【完結済】MASKED GUITER HERO ぼっちちゃん 作:リチウム
①:ぼっちのボーカル力が大きくアップ(発揮されるかは謎)
②:ぼっちのあだ名がまだついてない=ぼっちと呼ばれてない
③:ぼっちがギターヒーローであることが虹夏、リョウ、星歌にバレている(他の人は=で結びついていない)
2曲目もラスサビに差し掛かろうかという段において、演奏と場の空気はますます悪化していた。
プレッシャーにより重なるミス、うつ向いてしまい、アイコンタクトもとれていないことによるズレ。
始めは応援する気持ちで見ていた虹夏のクラスメイトたちも次第にいたたまれなさが勝るようになってきていた。
この場に至り、演者も観客もスタッフでさえも一つの感情を共有していた。
つまり、『誰か何とかしてくれ』である。
それでも二人が演奏を止めないのは最早意地と練習の成果と言ってよいだろう。
それがこの半ばグロテスクな光景を生み出しているのはなんとも皮肉な話だが。
そして、そのままサビに入り……
ギターの音が聴こえた。
力強いストローク、歌うようなビブラート。
たった1小節で3ピースが完成した。
その場にいた全員の目線が一箇所に集中する。
そこには一人の少女がいた。
顔は包帯でぐるぐる巻き。
派手なバンドのTシャツに制服のスカート。
そして、手元にはブラックビューティー*1。
彼女はそのまま何食わぬ顔で演奏を続ける。
そのギターがさながら心肺蘇生のように二人に衝撃を走らせ、息を吹き返させる。
ドラムのもたつきが収まり、ベースの音が他の二人の音に溶けていく。
観客が息を呑む。
そして、2曲目が終わる頃……、3人は完全にバンドに成っていた。
「ちょっと、ひとりちゃん」
大丈夫なの? そう言いかけた虹夏を山田が手で制す。
ここで真っ先に心配するセリフが出るのが虹夏の良いところだ。
だが、今訊くべきはそうではない。
「演れるの?」
その一言に、彼女は即興のソロで返した。
3曲目に予定していた曲のコードをわざわざ超絶技巧でもって掻き鳴らす。
その弾きは雄弁に語る。
「むしろ、お前達こそやれるのか?」と。
上等!
山田の心に火が灯る。
もはや憂いはなくなった。
ふと虹夏の方を振り返る。
そこにいたのは責任とプレッシャーに潰れた少女ではなく、結束バンドのドラムだった。
元気を取り戻した虹夏が言う。
「それじゃあ、遅くなっちゃったけど、結束バンド揃い踏みってことで!
最後の曲は……
その後の3曲目、ライブハウスはこれまでの反動のように大きく揺れた。
結束バンドのライブはなんとか成功に終わったのだった。
◆ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「知らない天井だ」
僅かな額の痛みとともに目を覚ます。
あれ? 自分は確か、ライブハウスにいたのでは?
部屋を見渡すと白い壁と自身が寝そべるベッドだけ。
おそらく、病室だと思うけど写真かテレビでしか見たことないからわからない。
カーテンはかかっているけど、外は明らかに朝だ。
何があった?
公園のブランコで、虹夏ちゃんに誘われて。
あれよあれよと言う間に、ライブのギターをやることになって。
でもでも、弾いてみても全然ダメダメで、ライブに出たいけど、勇気を出そうにも声が出なくって。
それで……、それで?
なんか
「凄いよ、ひとりちゃん! ひとりちゃんがギターヒーローだったんだね!」
「正直助けられた、ありがとう。ひとり」
あっ、これ夢ですね。
間違いありません。
だって、練習でダメダメだったのに本番に乱入していきなり大成功?
二人に褒めそやされて、観客のみんなにチヤホヤされて、っていつもの妄想のパターンと同じだし……
だとするとそもそもどこからが夢なんだろう。
順当に考えるなら、ブランコのあたりなんだろうけど……
いや、学校から?
