【完結済】MASKED GUITER HERO ぼっちちゃん   作:リチウム

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 ぼざろライブ当選しました!
 私は伝説の目撃者となるのだ……
 その衝撃でこの後の展開何個か飛んだりしましたけど。

 なんか喜多ちゃんが執拗にいじめられているような気がしてなりませんが、ふとある漫画を読んだ際に『内弟子は人間じゃないからのう!』と言っていて、アッ、それもそうだなと思いました。
 つまり、修行中の喜多ちゃんの人権は剥奪されるのが普通ということ。まあ、人命には関わらないから大丈夫だよ、多分。

 というわけで、今日も後藤家訪問回です。
 なんかスゴイ長くなってしまいましたが、まあ大丈夫だと信じたいところです。

 今回も、お気に入り、高評価、感想、ここすき等お待ちしております。


13. 仏滅通り過ぎた

 後藤家を訪れた結束バンド3人組。ぼっちからの歓迎と言うか洗礼を受けていよいよ後藤家内に足を踏み入れる。

 その時、リビングから後藤母と父が現れた。

 

「あら~、いらっしゃ~い。山田さんは5月の病院以来かしら? 

 アレからまたひとりが医者のお世話になるようなことしてないかしら? ほら、ひとりって時々いきなり壁に頭を打ち付けたりするでしょ? それでまた倒れちゃったりとかしてないか心配で……*1

「お、お母さん! やめてよ!」

「いえいえ、むしろバンドによく貢献していただいて有り難い限りです。

 郁代の特訓なんて、本来お金取れる内容だと思いますし、それ以外にもバンドの経費のためにバイトで慣れない接客まで頑張ってくれてますし、娘さんは思うよりちゃんとバンドで活躍していますよ」

「「せ、接客!?」」

 

 ハモる両親。

 どうやら娘が対人スキルが必要な仕事をこなしているという事実がよほど衝撃的だったらしい。

 まあ、無理もないが。

 

 一方、喜多の方は初めて見る山田の余所行きお嬢様モードに大興奮の様子。もうこれだけで夏のダメージが全部抜けそうな勢いだ。

 山田は育ちが良いだけあって、その気になれば礼節は完璧にこなせる。流石にバンド仲間のという枕詞が着こうが大人相手なら相応の振る舞いをするらしい。

 虹夏は幼馴染だけあって、動揺は少ない。せめて普段もこの1/1000でもまともならと思わずにはいられないが、それもご愛嬌というものだ。

 

「そ、そんなに驚かなくてもいいじゃん! わたしだってもう高校生なんだよ!」

「そっか~、もう高校生なんだな~。時間が経つのは早いな~。

 ひとりもなんだかんだでバンドも組めてるようだし、友達と毎日練習してるなんて、去年の冬頃には「お父さん!」あっ、ごめん……」

 

 ぼっちが無理やり会話を遮る。

 一見照れ隠しのように思える会話、しかしその声に僅かな怯えが見られることを山田と喜多は感じ取った。

 山田は後藤ひとりと言う人間への理解度から、喜多は感情の機微を捉える能力の天禀から。

 

 おそらく去年の冬に何かがあったのだろう。

 だが、二人はそれに触れることはしなかった。

『まだ早い』、思考の経緯がどうあれ、その結論は一致していた。

 

「それじゃ、早速ぼっちちゃんのお部屋拝見といきますか」

「いきましょ~」

 

 一方の虹夏はいつの間にか妹のふたりと仲良くなっていたようだ。

 妹特有のエンパシー*2でもあったのだろうか? すでにだいぶ距離が近い。

 

「そそそ、そうですね! もう、今日は準備万端ですから! はは、早く行きましょう!」

 

 何時になく強引なぼっち。

 山田はそれを先程の話に触れられたくないがためと解釈した。

 一方、喜多ちゃんは嫌な予感がしていた。そう、話を流そうとしているにしてはぼっちちゃんがイヤに自信過剰なのだ。

 つまり、またやった。そう認識してよいのだろう。

 

 ──まぁ、いっか。

 流石に写真部屋以上の変なレイアウトはお目にかかれまい。

 

 喜多は結局、その違和感を放置して進んでいった。

 

 

 

「おおぅ、これは……。なんというか……」

「はしゃいでるね」

「思ったよりもまともね」*3

 

 ぼっちの部屋は即席のパーティー会場と化していた。

 

 閉め切った部屋を照らすカラフルタイプのミラーボール。

 ナイトプールのポスター、壁に一面に貼られた『YEAH!』『PARTY PEOPLE』『PON PON』などの文字や星型の蛍光ステッカー。

 色とりどりの風船、運動会でしか見ないような三角連続旗、そして『ようこそ! 後藤家へ』と書かれた小さめの横断幕。

 テーブルの上もそれっぽいお菓子にわざわざシャンパングラスに入れられたポッキーなど、如何にも『パリピ』感溢れるレイアウトに仕上がっている。

 

 喜多はもうなんだか可哀想な気分になった。片目からツーと涙が溢れる。

 世界の闇、社会の格差、どうにもならぬ不平等な現実が目の前に有るような気がしてならない。

 多分似たようなことが2、3回起きたら活動家か何かに目覚めかねない勢いだ。

 

「後藤さん!!」ダキッ

「はっ、ハイ!」

 

 たまらずぼっちに抱きつく喜多ちゃん。

 頭を抱いてギュッと抱き寄せる姿はこのワンシーンだけなら感動の再会レベルである。

 

「ライブ終わったら、いっしょに遊びに行きましょう! 

 花火をして、お祭りに海に、プールにも行って……、そして、山でキャンプして星を見るの! 

 私が世界は残酷なだけじゃないってこと……、後藤さんにもいっぱいいっぱい伝えるから!!」

「──おーい、喜多ちゃーん」

「郁代、足元」

「ん? 足元? ええっ!?」

 

 そこにあったのは巨大な真珠のようななにかであった。

 薄っすらとピンク色に輝いており、模様のように見える黄色と水色のワンポイントは髪飾りの名残であろうか。

 

「あれ!? もしかして……」

「わかりません……、ぼっちちゃんです」*4

「0距離フルパワーのジーグブリーカー(キターン)*5はぼっちにはまだ辛かったか」

 

 どうやら致死量のキラキラ(キターン)により、宝石に変形してしまったようだ。

 微妙に発光しているのもキラキラ(キターン)の残留効果だろう。

 

「ねーねー、でんき付けて良い? お部屋が暗くて見えにくいよ」

「そうね、ついでに机の上も整理しちゃいましょう」

「じゃあ、ぼっちは私が責任を持って預かります」

「おい、その目*6は何だ? 売るなよ? 絶対に売るなよ?」*7

「つまり売れと。虹夏の鬼畜~」

「山田この野郎!」

 

 ぼっちを抱えて*8逃げる山田、追う虹夏。

 一方喜多はふたりちゃんといっしょに机の上を片付けていた。

 

 

 机も空いて、山田がくたびれた頃、ようやっとぼっちが元に戻った。

 おそらく山田の陰気が宝石化するほどのキラキラ(キターン)に打ち勝つ程度にチャージされたためだろう。

 席に着く4人+1、ふたりは喜多の膝の上に座った。

 

「それじゃあ、今日のお題、第一弾! これだ!」

 

 ババーンという勢いで手元のタブレットを机に置く。

 画面には『ライブTシャツを作ろう!』と表示されていた。

 

「バラバラの服より~、お揃いの方が~、一体感? バンド感? そういうの出るんじゃな~い? 

