もしもトレセン学園が男女共学だったら   作:アシスト

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コミュ障と皇帝1

 

 

 トレセン学園。正式名"日本ウマ娘トレーニングセンター学園"。全国から集められたトップレベルのウマ娘たちが夢の舞台『トゥインクル・シリーズ』を目指すための場所。いわば、ウマ娘のための創設された中高一貫学校……だった。

 

 6年前、ここの理事長は何を思ったのか、トレセンを男女共学化することをマスコミに発表した。正確には、人間、ウマ娘問わず受験可能な"トレーナー学科"をトレセンに導入したのだ。トレーナー学科では、高校普通科と同等の座学授業を必修とし、トレーナーになるために必須な知識を実際のトレーナーとウマ娘から学ぶことができる。

 

 トレーナーを志す者には夢のような学園。だが、入学するのは至難。入学定員数は少なくないが入学志願者が多すぎて、倍率がその辺と一般高等学校とは桁違いなのだ。合格するには相応の熱意と努力が必要である。

 

 俺はトレーナー業には興味はなかったが、ウマ娘は好きだった。だって可愛いしカッコいいから。だからトレセンへの受験を決めた。俺みたいな考えでトレセンを受験する奴は珍しくない、受かる受からないかは別として。

 

 けど俺は努力した。ウマ娘と一緒に青色の高校生活を謳歌したい一心で、文字通り血の滲む努力を重ね続け、そして、合格の座を手にすることができた。あの時の腱鞘炎も今思えば名誉の負傷だ。

 

 競争ウマ娘を目指す"普通科"と俺たちの"トレーナー学科"は一緒のクラスになる。お互いの専攻授業の時だけは別々になるが、共通の座学はクラス単位で授業が行われる。最初から別々のクラスに分かれていた方が都合が良くない?と思わなくもないが、個人的には好都合。

 

 夢にまでに見たウマ娘だらけの高校生活。ウマ娘ちゃんたちとキャッキャウフフな青春を過ごしたい。あわよくば、美人で可憐なウマ娘ちゃんとお付き合いしたい、いや、してみせると心に決めて俺はあの日、トレセン学園の門を潜った。

 

 

 そして、特に何もなく一年が過ぎた。

 

 

 ………ちゃうねん。座学は努力でどうにかなるけどさ、コミュニケーション能力は努力じゃどうにもならなかったんだって。別に俺みたいな奴は珍しくない……珍しくないよな? なっ?

 

 べ、別に友達がいないわけじゃない。片手で数えられるぐらいだが、男友達はいる。二年生に上がってみんな違うクラスになっちゃったけど。

 新しいクラスの友達? 言わなきゃわからないかな?

 

 同性に声をかけるのも厳しいコミュ障の俺が、女の子に、ましてや容姿端麗なウマ娘に声をかけるなど夢のまた夢。せっかくトレセンに入学できたのに、これでは意味がない。

 

 俺は机にうつ伏して頭を抱える。一体どうすればコミュ障は治る?いったいどうすれば女の子に話を掛けられる? 小学生の頃の俺はどうやって自然に女の子と話をしていた??

 

 そもそもだ。可愛い女の子に声をかけるってハードル高くない? こう、下心とか読まれたりしない? ウマ娘って唯でさえ外見偏差値高いし、そういう視線にも敏感なんじゃないの? 下手にきょどった状態で声かけたら『うわコイツ私の絶対領域めっちゃチラ見してくるんですけど。キッモ…』とか内心思われたりしないだろうか?

 

 ネガティブが過ぎると言われればそこまでだが、そう考えてしまうのがコミュ障なのだから仕方ない。

 諦めるしかないのだろうか……いっそ学生の内は真面目に勉強して、トレーナーになってからウマ娘ちゃんたちと青春を……いや駄目だ。大人と女子学生の恋愛が許されるのは創作物(フィクション)の中だけ、現実でバレたら刑務所へ直線一気だ。逮捕歴を作るのは流石に避けたい。

 

 くっそう……いったいどうすればいいんだ………。

 

 

 

「———君、大丈夫か?」

 

 

 不意に、聞き覚えのある声が俺の耳に届いた。

 それが俺にかけられた言葉であるのがわかったのは、同時に肩を軽く叩かれたからだ。

 

 顔を上げると、そこには一人のウマ娘がいた。窓から射す茜色の日差しに照らされた彼女は、今まで見たウマ娘の中でも一番に美しかった。

 

