【完結済】MASKED GUITER HERO ぼっちちゃん 作:リチウム
大根、玉ねぎ、スイカ、トマトなどが該当し、これらを育てる際は土をしっかり被せることで「光」が届かないようにする必要があります。
日陰でしか芽が出せない、まさしく陰キャって感じですね!
前回は喜多ちゃん地獄を見る、きくりさん登場の二本立てでお届けしました。
今回は想定よりだいぶ早く仕上がって良かったです。
今回は路上ライブ回完結編。
もちろんただでは終わらせません。
今回も、お気に入り、高評価、感想、ここすき等お待ちしております。
薄暮迫る金沢八景。
この後の花火大会*1のためかチラホラと浴衣を着て歩く人間が増える時間帯だ。
あの後何件か居酒屋巡り(もっとも、探し回っていたのは実質酔っ払いだけでぼっちは引き回されていただけだが。ぼっちに居酒屋に突撃して楽器の有無を尋ねる心力などあろうはずもない)をして、ベースを回収してから戻って来た頃にはこの時間だ。
もはや祭りに急ぐ人々にフライヤーを配れるはずもない。
そんなぼっちの心境とは裏腹に、ベースを取り戻した酔っ払いはウキウキ気分で語りだす。
「じゃーん! 私のマイベース*2~。スーパーウルトラ酒呑童子*3EX~。かっこいいでしょ~」
「は、はい。かっこいいです……」
「昨日のライブも大活躍だったんだよ~」
そういって愛おしそうにベースに頬ずりする酔っ払い。
その態度から命より大切と言うのが決して嘘ではないというのが伺える。
そして、ベースを丁寧にケースの中に収めた。まるで割れ物を扱うような丁寧さは居酒屋に忘れたのが嘘に思えるほどだ。
「んで~、打ち上げで飲みすぎてさ~。気づいたら日ぃ昇ってるし」「えっ」
「全然知らないここに来てたんだけどねぇ~」
「な……、何時間飲んでるんですか?」
この時点でドン引きなぼっちであったが、一応会話を続ける。
無言よりはマシだからだ。
とっとと帰れるのが最上なのは言うまでもないが。
「えぇっと~、打ち上げが
そういって脳内で振り返る酔っ払い。
バンドメンバーやライブハウスの店長と飲んでる記憶から始まり、一升瓶を一気*4する記憶、2軒目でビールを流し込む記憶、そのまま1人で飲み歩く記憶。
時間経過につれて記憶がぼやけてるのは酒量に比例してのことなのでどうしようもない。二重の意味で。
「ま~、半分意識ないからね~。
このままダブル太陽*5キメちゃってもいいんだけど……。ん……、ぷはぁ~」
「お、お酒好きなんですね……」
「うん! だって、お酒飲んだら全部忘れられるからさ~、つい!」「全部?」
「ほら、将来の不安とか?
私はこれを、幸せスパイラルって呼んでるんだ~。真似していいよ」
「あ、いや……(悲しい幸せだ……)」
もはやいたたまれないとしか言いようがない。
こんなに純粋に他人に同情したのは初めてかもしれない。
ぼっちは憂鬱な気分になった。
「あ~、まだピンとこないか~。まぁ、ひとりちゃんも大人になったらわかるよ~」
「い、いや~……(大人になってもわかりたくない……)」
「絶対、お酒ハマるタイプだよ~。うん、絶対そう! 顔見ればわかる!」
「はぁ……(どんなだろ、お酒に溺れる私……)」
酒浸りになるという前提から逆算してシミュレートしていく。
まず前提として、今のバンドは続いていないだろう。いたら溺れてはいまい。
かといって、しっかり就職できているかと問われればNOだろう。流石に仕事があるのに酒に溺れるほど責任感のない人間ではない。
つまり、バンドも解散し、まともな職にも付けず、就職活動も全敗で酒浸り……
部屋も荒れ放題、ギターも置物と化し、外界から遮断された押し入れに潜んで酒を飲むだけの毎日……
アルコールで焼けた喉はもうまともに歌も歌えず、泣き言を垂れ流すだけ……
『お母さん、ついに最近ハロワ行けって言わなくなったなー。きっと孫のお世話で忙しいんだな。
ふたりがママだもんなーもう。このままじゃ駄目なのはわかるけど、もう人生頑張れないやー』
押し入れの片隅に残る未練と言う名のアー写が剥がれ落ちる。
手元のスマホの上に重なった写真は否が応でもあの日々を思い出させる。
『高校の頃、バンド組んでたの懐かしいなー。
なんだかんだあの頃の私ってキラキラしてたんだなー』
