【完結済】MASKED GUITER HERO ぼっちちゃん 作:リチウム
ついに始まった文化祭、ぼっちはメイド喫茶の片隅でギターを掻き鳴らし、喜多ちゃんも一緒になってギターを弾いていた。
全ては明日の文化祭ライブのために。
しかし、ぼっちのギターが故障したために休憩に入り、文化祭を満喫する4人。
文化祭のようなイベントに初めて人と一緒の楽しさを見出したひとりは明日のライブへの思いを新たにし、『後藤ひとり』としての再スタートを決意するのだった。
今回も、お気に入り、高評価、感想、ここすき等お待ちしております。
10/2、時刻は13時。
4人は体育館舞台直通の休憩スペースにいた。
自分たちの登場予定時刻は13:30頃。
スケジュールはトラブルも遅延もなく進行中であり、今現在は自分たちの一つ前のバンドが演奏をしている最中である。
聞こえてくる限り、クオリティは学生相当。一応セミプロの自負がある自分たちよりは何枚か劣るが、それでもホームの熱狂がそんな些細な差を覆い尽くしているように感じる。
今更ながらではあるが、結束バンドの半分は学外の人間であり、更に人間関係が希薄な後藤ひとりをおおまけにまけて0.5人と換算しても1.5人しか見知った顔がない集団なのだ。つまりここは意外とアウェーに近い場所なのである。
もちろん、文化祭ということで客のハードルはだいぶ低いのは間違いない。まず、お金を払っていないという点。次に登場するのがまず同じ高校生に限られるであろう点。もっと言えば知り合いの可能性も高い。
さらに、普段音楽をストリーミングサービスでしか聞かない人種に生演奏という迫力は力量をものともしない体験を与えることができるという点だ。こればっかりはライブハウスやそこまで行かずとも著名なミュージシャンのコンサートにさえも行かない相手だからこそ通じるものではあるが。
「今日、お姉ちゃんも来るってー」
「へー。そうなんですかー」
虹夏と喜多ちゃんはいつも通りの雰囲気で、過度な緊張は見受けられない。
山田は手元を見てぼーっとしているが、緊張するとふざけるか虹夏に甘え始めるのが山田の生態のため、今は良好な状態であると言える。
そして、我らがぼっちはといえば……
「ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファー…」*1
なんかキマっていた。
そして、紙袋のような何かを被っていた。
どう見ても不審者である。
何歩か譲ってペーパーバック法*2をやってるならまだしも目元に2つ穴が空いているため、その使い道も全く期待できそうにない。
もはや不審者通り越して犯罪者フェイス*3である。ちょっとプルプルしてるのがなおのこと不審である。
「ご、後藤さん!? 大丈夫!?」
「なになに!? やっぱりトラウマがぶり返した!?」
いつもなら単なる奇行で済ませられるのだが、状況が状況なだけに本気でヤバい状態ではないかと心配する二人。
「まあ、落ち着いて」
そう言ってぼっちの紙袋を外す山田。
その下にはいつも通りネジの外れた顔をしたぼっちがいた。
しかし、ぼっち検定2級相当の3人には目に光がしっかりと宿っていることが見て取れた。
つまり、いつものである。
「よし、前のパフォーマンス確認しとくか」
「私もコード振り返っておきますね」
そうして、あっさりと解散した4人。
一応事前準備は済んでいるので、機材関連の不足は気にしなくても良いため、なんなら寝てても問題はない。
とはいえ、流石にここで寝られるほどの肝の太さを持つ人間はここにはいないようだが。
そうこうするうちに出番も近づき、控室から舞台裏に移動する4人。
裏から見える観客席は盛況で、完全に温まった空気は以前の台風ライブとは比べ物にならない。
「前のバンド盛り上がってるねー」
「この曲、実は昨日弾いてたんですよ~。今年のヒット曲だからかリクエストも多くって」
「ほほう、それで経験者の喜多ちゃん的にはこの演奏はどうかな?」
「もちろん、とっても素敵だと思いますよ」キターン
「あっ、はい」
ちょこっと意地の悪い部分が出た虹夏の質問をある意味一刀両断した喜多ちゃん。
まあ、喜多ちゃんとしては密度や時間という意味では圧倒的に自分のほうが練習しているかもしれないが、ギターを始めた人間としてはおそらくはこの場の誰よりも
そういう意味では自身を上に置くことなど、たとえ自負としても客観的な実力としてであろうともできようはずもない。
「喜多ちゃんは意外と平気そうだね」
「いえいえ、今日も不安であんまり寝られてなくて……。夜中も学校についてからもずっと弾いてましたから」
「ぼっちちゃんは復活した?」
「はい! 大丈夫です!」
いつになく力強い返答に虹夏も思わず笑みが溢れる。
(ぼっちちゃん……、あんなに辛いことがあったのに、こんなにしっかりして……、ん?)