 それに~、『全然結束感ねーなぁ』とか絶対言われるし!」

「何より物販で売れる。ここはお手頃に3000円ぐらいで」*9

(あれ、まともな値段だ……。原価1円の結束バンドと違って……)*10

「無難にロゴTでも良いんだけど……、それ以上の案が出たらじゃんじゃん採用するからね! 

 じゃあ、二人はお絵かき帳(これ)に書いてね。リョウは自前のタブレットPCがあるからそれで」

「ふたりちゃんは私と一緒に考えましょうね~」「は~い」「えっ」

 

 自然な流れでふたり()がいることが確定してしまった。

 流石に妹の前でははっちゃけられない*11って! 

 でも、喜多さんが招き入れてるのに外してもらうことなんてできない……、陰キャごときがスクールカースト*12最上位の意見を覆すことはできない! 

 ならば最善はふたりが自主的に出ていってくれること! さてどうする……、考えろ、ぼっち、考えろ~……

 

 お絵かき帳を前にあーでもない、こーでもないと考えるぼっち。

 バンド3人はそれを真剣に向き合っているものと捉えたが、唯一ふたりだけはぼっちの考えを薄々察した。

 もしも、これが初会合であればそれでも我を通しただろうが、喜多ちゃんは何時でも来てくれるため今日ぐらいは良いかと考えた。しかし、虹夏ちゃんは別だ。ならば然るべき対価が必要である。

 

 喜多ちゃんの元を離れ、ぼっちのもとに駆け寄るふたり。

 

「ねぇ、お姉ちゃん。アイス食べて良い?」

「えっ、別に食べればいいと思うけど」

「下の段のハーゲンナッツ」「ええっ!」

「それ食べながら、ムニヨンズ*13のアニメ見たいんだ~。ねぇ、ダメ?」

 

 この提案が渡りに船なことは間違いない。

 ハーゲンナッツ*14は惜しいが……、背に腹は代えられない。

 

「うん、いいよ」

「やったあ! そういうわけだから、ごめんね喜多ちゃん」

「あらそう。ハーゲンナッツなら仕方ないわね」

 

 どうやら一連の流れで喜多も色々と察したようだ。

 さして引き止めもせず送り出す。

 

「よ~し! 後藤さん頑張りましょう!」「は、はい……」

(たまにはみんなにいいとこ見せないと!)

 

 

 そうしてお絵描きを始めること20分。

 まず手が上がったのが喜多ちゃんであった。

 

「できましたー!」

「おっ! どんなのどんなの?」

「コンセプトは、友情・努力・勝利*15でーす」

 

 そこに書かれていたのは、『皆でつかめ! 勝利の華を ガンバレ! \優勝/結束バンド』

 ──もう明らかにロックバンドのTシャツではない。

 本編世界線ではこれ出しときながら『パリピバンド路線は辞めたほうが良いですよ』とか言っていたのだから驚きである。

 

「んん! 体育祭で見るやつ!」「うわっ、キツそう……」

「えっ、かわいくないですか?」

「郁代、あなた疲れてるのよ」*16

「そんなにダメなんですか!?」

「喜多ちゃん、優勝って何? ライブにそんな概念ないけど」

「んっと~。ノリです!」「ノリ?」

「だって~、こういうの着たらみんなの心が一つになる気がしません? 

 ねぇ後藤さ……、ん?」

 

 ガタガタと震える音に注視する三人。

 視線の先には白目をむいて震えるぼっちの姿があった。

 

(ク……、クラス一致団結……)

「ぼっちちゃん、体育祭に相当なトラウマが!?」「アウアアアウアアウアアアウアアウアウ……」

(体育祭……、それは陰キャのトラウマ学校イベント第1位! (カッコ)日本陰キャ協会調べ(カッコトジ)

 運動のできない者は煙たがられ、存在価値を奪われる忌まわしき祭典! 

 授業内だけでなく放課後も! 横断幕制作*17や応援練習に駆り出される強制労働! 『一人は皆のために! 皆は一人のために!』

 約一ヶ月、体育祭のためだけに生きることを強いられる拷問行為! 『一人は皆のために! 皆は一人のために!』

「アウアアアアアアアア、エアアアアアアアアアアアア……」

 

 青春コンプレックスのど真ん中を撃ち抜かれて再起不能になったぼっち。

 今度はスライムのようななにかに退化しつつある。

 

「後藤さん、溶けちゃいましたね」

「今日暑いからね~」

「エアコン下げとこう。22℃まで」ピッピッピッ

 

 完全にほっとかれるぼっち。

 もはや3人はいつもの事といった感じで驚きもしない。

 さっきの宝石化よりはマシな範疇というのもあるだろうが。

 

 そうこうしている間にも3人の作業は進んでいく。

 ──ぼっちはまだ帰ってこない。

 

「今日のぼっちタイム、CM挟めそうなぐらい長いね~」*18

「郁代が青春コンプレックスを刺激してばかりいるので、ぼっちは考えるのをやめてしまいました。郁代のせいです、あ〜あ」*19

「ええ!? 後藤さん戻って来てー!」

「はー、まったく。罪な女だね喜多ちゃんは」

「しょうが無い、ここは私が流れを変える」

「リョウはファッションセンスは良いからね。期待しちゃうよ~」

 

 そういってタブレットPCに表示されたのは、Tシャツを着てる人に自身のデザインを合成したコラージュ*20画像だった。

 いや、そこは良いのだが、問題は内容である。

 

「ん? ナニコレ?」

「カレーだけど」

「いや、そういうことじゃないんだが?」

 

 そして、その隣にはもう一枚画像が並んでいる。

 