泣き言とともに溢れる涙。
『みんな、今頃何してるんだろ。
でも、顔を合わせて何話せばいいのか「ひいああああああああああああああああああああああああああああ」』
あまりにも解像度の高い未来に悲鳴を上げるぼっち。
実際アルコールの部分を抜いてもこうなりそうだからなおたちが悪い。
「あははは! 君もしや結構ヤバい子?」
ヤバい奴にヤバイ子認定を食らうぼっち。
実際内面が見えていなければ突然奇声を発した上に顔面崩壊までしてるやべーやつなのだから仕方ないが。いや、内面見えていてもカバーできないラインか。
周りの人間も一瞬足を止めてこちらを見ている。
なまじっか声量があるせいで辺り一帯に届いているのがたちが悪い。
「すすす、すみません取り乱しました……」
「そーゆーの嫌いじゃないよ~? そういや~、ひとりちゃんは何してたの?」
ここでようやっと自分側にボールが回ってきたぼっち。
せっかくなので、同じバンドマンならなにか無いかと思い、藁にも縋る思いでチケットノルマについて相談する。
「ううっ……、なるほどぉ、ひとりちゃんは悲劇の少女だったわけか……」(す、すごく同情してくれてる……)
自分に共感してくれているという一点だけで好感度がぐぐぐーんと上がるぼっち。
承認欲求モンスターを秘める女は共感性を感じるだけで距離が縮むのだ。
ましてや、声に出して言ってもらえば更に倍!と言った調子だ。
「チケット売るの大変だよね? 私も最初の頃はすごく苦しんだなぁ……」「そ、そうなんですね……」
「よーし、命の恩人のために、私が一肌脱いであげよう……」「えっ?」
そう言って、スカジャンを脱ぎ捨てる酔っ払い。
その下はキャミワンピースだけで下手したら下着が見えそうなレベルの薄着だ。
まさかそんな物理的に一肌脱ぐとは!と戦慄を隠せないぼっち。
この先を想像して顔が赤くなっていく。
「さ、準備して。私と君で……」
わ、わたし、そういう趣味は……!!
というか、こんな人通りの多いところで……
しかも、なんか結構見られてない!?*6
そんなテンパるぼっちを他所に、ベースのケースを開ける酔っ払い。
「今からここで路上ライブをするんだよ~」
「えっ……、ええっ?」
赤かった顔が真っ青になるぼっち。
めまいが起こりそうなほどの血圧の低下は決して勘違いだけが原因ではない。
路上ライブ!? 路上ライブって……、あの路上ライブ!?!?
「ビラもあるし、路上ライブで客呼んでチケット買ってもらうのが一番いいって」
「いや……、え、でも……」
「今日、ここらへんでお祭りやるっぽくて、人も多いし、路上ライブ日和だよ。
あっ、でもアンプとか、路上ライブの機材何もないか~」
「じゃ、じゃあ~、残念ですが別の機会に……」
スキあらば逃げるぼっち。
ここで突発路上ライブ敢行できる人間はぼっちやってない。
喜多ちゃんならノリノリでやるんだろうが。
一方、酔っ払いはぼっちをスルーしてスマホで何処かに電話していた。
「あっ、もしもし私。
生きてま~す。
今から路上ライブすんだけど、機材持ってきてくんない? うん、機材だけでいいから。うん、そう、ありがとね~」
尻込みするぼっちを他所に着々と進んでいく路上ライブの準備。
つまり、今度の今度こそ逃げられない。
「じゃ、打ち合わせしよっか。
機材が来るまでに、曲の大枠だけでも把握しときたいからさ。スマホに曲入ってるよね?」
もはや、逃げられないことを悟ったぼっちはカツアゲに合った学生のような面持ちでスマホを差し出した。
リョウさんからもらった仮歌音源がスマホから流れ出す。
「おお~、いいじゃんいいじゃん。
如何にも下北系*7って感じで、こう、ギューンとくるね。
特に私みたいな青春灰色組にはさ~、作詞作曲はひとりちゃんだったりする?」「あっ、作詞だけです……」
せっかく曲を褒められているのに頭に入ってこない。
ぼっちの脳内は来たる路上ライブと言う名の断頭台をいかに乗り切るかに必死だ。
その後もあれこれ話すのだが、会話にはなっていてもコミュニケーションにはなっていない。
そうして、ついに酔っ払いのバンド仲間と思しき人が機材を持ってきてしまった。
アンプにベースを繋ぎ、準備万端と言った感じだ。
「みなさーん! 今からライブしまーす!