そもそもいきなりわたしが都合よくバンドに誘われることなんてあると思えないし。
階段から落ちたとか、帰宅途中で車にはねられたとか、そんな感じ?
だとしたら、お母さんに連絡しないと。
幸い、近くのラックに自分のトートバッグがそのまま置かれていた。
中のスマホも無事みたいだし、バッテリーも大丈夫。
時刻を確認すると朝の5時だった。
どれだけぐっすり寝ていたんだろう。
できれば、今日で帰れるといいな。
赤の他人しかいない環境に泊まり込むなど憂鬱で仕方がない。
とはいえ、病院の個室ならまだ良かった。
大部屋だったらどうなっていたことか。
家に電話をかけると留守電だった。
流石に寝てるかなと思いつつも念のため、お母さんのスマホに直接かける。
こちらは1コールでつながった。
「あ、もしもし。お母さん?」
「ひとり! 目が覚めたの!」
うわぁ! びっくりした!
近年稀に見る声量だったから少し引いてしまった。
「あ、うん。
大丈夫、体も全然平気だよ」
「心配したんだから、頭を打って倒れたんだって」
頭を打って、か。
これで今最悪のパターンが現実味を帯びてきた。
つまり、虹夏ちゃんとリョウさんとSTARRYは実在し、だいじょばないライブ直前にぶっ倒れてライブを台無しにしたパターンだ。
ちなみにひとりの脳内において、その後のライブの成功は妄想として処理され、可能性すら考慮されていない。
まあ、無理もない話だが。
全身の神経に痺れが走る緊張感の中で、重要な質問をぶつける。
「あの、倒れた時の状況をよく覚えてなくって。
どこで倒れたとか聞いてたりしない?」
「聞いたわよ! なんでも、下北沢のライブハウスで運ばれたって。
山田さんと伊地知さんって子が連絡してくれたもの」
ハイ、処刑確定。
ピンチヒッターのくせにライブに出ることすらしなかったで賞で死刑!
いや、切腹確定かな……
辞世の句を用意しとかないとな……
お父様、お母様、ふたり、ジミヘン、先立つ不幸をお許しください。
陰キャの分際でライブをぶち壊した罪は、せめて三親等に及ばぬよう死んでみせます。
「ひとり! 聞いてる?
目が覚めたなら、とりあえずナースコールを押して知らせておいて。
ベッドの右手側に『呼び出し』ってボタンの付いたのがあると思うから」
「わかった、じゃあね」
スマホの通話を切り、ナースコールのボタンを押す。
このボタンが死刑執行のそれとダブって見えたのは、決して気の所為ではないはずだ。
◇ ◆ ◇ ◇ ◇ ◇
「入るよ」
ドアのノックが3回。
聞こえてきたのは記憶に新しいリョウさんの声だ。
つまり、処刑人のご到着である。
自身の水色の病衣がさながら死に装束に見えてきた。
わたしはドアが開き切る前に床に正座する。
「あれ、どうしたの「この度は、誠に申し訳ございませんでした!!」
とりあえず土下座はコミュ障の証。
ひとりのHPは大きく削れた。
「何卒、何卒家族の命だけは!
わたしが腹を切ってお詫びをば!」
何度も何度も土下座を繰り返す。
「とりあえず落ち着いて。
頭を揺するのはよくないから」
そう言ってわたしの土下座は止められた。
「え? 先日のライブの責任を取って切腹じゃないんですか?」
「なんで? 確かに途中までは地獄だったけど、最後はすごく盛り上がってた」
「そうでしょ? ギターヒーローさん」
時が止まった。
いや、止まってるのはひとりだけだが。
しかし、思考どころか心臓まできっかり1秒止まっていた。
「ななななななな、なんで、それを……」
「だって、格好もパフォーマンスもそのものだったし。
何よりラストでノリノリで名乗ってたでしょ」
え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!
つまり、昨日のことは全部夢じゃないってこと!?
虹夏ちゃんに連れられたことも、事前の合わせでトチったのも、その後のヒーロータイムまで全部!?