「じゃあ、こっちは?」

「唐揚げ」

「なんで?」

「ぼっちのお母さんが昼何が良いって訊いてたから」

「普通に訊けよ!!」

「後藤さんはどっちが良いと思う?」

「ハッ! あ、その、わたしは唐揚げのほうが好きです……」

「じゃあ、そう連絡しておく」

 

 そう言ってロインを送る山田。

 

「ノルマ達成、ヨシ!」*21

「どこらへんでヨシと判断した?」

「あ、あの……、わたしのデザインもよろしいですか……?」

「おっ、次はぼっちちゃんか……、大丈夫かな……

「後藤さん、休みの間もずっと同じジャージなんですよね……」

「ぼっちはバンドTシャツいっぱい持ってるから、意外と期待できるかもしれない。

 アウトプットは母数が物を言うから」

「おー、そう言われると期待しちゃうな~」

「はい! 自信作です!」

 

 何時になく強気なぼっち。

 ──喜多はまた嫌な予感がした。

 

 おもむろに立ち上がるぼっち。

 お絵かき帳を横向きに持つ辺り、どうやら両面開きで書いた大作らしい。

 そして、お絵かき帳が開かれるとそこには……

 

 目に痛いほどの紅。

 何故か破けてるTシャツの裾。

 中学生の服にありがちな謎の英語フォント。

 あちこちに無意味に付けられたファスナー。

 たすき掛けされたチェーン。

 

 結論! ダサい! 

 

「ど、どうでしょう? おしゃれすぎますかね? 

 これだと、ライブ中服の方に目が行っちゃいますよね~」

 

 何時になく上機嫌なぼっち。

 これに真正面からダサいと切り捨てるのは流石に忍びない。なんとかマイルドに着地させなければ。

 即座にアイコンタクトを取る虹夏と喜多。先に喜多が仕掛けた。

 

「後藤さん。その大量のファスナーと鎖は何に使うの?」

「あっ、ファスナーはピック入れで、鎖はギターストラップにもなります」

「意外と実用的!」

「へへ、へへへへ……、じゃあこれが『採用』ということでよろしいでしょうか?」

 

 なんかくねくねし始めるぼっち。

 ここらへんで止めないとダメージが大きくなる一方だ。

 

「ぼっち、これは流石にボツ」

「真正面から言ったー!!」

「後藤さんは……、後藤さんは大丈夫なの!?」

 

「ハグッ、ゲグッ、ウッグググオオオオ」

 

「うわっ、なんかデスボイス*22みたいなのが漏れてる!」

「で、でも、なんとか正気は保っているみたいですよ!」

 

 どうやら、此処に至っても捨てきれぬデザインへの自信がなんとか正気を持たせているようだ。

 しかし、これは次の山田の一言で消し飛びかねぬ風前の灯火に過ぎない。

 

「別に内容は悪くないんだけど、ファスナー、鎖にダメージまで入れたら3000円に収まらない。

 物販で売るならコスパも重要だから」

「あっ、なるほど……。それなら仕方ないですね……」

「上手い! ぼっちちゃんの心理的ダメージを最小限に食い止めた!」

「先輩、流石です!」

 

 なんとかいい感じに着陸させることに成功した山田。

 陽キャ組の山田株がグーンと上がった。

 

 なお、本人は気遣いとかではなく、終始本音で話していた模様。

 山田的には金物はともかく、それ以外の部分はバンドTシャツってこんなもんだよなと思っていたようだ。

 もちろん、着たいかと問われれば即座にNOを突きつけただろうが。

 

「それじゃあ、大トリはあたしが努めましょう!」

「もう虹夏ので良いんじゃないかな」

「あっ、体育──、アレじゃなければいいかなと」

「せめて見てから言ってよ!!」

 

 全くもー、などと言いながらタブレットの内容を表示する虹夏。

 その内容は……

 

「普通だ」

「普通にいいですね」

「あっ、普通にいいと思います」

「ねぇ、それ褒めてるんだよね?」

 

『結束バンド』の文字列に締める方の結束バンドが上手くあしらわれた無難ながらシンプルなデザインのTシャツであった。

 デザイン性、コスパ、着やすさを兼ね備えたシンプルイズベスト的デザイン、こういうのでいいんだよおじさん*23も満足の一品だ。

 

(これなら、最初から虹夏ちゃんがデザインすればよかったのでは)

「ぼっちちゃん……。なら最初から、虹夏ちゃんがデザインすればよかったのでは……、とでも言いたげな目だね」

(し、思考が読めるのか……? まずい……) *24

「ふっふっふ~。ぼっちちゃんの考えてること、だんだんとわかるようになってきたかも~」

 

 そうして、Tシャツ制作が一段落してきた頃。

 

「みんな~、お昼ごはんできたわよ~」

「は~い、今向かいますね!」

「それじゃあ、Tシャツは虹夏案を採用ということで、早速お昼を食べよう。早急に」

 

 どうやらもう良い時間のようだ。

 作業を切り上げ、1階に降りる4人。

 昼食はリクエスト通りの唐揚げのようだ。

 

「奥がにんにく醤油で手前が塩こうじ。お好みでレモンと七味をどうぞ」

「「わ~! おいしそ~!」」

「いただきます。ハムッ」

「あっ、いただきます……」

 

 早速無言で掻っ込む山田。

 三人も遅れて手を付ける。

 

 

 そして、食事もスムーズに終了し、次は喜多ちゃんのターンだ。

 

「私からは……、コレです!」

 

 そうしてバッグから取り出されたのは、ブルーレイディスクのパッケージ。

 

「ねえねえ喜多ちゃん、それなぁに?」

「これね。すごくキュンとしておすすめなの~」

 

 そこには『君に思い思われ花よりキッス』*25と書かれていた。

 もうパッケージからしてキツイやつ!! 

 とはいえ、そんなこと声に出して言えるはずもなく、地獄の上映会は家族を巻き込んでぼっちに140分の拘束を強いるのであった。

 

 

 

 ー◆ー

 

 

 

「コヒュー、コヒュー、コヒュー」

「ぼっちちゃーん、生きてる?」

「お母様はあんなに楽しそうにしてたのに……、やっぱり後藤さんが突然変異なのね……」

「正直私も胃もたれした。今浮かれたカップル見たらガソリンぶちまけそう」*26

「唐揚げ食べ過ぎなんじゃないの?」

「十代の胃袋に唐揚げなど物の数にもならない。

 そもそも虹夏もコッチ側の人間でしょ?」

「いやいや、流石にあたしだって恋愛に興味ぐらいあるよ」

「そう言って何人の男を袖にしてきたのか。私が知るだけでも片手の指は超える」

「えっ! 伊地知先輩ってモテるんですね!」

「いや~、とは言っても話したこともないような人たちばっかだったよ? 甘酸っぱくなんてなりようがないって」

「『気持ちは嬉しいんだけど~、ごめんね~、今音楽のほうが忙しいから……』みたいな?」

「「うわっ! なんかすごく言ってそうです(なんでそれ知ってるの!)」」

「えっ?」「あっ」「やはり、か」(そもそも何度も告白されてるの!?)

