリズム)は『残留思念解読・転写』能力。物体に残った意思の解析や、意志の転写を可能とする能力である。

 

 自分の思想を他人に転写することも可能であり、カルラはこの能力を用いて無数の軍勢の意思統制をしているわけだが、もちろん万能ではない。

 

 この能力は「他人を全くの別人にする」という使い方がメインである。他人の表層意識を別の人間の意識で塗りつぶし、駒として使う。対象の耐性次第だが、星辰奏者(エスペラント)を作ることも可能だ。

 

 だが、星辰奏者(エスペラント)は勝手が違う。

 星辰光(アステリズム)という形で自我を知っている人間は、他人の思想を流し込んでもブレたりはしない。更にいえば一人につき一つまでしか星辰光(アステリズム)が持てないゆえ、精々が短期間の失神だろう。

 

 ゆえに能力を使う対象は、非星辰奏者(エスペラント)か、一度星辰奏者(エスペラント)に変えた者のみに限る。

 

「ベルン・アリアンロッド、()調()()完了」

 

 これの意味することは、つまり───。

 

 

 真相は闇の中。マドロックの貫手にて心臓を貫かれ、ベルンは意識を完全に失った。

 

 

 これより二人に待ち受けるのは冥府巡り。忘却した過去の傷と戦う運命である。




バドエン? いいえ、違いますとも。
いよいよ、色々わかる、はず。

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