【完結済】MASKED GUITER HERO ぼっちちゃん 作:リチウム
後編が長くなりそうだったため短め8000字ちょいですが、ここで投稿しておくことにしました。
ついに、中学の文化祭で何があったのか、その全貌が明かされる回となっています。
今回も、お気に入り、高評価、感想、ここすき等お待ちしております。
審査は問題なく終わった。
後藤ひとりは合格し、晴れて後夜祭の出場資格を得た。
ちなみに文化祭にしなかったのはあくまでもバンドメンバー探しを主としたいという理由と後夜祭には部外者がいないからである。
演奏もつつがなく終わり、周りの人間からも一定の評価を得た。
──と言うのはあくまでも客観的な評価である。主観的には違う。
というのも、今日のひとりの演奏はギターヒーローとしてみれば最悪と称して違いないレベルであった。
切れないストローク、甘いミュート、もたつくテンポ、音の外れもしばしば。
しかも、今回はギター以外は音源を使用しているため、将来の結束バンドでの演奏時のような人と呼吸が合っていないなどという言い訳は通用しない。今日は純粋に下手だった。
もちろん、ギターヒーローを基準に考えるからダメなのであって、こう言ってはなんだが今日の出場者の中では頭ひとつ飛び抜けていた。
しかし、ひとりはそうは思わない。思えない。
少なくともこんなダメダメな演奏ではバンドメンバーどころか当日に大恥を掻くだけで終わってしまうことだろう、と思っている。
演奏直後は声をかけようとしていた周りの人間も、その暗い空気にアテられてどうにも近寄ることができない。
結局、ひとりはそんな暗いものを抱えたまま、帰路に着くのであった。
◆ ◇ ◇
「う~ん、緊張しない方法か~」
帰宅してしばらく、仕事から帰ってきた父親に今日のことを相談することにした。
何を隠そう父親は元バンドマンである。しかも、ある程度実力を持ち、ライブ経験も豊富な。
今使っているこのブラック・ビューティーも元は父が使っていたものなのだ。
こういった事態に頼るのは必然と言えよう。
「こう言っちゃなんだけど、コレばっかりは数をこなして慣れるのが一番だからね。
いっそ、路上ライブとか……は無理そうか」
ぼっちの全力拒否が発動する。
そもそもいきなり単独路上ライブなど一般人でもハードルが馬鹿高い。
「う~ん、じゃあ聴いてくれる友達とか知り合いは居るかい? その人達の前でだったら……あっ、コレもダメと……」
マイルド案もぼっちがぼっちなせいで却下された。
「そうだな~……、あっ、じゃあコレなんてどうだろう!」
そう言って席を立つ父親。
自室に戻り、暫くして戻ってきたときには奇妙な仮面を手にしていた。
その仮面は明らかに鉄でできており、パーツも無骨なリベット*1で止められた厳つい印象を与えるものである。
「えっと、ナニコレ?」
「いや~、見られることが緊張につながるならあんまり見えなければ良いんじゃないかと思ってね。
ほら、ひとりの実力なら手元があんまり見えなくてもミスらないだろう?」
「まあ、それはそうだけど……、そもそも派手すぎない?」
父が持ってきた仮面は明らかにコスプレの簡単なやつで済むレベルでは無かった。
さながら本職の囚人が着けられるような風格さえ漂う無骨さである。
「でも、文化祭の日ってハロウィンだろ? むしろコレぐらいやった方が返って良いんじゃないか?」
「ハ、ハ、ハ、ハロウィン!?」
ハロウィンって、あのハロウィン!?
あの、渋谷のスクランブル交差点で陽キャがウェーイってやってるあのハロウィン!?
い、陰キャのわたしにそんなことが許されていいのか!?
陰キャの分際で浮かれてコスプレして返って浮く羽目にならないか!?