 

 どうやら山田の当て推量だったようだが、ピタッと当ててしまう辺りは流石幼馴染といったところか。

 一方、なんか挙動が怪しかったぼっちの挙動がますますやばい感じになっていく。

 

(い、今はまだいいかもしれないけど……、何時か虹夏ちゃんが頷いちゃうようなスパダリ*27が現れるのでは!? 

『今日は彼氏くんへのラブソング書いてきたんだ~、ねぇリョウ、コレに曲つけてよ』『あ~、バンド練習ね~? 今日は彼氏が呼んでるからパスで、ゴメンネ!』、『あ~、虹夏なら最近帰ってないぞ。彼氏の家に入り浸って世話焼いてるって』『伊地知先輩、最近バイトにも顔だしてないですね……』『結束バンドはもう解散。私もこれからは曲作りに専念するから』。

 そして、そんな修羅場を何もできず見ているだけのわたし……。

 バンドは自然消滅……、虹夏ちゃんは結婚して、リョウさんもソングライターとして大成して、喜多ちゃんは人気イソスタグラマーになってる横で何者にもなれないわたし……。

 そのまま社会に出るも、ブラック企業にしか就職できず、ノルマもこなせず上司に詰められ、同僚からは笑いものにされるわたし……。

 結局うつ病になって、酒浸りになりながら在りし日の幻想に縋るだけのわたし……)

 

「うわらば!」

 

 突如頭と両腕が爆発するぼっち。

 どうやら脳が破壊されてしまったようだ。

 手と首もなく不動の直立を見せるさまはさながらサモトラケのニケ*28を連想させる。

 

「なんか、今日のぼっちちゃん何時にも増して原型とどめてないね」

「確かにそうですね。このレベルの変形は多くても週1ぐらいのペースのはずなんですが」

「まあ、今日の裏テーマが郁代を癒やす会である以上、その対極に位置するぼっちがこうなるのはある意味必然。

 回復魔法がアンデッドにダメージを与えるように……。まあ、嫌そうにしてなかったし気にしなくていいよ」

「それなら良いんですけど……」

「喜多ちゃんは頑張りすぎだったからね。正直、昨日の喜多ちゃんもこんなんだったし……」

「こんなんだったんですか!?」

「でもぼっちは意外といつも通りだったね」

「てっきり、喜多ちゃんの半分ぐらいはキてるかと思ったんだけど……、毎日ギター12時間とかぼっちちゃんでも大変じゃないかなーって「い、いえ、むしろいつもよりゆとりを持って弾けてましたよ……」」

「うわあ! いつの間に!」

 

 首が吹っ飛んだはずのぼっちがいつの間にか復活していた。

 

「い、いつもよりも喜多ちゃんのペースに合わせて、て、丁寧に時間使ってましたし、ボーカル練習もやってたのでむしろ普段よりも楽というか……」

「えっ、普段……、というか学校ある時ってどんな練習してるの?」

「どんな……、って言われると……、基礎的なウォーミングアップなんかは教本やビデオに習ってやってますけど……、それ以外だと、例えばリクエストが有った曲をTab譜*29を使わずに耳コピ*30で弾いたり書き起こしたり、時々気晴らしにパフォーマンス用の奏法とかやってみたりもしてますね……、電動ドリルも買ったんですよ……、ちゃんと『マキタ』のやつです……」

「電動ドリル!? ギター弾くんだよね!?」

「電動ドリル奏法は『光速のギタリスト』こと『Mr.BIG(ミスター・ビッグ)』の『Paul Gilbert(ポール・ギルバート)』が開発した奏法でより早くより速くを求めた結果行き着いたある種ジョークのような奏法。電動ドリルの先にピックを取り付けることでピッキングを超高速で行う事ができて、初めて使われた曲*31はOh!Tubeでも見れる。ちなみに、彼らが使ってた電動ドリルが『マキタ』製なのは有名な話。そこらへんぼっちはよくわかってる。彼ら以外にもあの『Van Halen(ヴァン・ヘイレン)』の『Eddy Van Halen(エドワード・ヴァン・ヘイレン)』もやってる*32し、変わり種だと『B'z』の『松本孝弘』がピッキングではなくピックアップにドリルのモーター音を拾わせて使用する例*33なんかもあったりとか……」

「ヨシ! もう十分わかったから!」

「先輩ってこんなに流暢に喋れたんですね!」

 

 珍しく流暢に話す山田。*34

 なんだかんだでこの2022年*35に休日をレコードショップでDig(ディグ)*36行為に費やすような音楽オタクだ。

 こういったことは話したくて話したくて仕方ないのだろう。

 

「おほん。

 とりあえず、ぼっちちゃんが大丈夫なのはわかったけど、喜多ちゃんが潰れたら元も子もないからね。

 こっちからもサポートはするけど、一番一緒にいることになるのはぼっちちゃんになるだろうから。

 昨日の喜多ちゃん、情緒が分かりやすくぶっ壊れてたし」

「えっ、あっ、あの……、喜多さん……。そんなに辛かったですか……」

 

 分かりやすく凹むぼっち。何なら少し泣いている。

 根が優しく、他人に害意を向けられない人間であるぼっちにとって、心身ともに多大な負荷を強いていたかも知れないという事実は傷をつけるには十分すぎた。

 

「いえ! そんなこと無いわ! 

 いや、確かに辛い所もあったけど……、それでも私が望んだことなの! 

 たったギター歴4ヶ月の人間が、後藤さんにも……、いえ、自分でも納得できるフロントマンになるためには必要なことだったの! 

 むしろ後藤さんの足かせになってないかのほうが心配だわ。さっきだって、いつもより楽だ、ってことは私のせいで練習の密度下がってるんでしょ?」

「そ、そんな事ありません! 

 わたしも喜多さんに教える度にいろんな発見があって、負担だなんてそんな事は……」

「そう……。

 だったらコレでおしまい! また明日からもいっぱいい~っぱい頑張って……、それで楽しいライブにしましょう? 