ドッ
ドッ
ドッ
ドッ
ドッ
「このバンド、ドラムだけ異常にうるさいな」ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ
「後藤さん! 心臓大丈夫!?」
極限に達した緊張がぼっちの心臓をバスドラムのごとく打ち鳴らしていた。
ステージのバンドがリズム感を狂わされないか心配である。
「結束バンドさん、間もなくです~」「は~い」
スタッフから声がかかる。
前バンドも最終曲に差し掛かり、盛り上がりも最高潮だ。
「よし! じゃあ円陣でも組んどく?
あっ! 手、合わせて『おーっ!』ってやつしよっか!」
「いいですね! やりましょう!」「え゛っ……」「暑苦しい」
「みんな、左手ね」「はい!」「えー」
陰2名のやんわりとした声は無視され、虹夏が真っ先に手を伸ばす。
そして、喜多ちゃんも即座に反応し、その上に手を乗せる。
山田は思わず手を引っ込めそうになったが、虹夏が手首を引っ掴んで上に載せた。
「後藤さんも!」「あっ……、はい」
そうして、最後にゆっくりとぼっちの手が3人の上に乗る。
「じゃあ、頑張ろう! 楽しもう!! せーのっ!」
「「おーっ!」」「「おーっ……」」
そうして、幕が下り、前の奏者たちがステージから捌けていく。
入れ替わりで入り、アンプやエフェクターボードをセットしていく。
各々が楽器のチューニングを済ませ、来る開始時間を待つ。
『続いてのバンドは、『結束バンド』の皆さんです』
ナレーションが入り、舞台に照明が入る。
ゆっくりと幕が上がり、拍手と歓声が突風のようにこちらに吹き付けてくる。
「「喜多ちゃーん!!」」
「はーい!」
やはりというべきか、あちこちから真っ先に喜多ちゃんコールが巻き起こる。
もっとも学内で顔が広く、加えてここしばらく目を離した隙に身につけたギターのガチっぷりを見せつけた昨日の一日で期待を抱かせるには十分すぎたと言えよう。
「おねーちゃーん!」
ハッとして、声の先に視線を移す。
「がんばれー!」
その先にいたのは家族3人の姿。
母は手製と思われるうちわを持っており、父の方は今時珍しい本格的なハンドカメラを持っていた。
「「ひとりちゃ~ん!!」」
今度はまた別の方角に視線を移すと、以前のライブに来てくれた二人組の姿が。
「「後藤さ~ん!」」
そして、クラスメイトからの声援も。
「おーい! ぼっちちゃーん、頑張れー! へへへ。
あっ、見て見て。今日は特別にカップ酒~、へへへへ。
かっこいい演奏頼むよ~! ウェーイ! ウェーイ!! ウェーイ!!!」
なんか見なかったことにしたいのも。
「酒臭っ!」「やばい人入ってんじゃん……」
クラスメイトからも『ねぇ、コレ大丈夫な人?』という視線が飛んできている。
どうしよう、この前励ましてもらった手前……、こういうのも何だけど……、呼ぶんじゃなかった。
「てめーは! そろそろいい加減にしとけ!」
滑らかな動きでコブラツイスト*4をかける星歌。
練度が明らかに一朝一夕のそれではない。
「あっ……、い、いや……、先輩……、ギブ……、ギブ……」
「う゛っ」ゴキッ
「あはは……」
喜多ちゃんも苦笑いである。
そして、一呼吸置いて喜多ちゃんがMCを始める。
「え~、私達、結束バンドは普段は学外で活動してるバンドです。
今日は私達にとっても、みんなにとっても、いい思い出を作れるようなライブにします!
