【完結済】MASKED GUITER HERO ぼっちちゃん 作:リチウム
作者は『428』とか『パワポケ』みたいなしょーもないTIPがついたノベルゲーが好きなので、そこらへんの影響もあるかも。
次からはもっとボケられるよう精進します。
「それでは! 第2回、結束バンドメンバーミーティング開催しまーす。
はい、拍手! パチパチパチパチー」
二人が拍手する。
ひとりも遅れて拍手するが、あまり音が鳴っていない。
日常で拍手する機会がないためだろうか。
昨日はひとりが突如白骨化するという異常事態により、中断されたミーティング。
あの後、ひとりが骨のまま動き出し、机に置かれていたぬるくなったコーラを一気飲みするとみるみるうちに回復。
急激にもとに戻ったのだが、ダメージを受けた(?)であろうひとりを気遣ってかあの場はお開きとなった。
そして、今日は前回のSTARRYではなく、高校近くのファミレスの一角である。
今日は二人のバイトが無いこと、何よりも帰宅に2時間もかかるひとりが遅すぎる時間帯に夕食を採る羽目にならないように外食も兼ねて行おうとの配慮である。
「それじゃあ、改めてライブ、と言うかパートの話だけど……」
「その前に、一つ確認させて」
虹夏の話を山田が遮る。
いつも以上に強引だが、山田の表情は珍しく真剣そのものだ。
「ひとり、ギターヒーローとしてバンドやるの、嫌だったりする?」
「えっ!? そうなの!?」
その一言に二人が驚く。
一人は実は無理やり入れてしまったのかもしれない罪悪感で。
もう一人は
そこから山田の推理が始まる。
「まずは初日の反応。
最初の併せの時は下手だったし自信なさげだったけど、バンドそのものに忌避感は感じなかった。
むしろ、ちょっと浮かれてる感じもしたし、その後も結果的には躓いちゃったけど、やりたいって意識をすごく強く感じてた」
それは、一時期バンドそのものに忌避感を抱いていた山田だからこその感覚であった。
以前所属していたバンドで喧嘩別れし、一時期はバンドどころかベースさえも嫌になっていた時期があった。
結果として虹夏に救われたが、その時の心臓から体温が抜けていくような感覚は未だに覚えている。
ゆえに、ひとりがバンドそのものを忌避しているという線はないと判断した。
「次に違和感を覚えたのは病院で、私がひとりを「ギターヒーロー」と呼んだ時。
その時、ひとりはソレに対して酷く狼狽えてた。
もしも、本当にバレたくないのなら、そもそもあの格好も名乗りもやらないはず。
そのわりに、私が褒めたり、『ひとりがバンドに必要』といった時はすごく喜んでた。
この時点では「ギターヒーロー」の名前は極力出したくないけど緊急時だからやった。そのぐらいじゃないかと思ってた」
『ギターヒーロー』の名前は出したくない。
ある意味では理解できる思考だ。
なにせ、登録者数30万人とは並大抵の数字ではない。*1
それも、アマチュアのミュージシャンとしては破格と言って良い。
そんなものを全面に出せば、所属バンドにどれほどの重圧がかかることか。よほどの相手でもない限りバンドを組みたいとは思わないだろう。
あるいは、併せの時のようにバンドでは全力を出しきれないことを悟ってかも知れない。
「最後に確信したのは昨日のミーティングの動画確認の時。
動画でライブが盛り上がっていたこと、ひとりが練習で出せなかった100%、いや120%を出していたこと。その上で私達に心から感謝されて、箱のボルテージも最高潮だったのにちっとも嬉しそうじゃなかった。
病院での反応を見るなら、仕方なくだったとしても、もっと浮かれたり、調子に乗ってもいいはず」
そこはひとりも納得した。
もしもライブが完全に成功していて、自分の全力を出せて、その上で会場のみんなとバンドメンバーに声援を送られて感謝までされる。
そこまでいけば本来なら浮かれ倒すだろう。
というか、自分でなくてもそうなるだろう。
それは話を聞いていた虹夏にも納得できる話であった。
少なくとも
……いや、人間のリアクションかと問われると怪しいが。