 後藤さんもそれでいいかしら?」

「はっ、ハイ! わたしも楽しいライブにしたいです!」

 

 どうやらなんとか着陸点を見つけられたようだ。

 このままだとぼっちの心理的ダメージが体育祭の比ではないレベルで後を引く危険性もあったため、この着陸点は最良に近いだろう。

 ──もっとも、自分で自分の背中を押してしまったせいで、喜多ちゃんの地獄問題はむしろ悪化したように思えるが。

 そこは先程の喜多の決意を信じる他あるまい。

 

「うむ。では、バンド内の諸問題が解決したところで私が最後のプレゼントをお見せしよう」

「えっ! 先輩が私のために……」キュン

「リョウがプレゼント? 妙だな……」

 

 そう言って取り出したるは先程Tシャツデザインに使用していたタブレットPC。

 そして、それを操作すると音楽が流れ出す。

 

「バンドマンのプレゼントなんて新曲一択」

「それ悪い方のパターンでだよね」

 

 そこから流れてきたのは、一言で言えば如何にも山田リョウが好きそうな感じの音楽であった。

 イントロから全開になってる5/4の変拍子*37から4/6と4/4の単純拍子の複合。

 そこから4/4ながらシンコペーション*38を効果的に用いて独特のリズム感を印象付けるAメロ。

 今までとは打って変わってサビ前の溜めとして大人しくなったBメロ。

 そこからはBメロから一気に弾けさせた王道進行*39のサビはAメロと同じ曲とは思えないような素直さと疾走感にあふれている。

 そして、抜けるようなアウトロで〆られ、楽曲は終了した。

 

「というわけで手慰みに作った4曲目(仮)でした。残りは後で共有に上げておく」

「「「おお~」」」パチパチ

「しかし、これはまたリョウの趣味全開って感じだね~」

「うん、今回は結束バンドというか山田リョウ100%で作ってみた」

「け、結構難易度高めですね……」

「と言うより、今までの曲がだいぶ素直に作ってある。実際、演りやすくなかった?」

「それは確かに……」

「そんな隠れた思いやりが……、流石先輩です!」

「あっ……、確かにテンポが早いことを除けば初心者でも弾きやすい感じでしたね……」

「でも、この曲は完全にそう言うのうっちゃった感じだよね」

「この曲は今日限りのサプライズってことで、実際にはもう少しレベルアップしてから弾いてもらおうと思ってる」

 

 山田としてはライブまで過密スケジュールで過ごすだろう喜多がその後に燃え尽き症候群にならないように、と言う意図もある。

 ライブはゴールではなく数あるチェックポイントの一つでしか無い。

 次のわかりやすい目標を具体的に見せておくのはそう悪いことではないはずだ。

 

「先輩……、私、もっともっと頑張ります!!」

 

 喜多ちゃんとしても自重なしの山田リョウの楽曲をぜひ弾いてみたいという気持ちは強い。

 元々山田に憧れてバンドマンしてる身である。喜多の情熱に火をつけるには十分すぎるほどの効力を発揮した。

 

「おおっ、喜多ちゃんが燃えている……!!」

「暑い……、エアコンもっと下げよう……」ピッピッピッピッピー

 

 その情熱が物理的な熱量を伴って当たり一面に熱風を吹かせる。

 今喜多の五体には太陽をも凌駕する熱が宿っていた。

 

「あっ、じゃあ練習の強度もっと上げましょうか」

「えっ?」

 

 そして、一瞬で鎮火した。

 ロウソクのように儚く消えた。

 

「寒っ、温度あげよう」ピッピッピッピッピッピッピッ

「明日からのメニューも変えないとな……、せっかくだし、よりプレッシャーを与える方向性に……」

「ちょっと!? 後藤さん!?」

「声量がもっとほしいし……、できれば交差点の端から端で会話できるぐらいには……、筋トレ入れてみるか?」

「あ~、まあ、またダメそうなら割って入ればいいか「ちなみに私達も猛特訓するからね」えっ?」

「ぼっちに追いつくならまず同等の練習から必要。大丈夫、店長には根回ししてある」

「そこまで言われちゃしょうが無いな。よーうし、結束バンド! 頑張るぞ!! オー!!!」「おー」

 

 そうして、儚い休日は終わり、また特訓の日々がやって来る。

 しかし、苦難はそれだけにとどまらない。

 当人の努力だけではどうにもならぬ厄災というものがこの世には存在するのだから。

 

 8月14日、日曜日の18時、ライブ開始直前。

 天気は電車も止まる荒天。ノルマも何もあったものではない、ある意味初日以上にアウェーな状態にてライブは始まることとなる!

*1
なお、9月

*2
相手に共感、感情移入できる感覚のこと。類義語にシンパシーがあるが、あちらはもう少し同情的な意味合いを含む。

*3
この世界線ではぼっちにパリピや喜多ちゃんが憑依していないため、盛り塩も御札も存在しない

*4
『これ……、母さんです』はことぶきつかさ氏のパロディ漫画の方で大本は微妙に違う。元ネタはアニメ『機動戦士(ヴィクトリー)ガンダム』よりみんなのトラウマもとい主人公の母親の死亡シーンから。主人公の母親が敵モビルスーツ(ロボットみたいなもん)の手に生身で握られて肉の盾にされると言う状況、主人公はなんとか敵モビルスーツを行動不能に追い込み、敵地上戦艦(デカいバイクみたいな形の二輪走行戦艦)の第一砲塔付近に不時着させる。母親を救出しようとする主人公であったが、その戦艦に先行していた別地上戦艦が操縦ミスにより跳ね上がり、第一砲塔付近に後輪をぶつけてしまう。間一髪かわす主人公であったが、敵モビルスーツとその手に握られていた母親は避けきれずに後輪に潰され、母親のヘルメットが飛ぶ瞬間を目撃してしまう。その後、なんとかヘルメットを回収し、上官に向けて説明する際に上の空になりながら言い放ったのが『わかりません……、母さんです』というセリフだった。夕方放送なため、直接的な生首は描写されていないが、明らかに中身入りのヘルメット、滴る血液、中を見た上官や周りの人の表情などから、ただの生首よりもよほどキツイと評判であり、ただでさえ鬱々しいと評判の(ヴィクトリー)ガンダムにおいてなお最もトラウマになったシーンとして上げる人も多い。