 その美しさに言葉も出ず、俺は数秒間見惚れた。彼女はなかなか返答しない俺の様子を見かねて、再度口を開く。

 

「驚かして済まない。こんな時間に教室で一人、頭を抱えて湛然不動(たんぜんふどう)としていたからね。体調が優れないのかと思って声を掛けた次第だ」

 

 そう言われて教室の時計を見ると、既に下校時間を大幅に過ぎていた。通りで夕焼けが綺麗なわけだ。

 

 そしてハッと我に返る。いや、何を惚けているんだ俺は。話掛けられてるんだからちゃんと話し返さなければ失礼だろう。と言うか、相手は失礼なんてあってはいけないほどのお偉いさんだ。コミュ障とか言ってる場合じゃない、しっかりしろ俺。

 

「あっ、いや……だ、だいじょ、ちょっ考え事……して」

 

 しかし、俺の思いに反して、言葉が上手く出ない。

 下が上手く回らないし、めっちゃ早口。顔に熱が帯びているのもわかる。コミュ障もだが、このあがり症もどうやったら治せるのか。

 

「ふむ、 少し顔が赤いかな。少々失礼するよ」

 

 彼女の右の掌が、俺の額に触れる。

 

 ふぁああ!??と変な声を出さなかった自分を褒めてやりたい。こんなことをされてはもっと顔が赤くなってしまうし動悸も激しくなってしまう……そう思ったのだが、不思議と気持ちは落ち着いた。彼女の掌が冷たくて、少し頭が冷えたからかもしれない。動悸の方は限界の彼方その先へ行ってしまっているが。

 

「やはり、少し熱っぽいようだ。辛いようなら保健室へ連れて」

 

「だっだだ、大丈夫です! ここメッチャ日当たり良くて! メッチャ日に当たってたので顔もメッチャ熱くなってるだけです! 気にせんといてください!!」

 

「そ、そうか? 確かに、そこまで意気軒高ならば大丈夫かな」

 

 早口の方はもう諦め、活舌を良く話すことに全集中して舌を回す。少し引かれたが、納得してくれたようだ。

 

 彼女の掌が額から離れる。もうちょっと触れていてほしかったなぁ……とかバ鹿なこと思っちゃいけない。これ以上望んだら罰が当たる。

 

「ふぅーっ……。すみません、ご迷惑をおかけして。少し考え事をしていただけなので大丈夫です。時間も時間ですし、すぐに帰ります」

 

 俺は口早にそう言ってリュックを背負う。

 トレセンは全寮制。もちろん男子寮と女子寮は分かれている。女子は元からあるウマ娘の寮に、男子は新設された男子寮に入ることが義務付けられている。一応、例外もあるらしいが。

 

 と言うことで、門限を過ぎる前にさっさと帰ろう。これ以上このお方とお話していたら俺の心臓が持たない。またとないチャンスかもしれないが、このコミュ障がここまでウマ娘とお話しできただけで奇跡。高望みしてはいけないし、そもそも向こうも忙しい身だ。一生徒に時間をかけている暇もないだろう。

 

「では自分はこれで。お仕事頑張ってください。お疲れさまでした」

「ちょっと待ってほしい」

 

 教室から出ようとした瞬間、ガッと手首をつかまれ引き止められる。

 

 やめて! これ以上はマジで心臓が持たない! というかボディタッチが多すぎる! これ以上は勘違いしちゃいます!……なんて思春期の男子みたいなこと言えるわけもなく、俺は平常心を必死で保って振り返る。

 

「一期一会。ここで会ったのも何かの縁だろう。存じているかもしれないが、自己紹介させてほしい」

 

 そう言うと、彼女は軽く咳払いする。

 そして、俺の目を真っ直ぐ見つめて、その名を口にした。

 

 

「私はシンボリルドルフ。君の名前を教えてくれないか?」

 

 

 

 

 

 

*————————*

 

 

 

 

 

「………」

 

「おう、帰ったか後輩。……ってどうしたお前。なんでそんな真顔なんだ」

 

 寮に戻ると、ルームメイトである先輩が、スマホから目を離して声をかけてくれた。こんなコミュ障にも気軽に声をかけてくれるとても面倒見の良い先輩である。

 

 寮の部屋は2人で一部屋。学年が上がるタイミングで相方が卒業したり、家庭の事情による退寮によって、部屋そのものを移動したりルームメイトが変わることもあるが、俺は昨年度に引き続き先輩と一緒の部屋である。