「金沢八景のみなさーん! 今からライブやりまーす! 見てってくださーい!」
フライヤーを掲げながら集客する酔っ払い。
手慣れた感じはさすが経験者といったところだろうか。
「わー。楽しみー」
「いや、君もやるんだよ」
一方ぼっちは客側に混ざろうしていた。
この期に及んで往生際が悪い女である。
流石にこのままだとまともにライブにならない危険性を感じたのか、ぼっちのバンドマン遍歴を掘り下げ始める酔っ払い。
路上ライブ用のポスター(仮)を書きながら聞く所によれば、ぼっちはバンド歴3ヶ月。
ライブも身内の家族のとこでの1回だけで、路上ライブ経験も0。一応中学の文化祭でソロ弾きしたことはあるらしいのだが、そこで何かマズったらしく、あまり突っ込んで聞けなかった。
総じて、経験0を超えてマイナス。実にヤバイ。
一応腕前はまともそうなのが救いか。
なれば自分のすべきことはこの子の実力を引き出してやること。それも、上手く弾かせるのではなく、路上ライブという経験を楽しませることだ。
「──う~ん、外でギター弾いたことがなくて~、人の目が怖い……。
なら、目ぇつむって弾くとか? 見えなくても、私がバッチリ支えてあげるから、お姉さんにどーんと任せなさい! な~んてね、ハハハ……、ングッ」
目をつむる……
目をつむれば大丈夫……?
そこでピンときたぼっちはギターケースを開いて底を漁り始める。
常備された救急箱を取りだし、包帯を手に取る。
そして、包帯を
「おっ、いいね~。単に目をつむるよりもカッコいいよ~」「はっ、ハイ!」
「あと、忘れないでほしいのが、今目の前にいる人達は倒さなきゃいけない相手じゃないっことなんだ。中学のやつと違ってね」
そう言って、ベースの調子を確かめるように数音鳴らし、こう告げる。
「敵を見誤るなよ」
(ん? 敵……、敵ってどういうこと?)「ンハ~」
包帯のお陰で少し落ち着いたのか、手慣れた感じでギターをアンプに接続し、軽く掻き鳴らして調子を見る。
──うん、いつも通り、いい音だ。
目隠しをしているとは言え、所詮たった一巻きの包帯。人の顔までは見えないが、どこに誰がいるか程度ならはっきりと見える。
むしろ、この塩梅は想像以上に好ましい。完全に見えないよりも却って楽だ。
「それじゃ始めますねー!」「ひうっ」
「曲はこの子のバンド、結束バンドのオリジナル曲でーす! ぱちぱちぱち!」
そう言って拍手する酔っぱらい。
まだ観客の反応はまるでないが、少しでも明るい空気にしたほうがやりやすいだろうという酔っ払いの気遣いのため、反応はそもそも期待していない。
結局は音楽の出来がすべてだからだ。
ドラムの代わりにギターがカウントを刻む。
今回弾く曲は1曲限り。
それ以上の突発ライブはお巡りさんに怒られる、では済まないかららしい。
此処らへんは経験則かな~、なんてお姉さんは言っていたが。
そこで選択した曲は最近仕上がった結束バンドの3曲目のオリジナル、『あのバンド*8』だ。
そもそも路上ライブの予定なんて無かったから同期演奏*9用の音源も用意していない。
ギターとベースだけで心を動かす演奏ができるだろうか……、ベースが大丈夫でも自分は全然大丈夫な気がしない……
ぼっちに掛かるプレッシャーが、神経をぐらつかせる。
そして、イントロが終わり、Aメロに入るタイミングで事件は起こる。
「あの バンド の歌 がわたしには 甲高く 響く 笑い声 に聞こえる」
酔っ払いが驚きに目を少し見開く。
だがそれ以上にぼっちが驚きを隠せなかった。
そんなつもりはないのに、つい歌ってしまうなどと!
初の路上ライブという心理的プレッシャー、それにチケットを捌かなければならないと言う追い打ち、部分的とは言え使い慣れた包帯を顔に
それらはぼっちの中のギターヒーローのスイッチとも呼ぶべき部分をぐらつかせ、ついには弾みで一瞬とはいえそのスイッチをONにしてしまった。
もちろん、ほんの一瞬のことだ、すでに後藤ひとりに主導権は戻っている。
しかし、もうライブは止まらない。
1小節だけだろうが歌ってしまった以上、インストではなくボーカル付きで押し通すしか無いのだ。
「あの バンド の歌 がわたしには つんざく 踏切の 音みたい」
幸か不幸かボーカル経験豊富なぼっちの声量はマイク無しでもアンプ付きのアンサンブルに全く負けていない。
しかし、頭の中は完全にパニック状態だ。
なんで!? どうして!?
