もしもトレセン学園が男女共学だったら   作:アシスト

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コミュ障と皇帝2

 

 

 

@シンボリルドルフ

>おはよう! 昨日はよく眠れたかな?

>今日は春寒料峭の一日になるそうだ。互いに体調管理には気を付けよう。

>では良い一日を。今日も君と出会えることを楽しみにしているよ。

 

 

 

 

「…………マジ?」

 

 朝6時、スマホから発せられたウマラインの通知音で目が覚めた。内容はご覧の通りであり、見た瞬間、二度寝の態勢に入りかけていた俺の脳は完全に目覚めた。

 

 同時に俺は理解した。

 昨日のあれは、夢の中での出来事ではなかったことを。

 

 今でも信じられない。あの"皇帝"シンボリルドルフ会長に声を掛けられ、しかもウマラインを交換したことを。あれが現実であることは、10人にも満たない俺のウマライン友達一覧の中にある"シンボリルドルフ"の一行が証明している。しかもたった今、その本人から挨拶のメッセージがトーク画面に届いた。

 

 メッセージを何度も読み返す。挨拶にしては中々に刺激の強い内容だ。特に最後の一行。中学生時代の俺なら間違いなく『俺に気があるのでは!?』と浅はかな勘違いして舞い上がっただろう。しかし、今の俺は"社交辞令"という言葉を知る高校生。身の程は弁えている。

 

 さて、ここで一つ問題がある。

 会長の挨拶にどう返信するか、だ。

 

 既読スルーなど言語道断。挨拶をされたら返すのは古事記にも載っているほどの常識。深く考えず、相手を不快にさせないような無難な挨拶を返せばいいのはわかっているが、俺はコミュ障。この手の事に関して深く考えずにはいられない。

 

 ……無難な挨拶って、どんなだ??

 

「んー……よぅ後輩。朝っぱらから何スマホとにらめっこしてんだ?」

 

「あっ、おはようございます先輩。随分お早い起床ですね」

 

「何言ってんだ。いつも通りの起床時間だぞ」

 

「え゛ッ」

 

 向かい側のベッドで欠伸をしながら起き上がる先輩にそう言われ、急いでスマホの右上を確認する。時間は7時を過ぎていた。返信内容に頭を悩ませていたら、いつの間にか一時間も経っていたらしい。

 

 やべぇ。俺は通知が来てすぐにトーク画面を開いたから、会長側からしたら一時間既読スルーされていることになる。皇帝様にして許される失礼じゃない。

 

 い、いや。いやいや。冷静に考えろ俺。この挨拶は社交辞令で、そもそも、俺だけに挨拶のメッセージを送ってきたとは到底思えない。会長からしたら、俺は数多くいるトレセン学園の一生徒。いくら昨日知り合ったばかりの仲とは言え、そこまで俺に気にかけてくれていると思えない。それこそ自惚れだ。

 

 ならば焦る必要はない。そう自分に言い聞かせ、先輩の助言も借りつつ、俺は会長に無難な挨拶のメッセージを返した。即既読が付いたのは偶然だろう。

 

 

 

*————————*

 

 

 

「朝早くから感謝するよヒシアマゾン。おかげで納得のいくモノが出来上がった」

「お安い御用だよ会長さん。この手のお願いならいつでも大歓迎さ!」

 

 時同じく、美浦寮のキッチンスペース。そこにはエプロンとバンダナを身に纏った2人のウマ娘が仲良くお弁当を作っていた。"皇帝"シンボリルドルフと"女傑"ヒシアマゾンである。

 

 ルドルフは美浦寮の寮長でもあるヒシアマゾンに頭を下げ、見栄えの良いお弁当を一緒に作ってもらっていた。

 

「でもアンタ、自分の弁当は毎日作ってるんだろう?別にアタシに頼まなくても良いモノ作れたんじゃないかい?」

 

「………ん、ああ。それは買い被り過ぎだよ。確かに毎日作ってはいるが、生憎私のお弁当は茶色いんだ。異性に見せられるようなものじゃない。ましては……ね」

 

「かー、お熱いこったねぇ」

 