*5
ジーグブリーカーとは、1975年放映のロボットアニメ『鋼鉄ジーグ』の必殺技の一つである。原作が『マジンガーZ』や『デビルマン』の『永井豪』氏ということもあり、なかなかに荒々しい部分が特徴的。主人公ロボットの『鋼鉄ジーグ』は電磁力(マグネットパワー)で合体すると言う設定で、必殺技にも電磁力(マグネットパワー)を利用したものが多い。ジーグブリーカーもその一つで、型としてはほぼプロレスのベアハッグに近い。相手を体ごと抱き寄せて締め上げる技で、作中ではまず電磁力(マグネットパワー)の引力を全開にすることで相手を自身の胴体付近に引き寄せる。引き寄せたら相手の胴体に抱きつき、腕で締め上げる。この際、電磁力(マグネットパワー)で締め上げるパワーを強化。そのまま胴体を真っ二つにする勢いで抱き潰すというおおよそ正義側とは言い難い物騒な技である。ネットでは作中で発せられた『この野郎! ジーグブリーカー! 死ねぇっ!!!』というセリフが印象的だったためか、ジーグブリーカー→死ねぇっ!!! までがセット扱いされている。なお、作中では『ジーグブリーカー! 死ねぇっ!!!』のセリフは1度しか言っておらず、しかもその際は敵の抵抗で失敗してさえ居た。

*6
→($o$)

*7
元ネタは芸人トリオ『ダチョウ倶楽部』の定番ネタの一つ。リアクション芸、熱湯風呂の中のお約束ギャグで、熱湯風呂に入ろうとして怯んでる時に『押すなよ、押すなよ、絶対に押すなよ!』と言われた際に、『絶対に』と言い終わったタイミングで熱湯風呂に突き落とすまでが一連の流れになる。ここから転じて、『絶対に』〇〇するなよ!=やれ、と言った意味合いで使われる事が多い。なお、変形版として、『絶対に押すなよ!』→ほんとに押さない→『押せよ!』というバージョンも有る。

*8
ぼっちは50kgあるはずだが……。まあ、50kgは人間形態の重さってことで。

*9
ANIPLEX公式サイトより、結束バンドTシャツ3000円で販売中! 黒の作中カラーと各メンバーのパーソナルカラー4つを含む全5色。その他グッズも販売中だ! 

*10
公式では500円の『結束バンド』の『結束バンド』をぼったくり適正価格で販売中! こちらもTシャツと同じく5色あるぞ! 500円だけあってか使い回せるタイプなので安心して使ってもいいよ! 

*11
玄関でパーティーグッズ満載で待機してたやつのセリフか? 

*12
簡単に言えば陽キャが上で陰キャが下ってことなんだ。一般的には学校で自然発生するグループとそのグループ間で発生する上下関係、およびそれに伴う軋轢やいじめ等の問題の総称。もっぱらネガティブな意味でしか使われない。スクールカースト=アメリカのイメージが強いが、日本でも階層名が違うだけで普通に使用される用語である。日本では1軍、2軍、3軍で分類され、それらはおおよそコミュニケーション能力で決定される。この場合のコミュ力とは、自己主張による一時的または恒久的なリーダーシップ、共感および共感したことを的確に伝える事による人望獲得力、空気読みなどの同調による集団で失敗しない能力を差す。これらの内、3つあれば1軍、どれかあれば2軍、全部無ければ3軍と呼んで差しつかえないだろう。これらによる階層化は特に閉鎖的環境になればなるほど起きやすく、逆に塾やスポーツクラブなどの学校外コミュニティの有無、受験などによる進学先の分散、学校選択制による中学校での環境リセットが可能などの開放的条件が多いほどマイルドになる傾向がある。

*13
『ミニオンズ』はアニメ映画会社『Illumination(イルミネーション)』による長編アニメ映画。黄色い肌と一つ、または二つの大きな目玉、青いオーバーオールと複数の言語が混ざったミニオン語と呼ばれる独特の言語が特徴のミニオンたちがわちゃわちゃする感じの映画、でだいたい合ってる。元々は同スタジオによるアニメ映画『怪盗グルー』シリーズのスピンオフ作品であり、同シリーズに登場する主人公『グルー』の子分たちという立ち位置であったが、そのマスコット的人気からスピンオフが作られ、そちらの映画が『アナと雪の女王』に継ぐ歴代2位のアニメ映画という記録を叩き出した(本編シリーズも売上や賞レースと言う意味ではミニオンズにも負けないほど売れていることは留意して欲しい)。また、マスコットだけあってか主人公よりもグッズやテーマパーク、ビデオゲームなど数多くのフランチャイズ展開に向いていたようで、特に子供からの知名度や好感度は完全に逆転したといってよいだろう。

*14
アメリカ発祥の高級アイスメーカー。ちなみに、社名の由来は完全造語で、酪陽が盛んでアイスクリームのイメージが強いデンマークの首都『コペンハーゲン』。それに特に意味がある訳では無いが語感がいい『ダッツ』を付けたある意味いい加減な名前である。現在ではコンビニやスーパーなどで見かけるのが一般的だが、日本初上陸の1984年頃は完全専門店であり、高級路線による大人向けアイスと言うアプローチとカップサイズ販売という高級感と手の出しやすさを両立した販売手法によって一気に拡大。しかし、1999年を境に店舗販売を辞め、2023年現在では御殿場プレミアム・アウトレット店の1店舗以外は全て閉鎖された。もっとも、それらは経営不振などではなく、現在でもあらゆるコンビニ、スーパーにて高級アイスの座をほしいままにしている事実から見ても、単なる経営戦略の変更による物であることは疑いようもないだろう。

*15
別名ジャンプ三原則。週刊漫画雑誌『少年ジャンプ』がこれをモットーとして作品を作っているとされ、ジャンプ以外でも少年漫画の王道パターンの一つとして広く認知されている。とは言え、これがジャンプのメインストリームになったのは80年代の高度経済成長からバブル期の間頃からで、その頃から努力→友情→勝利→もっと努力→新たな友情→さらなる勝利のようなインフレスパイラルに組み込まれることで王道化、長期連載化が進行し、今のジャンプカラーが良くも悪くも定着していくようになる。もっとも、これは実は公式で明言しているものではなく、これら3要素が全くない作品が少年ジャンプに連載される例も珍しくない。歴代の編集長にしても『友情と勝利は正しいが、子供は努力が大嫌い』、『漫画はキャラクターが命なんだから、友情・個性・勝利というようにしている』と発言するなど、内部でさえ肯定的に捉えられていない面もある。とはいえ、少年漫画といえばで今でもイメージされるものではあるし、的を射た答えの一つであることは間違いないだろう。

*16
『モルダー、あなた疲れてるのよ』。元ネタはアメリカのドラマシリーズ『X-ファイル』より、主人公モルダーが突拍子もない推理や発言をした際に相棒のスカリーがなだめるように言うセリフ。ちなみに何パターンもある程度には言われているのだが、じつは上記の言い回しは確認されていない。元ネタのドラマがオカルトと未解決事件を題材にし、かつオカルトに肯定的な主人公と否定的な相棒という立場で進行されるため、その度に上記に類似する言い回しで窘められるのだが、ドラマの都合上だいたいそうなってしまうところまでがお約束とも言える。ネットスラング的には支離滅裂な発言や常識的に考えておかしな行動をとった際に使われる。これにはネット文化特有のスキあらば煽る部分が多分に含まれるため、大体はバカジャネーノと言ったニュアンスになってしまうことも少なくない。まあ、直接言うよりは奥ゆかしいんだろうが。