それで、もし興味が出たらライブハウスにも見に来てくださーい!」
「Fooー!!」「行くよ~!!」「頑張れー!」
「それじゃ、1曲目いきます! 結束バンドで『忘れてやらない*5』!」
イントロが始まり、喜多ちゃんが拍手で観客を煽る。
観客もそれにペンライトで応え、場の空気が熱を帯びる。
「〽ぜんぶ天気のせいでいいよ この気まずさも倦怠感も 太陽は隠れながら知らんぷり
ガタゴト揺れる満員電車 すれ違うのは準急列車 輪郭のない雲の 表情を探してみる」
今日は以前のライブと違い、最初から絶好調だ。
互いの目線も縦もちゃんと合っている。
ぼっちは俯きがちだが、それでも走ったりしていない。
「〽『作者の気持ちを答えなさい』 いったいなにが正解なんだい? 予定調和のシナリオ踏み抜いて
青い春なんてもんは 僕には似合わないんだ それでも知ってるから 一度しかない瞬間は 儚さを孕んでる
絶対忘れてやらないよ いつか死ぬまで何回だって こんなこともあったって わらってやんのさ」
サビを抜けた先にはぼっちのギターソロが入る。
喜多ちゃんもぼっちに目線をやって必死に喰らいついてるのがわかる。
しかし、そこには笑顔があった。
間違いなく、4人は舞台を楽しんでいる。それが音に乗って伝わってくる。
「〽風に置いてかれそうで 必死に喰らいついてる いつもの鐘の音も 窓際に積んだ埃も 教室の匂いだって
絶対忘れてやらないよ いつか死ぬまで何回だって こんなこともあったって 笑ってやんのさ」
そうして、引き終えた1曲目。
歓声と拍手は止まず、観客の目の色も明らかに変わった。
それはある意味では『本物』に触れたが故。
コレが学生による『弾く側』のためのステージではなく、『聴かせる』側のステージであると心の深いところで認識したためである。
「ありがとうございました! 1曲目、『忘れてやらない』でした!」
(意外と盛り上がった……。ギターもみんなと噛み合ってる……、この調子なら……!)
昨日のギターの故障を受け、父とともに徹底的にギターの検査と確認を行った。
弦も新品のエリクサーに張り替えてあるし、ハサミでも使わない限りは切れることはない。
ペグについても、念を入れて故障した2弦の奴以外も総取っ替えしたのだ。
少なくとも、どこかに派手にぶつけるか、勢い余って点火でもしない限り壊れることはない。
それなのに、なにか嫌な予感がしてならない。
それがトラウマからくる被害妄想なのか、それとも何か見落としが確かにあるのか。
しかし、それを出すことはしない。証拠もないのにそんな事を言ってどうするというのか。
「それじゃあ次の曲の前に、結束バンドのリーダー、ドラムの伊地知虹夏先輩です」
「「わー!」」
「皆さん初めましてー! 盛り上がってますかー!?」
「「おー!」」
もはや、結束バンドの独壇場であった。
2人が学外の人間なことも、リードギターがクラスメイト以外からはほとんど謎の存在であることも思考の彼方である。
普段虹夏が滑り倒すMCパートも、喜多ちゃんが担当しているためかとても盛り上がっている。
「割と頑張ってんな」
「ですね~、Oh!Tubeとかに勝手に上げられそうだぁ」
前方保護者面勢も安心である。
「うちのベースの山田リョウ曰く、結束バンドはMCがつまらないそうでして。
どの口がー!って思うんですけど面白いトークできるようになるまで、ライブ告知だけにしときますねー」
思わず笑みが溢れる観客もチラホラ。
「って、まだ次のライブの予定はないんですけど……。
もし、気になるーって人が居たらボーカルの喜多ちゃんか、
「「喜多ちゃーん!!」」
ギターのぼ……、後藤ひとりちゃんに、今度声かけてください!」
「「ひとりちゃーん!」」
「それじゃ、次の曲行こっか」「はい!」
「それでは聴いてください! 2曲目で『星座になれたら*6』!」
そうして、
特にイントロ部分はミュートの効かせ方が命であり、そういった音を切る演奏は縦を揃えるのが難しい分、揃った際の音の一体感がとてつもなく心地よい。
そして、今日の4人は完璧だった。
今出せる120%の演奏はわずか数小節でこの場の人間を完全に虜にした。
「〽もうすぐ時計は6時 もうそこに一番星 影を踏んで 夜に紛れたくなる帰り道
どんなに探してみても 一つしかない星 何億光年 離れたところからあんなに輝く」
(すごい……、今までにないぐらい完璧に音が噛み合ってる……。
やっぱり、さっきの嫌な予感なんて単なるネガティブな思い込みだったんだ!)
