【完結済】MASKED GUITER HERO ぼっちちゃん 作:リチウム
あまり原作との差異を出せなかったためです。
今回のお話はぼっちはなぜバンドだとミジンコ以下なのかを考える回です。
今回は、余計な文章フルスロットルでお届けします。
翌日、ぼっちはまた
今日はライブや私用ではなくバイトのためである。
何度か開けたはずのドアが今日に限っては異様に重い。
バイト、そう……、バイト……
しかも、ドリンクスタッフとかの話を聞く限り、裏方だけでは済まないだろう。
業務定型文でとは言え、赤の他人とお金をもらえる程のクオリティで会話しなければならないと言う事実が心にズンとのしかかる。
むしろ、罰金で赤字になりそうだ。*1
ドアがまた重くなった気がする。
(ぼっちがんばれ……、ぼっちがんばれ……、ぼっちがんばれ……)
なんとか自分を鼓舞してドアを開けようと試みる。
結局、ライブの日も、次のミーティングのときも虹夏に助けられたため、実はこのドアを自力で開けたことがない。
しかし、以降を考えるならこの程度で躓いていてはダメなのだ。
意を決してドアを引こうとした次の瞬間。
「よっ、ギターヒーローちゃん」
「うびゃあああああああ」
背後から突然叩かれた肩。
ぼっちの本能は、この時生存のための最適解を理性ではなく本能的に選択した。
ぼっちの肉体が突如破裂し、千と八百のメンダコ*2となって当たり一面に逃走!!
──しようとしたのだが、残念ながらSTARRY前は閉所であった。
壁と階段と後ろにいた人に張り付く無数のメンダコ。
ほのかに漂う押し入れの匂い。
その惨状は買い出しに出かけようとした虹夏が店のドアを開けるまで続いた。
結果、ぼっちに声をかけた
なお、メンダコは虹夏と山田がしっかりゴミ袋に集めると元に戻った。
キングスライム*3か何かだろうか。
そして、またしてもぼっちはドアを開けることができなかった。
◆ ◇
バイトというものは言ってしまえば誰にでもできる仕事であるからバイトなのである。
専門的な知識が必要ならそれ相応の経験を積んだ人間を正社員やソレに準ずる形で雇うほうが結果的に安く確実だ。
もちろん、専門の資格や経験が必要なものもあるが、それはぼっちの状況とは合わないので割愛する。
では、バイトの厳しさとは何か。一言で言えば環境である。
ソレは客層であったり、人間的に嫌な上司や同僚。単純労働であっても、物量が適正か否かなどはあるが、能力に根ざした問題はそう多くない。
つまり、まともな客を相手に、恵まれたスタッフと運動不足のぼっちが翌日に響かない程度の作業量のバイトは本人の想定するよりもはるかにまともに進行できた。
もちろん、楽ばかりでは当然ない。
学校以外ではろくに掃除もしたことがない身にとって、清掃業務にはそれなりの苦労があった。
人と話すのも一苦労なぼっちにとって、まずドリンクを手渡しするドリンクスタッフ業務は多大な心労をかけたし、受付業務はそもそもさせてもらえなかった(もちろん、頼まれても嫌だっただろうが)。
それでも、ひとりは無事にバイトを果たしたのだ。
たかが一日、されど一日。千里の道も一歩から。
それは、他人から見れば小さな一歩だが、ぼっちにとっては偉大な飛躍であった。
さり気なく、STARRYが業務形態的には飲食店*4と聞いて、ぼっちの人生トロフィーが一つ取得された。
世間難易度的にシルバーあたりのトロフィーはぼっちの自尊心を大いに喜ばせた。
もっとも、ぼっちにとっての本番が実はバイトの先の併せ練習になることは、この時の浮かれぼっちには気付く由もなかったのだが。
◇ ◆
ジャーンとギターとベースの音がスタジオに響く。
そこに少し遅れてギターが飛び込み、演奏が終わる。
山田と虹夏の感想としては、やはりぼっちは下手な方だなという認識は変わらなかった。
だが、ソロや以前のライブでの技量を前提として考えた時、また違った物が見えてくる。
要約すると演奏が中途半端なのだ。
まず前提としてぼっちは他人と演奏した経験がない。
つまり、自身のギター(あるいは練習用のメトロノーム)が全体の基準であり、他人に合わせようという意識がない。
また、集中力がずば抜けているのだが、そのせいで他人の音が耳に入っていない。
そのくせ、ふと気付いたときに音を合わせようとするものだから、テンポにやたらと急制動がかかる。