「あ↑ば↓ば→ば→ば↓ば↑ば↓ば↓ば↑ば→ば→」
不味い! ある意味ライブ出てないときよりも不味い!!
だって、あんな格好つけ暴走ワンマンライブなんて面子を潰したも同然!!
怒ってる二人の姿が目に浮かぶ!
『おう、
うちの
『こうなったら
家が
「チョッゲプリィイイイイイイ!!」
ああ、終わった……。
お父様、お母様、ジミヘン、せめてふたりだけは守ってみせます。
「あの、頭大丈夫? まだ痛む感じ? とりあえず落ち着いて」
「あっ、ハイ」
「改めて、昨日はありがとう。すごく助かった。
あのままだと、虹夏がすごく傷ついてたと思うし」
アレ? なんか感謝されてる?
「ライブの後、すぐに倒れるぐらいに無茶させちゃったし。
あぁ、ここの病院はうちの実家だから、お金とか、気にしなくていいよ」
ここで、ひとりの中に納得の行く仮説が立つ。
どうやら自分はライブはちゃんとやったらしい。
そして、その後すぐに倒れて運ばれた。
つまり、ライブでのチヤホヤは腕前への称賛ではなく、あくまでも怪我を押してまでライブに参加してくれた事に関する感謝と見るのが妥当。盛り上がってたとかは多分妄想と言うか願望。
なるほど、それならミジンコ以下でも感謝される事はあるのかな?
それなら、なぜ山田が自分をギターヒーローと呼んでるんだという点は真っ先に無視された。
自分がライブを成功させたとは欠片も思えない自己肯定感の低さがそれらの矛盾に勝ったのだ。
「一応、この後検査して、大丈夫だったら退院だから。
あと、ひとりのお母さん、来るって言ってた」
「あっ、はい」
「あと、ロインだして。結束バンドのトークに入れとくから」
「結束バンド……、結束バンド?」
「私達のバンド名。ああ、そういえばまだ伝えてなかったね」
自身のロインに家族以外の名前とトークが増える。
なんだか少し感慨深い。
「あ、あの、そもそもわたしがバンドに入ってていいんですか?
昨日だって、結局1曲ちょいしかできなかったし……
そもそも、併せからド下手だったし……
今だって、こんなに迷惑かけて……」
ああ、違う。
こんな事が言いたいわけじゃないのに。
ここは一言、ありがとうございます、頑張りますとだけ言えばいいのに。
そのくせ、ダメな言葉だけはスラスラと出てくる。
「それはむしろこっちのセリフ。
と言うか、ギターヒーローならすでに何処かのバンドでフロントマンやってると思ってたから。むしろうちでいいの?」
しれっと
とはいえ、本当に嫌そうだったり不都合があるなら無理強いする気はない。
ただ、押せばいけそうだから押してるだけである。
「あっ、えっと、その……」
「私達にはひとりが必要、ダメ?」
しゃがんで目線を合わせ、相手の手を取り、少し潤んだ上目使いで質問をぶつける。
顔の良さを利用した、山田の常套手段である。
「あっ、必要だなんて~、そんな……、エヘヘヘヘ」
ひとりの自尊心が未だかつてない地点に到達した。
ちょっぴり溶けてる。
「ありがとう。じゃ、あとは検査しっかり受けて。
今後のことはロインでまた送るから」
じゃ! と短く挨拶しながら山田は去っていった。
そして、すれ違いざまにお母さんが入ってくる。
お母さんが心配の言葉をかけてくれているが、ひとりの脳みそは先程の言葉をリフレインさせるので忙しく、全く耳に入っていなかった。
そして、その日退院するまでひとりの意識が帰ってくることはなかった。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◇
夜、ひとりは無意味にロインを開いてはニヤついて閉じるという奇行を繰り返していた。
連絡先に増えた二人の家族以外の名前。そして、トーク一覧に燦然と輝く「結束バンド(3)」の表示。
夢だけど、夢じゃなかった!
