【完結済】MASKED GUITER HERO ぼっちちゃん   作:リチウム

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 もしも、いきなりギターヒーローバレしていたら。
 もしも、いきなり100%中の100%を発揮してしまったら。
 もしも、それでもコミュ障のままだったら。

 そういった前提のもと、この二次創作は書かれています。


1. リライト

 深夜、自宅の押し入れにて悲しげにギターを掻き鳴らす少女が一人。

 

 後藤ひとり、高校一年生。

 趣味、ギター。

 特技、ギターと歌と動画投稿。

 友達、0人。

 性格、根暗コミュ障。

 

 今日も今日とて日課の練習をこなし、Oh!Tubeに上げる動画を編集し終えたところである。

 

 

 人様の前で演奏できるように毎日6時間演奏し続けた結果~~♫

 いつの間にか中学終わってた~~♫

 

 ソロでライブしてトチった~、「「「文化祭」」」

 集められなかった~、「「「バンドメンバー」」」

 最後の半年、引きこもってた、「「「中学校」」」

 

 高校こそは……

 

 高校になったら絶゛対゛ハ゛ン゛ト゛や゛る゛ん゛た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~~

 

 

 と、決意して始まった高校生活も早一ヶ月。

 心の拠り所はギターだけ……

 引きこもり再発……、手前、です~♫

 

 

 作詞・作曲、わたし。

 押し入れより愛をこめて。

 

 って、真夜中にクソみたいなオリジナル曲でご近所トラブル起こす前に、人気バンドのカバー動画アップしなきゃ……

 

 お父さんのススメでギターヒーロー名義で()()()の動画上げだして結構立つけど……

 この前の動画、もうこんなにコメントついてる……

 

 最近は再生数も安定して2桁万回るようになってるし……

 そうだよ、現実が辛くても大丈夫。

 ネットにはわたしに反応してくれる人がたくさんいるもん……

 ここにはわたしと同じ、根暗コミュ障が溢れて……

 

 かおぴん 1時間前

 この曲、バンド組んで文化祭で弾きました! 

 全校生徒全員盛り上がりました! 

 

「ぐぅぅっ」

 

 全文が目に入る前にノートPCを慌てて閉じる。

 危なかった、あと少し遅れていれば死人がでていたに違いない。

 これだからネットは油断ならない。*1

 

 

 ふと冷静になり、文化祭の単語から中学校の思い出を手繰る。

 

 

 わたしだって努力はした。

 

 CD持っていって机に置いたり……

 バンドグッズ持ってアピールしたり……

 お昼のリクエストソングで当時はまってたデスメタル流して……

 

 

「うがぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!! 

 フラッシュバックがぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」

 

「しかも……、その挙げ句、文化祭後に……!! ぐぅぅぅ……」

 

 押し入れの中をのたうち回る。

()()()()()()()()()()()()()()()()せいか、その様は緊急搬送された患者のそれにしか見えなかった。

 もしも、押し入れにギターボーカル対策の遮音シートが一面に貼り付けてなければ家中に響いていたかもしれない。

 

 一通りのたうち回ったあと、ひとりは押し入れからのそりと出た。

 姿見の前に立ち、顔の包帯を外す。

 

 その下には痣も傷跡もまったくない、うつむきがちで前髪に目元が隠れたいつもの後藤ひとりの姿があった。

 

「本当にバンドなんて組めるのかな」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 ひとりは着ていたバンドのTシャツを脱ぎ捨て、寝間着に着替えてそのまま眠った。

 願わくば、明日の自分がいい案を出してくれますようにと思いながら。

 

 

 

 ◆ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 翌朝、ひとりは近年稀に見る自信を振りまきながら登校していた。

 

 腕には複数のバンドのリストバンド。

 トートバッグには大量のバンドの缶バッジ。

 背中にはいつもは持っていかないギター。

 ジャージの下はイカした*2バンドTシャツも装備。

 

 正しくフルアーマー後藤! 