「別にずっと着けるわけじゃないよ、演奏する15分ぐらいでいいんだ。
それ以上着けると面倒だろうし。なんだったら、他のやつでも良いよ」
「そもそも、お父さんはなんでそんなの持ってるの……?」
「それはね、ひとり。ライブっていうのはエンターテイメントなんだ。音楽だけじゃない、色々な非日常をひっくるめた体験がライブなんだよ。だから季節のイベントではコスプレすることもあるし、演奏とは関係ないパフォーマンスも覚えておいて損はないんだ。
ジミヘン*2なんかも演奏面もそうだが当時の一般層には派手なパフォーマンスの方が印象深かったりするしね」
つまり、バンドマン当時ライブで使っていたものの一つなのだろう。
──流石に常用していたわけではないと思いたい。
「まあ、この仮面は大げさかもしれないが、ライブ用の自分を作るというのも手段ではある。
仮面や派手なメイクもそうだけど、それがなくても普段とは違うキャラ設定を持ったバンドはいくつもあるからね。
なんなら、ギターヒーロー名義で出てみるかい?」
「いや……、それは流石に……。
あれ? なんでギターヒーローの名前が……」
「だって、ひとり、Oh!Tubeにその名義でギター動画投稿してるだろう?」
「な、な、なんでそれを……」
「だって、そもそも投稿用のアカウントがファミリーアカウントだし」
「ムギャオー!!!」
それはつまり……、動画の概要欄も見られているわけで……
つまり、あの虚言の数々も家族にバッチリ共有されているわけで……
ひとりのなけなしの羞恥心が文字通り火を吹いた。
「あ、あ、あうあ、あああ……」
「ちょ、ひとり! 大丈夫かい! しょ、消化器! 消化器は何処に!」
その後、なんとか燃え移る前にぼっちの鎮火には成功したものの、一面を泡だらけにしてしまい、二人揃ってお説教と片付けを命じられることとなったのであった。
◇ ◆ ◇
時は進む。
ぼっちは未だ解決策を見いだせず、妥協案として父の提案を部分的に採用した。その手段とは顔を包帯で隠すというものである。
よくよく考えればあくまでも実力を見せつけてバンドメンバーとして声をかけてもらうための後夜祭である。顔を隠してしまえばわたしだと気づかれない可能性は高い。出演前に紹介されるだろうが、そいつと後藤ひとりがちゃんと頭の中で一致してもらわなければ困るのだ。
しかし、現状では人前でちゃんとした演奏はできない。そのため、わたしと分かる範囲で顔を隠す手段を模索した結果がコレだった。
一応ダメ押しとして一番目立つプリントのバンドTシャツも用意し、文化祭当日はそれを着て歩く予定である。
こうすればその後に包帯で顔が少し隠れても包帯人間=後藤ひとりが成立するだろうと言う算段だ。
そして、その文化祭当日がやってきた。
クラスの出し物は幸いなことにお化け屋敷や喫茶店などの統一した服装が不要なものであったため、ひとりは予定通り目立つバンドTシャツで学園を練り歩いていた。
──10分ぐらい。その後は人通りの少ないところで演奏の最終調整を行っていた。
学園をしっかり練り歩いたからヨシ! とぼっちの脳内ではなっているがどう考えても10分程度歩いたぐらいで印象に残せるとは思えない。
ましてや今日は
文化祭はつつがなく進行し、締めの挨拶を経ていよいよ学生だけの後夜祭の始まりである。
出番まで1時間強程度あるのに、既に心臓が爆発しそうだ。
(わたしの出番は18:45……。
──あれ、よく見たら大トリになってない!?)
今まで自分の出場時刻だけに注意していたぼっちであったが、ようやく重大な問題に気づく。
大トリ。
終わり良ければ全て良しと言う言葉もあるように、ここの印象一つでイベント全体の印象がガラッと変わってしまう重要な役割である。
特にプロでもなんでも無い学生のイベントであればグダグダに失敗する人間も多いであろうと考えればなおのこと大トリだけは一番いいのを置きたいと考えるのが心理というもの。その役割がぼっちに与えられている。
実際にはそう不思議なことでもない。単純に事前審査で一番クオリティが高かったというのもあるし、こう言ってはなんだがクオリティとは別の所で盛り上がりを期待できる人気者なんかは大体文化祭本体に行っていて後夜祭用の出し物まで手が回っていないのだ。
その結果がコレである。
ただでさえプレッシャーがかかるぼっちにさらなる重圧が畳み掛ける。
顔色はもはや土気色になってきており、仮に包帯を巻いていなければ保健室に搬送されていてもおかしくないレベルである。あるいは逆にゾンビとしてのクオリティの高さを評価される可能性もあるが。