 

「………」

 

「何だ何だ? もしかして、そのコミュ障でまた何かやらかしたのか? しかたねぇなぁ、先輩が話を聞いてやんよ。で、何があった?」

 

「………会長と」

 

「あん?」

 

「会長と、ウマライン交換した」

 

「………あぁん?」

 

 

 

 

*————————*

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「……会長。何か良い事でもありましたか?」

 

「おっと、顔に出てしまっていたかな」

 

「いえ。耳に出てしまっています」

 

 生徒会室、書類業務をしていたシンボリルドルフの耳はピコピコと動いていた。嬉しいことがありました!と言わんばかりの動きっぷりに、思わずエアグルーヴは声をかけた。

 

「良い事……うん、君の言う通りだエアグルーヴ。今日はとても良いことがあった。こんなにも嬉しく思うのは久しぶりかな」

「そ、そんなにですか」

 

 エアグルーヴは驚いた。ルドルフの顔が今まで見たことないぐらいニヤニヤと微笑みをこぼしているからだ。レースに勝った時とはまた違う喜びの表情に、彼女は少し困惑した。

 

 聞くか聞かないかエアグルーヴは迷ったが、好奇心が勝った。彼女はルドルフに詳細を聞くことにした。

 

「失礼でなければ、何があったかお聞きしてもいいでしょうか?」

「もちろん構わないよ。隠す程のことでもないからね」

 

 ルドルフは一度ペンを置き、制服のポケットからスマホを取り出す。そして、とある画面を映し出して、エアグルーヴに見せつける。

 

「見てくれエアグルーヴ! 彼とウマラインを交換したんだ!」

 

 ルドルフが見せつけてきたのは、チャットアプリ"ウマライン"の友達一覧画面。ズラッと並ぶ名前の中に、エアグルーヴはルドルフの言う"彼"の名前を見つけた。

 

 エアグルーヴはその名前を知っていた。それは半年ほど前から、ルドルフから耳に胼胝(たこ)ができるほど聞かされてきた名前であった。

 

「二年の教室をたまたま見回りしていたら、なんと彼がいたんだ! 満身是胆(まんしんしたん)の思いで声をかけてみたのだが、これが功を奏した! 」

 

 エアグルーヴは直感した。

 絶対にたまたまではない。彼に会うために見回りに行ったに違いない、と。

 

 ルドルフと彼の間に何があったかまではエアグルーヴも知らない。だが、ルドルフが彼にゾッコンなのは嫌と言うほど知っていた。彼の話を聞くたびに「では声かけてみては?」「いや、恥ずかしくてそれは……」というやり取りを何百回もしていた。

 

 "ようやくか"。彼女の感想はこれに尽きた。

 

「……それはおめでとうございます。遂に念願叶いましたね」

 

「ありがとう。しかし、いきなりウマラインの交換をお願いしたのは、少しばかり猪突猛進な行動だっただろうか。エアグルーヴ、私の好感の気持ちは彼にバレてしまったと思うか?」

 

「好感? いえ、 ウマラインを交換(・・)したぐらいで好感(・・)がバレるとは……ハッ」

 

「………ふふっ」

 

 特に意味のないダジャレがエアグルーヴを襲う。

 

 耳がペタンをなるエアグルーヴを尻目に、ルドルフは彼とのトーク画面を眺めて呟く。

 

「だが、喜ぶのはまだ早いだろう。私は今、スタートラインに立ったばかりなのだから。彼とこれからどう接していくか。そして、私の想いをどのように伝えるか……考えるだけでも胸が躍って仕方ないが、この熱く重い感情だけは抑えなくてはな」

 

 ルドルフはトレセン学園の生徒会長として、トレセンが男女共学化を行った本当の理由(・・・・・)を知っている。故に、彼女は全ウマ娘の見本となる生徒会長として、彼と健全かつ模範的な恋仲になることを夢見る。

 

 そう、夢見るのだ。彼と共に手をつないでお出かけしたり、一緒にご飯を食べたり、一緒に寄り添って眠ったり、甘く触れる程度のキスをしたり……彼の同意のもと行えるギリギリ健全の範疇に入ることを、夢見る。決して、相手の意思を踏みにじったり、同意なくそう言った行為をしてはならない。

 

 何故なら、自分はウマ娘で、彼は人間だから。

 

 

「………我慢、できるだろうか」

 

 

 ルドルフは自信なくそう呟くのだった。

 





的なラブコメが読みたいです。
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