しかし、それでも曲は進む。
ベースに至ってはむしろテンション上がってきたと言わんばかりに唸りを上げ、一音一音から歓喜の感情をぶつけてくる。
「背中を 押すなよ もうそこに 列車が来る」
ベースが背中を支えてくれている。
ほぼ即興のハズなのに、音のバランスが完璧だ……。
此処に至り、背中を
逃げ場はない。前にしか!
そして、ブレーキがぶっ壊れた。
ギターヒーローではない、
「目を閉じる 暗闇 に差す後光 耳塞ぐ 確かに 刻む鼓動
胸の奥 身を揺らす心臓 ほかに何も聴きたくない わたしが放つ 音以外」
サビ以降の後藤ひとりは完全に吹っ切れていた。
それは、ギターヒーローとしての暴力的なまでの熱量ではなく、ただただ楽しさが
一瞬の静寂。肩で息をするぼっち。
その時、包帯が緩み、床に落ちた。
その目に写ったのは包帯越しのシルエットではない生身の観客の姿。
そこには笑顔があり、拍手があり、良いものへの純粋な称賛だけがあった。
(そうか……、初めから敵なんかいない。此処にいたのはわたしたちの演奏が聴きたい人だけなんだ……
全身を包む高揚感。純粋にただ音を、楽しさを共有する空間。これがライブ!)
こうして
後藤ひとりが忘れかけていた、唯一人で突き進むだけではない、他人とのつながりを持った音楽の楽しさ。それを感じながら。
(いきなりボーカルぶっ込んできた時は驚いたけど、ライブを楽しんでくれてるのがすごく伝わってきた。
トラウマも少しだけ超えたっぽいし、ギターもボーカルも一流レベル。こりゃ、師匠ヅラできんのは今日だけかな)
とはいえ、今日だけは先達の役目を果たそう。
まずはねぎらいの言葉からだ。
「ひとりちゃーん! よかったよ!」
「あ、ありがとうございます……」
(はっ、結局ギタボで通してしまった……、しかも実質アドリブで!
ま、不味い、怒ってない……、よね?)
そーっと横目で酔っ払いの方を確認するぼっち。
向こうは笑顔でサムズアップしてくれている。
よかった、多分怒ってない。
「ん? どうしたー?」
「あっ、いえいえ……(そ、そういえば、バンドのみんなにはどう釈明しよう……、勝手にボーカルやりましたって……)」
頭を抱えるぼっち。
楽しくライブをするのは良いのだが、それで勝手にフロントマン面するのは違う。
ああ、見える。喜多さんがゴミを見るような目でこちらを蔑む光景が……
『はぁ、後藤さんって陰キャのくせに出しゃばりよね。身の程をわきまえて
そしたら、歌わなくても目立つでしょ?』
うごごごご、喜多さんはそんな事言わない……、けどぉ~……
身悶えるぼっちに歩み寄る2つの影。
「あのー」
「はっ、ハイ!」
「この、ライブのチケット買ってもいいですか?」
「2枚ください!」
「──え……」
二人は先程のライブの観客だった。
「よかったねひとりちゃん! あれ? 感動してフリーズ?」
現実が追いつかずに固まるぼっち。
そのまま真後ろに倒れて大の字になってしまった。
顔面がランダム生成のようにガチャガチャと入れ替わる中、しょうがなく酔っ払いが会計を代行してチケットを捌いた。
「あ、あの! 本当にいいんですか? か、買っていただいて……」
「にへへ~、ひとりちゃんしつこいぞー」
「だ、だって……、その……」
まずベースからして他人だし、ボーカル担当も別の人だし、これで売っちゃって詐欺に該当しないんだろうか。
余裕が出てきたせいか余計なことを考えるぼっち。
「始めて路上ライブ見たけど、すごくよかったです!」
「今度のライブも、頑張ってくださいね!」
「あ、はい。頑張ります」
そうして懐から2枚のチケットを取り出して手渡すぼっち。
「さっきの曲もやります?」
「は、はい。やります! 今度はちゃんとボーカルの子が……」
「楽しみにしてまーす!」
そんな優しい世界の外側でパック酒にストローを差し込む酔っぱらい。
「こんなキラキラした時代が私にもあったはずなのにぃ……、ううっ、今夜はヤケ酒だ~」
「な、なんで泣いてるんですか?」
「ごめんごめん、すぐ幸せスパイラルキメるから……」
「ぜ、絶対それ体に悪いですよ~「すみませーん。ここでのライブはやめてくださーい」」
(えっ! 警察!)「ごめんなさーい!」
「補導される~!?」「されないされない。まぁでも、怒られちゃったし、このへんで終わりにしよっか」
そう言って、楽器と機材を片付ける二人。
それが終わる頃にはすっかり日も落ちてしまった。
(あっ、そうだった。浮かれ切ってたけど、まだ後1枚残ってるんだった……。で、でも4枚売ったんだ。最初にしては上出来……)
「最後の1枚、私が買うよ」「えっ?」
「チケット、それでノルマ達成でしょ?」「えっ! い、いいんですか?」
「もちろん。私、普段新宿拠点に活動してるから近いし、このライブハウス知ってるし」
「あ……、あ、ありがとうございます」
「おにころ5本分以上*10のライブ、期待してるよ?」「は、はい!」
そうして、最後のチケットを手渡すぼっち。
呪いの装備が無くなって、スッと心が軽くなった。
「また一緒にライブしようねー。ばいばーいひとりちゃーん」
駅まで見送り、頭を下げるぼっち。
なんだかんだ酔い止め買わされたり、居酒屋引き回されたりしたけど、それを差し引いてもすごくお世話になったのは間違いない。
(不思議な人だったな……、やっぱバンドマンって……、かっこいい!)