 これこそが今朝方イヤに早く目覚めながら動画のヨイショコメントで心を癒やしつつ考えた名案である。

 

 中学校のときは中途半端に段階を踏もうとしたのがいけなかったのだ。

 教室の隅の透明人間が話しかけられるほどの存在感を出すにはもっと振り切らなければいけなかった。

 

 それに比べ、今の自分はどうだ。

 もうどこからどう見てもいかにもバンド女子である。

 高校で1ヶ月存在感消えてる陰キャでも印象が360°変わること間違いなしだ。*3

 登校中の店のガラスにチラと写った自分の存在感よ! 

 

 そうして教室の前に着き、ジャージの前を開けてTシャツを全面に押し出して準備万端。

 これはもう、絶対に誰か話しかけてくれるはず! 

 今年の文化祭こそは、バンドが組める!! 

 

 期待に胸を膨らませ、教室のドアを開ける。

 

 

 

 ドアに集まる視線。

 そこにいるなんかヤバイ格好の女が一人。

 一瞬の沈黙。

 

 ……クラスメイトたちは見なかったことにした。

 

 

 しかし、ひとりは違うように受け取った。

 普段なら一瞬とは言えこんな多人数の視線を受けようものなら夏場のアイスのごとく溶かされていただろうが、今日は目立つことを意図したファッションである。

 つまり、作戦は成功したのだ! 

 最早勝ったも同然! 

 

 自席に着き、ダメ押しとまでに音楽雑誌を開くひとりの脳内は近年稀に見るポジティブさであった。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 放課後、ひとりは公園のブランコで揺られていた。

 日が傾く時間帯、ブランコに差す影は一日で荒んだひとりの心を落ち着かせる。

 

 

 いや、理解ってますよ。

 他力本願でうまくいくはずないって。

 

 

 ちらりと公園のベンチに目をやれば、俯いた中年男性が一人。

 

 

 ここにいる人達はわたしと同じ孤独を抱えているんだ……

 わたしと同じ「パパ!」えっ……

 

 駆け寄ってくる幼女、微笑みながら歩いてくる妻。

 朗らかな会話、暖かな光景。

 絵に書いたような家族団欒! 

 

 すいません、勝手にわたしと同じとか言って……

 

 

 結果さらに荒んだ心を癒やすべく、自身のチャンネルを開く。

 

「あっ、登録者数30万超えてる……」

 

 うん、そうだよ。

 わたしの居場所はネットだけ。

 

 ……もう、学校行きたくないな。

 

 

 

「あっ! ギター!!!」

 

 

 

 突如見知らぬ少女がひとりに駆け寄る。

 

「それギターだよね、弾けるの?」

「おぉっ……、おぁっ……」

「? おーい?」

 

 少女はなにやら身振り、手振りでひとりの意識を確認しようとする。

 もっとも、ひとりは意識がないのではなく、単にとっさに喋れないだけだが。

 

「いきなりごめんね。

 あたし、下北沢高校二年、伊地知虹夏」

「あっ、後藤ひとり、秀華高校一年です」

「ちなみにひとりちゃんはさ」(いきなり名前呼び!)

「ギターどのぐらい弾ける?」

「あっ、そこそこ、かと……」

「そっか! あのさ、今困ってて、無理だったら大丈夫なんだけど……、大丈夫なんだけど、困ってて……」(絶対だいじょばないやつ!!)

「うん! 思い切って言っちゃおう! 

 お願い! あたしのバンドで今日だけサポートギターしてくれないかなぁ!」(バンド?)

「これからライブなのに、ギターの子が突然辞めちゃって!」

「ある程度弾ける人ならすぐできる曲だから! なにとぞ~」(これから!? ライブ!? あええぇぇぇぇ!?)

「ありがとーう! 早速ライブハウスへGO!」(まだ何も言ってない!)

 

 虹夏はひとりの腕をつかむと、善は急げとばかりに引きずり回す。

 向かうは下北沢、今日のライブ会場、STARRYだ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 来てしまった……

 

 下北沢、それはサブカルの街。

 古着屋や劇場、ライブハウスにレコードショップ。

 おしゃれなカフェー、よくわからないアートな物がいっぱい。

 

 陰キャには縁遠い街……

 

「ひとりちゃんは下北はよく来る?」

「あっ……、いや……」(こんな個性みなぎるおしゃれタウンに来れるわけない……)

「ライブハウス、もうちょいだから」

 

 虹夏は道の真ん中を元気よく歩いて行く。

 RPGの毒状態のように一歩ごとにHPが削れてる自分とは大違いだ。

 毒消し草(陰キャが治るもの)、売ってないかな……

 