そう、今の自分はライブハウスでバンド演奏をこなしたバンドマン!
後藤ひとりLV.100! いや、999!
つまり、高校デビューは成功したも同然!
肝心の演奏の記憶が怪しいのにこの浮かれ様である。
仮にライブで失敗していれば溶けても破裂してても忘れなかっただろうに。
黒歴史は詳細に記憶しても、ポジティブな記憶力は弱い。
陰キャの悲しき習性である。
よーし、せっかくだから、動画でも取っちゃおうかな。
今ならflumpoolとかMrs.GREEN APPLEとか行けちゃう気がする!*2 だって、もう陰キャじゃないし!!
いつものジャージを脱いでタンスから取った適当なバンドTシャツに着替える。
一番上の引き出しから包帯を取り出し、鏡の前でぐるぐる巻きにする。
目元と口元以外が隠れたのを確認したら、目を閉じてゆっくりと3回唱える。
わたしはギターヒーロー……、わたしはギターヒーロー……、私はギターヒーロー……
鼻から大きく息を吸い、口から肺の中身を絞り出すように吐き切る。
そして、ゆっくりと目を開けたとき、そこにいたのはギターだけが取り柄のコミュ障少女「後藤ひとり」ではなく登録者30万人のギターボーカル「ギターヒーロー」だった。
伸びた背筋、真っ直ぐで自信有りげな目線、ニヒルに笑う口元。
家族でもなければ彼女が後藤ひとりであると認識するのは困難であろう。
「さぁて、今日は青春させてもらいますか!」
押入れに入り、ギターとマイクをセット。
カメラを合わせ、音源を準備。
手慣れた一連の作業、ギターと喉のチューニングもバッチリだ。
その日の動画は投稿後、1日で50万再生を記録。
その後も順調に伸び続け、今までのギターヒーローチャンネルで最も再生された動画となった。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇
明くる日の放課後。
ひとりはSTARRYの前に来ていた。
虹夏ちゃんからロインに、
『今後のバンド活動についてみんなで話し合お~! 明日STARRY集合ね』
と、あったので浮かれ気分でここまで来たはいいものの……
目線の先には薄暗い
前は虹夏ちゃんと一緒だったから入れたけど……
ドアノブに伸びる手が震える。
誰か入らないかな……
誰かと一緒に入りたい……
自動でないドアを開けるのに鍵ではなくHPを消費する。
陰キャの悲しき習性である。
これが向こうが見えない不透明のドアなら倍率ドンと来たものだ。
5分……、後5分経ったら絶対入ろう。
そう、ドアの前で決心を固めようとする。
~5 Minutes Later~
いや、10分……。
10分経ったら……
~10 Minutes Later~
15分……、15分経ったら絶対……
「何してるんだろう」
「待って。もうちょっと見てたい」
「鑑賞するの、やめたげて?」
「「「あっ」」」
そこで増援が着いたひとりはようやく店内に入ることができたのであった。
「はい! ということで第1回、結束バンドメンバーミーティング開催しまーす。
拍手! パチパチパチパチー」
二人が拍手する。
ひとりは固まったままだ。
「それじゃあ、えーっと……。
思えば、全然仲良くないから何話せばいいかわかんないや」
「身も蓋もない!」
「ん、そんなときのためにこんなものを」
そう言って取り出したのはどこかで見たことがありそうなごきげんなサイコロであった。
ご丁寧に色合いや人の頭ほどのサイズ感までバッチリ再現されている。
「いいね~」(なんかやばそうなもの混ざってるけど……)
出目の中でひときわ目立つ『バンジージャンプ』の文字。
やっぱり怒ってる!? 潰れたトマトになれ……ってコト!?