「あっ! チケット買ったらお金なくなっちゃった~! 電車賃貸して~*11」
(バンドマンって、お金ないのかな……。いや、そんな中で買ってくれたんだと思おう、うん)「ライブ行った時返しま~す」
その後、今度こそ酔っ払いを見送ったぼっち。
後ろからは花火の音が聞こえる。
幸い、ここから対岸のシーパラダイスの花火はよく見える。
ひとりとは言え、花火大会かぁなどとウキウキ気分で眺めるぼっち。
あっ、そうだ。
チケット売れたって連絡しないと。
あと、練習休んじゃったこととか、勝手に歌ったことも謝らないと……
(今日練習行かなくてすみませんでした。あと、チケット全部売れました! 送信っと。
ふふっ、ライブ、成功しますように!)
そうして、ぼっちには珍しい曇りなき笑顔で佇むぼっち。
あっ、そうだ。
チケット捌けたから、喜多さんの練習も再開しなきゃ。
きっと喜多さんも喜んでくれるだろうな。明日はボーカル重視でメニューを組もうかな~。
ぼっちの表情は実に晴れ晴れとしていた。ぼっちの方は。
── ◆ ──
一方その頃、練習上がりの3人はSTARRYのいつものテーブルに集まっていたのだが……
「ウゾダドンドコドーン!」*12
「ちょ、喜多ちゃんどうしたの!? なんかぼっちちゃんみたいなリアクションしてたけど……」
「ぼっちから連絡が来た、チケット全部売れたって」
「え~、嘘だ~。多分見栄張っちゃってるだけだって」
「でも、『うっかりとは言え、路上ライブでボーカルまでやってすみません』って書いてある」
「うっ、それならあり得るかも……」
この3人の中で、ぼっちがフルパワーを出せばチケットが売れると言うのは普段のキャラクターを差し引いてもお釣りが来る程度の説得力を持っていた。
だからこそ、喜多は逃れ得ぬ明日に錯乱しているのだが。
「ちくしょう……!!! ちくしょおおおーーーっ! か、完全体に……、完全体にさえなれば……」*13
「喜多ちゃん何言ってるの!? しっかりしてよ~、ぼっちちゃんが2人になったら手に負えないって。
リョウもなんとかして! ほら! もういっそ頭か尻をぶっ叩いて!」
「ベース使う? ポムれば直るかも」
「流石にネンショー*14はマズいって!」
そうして、錯乱した喜多をなんとか鎮めきった虹夏。
しかし、これは一過性に過ぎぬ。
根本的な解決のため、虹夏はぼっちの練習に殴り込みをかける決意を固めたのであった。
今回も高評価を頂いた、以下の方々に心より感謝を。
敬称略です。
☆9 uytrewq ゴマあざらし 鮭弁 呪い狐 ヨミタカ ハイパー扇風機
ぼっちちゃん、暴走しちゃいましたね。
まあ、少し前向きになったのでトレードオフってことで。
その時、ふと閃いた!
この経験は、喜多さんとの
トレーニングに活かせるかもしれない!
というわけで、喜多ちゃんの地獄は継続です。
むしろ、一度希望が見えた分、より辛いかも。
ファンサービスの使い手でいらっしゃる?
そのため、後藤家訪問の動機も少し変わったものになっています。あるいはそれ以外も…
次回はシャツデザインの日常回の予定です。