次々と演者が出し物を披露する裏で、ぼっちはギターを抱えて震えていた。
もはや脳内を埋め尽くすのは自身の軽率な行いへの後悔ばかりだ。
逃げ出したい。どうしてこんな事に。せめて大トリでなければ。今更どうすれば。
もはやぼっちの精神は今にも吹き飛ぶ藁の家に等しい。逃げ出さないのは責任感やそれでも弾きたいなどと言ったポジティブな感情ではなく、単に逃げる決断さえできないだけに過ぎない。あるいは腰も抜けているのかもしれない。立ち上がろうとする気力も無いのでわからないが。
呼吸は浅く、焦点は乱れ、指先は震え、声は出せず。それでも時は進む。
もはやぼっちの意識は極限状態に達し、五感も機能しているかも怪しい。
ここに至り、ぼっちは自身をまるで幽体離脱のように客観的に見ていることに気がついた。
厳密には過度のストレスが五感を麻痺させ、ぼっちから現実感を奪っているに過ぎないのだが、それでも薄ぼんやりとした意識の中でかえって冷静になった自分がいた。
冷静に暴走した思考は後藤ひとりの命題を暴き出す。
元々はテレビで聞いた『バンドは陰キャでも輝ける』の一言から始まった。
ギターを選んだのは父親がギターを持っていたからで、ギターに強いこだわりがあったわけでもなかった。
それからどんどん練習して、どんどん上手くなって、Oh!Tubeでも登録者数が伸びる様になった。
チヤホヤされたいだけなら別にネットでも良いような気がする。
2万人だって確かOh!Tubeじゃ上位2%ぐらいの上澄みも上澄み、輝くという基準なら十分だし、今後も多分もっと伸びるのだからなおのことだ。
じゃあ、バンドだと何か違うのだろうか?
仮にわたしと同じぐらい上手いベースやドラムやキーボードがいれば……、それが何だというのだろう。
現代ならパソコンとソフトが有れば楽器は全て代用できる。少なくとも今日これからと同じように、たったひとりでもバンドに匹敵する音楽を奏でることは難しいことではない。
オリジナルソングだって、むしろシンガーソングライターみたいに個人でやる人たちだって少なくないし……。
そう思えば何故わたしはバンドなんて組みたがっていたのだろうか。
音楽は好きだ。ギターはもっと好きだし、バンドが組めなくても止める気はない。
でも、わたしはバンドに何を求めているんだろうか。
このまま、ずっとギターヒーローだとして何の問題が……
そう考えて、未来の自分を想像するぼっち。
自宅の押し入れでひとり黙々とギターを演奏する自分。
登録者数はもはや100万を超え、動画につくコメントは称賛の嵐。
ネットニュースやSNSはわたしが動画を上げる度に沸き立ち、大手レコード会社はわたしにプロデビューを促すDMを送る。
いつもの妄想。それも自分に都合のいい。
それなのにコレが暗澹たる未来に思えるのは何故だろうか。
答えはすぐに出た。孤独だからだ。
ネットの皆はわたしを褒め称えるのだろう。プロは理解者面してわたしの技術を持ち上げてくれるのだろう。
でも、わたしの近くには誰が居るんだろうか。
家族がいて……、それで終わり。
それって幸せなのか? いや、そうは思えない。
そして、はたと気づく。
そうか、つまりわたしは友達が欲しかったのか。
あるいは仲間でも良いが、ともかく孤独で居続けることに耐えられないと感じていたのだろう。
じゃあ、何故バンドなのか?
別に大多数の人間はバンドを組まなくても友人や仲間が大勢いる。
ではバンドはそれらの上位互換になりうるかといえばそうでもない。
バンドだって他の関係と同じように特別強固な関係というわけでもない。恋人や夫婦が別れるように、バンドだって時に別れることは少なくないだろう。
それでもバンドにこだわるのは何故か。
この現代で、ソフトでバンドさえ代用できる時代に何故バンドを組みたいのか。
──だって、かっこいいじゃん。
そう、そうだ。
酷く単純で、幼稚なようだがそれが全てだ。
だって、バンドってカッコいいんだ。
唸るギターが、響くベースが、轟くドラムが、熱いボーカルがカッコいいんだ。
そして、そんな中に居る自分を思えば、やっぱりカッコいい。
運動ではズタボロだけど、テストの点数は赤点だけど、グループの中心にいる自分なんて想像もできないけど。
でも、バンドでギターを弾く自分は不思議と想像できる。
そして、そんな自分はきっと唯一最高にカッコいい自分だ。カッコよくなれる自分だ。