ひとりがアワアワし始めるが、二人はそのままサイコロを振る。
「ほいっ。何が出るかな~♪、何が出るかな~♪」
「でででんでんでででんでん」
そうして出た目は……
「学校の話~。略してー、がこばなー」
「はいどうぞ」
「え~」
そう言ってひとりにボールが渡る。
が、とっさに言葉が出ないひとりは即座にパスを出す。
「えーっと……‥、あ、そういえば二人とも同じ学校……」
「そう!
「二人とも、家が近いから選んだ」
二人は同じ制服を着ていた。
「あ、下北沢にお住まいで」
「あれ? ひとりちゃん、秀華高でしょ? 家ここらへんじゃないの?」
「あ、いや……、県外で。片道2時間です」
「2時間……」「え! 何で!?」
「高校は誰も自分の過去を知らない所に行きたくて……」
「はい! がこばな、終ー了ー!」
虹夏はボールを場外に蹴り出した。
終了のホイッスルが鳴る。
「す、すみません……、高校でも基本一人なもので、その……、楽しい浮かれた話の一つも提供で、できなくて……」
「大丈夫大丈夫! リ、リョウもね? そんな友達いないし」
「うん。虹夏だけ」
(えっ! リョウさんは……)トゥクン……
(私と同類なんだ……)
ひとりの好感度が50上がった! (最大100)
「リョウはね~、休みの日は一人で廃墟探索したり~、古着屋さん回ったり~」
(あっ、違う……、リョウさんは一人でいるのが好きな人だ!
コミュ障は一人で服屋入れないし、ぼっちと一人好きの間には決して埋めることのできない深く大きな溝が~!!)
「危うくトラップに引っかかる所だった……」
ひとりの好感度が40下がった!(最低0)
「ひとりちゃん。会話を楽しもうよ!?」
コミュ障にとって会話とはキャッチボールではなくロシアンルーレットである。
極力参加しないのが賢く、引き金を引かざるをえない時には祈りながら引くのだ。
そして、炸裂した日には頭蓋骨の内側に
なんと恐ろしき事か!
隣人が突如壁に頭を打ち付け始めてもどうか引かないでいただきたい。
彼らは頭蓋に残った
そうこうしているうちに、次のサイコロが振られる。
「次は好きな音楽の話~、略して~?」
「おとばなー」
「お、おとばなー……」
ここでもコミュ強虹夏が口火を切る。
「あたしはね。メロコア*3とかいわゆるジャパニーズパンクかな~」
「私はテクノ歌謡*4とか。最近はサウジアラビアのヒットチャートを「そこ嘘つかない」」
「ほんとだもん」「ひとりちゃんは?」
「あ、その、青春コンプレックスを刺激する歌以外ならなんでも……」
「ん? 青春コンプレックス?」
『説明しよう!』
ここでギタ男のエントリーだ!
『青春コンプレックスを刺激する歌とは、夏とか青い海、花火、淡い恋といったひとりの学校生活には無縁のワードが多用されて、キラキラにコーティングされた爽やかな歌の事である!』
(そういう歌詞聞くと鬱々としてくる……)「おーい」
『逆に青春時代を歌詞に叩きつけてるバンドは大好物だよね!』「ひとりちゃーん」
「うんうん」「おーい?」
とうとう公衆の面前でイマジナリーフレンドと会話し始めるひとり。
(けど、好きなバンドが学生時代から人気者~なんて知ったら、急に遠い存在に思えちゃったりして……)
「おーい。おねがーい。一人の世界に入らないでー」
「おい。おい。おーい! みんな結束してよー!」「ロックとは負け犬が歌うから心に響くのであって、成功者が歌うとそれはもうロックとは言わない……」
「結束バンドだけに」
虹夏はサイコロを振った、収拾がつかなくなる前に次に進めるべきとの判断だ。
次に出たのはライブの話。
「えーっと。初ライブはインストだったけど、次はボーカルありでやりたいんだ」
「あっ。そうなんですか」
「ほんとは逃げたギターの子が歌うはずだったんだけど、あの子どこ行ったんだろう?」
(逃げたギターの子……、私と同じコミュ障だったのかな……
いや違う! 真のコミュ障は逃げることもできない!)