練習でも発揮されたことのないようなパフォーマンスに酔いしれるぼっち。
単純な技術だけで見ればギターヒーローよりも何枚も劣るが、それでもこのグルーブ感は紛れもなくバンドでしか味わえない感覚だ。
「〽いいな 君は みんなから愛されて 『いいや 僕は ずっと一人きりさ』
君と集まって星座になれたら 星降る夜 一瞬の願い事 きらめいて ゆらめいて ふるえてるシグナル
君と集まって星座になれたら 空見上げて 指を差されるような つないだ線 解かないで 僕がどんなに眩しくても」
サビを超え、いよいよぼっちのギターソロパートに入る。
普段ならそれでもみんなに合わせようと頑張ろうとしてしまうのだが、今日のぼっちには確信があった。
『今なら全力でも結束バンドの演奏になる』と言う確信が。
そして、ソロパートに入ってすぐに
各々の楽器や歌声とは比べ物にならない、あるいは幻聴かもとさえ思えるような小さな音。
だが、それは確実に4人の感覚器を揺さぶった。
ぼっちの演奏は止まらない。その音にゆらぎはない。
しかし、姿勢はいつものような猫背気味ではなく、目線は右横に立つ喜多の手元にあった。
その視線の先では何とか平常心を保とうと演奏を続ける喜多。
そして、
その一瞬でぼっちの中では様々な思考が一瞬で渦巻く。
なんでよりによってこんな時に、いや、6弦ならリカバリーは難しくないはず、1・2弦じゃなくてよかった、そもそも喜多さんにリカバリーできるのか? まだ、ギター歴半年なのに、自分なら無理だ、少し不格好だけど6弦無しで弾いてもらえば最悪なことには……。
幸い、6弦はこの楽曲ではそこまで多様される箇所ではない。
しかし、無視できるほど少ないわけでもない。
そして、今のわたしにできることは……、なにもない。
せめて、せめて、パニックを起こさなければ何とかカバーできるかもしれない。
そう祈るように目を向けた喜多の表情は……
◆ ◇ ◇
弦が切れた音が嫌に大きく響いた。
いや、実際は幻聴なのだろうと思う。
だって、練習では何度も切れたことはあったし、その際には音なんてしなかった。
それなのに、体育館中に楽器を響かせている今、本当なら耳を澄ませたって聞こえるはずがない。
なら、コレはきっと心が聞き取ったに違いない。
原因はいろいろと思い当たるがそれは一旦脇に置いておく。
今必要なのは最後まで確実に弾き切ること。
それも、この最高の舞台を最高のままで走り切ることだ。
次に6弦が必要になるのは後藤さんのソロパート終わり際少し前のG#、サビのG#
アルペジオならともかくコードなら異弦同音*8で弾けるはず!
思い出せ、思い出せ!
確か練習の中にあったはず!