だから、バンドが組みたいんだ。カッコいい自分になるために。
ひとりはようやっと全てがストンと腹の中に収まる心地がした。
五感には感覚と活力がみなぎり、瞳の奥には炎が灯る。
もはや、そこに過去と未来に怯える少女はいなかった。
そこに立っていたのは紛れもなくギターヒーローだった。
「後藤ひとりさ~ん、準備お願いしま~す」
「ハイっ!!」
腹の底から押し出すように声を出す。
おそらく後藤ひとり史上最大の音量で発せられた一言は、気弱な少女との決別を意味するものであった。
そうして、前の演者と入れ替わるようにひとりが歩を進める。
一歩踏みしめる度に辺りに奔る熱は、いわゆる本物だけが発する熱。
ステージを行くスタッフも、ステージから捌けてきた演者も、あるいは教師も生徒も全てが、まだ弾いてもいない少女に釘付けになっていた。
ステージの上にはスピーカーとスタッフが回収し忘れたマイクスタンドが置かれていた。
ひとりは迷わずマイクの前に立ち、目線でスタッフに合図を送る。
そこでようやっと意識を取り戻したスタッフは、自己紹介の段取りも忘れて音源を再生させる。
普段なら問題であろうミス。だが、今はコレでいい。
ギターヒーローのステージに、もはや音楽以外は不要なのだから。
「──カッコいいとこ、魅せてやる」
◇ ◇ ◆
全員が固唾を呑んで見守る状況。
会場はざわめき一つ起こさず、舞台上の一人に注視している。
そして、演奏が始まった。
今回の1曲目は激しめの青春パンク。
こういう文化祭向けだろうとぼっちなりに解釈して選んだ一曲。『唯一人*3』だ。
激しいドラムのイントロ。
『Oh!Yeah!!』
そこに突如かかるボーカルとギター。
既に明らかに違う何かを感じつつ、それでも集まる期待の眼。
そして、ついにAメロが始まる。
『新しい時代が 来たのに 煮詰まって 抜け出せない』
『この道が真っ直ぐ過ぎて 逃げれもしない』
想像だにしなかったひとりのボーカル。
特に事前審査にいたメンバーとインストと聞かされていたスタッフは度肝を抜かれる。
しかし、会場は完全にひとりに飲まれていた。
その勢いのままBメロに移る。
『選ぶにも道がなくて 迷走中 何がしたいかひとりわからなくて 妄想中』
『自分と 他人を 比べて 堕ちていく』
『君は世界にたった一人だよ 僕は世界にたったひとりだよ ねえ、そうでしょ?』
『君にしかできない ことなんて ないかも しれないけど』
『何もしないまま消えて行くのかい』
『「僕だって 誰だって 気持ちイイことが したいだけえ!」』
予定にないギターボーカル。
しかし、最後まできっちりと演りきったひとり。
そして、一瞬の静寂の後の熱狂、爆発。
ここにいる全員がわたしを見ている。
尊敬や憧れの眼差し、歓声や称賛がそこにはある。
でもまだ足りない。もっと、もっと、カッコいい所を魅せたい!
そうして、その後も残りの2曲を弾ききるも、その熱狂はとどまる所を知らず、アンコールまで飛び出す始末であった。
もっとも、アンコール用の音源など用意できておらず、そもそも慣れないボーカルで喉が完全に潰れていたのもあってそれは立ち消えになったのだが。
その日、後藤ひとりは伝説となった。
後夜祭というだけあって、あくまでも校内全員がそれを見た訳では無いが、それでも人の口に戸は立てられぬ。
その評判は日毎に校内を侵食し、ついに後藤ひとりは少なくともこの中学校の中だけではあるが、本物のギターヒーローとなった。
皆の話題はあの日の後夜祭一色となり、誰かが撮っていた動画がSNSやロインで拡散され、クラスでも話しかけてくれる人が増えた。
今まさに、後藤ひとりの15年の人生において正しく絶頂期と言ってよく、ギターを始める前に薄ぼんやりと考えていた理想はついに現実となった。
当然のように浮かれ倒すぼっち。
奇行は目立つが、それを差し引いても人と話せている現状が楽しくて仕方がない。
そう、ここが頂点だ。
そして、ここからが後藤ひとりの凋落の始まり。
ここから如何にして後藤ひとりは絶望し、半年の引きこもり期間を経て『普通』に固執するようになるのか。
ここからが本当の地獄の幕開けなのだ。
今回も高評価を頂いた、以下の方々に心より感謝を。
敬称略です。
☆10 気弱
☆9 ヨミタカ りおたむぅ
今回はジェットコースターで言えば一番上です。
ここから一気に駆け降りることになりますが、まあ現代への布石ということでここは一つ。
次回は現代まで進めたいところです。