「そこに、実はライブの時の記憶が曖昧な点を加えれば答えは出る。
つまり、『ギターヒーロー』の登場は意図したものではなく、たとえ緊急時でもやるつもりがないほど嫌だった。
でも、他の会話を総合すれば、バンドを続けることは望ましいと考えている。
どう? 合ってる?」
少し誇らしげに語る山田。
バンドが嫌なわけではないことに安心する虹夏。
そして、脳内をピタリと当てられたことに戦慄するひとり。
ここが海際の崖なら飛び降りてる程の名推理だ。
思わず、『そうです、私が犯人て゛す゛ぅ゛~~』と意味不明な自供を始めるところだった。
「う~ん、そういうことならギターボーカルは嫌だったりする?」
ひとりは全力で首を縦に何度も振った。
机からペシペシと音がなるほど鞭のようにしなる髪。
机に空のコップしかないのが幸いである。
「そっか。まぁ、ひとりちゃんはそもそもギター無茶苦茶うまいし、ギターに専念してもらったほうがいいよね。
じゃあ、ボーカルはリョウがやる?」
ひとりが嫌だという以上、一番うまいリョウにお鉢が回るのは当然のことだった。
しかし、リョウは明確に拒絶する。
「いや、私はベース一本で行く。正直、寄り道してる余裕がない」
余裕がない、と言うのは親友たる虹夏をして滅多に聞かない発言であった。
リョウが断るなら『フロントマンまでしたら、私のワンマンになってバンドを潰してしまう……』ぐらいのお調子発言が飛ぶぐらいだと思っていたのだが。
「理解ってると思うけど、ひとりはギターが凄くうまい。
今の私達の実力じゃ、いいとこ数合わせにしかなってない。
それはこの前のライブでよく分かったはず」
「うっ……、確かに……」
言い訳は無数にできる。
そもそも初ライブだったとか、ギターがバックレたとか、
だが、そんなのは些事と言える、圧倒的実力差。
メジャーデビュー寸前まで行った
そう気づくと、急に焦燥感に駆られてきた。
いや、むしろ何故今の今まで考えてなかったんだ。
ギターヒーローと一緒に演れて浮かれていたのか? とさえ思ってしまう。
「虹夏と私は兼任できるほどの腕前はないし、となると必要なのはボーカル専任かギターボーカル。ギタボならひとりがリードできるし、ボーカル専任でも充分だと思う」
リョウの提案は詰まる所、4ピースで行こうという真っ当な提案であった。
3ピースバンドはどうしても高い技術力を要する。
そして、現在3ピースのままボーカルを兼任できるひとりがやりたがらない以上、4ピースにするのは自然と言えた。
「こっちでも探すけど、ひとりもできれば探してみて。
もちろん、実力がある方がいいけど、一番は心が強い人を優先してほしい。
ギターヒーローの名前にビビってボーカル降りられるのが一番困る」
「あっ、はい……」
(はいって言っちゃった……、ボーカル以前に知り合いもいないのに……)
ひとりは少しダメージを受けた。
「うん、それじゃあ、バンドの方向性が決まったところで、次のライブに向けての話をしよー」
「おお……」
次のライブ、すなわち『後藤ひとり』の本当の意味での初陣である。
……問題は、『ギターヒーロー』並のクオリティを求められるだろうなと言うことで。
ライブ前の併せで嘘偽りなく出せる全力を出したひとりとしては、その期待に応えられるかが心配でたまらない。
「とはいっても、まずはノルマの話になるんだけどね」
「ノルマ……」
ノルマ、その一言はひとりに暗い将来を連想させた。
ひとりにとってノルマとは、ブラック会社のロクでもない詰め方に利用されるパワハラツールである。
ひとりの振動が激しくなった。
「あ、あの……、ノルマというのは……」
「この前出たライブはブッキングライブ*2っていうんだけど、バンド側にはライブハウス側から集客を保証するためのチケットノルマが課せられていて、ノルマ以上売れた分はライブハウスとバンド側で分け合うんだけど、ノルマ分集客できない場合、その分自腹で払わないといけないんだ~」
「つまり売れるまでめちゃくちゃお金いる」(ざっくりまとめた!)