*17
その経験が最近活きたわけだが何の慰めにもならない

*18
アニメでは実際にCM跨いでも復活してなかった

*19
元ネタは2020年投稿のネタツイートから。全文は『見て! サボテンが踊っているよ かわいいね みんながインターネットで争ってばかりいるので、サボテンは踊るのをやめてしまいました お前のせいです あ〜あ』というツイート。ほんわかとした雰囲気からいきなりインターネット全体と自分のせいにする温度差が受けたのか、多くの派生ツイートが作られ、インターネット・ミームの一つとなった。

*20
フランス語で糊付けを意味する絵画手法の一つ。従来の絵画のように絵筆で描くのではなく、新聞の画像やポスター、書類や風景写真などを切り貼りして作品を作るのが特徴。ネット上においては複数の画像を編集して組み合わせることで作られる画像のことを指し、明らかに無理やり合成してる感をあえて出す雑コラ、漫画のセリフや一部表情だけを変えてネタに昇華するコラ画像、背景を変更して全く違う感じの画像に変えてしまう宇宙猫のようなものもコラ画像の一種である。特にコラ画像でイメージされやすいのは『ふたば☆ちゃんねる』だろうか。ここは画像中心の掲示板だけあり、どこかで見たことあるネタコラ画像は大体がここ発祥と言っても過言ではない。ナルトのネタ画像とか。

*21
インターネットミーム『現場猫』のこと。建築・製造業の現場におけるブラックなあるあるネタをぶち込むキャラクターとして話題になり、次第にそれら以外の内容でも現場猫コラが作られるようになっていった。山田が発した『ヨシ!』とはそういった現場における指差し確認のことで、本来なら安全確認のために行うのだが、コラでは明らかに大丈夫でないものを楽観や面倒くささでヨシ!(ということにする)という使い方が一般的になっている。そして当然事故る。ちなみに虹夏の発したセリフ元の『何を見てヨシと判断したんですか?』という事故後にずさんなチェックを詰めるような内容も時折セットでついてくる。これらを総称し、安全管理を軽視して怠惰や楽観で事故を引き起こす、またはその一歩手前まで進めてしまうことを『現場猫案件』などと呼んだりする。特に大型の機械を扱う場面では事故った時の被害がシャレにならない場合がほとんどである。くれぐれも、しっかりと本当に確認してから『ヨシ!』と言って欲しいものだ。

*22
その名の通り、デスメタルで多用される独特の歌唱法のこと。ちなみにデスボイスは和製英語で、英語圏ではガテラル、グラウルなどと呼ばれる。発声の際に横隔膜や喉を使って声帯を狭め、振動するように発声することでわざと(しわが)れた声を出す手法のこと。ちなみに狭めるのと締めるのは違うので注意すること、喉が絞まると安定した声量が出せなくなる。その名の通りデスメタルなどで多用され、発祥も80年代頃のデスメタルから。デスメタルやハードコア系ジャンルの攻撃性や世界観を伝えるためにとても有用である一方、その汚いとも取れる声色から一般受けしにくく、間違った発声法を用いると喉に腫瘍やポリープができやすくなってしまうという欠陥を抱えている。やる際は、ちゃんとプロに習ってからやるように。

*23
『ほー いいじゃないか こういうのでいいんだよ こういうので』。元ネタはグルメ漫画『孤独のグルメ』より、主人公がシンプルなハンバーグランチを頼んだ際の感想。ネット上での使い方は無駄のないシンプルな機能や展開、余分なものを取り払った原点回帰的なものへの称賛(と無駄なものを付け足したがる人間への皮肉)として使われる。派生として、こういうのでいいんだよおじさん『こういうのでいいんだよ』というシンプルな感想として用いられるものもある。

*24
元ネタは漫画『鬼滅の刃』より、通称パワハラ会議と呼ばれるラスボスと幹部格5人との会話シーンより。12人いる幹部格の中で下位6人(通称下弦)のうち一人が主人公チームに倒され、どうしてお前たち(下弦)は弱いのだと詰め寄る際に一人が内心で『そんなこと俺たちに言われても……』と考えていた際にその考えが筒抜けになっており、『何だ? 言ってみろ』→『思考が……読めるのか? まずい……』→『何がまずい? 言ってみろ』と返され、結果的に命乞いをしながらラスボスに殺されるハメになった。その後も一人を残して(弱い順とは言え)幹部格をラスボスが4人もぶっ殺すという展開が強く印象に残ったのか、読者以外にもこの一連の流れがパワハラ会議として愛されるようになった。

*25
元ネタは青春映画を幾つかミックスしたものと思われる。それぞれ、2010年公開『君に届け』、2020年公開『思い、思われ ふり、ふられ』、1995年公開『花より男子』、2011年公開『Paradise Kiss(パラダイス・キス)』の4つ。パッケージ写真は2015年公開『orange -オレンジ-』が元ネタと思われる。どいつもこいつも陰キャなら胃もたれ確実なラインナップとだけ言っておこう。作者には確認する気力はない。

*26
元ネタはバンド『ネクライトーキー』より『浮かれた大学生は死ね』。厳密には作詞作曲担当がボカロ曲として発表した曲のセルフカバー。楽曲の内容はシンプルに言えばリア充爆発しろであり、鴨川沿線(カップルが大量発生する名所)にガソリンぶちまけて点火したい、電車でいちゃつくカップル共に点火してやりたいなどの物騒な歌詞が流れ、『浮かれた大学生は死ね』で〆られる楽曲。ぼっちが好きそうな感じの曲で、そもそも『ネクライトーキー』がこんな感じの世界観のバンド(名前の由来が『根暗』+『話す人(トーキー)』だし)のため、陰キャの方々は一度聞いてみるのも良いかも。

*27
スーパーダーリンの略語で、人間的、社会的に完璧な彼氏を指す概念。元々はBL用語で、ぶっ飛んだスペックを持つ魅力的な変人の意味合いが強かったが、近年一般化した方の単語としてはごくごく普通の意味で魅力的な彼氏のことを指すようになった。