今はまだギターソロパートだからこそ集中できているが、ボーカルが挟まるところまで行けば間違いなく頭が回らなくなる。
唯でさえパニックを起こさないためにも必死なのだから。
しかし、出てこない。
どれだけ頭を絞っても、練習した同じコードとはいえ別の曲の話である。
こんな危機的状況だからといって何とかできるものではなかった。
そして、ソロも終盤。
6弦が必要な場面に差し掛かる。
もはや周りは走馬灯のようにスローに感じる。
もうこのまま1音抜けた状態だろうと駆け抜けるしか無い。
そう腹を決めた時、心配したぼっちと目があった。
私は大丈夫。
そう目では強がって見せる。
だって、私は結束バンドのフロントマンなんだから。
ギターヒーローにも何時かは負けない様になるって、そう決めたときからずっと。
そうして、ピックを振り下ろし……
◇ ◆ ◇
4人の音は
「〽遥か彼方 僕らは出会ってしまった カルマだから 何度も出会ってしまうよ 雲の隙間で」
4人の内心の驚きはむしろ難関を越えたことにより、むしろ燃料として燃え上がった。
何よりも、それを成した喜多自身が一番驚いていた。
あの時、間違いなく自分は妥協して弾こうとした。
後藤さんと目があったときも、そのまま突っ走ろうとしていた。
しかし、
いや、誰かの手が自分の手に添えられ、その位置に自然と導いたのだ。
もちろん、それは錯覚である。
今の自分にそんなに直接的に触れられる人間など居ない。
しかし、膨大かつ濃密な練習期間により本能レベルの記憶領域に刻まれたそれが守り神のように喜多の指を優しく導く。
「〽君と集まって星座になれたら 夜広げて 描こう絵空事 暗闇を照らすような 満月じゃなくても」
それが誰の手なのかなど、考えるまでもない。
この半年で最も長く、あるいは人生でさえコレほど長く触れられた手などただ一つしか無い。
それの導くままに、心赴くままに指を動かす喜多。
その滑らかな指使いには一切の迷いなく、それ故にギターの音色はより色気を増す。
「〽だから集まって星座になりたい 色とりどりの光 放つような つないだ線 解かないよ 君がどんなに眩しくても」
アウトロまで完璧に弾き切り、余韻を残して演奏は終了する。
一瞬の静寂、次いで爆発。
歓声は鳴り止まず、見渡せば一面の笑顔。
そして何よりも大切な3人からの目線。
それに安心してしまったのか、腰が抜けていく感覚。
今更になって、心臓の鼓動が脳内を揺さぶり、痛いほどに全身に血をめぐらせる。
スポーツ少女である喜多にはコレが酸欠の際の症状に近いことがわかった。
極限の緊張、限界を超えたパフォーマンス、それをおくびにも出さないで歌いきったのだから無理もないのかもしれない。
即座に駆け寄る虹夏。
山田も遅れて駆け寄るが、駆け寄った先はギターの方である。
「ぼっち、ちょっとMCで時間稼いで。1分で取り替えるから」「ええっ!?」
そう言って6弦の交換作業に入る山田。
突然のパスに当然のようにパニックを起こすぼっち。
虹夏の方に目を向けても、ふらつく喜多ちゃんの気付けをしている状態で頼ることもできない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう!?
「なにか面白い事……、なにか面白い事……」
マイクを持ったまま立ち尽くすぼっち。
今はまだ曲の余韻に浸っている観客だが、後数秒もしないうちに落ち着き、ステージの異変に気づくだろう。
その前に何とか……、何とか…………、あああ!? 何も浮かばない!!??
そんなパニック状態のぼっちの目に飛び込んできたのは最前列で心配そうにしている
そこでフラッシュバックするのは前日のSICK HACKのライブの風景。
つまり、ぼっちが今思い出せる中で一番ぶっ飛んだライブパフォーマンスである。
そっとギターを置く。
少し腰を落とし、右足にぐっと力を込める。
そして、全速力で駆け出し……
跳躍! 間違いなく飛んだ!!