「この前のライブはあたしの友達が結構来てくれたから、チケット捌けたんだけど~……」
「次来るとしてもギターヒーロー目当て、つまり当てにならない」
「だよね~」
『ギターヒーロー』がもう出ることはない以上、この前のライブの面子は釣れないだろう。
かと言って、ノルマのためにひとりの意志を曲げるのは論外である。
そんなぐらいなら山田が金遣いを治す。つまり、ありえぬ仮定だ。
「そういえば、ひとりちゃんは『ギターヒーロー』が嫌なんだったら、紹介の時どうしようか。
普通にひとりちゃんでいい?」
「い、いやそれは……」
「じゃあ、あだ名とかはないの?」
「ちゅ、中学では『あのー』とか『おい-』とか」
「それあだ名じゃなくない!?」
「あああ、あだ名で呼び合うほど親しい交友関係は持ったことがぁぁぁ」
不思議だ、話せば話すほど尊敬の念が削れていく。
この子があのギターヒーローだなんて、きっと自分たちしか知らないんだろうな。
有名なロッカーも実は礼儀正しかったり、線が細い人も多いし、ひとりちゃんもそういうのがちょっと極端なだけ……、なのかな?
虹夏からの目線が生暖かい感じになっていた。
この世界線の虹夏は早くも母性のような何かを獲得しつつあるようだ。
「ひとり、ひとりぼっち……、ぼっちちゃんは?」
「おう、またデリケートなところを!」
虹夏が慈愛に目覚めた裏では山田があだ名を考えていたようだ。
一発目からビーンボール*3を投げるあたり実に山田である。
「ぼぼぼぼ、ぼっちです!」
「喜んでるし」
ひとりにとってはボールが来ただけで嬉しいようだ。
心の真芯を食うようなボールなら別だろうが。
「あだ名とか初めてで……」
「うう……、なんか涙出てきた」
虹夏の脳内ではすでに尊敬<庇護欲に傾いて来ている。
あのライブの印象を覆すレベルのぼっちの不憫さ健気さよ。
いたたまれなくなった虹夏が強引に話を戻す。
「それじゃあ、話を戻すけど、ライブにはノルマがある。
ソレ以外にも機材なんかの消耗品、併せ練習のためのスタジオレンタル代。
あとは、まぁ、将来的にはミニアルバムや物販なんかもあるかもしれないけど、とにかくお金がかかるんだ。
そこで! ぼっちちゃん!!
諸々稼ぐためにうちでバイトしよー!」
「はい……、バイトぉ!? 」
「おおぅ、すごい声量」
絶対嫌だ……、働きたくない怖い……、社会が怖い!!
コミュ障のぼっちにとって、バイトする事は、死を意味する!!
死のにおいを嗅ぎ取ったぼっちの決断は早かった!
どこからか取り出される豚の貯金箱。*4
「ん? ぶたさん?」
「お、お母さんが私の結婚費用に貯めてくれてて……、これで、どうか……バイトだけは~……」
「あたし達を鬼にする気!?「大事に使わせて」いただかないいただかない、そんな大事なお金使えないから……」
リョウが
山田としてはここまで嫌なくせにギターヒーローの収入を持ち出さないあたりに好感を覚えていた。どうやら、本気で『後藤ひとり』を貫くつもりなのだと解釈したためである。
実情は、ぼっちが広告設定をつけていないため、そんなもんあると思っていないためだが。*6
そうこうしている間にもぼっちがだんだん白くなってきている。また被害妄想が暴走してきているためである。
このままほっとくと灰になって消えることだろう。サンゴか何かか?*7
昨日の二の舞になると踏んだ虹夏が急いで呼び戻す。
「ぼっちちゃん、ぼっちちゃん!」
「はぁ」
「今の話、聞いてなかったでしょ~」
あえておどけた口調で話す虹夏。
被害妄想から抜け出したぼっちの色彩が少し回復した。
「あっ、ご、ごめんなさい。えーと、何の話を?」
「ぼっちもSTARRYでバイトする」
「STARRYで……、えっ! ええっ!?」
「あたしもリョウもいるから怖くないよっ」
「アットホームで和気あいあいとした職場です」
優しく励ます虹夏と地獄みたいな定型文をぶつける山田。
(働きたくない! 働きたくない!)「ドリンクスタッフとか、掃除しながらいろんなバンドとか見れるし」
「ねっ、どうかな~」
もはや二人が黒い人型のなにかに見えてきたひとり。
掲載誌がサンデーなら何人か殺ってそうな雰囲気だ。
(ううっ……、断れ! 自分! 断れ! 断るんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!)