 口止めこそすれど、ルドルフは彼に好意を向けていることを周りに隠さない。その方が都合の良いことが多いと考えているからだ。現にヒシアマゾンはルドルフの意図を察して、こうして手を貸してくれている。ルドルフのウマ娘徳(じんとく)のなせる業でもあった。

 

 ルドルフは彩り豊かな2人分の弁当をにんじん柄の手ぬぐいで丁寧に包み、なるべく揺らさないよう慎重に鞄へしまう。言うまでもないが、彼女はお昼に彼を誘おうとしている。ウマラインのメッセージは社交辞令でも何でもなく、彼女の本心であった。

 

「よっし、アタシはウインディたちの弁当も作ってやらないとね。 会長さんはもう行くのかい?」 

 

「………ん、いや、まだ時間に余裕はある。お礼と言っては何だが、君のお弁当作りを手伝わせてもらえないかな。君の料理の腕が冠前絶後(かんぜんぜつご)なのは理解しているが、一人より二人の方が効率よくできることもあるだろう」

 

「そりゃありがたい申し出だ、ぜひお願いするよ! ……ところで、さっきから何をそわそわしてるんだい? やたらスマホを見てるけど」

 

「ああ、実は……」

 

 ルドルフがそう言いかけると同時に、彼女のスマホからウマラインの通知音が響く。ルドルフは瞬時にウマラインを開いてメッセージを確認すると、彼女の凛とした表情は一瞬で瓦解し、とろけた。

 

 その顔は生徒会長のそれではなく、恋に恋する一人の乙女であった。

 

「……恋は女を変える魔法ってのは本当なんだねぇ」

 

 そんなルドルフの様子を見て、ヒシアマゾンは以前フジキセキから聞いた言葉を思わず口にする。

 

「君も恋をすれば私の気持ちもわかるさ。ヒシアマゾンは"何かを感じた相手"と出会ったことはないのかい?」

 

「あったら今頃アタシも、アンタとおんなじような顔をしてるさ。想像もつかないけどね」

 

 "何かを感じた相手"、それはウマ娘の間で使われる隠語であり、人間で言うところの"気になる異性"である。その"何か"が恋心であることを理解したその時、ウマ娘はその相手と添い遂げるため死力を尽くす。それは、ウマ娘が子孫を残すための生存本能の一つでもある。

 

 ウマ娘にとって、"何かを感じた相手"はトレーナーであることがほとんどであった。正確には"何かを感じた"から、トレーナーとして選ぶことが多かった。そこから長い年月をかけて、その"何か"が恋心であることを自覚するのが当たり前だった。

 

 しかし、トレセン学園の男女共学化により、ルドルフの様に生徒同士での校内恋愛も増え始めている。全て理事長の思惑通りだが、風紀の乱れにより風紀委員の忙しさが倍増したのは別の話である。

 

「しっかし手作り弁当とはねぇ。知らない間に随分と仲が進展してるじゃないか。実はもう付き合ってたりするのかい?」

 

「ふふ、残念ながら君が想像しているような仲ではまだないよ。私は皆が思うより恋愛事には臆病でね。恥ずかしながら、彼とは昨日初めて話したばかりだ」

 

「へぇ。昨日初めて……ええっ!?」

 

 ヒシアマゾン、驚愕。

 手作りお弁当を持って行って一緒に食べるのは、少なくとも友達以上の間柄でやることだと彼女は思っていた。それをルドルフは昨日初めて話した相手とやろうとしている。掛かり気味というレベルではなく、追込で走っていたと思ったら逃げのスピードで走っていたレベルの大事故である。

 

「ん? 何か変なことを言ったかな?」

 

 しかし、ルドルフはそのことに何の疑問も覚えていない様子だった。周りには一切目もくれず、(ゴール)だけを見て走っているようだった。そんなルドルフの瞳に、ヒシアマゾンは軽い恐怖を覚えた。

 

「い、いいや、なんでもないさ。アンタたちの仲、アタシは陰ながら応援させてもらうことにするよ」

「そうか。ありがとうヒシアマゾン」

 

 私も恋をしたらこうなっちまうのかねぇ…とヒシアマゾンは苦笑う。その思いをルドルフに悟られないよう、彼女はウインディたちのお弁当作りを再開するのだった。

 

 

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