脳裏に浮かんだのはきくりが客席にダイブ*9したパフォーマンスの光景。
だが、ああいったものはやる側も受ける側も慣れが必要である。
そして、慣れてない人間相手にそんな事をすればどうなるのか、火を見るよりも明らかだ。
息を呑む声、僅かな悲鳴。
その後、ぼっちは重力に捕まり、体育館の床へと……
叩きつけられる前に受け止められた。
鼻先数cmで停止したぼっちの体は4本の細い腕で支えられており、やがて力尽きたのか手放され、ぼっちを地面に叩きつける。
とはいえ、少し鼻先が痛む程度で済んだのは間違いないが。
「だ、大丈夫?」
その声にハッとして顔を向ける。
先程自分を受け止めてくれた人の顔。
忘れたことなんて一度もなかった。
「後藤さん、元気そうで安心したわ。
──ギター、続けてるみたいだし」
そう、中学校の時の最初の友達。
でも、どうして? どうやって?
秀華高は金沢八景からあんなに遠いのに、どこで知ったのだろう。
そう考えるぼっちに彼女が答える。
「実はね、ここに通ってる知り合いが『ギターヒーローを見つけた!』って連絡してきてくれたの。
下北沢でライブハウスに出てたって、すごくハイテンションで話しててね。
──ギターヒーローが後藤さんなことはすぐに分かったわ。文化祭の時とギターも服装も、声もぜんぶ一緒だもの。
Oh!Tubeで見つけたのは偶然だったけどね。それで来たのよ」
「そ、それは恐縮です……」
一番最初にSTARRYに出た時、それ以外には自分とギターヒーローを結びつけるものは無かったはずだ。
そんなか細い偶然が、この人を呼び寄せたのか。
「今のは『どうして』で、『何故』かは言ってなかったわね。
──今日は約束を守りに来たの。『明日、あの子に謝らせる』って」
「え?」
そういえば、わたしを受け止めたのは4本の腕だった。
受け止めたのが星歌さんやお姉さんでも家族でもないのだとしたら、つまり、もう一人いるわけで。
「うん、アタシが謝るのに付き合ってもらったんだ」
そこにいたのは、最後に学校に行った日にカラオケに行った彼女だ。
「ごめんなさい。アタシの言葉で傷つけて」
まどろっこしい弁解の一つもなく、ただ頭を下げる彼女。
「いえ、そんな気にしないで下さい」
「いや、勝手に期待して、そのくせ酷く傷つけた。全部アタシが無神経だった。
謝罪を受け取らなくてもいい。許せなくても。でも、ただ謝りたかった。それだけ」
ある意味ではコレもまたぶっきらぼうにも開き直りにも取れそうな発言ではあった。
しかし、今のぼっちは受け取り方を間違えなかった。
「あの、顔を上げて下さい」
それを受け、ゆっくりと顔を上げる彼女。
二人の目が合う。
「あの、実は3曲目はわたしがボーカルを演る予定でして……。
だから、えっと、それが終わったら、また、感想を聞かせてもらえませんか?」
「──うん、わかった」
「後藤さん! かっこいいトコ、見せてくれる?」
「はい!」
力強く、ぼっちがうなずく。
「おーい、ぼっち。戻ってこーい」
「後藤さん! こっちは弦の張替えが済んだから、いつでも3曲目行けるわ!」
「そーそー、せっかくライブではやらない、ぼっちちゃんのボーカル曲なんだし、時間切れになっちゃったら大変だよ」
ステージからの呼びかけに答え、ステージ上に再度登る。
ギターを回収し、喜多ちゃんと立ち位置を変えて、ぼっちがセンターに立つ。
マイクの前で一呼吸、深く深く吸い、その倍の時間をかけて吐き出す。
そして、意を決し、ただ一言。
「──それでは最後に、聴いて下さい」
◇ ◇ ◆
あれから数日。
ぼっちはいつも通り、動画の撮影作業に取り掛かっていた。
しかし、いつもと違うのはバンドTシャツも包帯も身に着けていない事だった。
マイクの前に立ち、喉とギターの調子を確かめる。
深く息を吸い、深く吐き出すこと3回。
だが、自己暗示はかけない。
コレは、わたしが歌った歌だから。
そして、ギターを鳴らし、歌い出す。
普段のギターヒーローからすれば、か細く、儚くさえ感じる歌声。
しかし、正しく訓練された声というものは小さくともはっきりと耳に聞こえやすいものである。
その点で彼女に抜かりはない。
そうして、4分半分ほどの動画を確認し、編集、投稿する。
いつにもまして簡潔な説明文だが、今回はコレでいい。
この一文にこもった万感の思い。
それは、次の歌詞に込めると決めているからだ。
投稿してから、ようやく窓の外に気づく。
時刻は昼。喜多ちゃんとの練習時間も考えるならもうじき出発の準備を整える必要があるだろう。
いつものジャージに袖を通し、ギターと荷物を準備する。
昼食は母の作ってくれたサンドイッチを急いで掻き込み、玄関から勢いよく走り出す。
さあ、今日もバンドの時間だ!