*28
有名な大理石彫刻の一つで、翼を持つ勝利の女神『ニケ』をモチーフとした像である。サモトラケとはこの像が発見されたエーゲ海の島『サモトラケ島』に由来し、作者は現在を持って不明である。特徴として、両腕と頭部が存在しない状態で発見されており、失われた顔と両腕がどの様になっていたかが未だわかっていない点が上げられる。それ以外にも、ひねりを加えた躍動感のあるポーズ、服のシワ一つ一つや透けて見えるへそやボディラインの完成度など、両手と首の欠損という特異な点を差し引いてもギリシア彫刻の傑作と言って差し支えない完成度となっており、むしろその損傷がこの彫刻の人外的神秘性を高めているとの声も根強い。余談だが、『ニケ』は世界的スポーツ用品メーカー『ナイキ』のギリシャ語読みであり、ロゴマークもニケの翼を意識して書かれている。

*29
ギターやベース専用の楽譜のこと。弦に合わせて五線譜ならぬ六線譜となっており、上が1弦で下が6弦、書かれている数字は抑えるべきフレット数で0の場合は開放弦(弦を抑えないが、弾くべき弦のこと)、空白の場合は弾かないようにする弦となる。ちなみに、ベースの場合は基本4弦のため、Tab譜も四線譜になっている。以前話した各種ハンマリングやタッピング、ミュート等も記号として盛り込まれているが、多いため割愛する。

*30
もちろん楽譜を用いての練習は大切なのだが、演奏者特有の癖やエフェクターなどの調整は記載されていないため、中級者以上になる場合には耳コピでTab譜に頼らずに弾いてみたり、逆にTab譜として書き起こして見るのも良い勉強になることだろう。売れ線だいたい弾けるというぼっちはおそらくだがこの練習方法を重点的に行なっており、それによってより実践的な音楽スキルを身に着けたものと思われる。耳コピには効果的なコードの使い方がわかる、些細なリズムやニュアンスを感じ取れるようになる、コピー演奏し難い部分が自身の課題として見つかるなどの効果がある一方で慣れないと1曲を書き起こすだけで1日作業になってしまうこともザラにある。単純に弾くだけでなく、そういったトレーニングも含めてのギター毎日6時間なのではないかと作者は思う。

*31
『Daddy, Brother, Lover, Little Boy [The Electric Drill Song]』。副題に電動ドリルソングとついてる辺りお察しのとおりだ。意外とちゃんとした音になっており、単なるネタではなく一個の奏法と呼ぶに値する物があると思う。

*32
『Poundcake』。こちらではイントロでいきなり使用されており、ギターとモーターの間の子のようなサウンドは正しくこの奏法でしか出せないオンリーワンの魅力があると思う。あまりにも鮮烈すぎたせいか、先駆者のポール・ギルバートを差し置いてこちらがオリジナルと思っている人も少なくないようだ。

*33
『裸足の女神』。2番後のギターソロ終盤で使用されている。多分言われないとドリルだとは気づかないのではないだろうか? 作者は無理です。

*34
ヲタク特有の早口

*35
作中時間

*36
Dig(ディグ)=掘ると言う意味で、スラングとしてはいい音楽やアーティストを探し当てる行為として使われる。元々はHIPHOPのDJやトラックメイカーが掛けたい音楽を探す行為として使われており、レコード全盛期には棚やワゴンにレコードがパンパンに詰まっている光景も珍しくなく、それから一つ一つレコードを取り出す行為と金鉱掘りのように当たりを掘り当てるさまを引っ掛けてDig(ディグ)ると称した。現在ではストリーミング配信が主流でレコードに限らず物理媒体が希少種側になりつつあるため、良質な音楽を探す行為を媒体問わずまとめてDig(ディグ)ると称するようになっている。しかし、ストリーミングが主流になったとは言え、未だ古くに解散したバンドやインディーズのバンドはCDなどの物理媒体が主流なことも少なくない。そういった意味では2023年においてもレコードショップでDig(ディグ)る行為は作曲者として音楽的な幅を広げるためにも、なにより純粋に音楽オタク的側面が強い山田としても必要不可欠な行為であるといえよう。

*37
2拍子と3拍子の組み合わせからなる拍子のこと。5(2+3)/4や7(2+2+3)/4、場合によっては8(2+3+3)/4も含む。どの場合でも、足し算の順番を変えることでアクセントの位置が変わるため、同じ拍子でも印象が違ってくることが大いにある。例えば2+3の5拍子なら『強、弱、強、弱、弱』の順だが、3+2の5拍子なら『強、弱、弱、強、弱』の順にアクセントが付き、リズム感が全く違って感じる。

*38
本来アクセントが付かない位置にアクセントを置き、直後の本来のアクセントを休むことでより複数かつ特徴的なリズムを付ける手法。アクセントは基本的に表拍につくため、例えば4/4拍子が2つなら『強、弱、強、弱、強、弱、強、弱』となり、1、3、5、7つ目が表拍としてアクセントが付く。コレにシンコペーションをかける場合、一例として『強、弱、強、強、休、弱、強、弱』となり、1、3、4、7つ目にアクセントが付くことで、単純拍子でも跳ねたようなリズムを取らせることができる。この際、必ず休みを入れないと、音で頑張って強弱をつけようとしても跳ねたようなリズムには決してならないことに注意。逆にしっかり休ませれば、音に強弱をつけなくても勝手にアクセントが移動したように感じる当たりは人体の不思議である。

*39
別名4536進行とも。4536の由来は、コードを数字で読み替えるディグリーネームという呼び方において、基準(キー)音をドのCコードで1、レのDコードを2とした際、4(F)5(G)3(Em)6(Am)の順に流していくことから来ている。ちなみに、この例はCを基準(キー)にした場合であり、キー音を上下させればディグリーネームは相対的にずれていく。カラカラの場合はキー音+2してEが基準(キー)のため、4(Am)5(Bm)3(G)6(C)となる。王道というだけあって、数多くどころか大体の楽曲において全体的、あるいはサビだけなどの部分的に用いられており、王道進行でググれば山のように出るため此処では割愛する。




 今回も高評価を頂いた、以下の方々に心より感謝を。
 敬称略です。
 ☆10 とまけちゃ
 ☆9 小説を読む人 櫛花木ノ実 たろう8888 ハイネケン 七枝八重道灌 TORUMU ヨミタカ 宇治川ゐ太

 一時的とは言え、日間ランキング17位にいたりしてびっくりしました。
 ホントに有り難い限りです。
 そのタイミングで更新できてれば理想的だったんでしょうが、結局あれこれやってる内に2万字に迫る勢いまで進んじゃってるし……
 まあ、それでも評価して頂いてる方も増えたので大変ありがたいですがね。

 次回はいよいよライブ回。
 不発弾の数々がいよいよ爆発するのかどうか。
 それは次回のお楽しみということで。
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