 虹夏ちゃんおしゃれだなぁ……、これこそバンド女子って感じ。

 それに比べてわたしはイモジャージだし、クマすごいし猫背だし……

 あっ、わたしカビ臭いかも、いつも押し入れにいるから……

 いや、防虫剤と遮音シートのゴムっぽい感じ……

 人間の匂いですか? これが……

 

 それに引き換え虹夏ちゃんめっちゃいい匂い……

 本来あるべき女子高生の香りだぁ~

 

「歩くペース速い?」

「い……、いえ……」

 

 とっさに目をそらしてしまったのは、向こうのキラキラオーラだけが原因じゃないはず。

 というか、初対面で匂いを嗅ぐって、冷静に考えたらヤバいのでは? 

 

「今日出演するライブハウスはSTARRY(スターリー)っていうんだけどね」

「あたしのお姉ちゃんがそこの店長やってて~。

ていうか店の上のマンションにあたしら家族が住んでて」

(出演するライブハウス……、なんかっぽい響き……

 あれ? なんか心臓やばい)

 

「でね。あたし、そこでバイトしてて」

 

 またとっさに目をそらす。

 

「ひとりちゃん実は結構運動できる?」

「いえ……、でもドッジボールだけはなぜかいつも最後まで残ってました」

「そ……、そっか」

 

 不味い、全然会話が弾んでない。

 ここまで積極的に話してもらえたの家族以外に覚えがないのに……

 こんなわたしが……、わたしがライブハウスで演奏……

 あ……、ああ……、ダメダメ。

 今弱気になっちゃ。

 思い出せ……、妄想で毎日した文化祭ライブ(成功例)を! 

 

 そして初のワンマン……

 Zepp(ゼップ)*4……、スーパーアリーナ*5! 

 

「わたしは武道館を埋めた女……」

「え?」

「はい……」

「あはは……」

 

 殊更不味い! ヤバい独り言聞かれてた! 

 頼む相手間違えたって思われてませんように! 

 

(頼む相手間違えたか?)

 

 現実は非常であった。

 いや、ここまででまだ見放されてないだけ温情なのかもしれないが。

 

 

 

「着いた! ここだよ~」(ま……、魔境?)

 

 そうこうしているうちに、目的地に着いた。

 とあるビルに面する階段を降りた先に光る『STARRY』の看板。

 夕方に差し掛かり、日も傾く中で看板以外の灯りがない階下はそこだけ他とは違う空気を放っていた。

 

 そして、ひとりの足が竦むのも構わず店内に連れ込む。

 

「おっはよーございまーす」

 

 虹夏は元気よく挨拶しながら入る。

 一方のひとりは草食動物さながらの警戒心で当たりを見回す。

 

 初ライブハウス……、この暗さ……、圧迫感……

 あっ、落ち着く~

 

「ひとりちゃん大丈夫?」

「ああ……、わたしの家ぇ~」

「違うよ!?」

 

 抑圧からの解放ついでにまた意味不明な独り言が出力された。

 

「今日共演するバンドだね」

(バンドってどうしても怖そうなイメージあるけど、所詮インドアの集まり。

 陰の女。陰キャの集団。みんなわたしと同じ……)

 

「それで、そこにいるのがPA*6さん」

「おはようございます」

 

 そこにいたのはイケイケの女性スタッフ。

 伸ばした黒髪に紫のインナーカラー、バチバチのピアスをつけたダウナー気味な雰囲気。

 ダウナーと陰は断じて同類ではない。ましてや芋ジャー女と比較するのもおこがましいファッション性とあらば! 

 

「いいいい、イキってすみません……」

「急にどうした!?」

 

 とりあえず謝罪はコミュ障の証。

 ひとりのHPはまた削れた。

 

 

「やっと帰って来た」

 

 そんな二人にかかる声。

 

「リョウ! 

 この子、後藤ひとりちゃん。奇跡的に公園にいたギタリストだよ」

「へー」(怖っ! 睨まれてる!?)

 

 ひとり の 防御 は もう下がらない! 