NOと言える日本人になるとはいつの標語だったであろうか。
少なくともひとりにはいまだ縁遠い領域の話である。
なにせ頼まれる相手がいないのだから。
「まぁ、もうボーカルは決まったも同然だけどね。ね? ギターヒーローさん?」
「あっ、はい…………、ええっ!!」
今日一番声が出たひとり。
二人の耳が馬鹿にならないか心配な声量である。
この世界線において、ボーカル技能も持っているひとりは声量の最大値が通常のおよそ3倍にまで膨れ上がっている。
なお、平均値はお察しだ。
「だって、あたしは歌下手だし。リョウもひとりちゃんを押しのけてまでやりたがらないと思うよ」
「うん、任せる」
もちろん、必要があればやるが、そうでないならやらないのが山田のスタンスだ。
そうでなければ途中参加のギター(逃)に任せたりしなかっただろう。
「えっ、いや、その……、なんで?」
意味不明な状況にネガティブさよりも疑問が勝った。
「まず、歌の上手さは動画で知ってるし。
実際のライブでやれるかについては……、今はあんまり心配してないかな。
だって、ひとりちゃん、本番強いタイプだもんね」
「この前のライブもすごかった。正直、併せたときと同一人物とは思えないクオリティ」
なんかすごい褒められてる!?
普段であれば浮かれ倒すひとりであったが、この時ばかりは恐怖が勝った。
そのため、恐る恐る事実確認を行う。
「あの、実はこの前のライブのこと、全然覚えてないんですけど……」
「ええっ!? そうなの!?」
「はい……、なので、頭を強く打った末の醜態ということで忘れていただきたく……」
「覚えてないのに前提が暗いね」
実のところ、完璧に覚えている。
ただ、ひとりがそれを現実と認識していないだけで。
「じゃあ、せっかくだし、ライブ映像見てみようか!」
「ええっ、そんなものが……」
「大体のライブハウスは撮影サービスが付いてるから。
もっとも、画質も音質もお察しだけど」
実際のところ、そういったサービスは動画投稿や宣伝、販売のためではなくバンドが自身の演奏を客観的に確認するために利用されることが多い。
なにせ、定点だし、音質もカメラのマイクで録る都合上、雑音も多い。今どきの上等なスマホのほうがよほどいいものが撮れるだろう。
とはいえ、それを踏まえてもこういったサービスが未だに有るのが復習の大切さを物語る。それを抜きにしても記念にもなる。
そうして、虹夏がどこからか持って来たノートPCにDVDをセットする。
そこにはひとりにとって衝撃の光景が映っているのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆ ◇
『は、はじめましてー! 結束バンドでーす!』
DVDは虹夏が元気よく挨拶するところから始まっていた。
先程まで話していた虹夏と比べると、気負いや緊張が目立つ。
カメラが観客席の最後方なせいか、バンドの表情は見えにくいが観客の様子は逆に見やすい。
そこでよく見ると、殆どが二人と同じ制服を着た推定下北沢高校の人間であることがわかる。
どうやら、ごくごく身内のライブのようだ。
一人だけ秀華高校の制服が見えるが、それも多分虹夏の知り合いなのだろう。
『今日は、ちょっとギターのトラブルで二人だけだけど、精一杯やるので聴いてください』
「うぐぅ……」
ギターのトラブルという単語がひとりの胸に突き刺さる。
このタイミングでいないということは、やはり自分は途中参加だったのだろう。
つまり、その間は
犯した罪の数々が背筋を伝う。
そして、PCの中では虹夏がカウントを取り「ここからはちょっと飛ばすね!」「えっ」
虹夏は少し急ぎ気味にシークバーを操作して、ひとりが出てきたポイントあたりまで飛ばす。
ちらりと見た虹夏の横顔が冷凍イカの如き目をしていたためか、ひとりは何も言えなかった。
たかが数分でも見たくないらしい。
ひとりはその心の傷に同情よりも共感を覚えてしまった。
でも、それって