「がんばりましゅ……」
「ほんとー! ありがとー!」
(ごめんね自分……、断る勇気があるならコミュ障してない……)「ライブも賑やかになって楽しくなるねっ!」
二人が新たなる同士を拍手で迎える。
それがぼっちの心の空洞の部分に虚しく響いた。
「それと、バンドの経費はあたしが管理するね」
「えっ、あの……、リョウさんに預けた方がいいんじゃ……」
「どういう意味じゃ」
虹夏が机を叩きつつ抗議する。
実際、現在のぼっちの主観では山田は頼れる先輩で、実家が病院かつ入院費も肩代わりしてくれた人。
その上でぼっちの心情を正確に読み取ってくれる人なので無理もない。
一方、山田との付き合いが長い虹夏にしてみれば、山田以下の金銭管理能力と言うのは宣戦布告にも等しい暴言であった。
「あのねぼっちちゃ~ん。リョウはこう見えてめちゃくちゃお金遣いが荒いの」「えっ」
「お金持ちでお小遣いたくさんもらってるけど、楽器につぎ込むから常に金欠だよ~」
「てれっ」「どこが褒め言葉に聞こえたぁ?」
余談だが、山田は虹夏に飯をたかる、服を洗濯してもらい、制服のアイロンも任せる、虹夏の私室を自分のもので埋め尽くすなどといった行動を日常的に行っており、控えめに言ってダメ亭主のソレである。
ソレを踏まえるとこうして怒るのも無理はない話だ。
「じゃ、近いうちにまたライブできるようにがんばろー! そして高校生でメジャーデビュー! 「おまたせしました-」あっ、はーい!」
そうこうしていると3人分の夕食が運ばれてきた。
「お姉ちゃんには話、通しておくから、バイト来週からねー。学校終わったら、うちに直行で!」
「はむっ、はぐっ、はぐっ」
山田は欠食孤児の如き勢いで飯を頬張っていた。意外と汚していないあたり親の
一方、ぼっちも飯は食い進めていたのだが、不思議なほど味がしていなかった。
バイトの一文はそれほどに重い。
あっ、そういえば、友達とご飯食べるの初めてかも。学校行事でも、いつもひとりで食べてたし。
些細な良かった探しにぼっちの心は少し軽くなった。
まあ、味は相変わらずしないのだが。
ちなみに、後日バイトに恐怖したぼっちは大手を振って休むべく、氷風呂や扇風機の前で半裸でギター練習などの苦行を行った。
もっとも、結局風邪も引けず、いたずらに心力を消耗しただけであり、虹夏からのついげきの『おはよー。今日はバイト初日だね。不安だろうけど、ちゃんとフォローするから一緒に頑張ろ!』ロインでさらにダメージは加速した。
ぼっちは、記者会見の謝罪文のようなロインを絞り出しつつ、結局労働からは逃れられぬと言う人間社会の真理を悟ったのであった。
まず、高評価を頂いた、以下の方々に心より感謝を。
敬称略です。
☆10 tfride
☆9 らんどーるむー Alberinea 乙亥 くろきし
次回はぼっちのバイトと『後藤ひとり』の実力についてのお話を予定しています。