 いつでも心は紙装甲だ。

 

「この子はベースの山田リョウだよ」

「ご、後藤ひとりです! 大変申し訳ありません!」

「えっ!? ちょっ!?」

 

 とりあえず謝罪はコミュ障の証。

 ひとりのHPはまた削れた。

 

「大丈夫だから! 

 リョウは表情が出にくいだけ。変人って言ったら喜ぶよぉ~」

「嬉しくないし」テレッ (嬉しそうだ)

 

「そういえば店長が」「え」

「時間まで練習しとけって。あと、虹夏が勝手にライブハウス抜け出したこと、怒りながら買い出し行った」

「えっ、嘘! 帰ってくる前にスタジオ行こ……

 ひとりちゃんも! ほら!」

 

 そう言って、二人はライブハウスのスタジオルームに向かう。

 

「は……、はい!」

 現実は怖い……。

 でも……、これから楽しいことがたくさん待ってる気がする! 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇

 

 

 

 それから数十分後……

 後藤ひとりはゴミ箱の中で呻いていた。

 その原因を知るには時間を少し遡る必要がある。

 

 

 時は現在より少し前、スタジオ入ったあたり。

 ひとりが虹夏から紙束を受け取ったときから。

 

「これ、今日のセットリストとスコア」

「あ、あの……、バンドメンバーは……」

「これで全員だよー。あたし達、今回はインストバンドだから」

 

 スコアを受け取り、内容を確認する。

 

 ……うん! この曲ならいける。でもボーカルいない分演奏頑張らないと。

 わたしギターうまいらしいし、やれる……、やれるはず! 

 

「ふん! ふん! ふん! ふん!」

「ゴリラ?」

 

 気合を入れようとして心臓を叩く。

 もっとも、その光景は山田がつぶやいたようにゴリラのドラミングにしか見えない。

 

 各々が準備に入る。

 楽器をアンプに接続し、ピックと指をスターティングポジションに添える。

 

「早速だけど、頭からやってみようか」

 演奏聴いたら二人とも驚くかも。

「まあ、最初だし、とりあえずやってみてから」

 登録者数30万だし……、よし、やってやる! 

「その後、徐々に慣らしていく感じで」

 

「それじゃあ、行くよ!」

 

 ドラムがカウントを取り始める。

 後藤ひとりの伝説が、今幕を開ける!! 

 

 

 

 演奏が終わる。

 山田と虹夏は少し難しい顔をしたあとに目を合わせ、決意のもとに言葉を吐く。

 

「ド下手だ」

「プッ」

「ええええええええ」

 

「あー、あのさ! 嘘じゃないんだけど……、あはっ。うん、ゴメン!」

 ななななんで!? わたしギターヒーローなのに! 登録者30万なのに~! 

 

『説明しよう!』

「えっ」

 

 突如飛び出すイマジナリーフレンド。

 

『バンドは生身の人間と呼吸を合わせることがとっても重要だけど、コミュ障のひとりは目すら合わせられないので、突っ走る演奏をする。

 ソロ弾き語りは最強でも、バンドになるとミジンコ以下。最弱になるのだ!』

 

 つうこんの いちげき! 

 

 ひとりのHPは0になった。

 まさか自身の妄想に殺される(フレンドリーファイア)とは。

 いや、いつも通りか。

 

「どうも、プランクトン後藤*7で~す……」

「売れないお笑い芸人みたいな人*8出て来た!」

 

 こうして後藤ひとりは灰となり、もう二度とギターを持つことはなかったのでした……

 

 

 

ぼっち・ざ・ろっく! 完

 

 

 

 そして、時はひとりがゴミ箱送りになっているところまで進む。

 

「ちょちょちょ! ねぇ、出てきて! 

 本番始まっちゃうよ!」

「ややや、やっぱりできませぇん……」

 

 もはやひとりの自尊心はぼろぼろであった。

 

「しょうがないよ~、即席バンドなんだし。あたしだってそんなうまくないし」

「私はうまい」

 

 こんなときでも山田は山田だ。

 いや、彼女なりのユーモアなのもしれない。

 

「へっ、へへへへへへへへへへ」

「とりあえず、こっち向いてー? 現実逃避しないでー?」

 

「え……、MCでも全くお役に立てないですし……、あ……あはは! わたしの命をもってハラキリショーでも! 