【1D100 → 4】、ひとりはなんとか罪悪感を抑え込んだ。
そうして、動画は2曲目のCメロ終わり、転調するラスサビに突入する場面だ。
本来ならここでバーンと盛り上がってから立て続けに3曲目と言った流れなのだろうが、二人の表情は暗く、それどころではないようだ。
が、ここでステージの向かって右側から何かが見えた。
そいつは散歩するような気軽さで歩いてきて、ステージ上のアンプにギターを接続した。
動画の二人はその存在に全く気づいていない様子。
それと対照的に隣で動画を見ている二人はここからが見せ場だと言わんばかりにキラキラした目で見ている。
一方、ひとりのハートは爆発寸前であった。
なにせ、そいつは顔に包帯をグルグル巻きにして、派手なバンドTシャツと馴染み深いギターを持っているのだから。
言わずもがな、
しかも、動画録る時用のキメッキメモードであることが弾く前から所作で分かる。
黒歴史ノートを音読させられるような大ダメージを受けつつもなんとか意識を保つ。ここで落ちたらいよいよ収拾がつかないと判断したためだ。
そこからは圧巻であった。
練習の時とは違い、完全に息の合った演奏。
ひとりが突っ走ることなく、自信満々かつ安定した演奏はリズム隊以上に強く音楽に背骨を入れていた。
あっという間に2曲目が終了し、観客は拍手も忘れて息を呑む。
1曲目とは明らかに違う本物のパフォーマンス。それに魅了されているのが画面越しにも伝わる。
そんな中、真っ先に虹夏が再起動し、ひとりに心配の言葉を投げようとした。
『ちょっと、ひとりちゃん』
それを山田が止め、変わって一言。
『演れるの?』
それにアドリブのギターソロで返答している
(せめて会話しろ~! 会話してくれ~!)
動画に念を送り始めるひとり。
過去は変わらないのに過去の自分にやたら念を送る。
陰キャの悲しき習性である。
調子に乗って背面ギターまで入れたソロが終わってから虹夏にすかさずアイコンタクトを送る。
立て続けに始まる3曲目。
そこからは完全にギターヒーローのオン・ステージと化していた。
もともと、ギターが映える曲ではあったのだが、これまた調子に乗ったアドリブとボーカルパートまで代用するかの如きメロディアスなギターサウンドはライブハウスを熱狂の渦に巻き込んだ。
なお、ひとりは今、泡になっていた。
全容を把握した上でどうしようもないことを理解した時点で全細胞に結合を続ける力が残っていなかったのだ。
そうしてライブが終わり、虹夏と山田がひとりに話しかけたところで動画は終了した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◆
「どうどう? 思い出した? ひとりちゃん、かっこよかったでしょ?」
少し誇らしげにひとりに向けて振り返る虹夏。
しかし、そこには白骨死体と化したひとりの姿が!
「キャアァァァァァァ!!!」
絹を裂くような悲鳴!
ひとりの奇行を本当の意味で初めて目撃した虹夏は、人間がいきなり溶けて骨になるという怪現象に心の底から恐怖した。
「ウケる。撮っとこ」
なお、山田はその様子を半笑いで撮影していた。
どうやら、この短時間でひとりの生態をなんとなく把握したようだ。
結局この集まりは虹夏の悲鳴を聞きつけた
ちなみに、ギターヒーローモードだと人に合わせられているのがと言うと、実はそうではありません。
ただ、このモードだと自分に自信があるため、
・背筋が伸びており、アイコンタクトが取れる
・リズムが安定し、他の人が合わせやすくなる
・自信が音に出るため、他のメンバーが安心する
などの要因により、一見まとまりが出ているように見えています。
しかし、本人が気にしているように、実はこれはバンドとしての音楽というより、ギターヒーローwithバックバンドのような状態であり、本人が望んだ形とは程遠い状態でもあります。
次回以降はバンドミーティングの続き、虹夏と山田の思うところについての予定です。