今回も高評価を頂いた、以下の方々に心より感謝を。
敬称略です。
☆9 MKGW bookman17
せっかくですので、各話タイトルの元ネタ紹介です。
原作マンガの扉絵から取ってるので、分かる人には説明するまでもないかもしれませんが原作者様のおすすめの楽曲リストかもと考えればこれらもまた原作の解像度を上げてくれるかもしれません。
1. リライト → ASIAN KUNG-FU GENERATION / リライト
2. ギターヒーローの理、お断り → KANA-BOON / 盛者必衰の理、お断り
3. オドオドループ → フレデリック / オドループ
4. 意図 → クリープハイプ / イト
5.
6. あつまれ!バンドピーポー → ヤバイTシャツ屋さん / あつまれ!パーティーピーポー
7. レディ・ゴー!ガール(ズ) → the pillows / Ladybird girl
8. 死んだから終い → サカナクション / 新宝島
9. シロクロニジカ → ポルカドットスティングレイ / シンクロニシカ
10. ぼっちのすべて → フジファブリック / 若者のすべて
11.
12. 夏がお陀仏 → NUMBER GIRL / NUM-AMI-DABUTZ
13. 仏滅通り過ぎた → 八十八ヶ所巡礼 / 仏滅トリシュナー
14. こうならなかったら → ネクライトーキー / こんがらがった!
15. どうにでもなる、でしょ? → BAND-MAID / DOMINATION
16. I Need You → 女王蜂 / 催眠術
17. 駄々 → RADWIMPS / DADA
18.
19. 天性が不足 → BUMP OF CHICKEN / 天体観測
20. トラウマ捨てたらしいよ → リーガルリリー / トランジスタラジオ
21. バッドならどうする → BLUE ENCOUNT / バッドパラドックス
22. 演奏日和 → 東京事変 / 群像日和
23. 転がるぼっち、君に朝が降る → ASIAN KUNG-FU GENERATION / 転がる岩、君に朝が降る
以下、あとがきです。長いので読み飛ばしていただいて結構です。
くぅ~疲れましたw これにて完結です!
いや、真面目に疲れました。足掛け10ヶ月、総文字数約30万文字。長い! とは言っても、3ヶ月ぐらいサボってましたし、最後の方なんて月1でしか更新できてませんでしたからね。
まあ、完結できたからヨシ!
正直なところ、色々と良かった点も悪かった点も思い浮かぶ点は多々あります。
書き溜めしたら多分途中でひっそりとHDDの奥にしまわれるだろうなと思ったので書いた端から出していく形式にしたのは良かったのですが、そのために早くても週一更新になってしまったのが難点でした。
原作からワンポイントを変えて、そのバタフライエフェクトを書いていこうと言う方針は原作の味をとことん活かせるという点では良かったのですが、そのために変わらないところはとことん変わらないと言う欠点もあってしまい、変わらない点を無理やり変えてしまっても変になるよなと思いつつも差別化しないとなという板挟みになることもしばしば。
次書くとしたら、オリキャラ打ち込むかもっと根本的な部分を変えてしまうか、あるいは時間軸を変えるなどして手癖で書ける箇所を増やす感じが良いかもしれません。
長々と語りましたが、コレにて本作は完結となります。
続けてもキリが良いところが見当たらないかむちゃくちゃ遠いので……
それでは、またいつか!!
完結記念にコメや評価くれてもいいのよ(チラッ