 バ……、バンド名くらい覚えて帰ってもらえるはず……」

「ロック過ぎる!」

 

「大丈夫。ひとりがヤジられたら、私がベースでポムッてするから」

 

 乱闘はベーシストの基本技能である。

 

「ベ、ベース、そんなファンシーな音しますかね……」

 

※ ただし、きらら空間に限る

 

「流血沙汰もロックだから」

「ロックだから」

「ロック免罪符すぎる!」

 

※ ただし、きらら空間なので(ry

 

「それにうちのバンド、見に来るのあたしの友達だけだし!」

「えっ」

「私、友達虹夏だけだから」

「普通の女子高生に演奏の良し悪しとかわかんないって」

「炎上しそうな発言……」

 

「ね! だから安心せい!」

「と言われても……」

「私は良し悪しわかるけど」

「リョウは普通じゃないから」

「えっ。えへへへ……」

「いや、喜ぶな喜ぶな」

 

 2人の朗らかな会話は明らかに自分の緊張を解すためのものだ。

 初対面でど下手な演奏をしたばかりか、ここまで気を使わせているという事実にひとりのMPがガリガリと削れていく。

 

「ごめんなさい……」

「けど!」

「無理強いするもんじゃない」

 

 逸る虹夏を山田が窘める。

 

「だよね……、無理なお願いしてごめん!」

「あ……、いやそこは……

 ほ、本当に嬉しかったんです……、声かけられて……。

 バンドはずっと組みたいと思ってたから……。

 で、でも、メンバー集まらなくて……。

 だから、普段はネットにカバー曲上げたり……」

 

「普段は何弾くの?」

「あっ、結成した時、すぐ対応できるようにここ数年の売れ線バンドの曲はだいたい……」

「えっ! すごっ!」

 

 仮に売れ線と言える曲を年10曲としても5年で50曲。

 1曲に1週間としてもおおよそ1年は練習に費やされている。

 そして、その習得を可能とする基礎練習の時間はその比ではないだろう。

 実際、ひとりの演奏は走りまくっていたが手が止まったりはしていなかった。

 その曲を練習していないとそうはならない。

 二人は1年下の後輩に対する認識を改めた。

 

「いや全然……、結局こんな感じになって……。

 やっぱり、わたしには誰かとバンド組むなんて……」

 

「売れ線のカバーばっか……、なんかギターヒーローさんみたいだね? って知ってる? 

 たぶんあたしらとそんな歳変わらないんだけど」(ギターヒーロー……、えっ! わたし!?)

 

「知らないなら後でURL送るよ。特に最近のはボーカル付きだから取っ付き易いし」

「私もおすすめに上がってくるから何度も見たことあるけどすごくうまかった。

 おそらく本職。見つかってないから首都圏外のマイナーバンド説が最有力」

「やっぱり? そうだとしたら次の未確認ライオット*9でるのかな? ちょっと楽しみかも」

 

 本職(プロ)並の腕前……、次のフェスの最有力……。

 ひとりの削れきった自尊心がぐぐぐーんと上がった! 

 

「なんかイロイロ痛いけど」(なんかイロイロ痛い!?)

 

 伸びた自尊心がバキ折れた。

 

「あたし、フォローして新着通知もONにしてるんだ~。いつか一緒に演奏してみたいな~」(今したんですけどね)

 

 やっぱり、ギターヒーローじゃないと……。

()()()()()()()()()なのかな……。

 

 折れた自尊心が粉々に砕け始める。

 良くない兆候だ。

 このままだとひとりが粉微塵になって暗黒空間に消えてしまうことだろう。

 

「えっとね。何が言いたいかって言うと、うまくて話題の人もね。あたし達が見てないところでたくさんたっくさんギターを弾いてきたんだろうなって。

 後で見てみて! 動画見てると伝わってくるから!」

「あっ」

 

 現実世界の人達は、誰もわたしなんか興味ないと思ってた……。

 

「今日が駄目だからってバンド諦めるのは早いって! あたし達がアレなだけかもだし……」

「アレ?」

 

 けど……、こんな優しい人がずっと見ていてくれて、私なんかに声をかけてくれた……

「あ。立った」

 

 知らずのうちに涙が伝う。

 あの日々を肯定してくれる人がいる。

 

 こんな奇跡……、たぶん一生起こらない! 絶対無駄にしちゃ駄目だ! 

 

 そうだ、自分はバンドを組みたいんじゃなかったのか。

 自分を変えたいんじゃないのか。

 そのためにわざわざ往復4時間もかかる高校を選んだんじゃないのか。

 

「あ、あのっ、そのっ、わ、わたしっ……」

 

 そうだ、言え! 言うんだわたし! 

 

「わたしっ!」

 

 ギター、やります! 

 その決意とともに、ひとりは力強く前へと一歩を踏み出した。

 

 

 

()()()()()()

 

 

 

「えっ」

「あっ」

「ちょっと!?」

 

 内側から勢いよく蹴られたゴミ箱は、踏み出した一歩の強さをそのままに激しく倒れた。

 ギター以外の運動神経が終わっているひとりがとっさにゴミ箱から抜けられるはずもなく、ましてやまともに受け身が取れようはずもない。

 

「うぎゅう!!」

 

 結果、ひとりは頭をしたたかに打ち、沈黙。

 そして、本番前まで粘るも、決意も虚しくひとりが起き上がることはなかった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「あーっ、どうしよう! 

 もう今度こそ時間がないよ! 

 っていうかひとりちゃんは大丈夫なの!? 

 救急車とか呼んだほうが良かったかな!?」

 

 虹夏の顔色が真っ青を通り越して白くなりつつある。

 ギターの当日ギリギリでのバックレによるパニック、そして運良く別のギターを見つけた事による安堵。

 そこから代わりのギターが目の前で負傷し、今も目を覚まさない。

 

 それらの乱高下は初ライブ前の緊張と合わさって虹夏の精神を限界まで追い込みつつあった。

 むしろ、よくぞまだ理性を保てるものだとさえ思う。

 

 一方、山田は表面上は冷静さを保ちつつ返す。

 

「大丈夫。出血も酷いコブもなかった。

 多分脳震盪だと思うし、ライブが終わったら家で診てもらうから」

 

 実家が病院である山田は過保護な親により、こういった応急処置的な知識を叩き込まれていた。

 それは例えば熱中症の対処法であったり、救急箱で済む程度の怪我の正しい対処法であったり、あるいは救急車を呼ぶべき判断基準などである。

 それにより、ひとりについては救急車よりもじっとさせて患部を冷やしておくほうが適切であると判断できた。

 もちろん、ライブが終われば医者(プロ)に任せるのは忘れない。

 家に頼るのは癪だが、仮とはいえバンドの一員のためならそれを堪えられる程度の人心が山田にもあった。

 

 それよりも問題はライブである。

 

「虹夏、今日のセトリは3ピース前提で組んでるし、ギターが目立つ構成にしてる」

 

 それは、ギターが弾けるとは言っていたが、バンド経験が皆無であろうもう一人を気遣っての事だ。

 

 折角の(推定)初ライブ、ココで大ゴケしてバンド辞めるならまだしも、バンドそのものにトラウマを持たれた日には目覚めが悪い。

 そう考えて組んだ適度に弾きやすく、ギターが目立ち、その上で高難度のソロなどがなく、流行りの曲を中心にしたというギターのための構成。

 

 それは、裏を返せばギターが抜けた際のダメージが他の楽器の比ではないことを意味する。

 

「どうする? 正直私は中止を視野に入れても良いとさえ思っている」

 

 ベースとドラムの2ピース、不可能とは言わない。

 だがそれはそれ前提の曲であればの話であり、一般的な流行りの曲ではまずその曲と認識させるのさえ困難であろう。

 ましてやインストであれば尚の事不味い。

 

 いかに自身のベースに自信がある山田とて、むしろ自信がある程度にはベースというものを分かっているからこそ良くわかるのだ。

 このまま演っても確実に失敗する。

 

 もはや、山田の心情は如何にしてライブをするかから、如何にしてこの親友の心に傷を付けずにすませるかにシフトしていた。

 

「や、演るよ! 

 だって、せっかくお姉ちゃんに枠開けてもらったし、クラスメイトがチケットも買ってくれたんだもん。

 このままじゃあんまりにも無責任だよ!」

 

()()、虹夏から出るにはあまりにらしくないセリフだ。

 折角の機会だから楽しもうだとか、2ピースでも行けるとこまで行ってみようだとか、そういったポジティブな前置きが付くならまだしもただただ責任感でやろうというのはよほど追い詰められている兆候だ。

 

 もう止まらないことを覚悟した山田は「じゃあ演ろっか」と敢えて軽い口調で応えた。

 しかしその心情はそれとは程遠い。

 

 トラウマ更新かな、と誰にも聞こえぬように呟いた。

 今でも鮮明に思い出せる中学の文化祭、マイナー曲の演奏で冷え切った体育館。

 おそらくそれの比ではない。

 

 なにせ、親友がズタズタになる瞬間を特等席で見続けなければならないのだから。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◆

 

 

 

「い、1曲目の〇〇でした~」

 

 楽屋からでもわかる冷めきったを通り越して同情的な雰囲気。

 妹に怪我人を託された星歌は今すぐ飛び出してしまいたい気持ちを抑えつつ見守る。

 

 今回妹をステージに立たせたのは単にいい思い出を作ってほしかったから。

 決してこんな無力感やいたたまれない状況を味わわせるためではない。

 

 せめて下手でもギターがいればまだバンドの体裁は整うのに。

 そう思いつつももうどうすることもできない。

 

 一人目は行方不明だし、肝心の二人目も後ろで伸びている。

 冷えピタがなかったので保冷剤ごと頭を包帯でぐるぐる巻きにしているが、目を覚ます気配が一向にない。

 かと言って推定脳震盪の人間を叩き起こすなど論外だ。

 

 こんなことになるなら仮でもオーディションをしておくべきだっただろうか? 

 そうすればギターがドタキャンする前になにか手を打てたかもしれないのに。

 

 二人目が伸びた時に中止にするべきだったか? 

 でもそれを伝えられたのは本番直前、止めるには遅すぎた。

 

 あーでもないこーでもない、そう思索しているうちに2曲目が始まる。

 もはや妹の顔は楽しむとかではなく早く終わってくれと縋るような感じだ。

 

 早々祈る他ない。この後立ち直ってくれるか、あるいは後ろのギター二号が目を覚ますことを。

 

「包帯グルグル巻きのギタリストか。

 まるでギターヒーローだな」

 

 それは妹に勧められて見たギター弾きのOh! Tuber。

 特にここ1年になってからは顔を包帯で隠し、服装もジャージから派手なバンドTシャツに変わり、何よりも超絶テクのギターそのままにボーカルも一流な配信者のことだ。

 それにダブって見えるとは、よほどキてるなと自嘲する。

 

 せめて最後まで見届けよう。

 そうして星歌の視線はステージに目を向けた。

 

 後ろで動くひとりの影に気づかずに。

 

 

 

「ギターヒーロー……。

呼ばれている。呼ばれている。

わたしが、私が」

 

 

 

「ギターヒーローが呼ばれている」

*1
? → そうだよ、現実が辛くても大丈夫。ネットにはわたしに反応してくれる人がたくさんいるもん……

*2
後藤ひとり基準

*3
あれ? 変わってない? 

*4
日本全国に展開するライブハウス会社。規模がでかい、全国の都市圏に点在している、施設や設備がほとんど同じのためセッティングが使い回せる、まとめて押さえられるため、ツアースケジュールが組みやすいなどの理由から、Zeppで全国ツアーを行うバンドは多い。ちなみに今年の閃光ライオットはZepp ダイバーシティ東京で行われる予定。

*5
さいたまスーパーアリーナのこと。約37,000人を動員可能な巨大施設であり、音楽に限らずあらゆるフェスが実施される大型イベントの聖地。ここを満員に出来れば超一流と言っても過言ではない。

*6
音響屋のこと、Public Address(公衆伝達)の略語。サウンドクルーといったほうが伝わりやすいかも。機材メンテナンス以外にも出演者とのやり取りや書類作成、会場管理など、実は総合的な業務が求められる。

*7
実在します。

*8
実際にお笑い芸人です。

*9
原作における10代限定のロック・フェスティバル。元ネタは閃光ライオットとその後継イベント、未確認フェスティバル。出場条件も同上。Galileo Galileiや緑黄色社会などのバンドを排出してきたニューカマーの登竜門である。




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