パートごとの分担意識も曖昧だ。通常、楽曲ではソロに限らず特定の楽器を強調したり、逆に音を抑えめにして他を際立たせることがあるのだが、ぼっちの演奏にはソレがない。バッキング*5さえもどこか自己主張が強いため、全体から浮いて悪目立ちしてしまっているのが分かる。
本人もソレをわかっているのか、時折またブレーキをかけるのだが、それが蛇行運転さながらのふらつきで楽曲全体をかき乱す。
その一方で、ギターソロやリフ*6のようなギターメインのパートになると張り切って弾き出すのだが、ここでも時折気付いたように無理に合わせようとしたりするため目立ちきっておらず、ギターの良さが死んでいる。
トドメに常に猫背気味の姿勢のため、アイコンタクトを取ることが難しく、こちらからギターに合わせることができなくなっている。
爆音が鳴り響くバンドの演奏において、手足や声以外でのコミュニケーションたるアイコンタクトは必須技能と言って良い。
それが仮に一方通行であっても受け取る側がフォローの準備に回る猶予を生むという時点で大きなアドバンテージが有る。*7
とはいえ、これはもう音楽と言うか人間としての基礎スキルの領域である。
これが最もできている虹夏はコミュ力が高いために素で取得しているし、ひとりと同じく友達いない族の山田も結束バンド以前のバンド経験で後天的に取得したものだ。もっとも、山田はそれでも時折自分の世界に入り込む事があるため、そこが虹夏には明確に劣るが。
そして、我らが主人公たるぼっちは所詮ぼっちなため、そんなスキルはない。
そもそも人と目線を合わせられない人間が意図などどうして飛ばせようか。
ましてや、人の意図を察するなど天地がひっくり返ってもありえない。
以上がぼっちがミジンコ以下な理由である。
逆にいい面も当然ある。
まず、音がしっかりしていること。
当然ながら、ギターは電子機器だろうと根本的に弦楽器である。
つまり、弦をしっかり抑え、正しいピッキングができていなければ、情けない音しか出ない。
電子ドラムやキーボードのような常に一定の音が出るタイプの楽器ではないのだ。
しかし、ぼっちはリズムやテンポが迷子になっても、音を外したり、抑えが甘い時特有のぬるい音を出すことがない。
それは、アルペジオ*8やカッティング*9、タッピング*10などといったテクニックが必要な場面でも変わらない。
むしろ、内容に集中している分、普通に引く箇所よりもリズムやテンポが安定しているのだ。
結論、ぼっちは間違いなく
そして、それは結局のところ、ギターの練習よりも対人能力の向上によってこそ解決される問題であるということだ。
では、『ギターヒーロー』はどうなのだろうか?
こちらも前提として、他人に合わせた演奏経験などないのは同じである。
違うのは大きく分けて2つ、自分に自信があることと人と目が合うことである。
まずは自信があることで何が違うかだが、シンプルに言えば自己中になる。
つまり、他人に無理に合わせようとしないため、リズムやテンポが安定する。
また、音が自信満々になるためか、無意識に他人が自分の方に合わせてしまうようになり、結果的に全体が安定する。
他人を気にせずに暴走していても、ぼっちモードと違って真っ直ぐ最高速でつっ走っていたためにスリップストリーム*11のようにその後を着いていくことで結果的に一列に揃った演奏に成るというわけだ。
そして、人と目が合う点の場合は先程長々と語ったとおりである。
ぼっちに察する能力がなくとも、向こうが察して合わせてくれるなら結果的に合った演奏になるわけだ。
もっとも、リズム隊に合わせるのではなく、合わせてもらうギターがバンドかと問われるとなんとも言い難い。
もちろん、ソロギタリストとそのサポートという形なら問題ないのだろうし、なんなら『ギターヒーロー』と四つに組める力量と自信を兼ね備えた存在ならなんとかなるのかもしれない。
しかし、二人がそうではない以上、やるべきことは決まった。
二人は楽器を練習し、ひとりは人間力を鍛える。そうすることでバンドの形を正三角形にするのだ。
まあ、これからもう一人増える予定なのだが。
「──────……という訳。
ぼっち、虹夏、わかった?」
「あっ、はい」
「へー、そう言われると確かにそうだね」
思い込みというものは時に真実を遠ざけるものの、逆に真実にたやすく近づけてしまうことも少なくない。
カクテルパーティー効果に代表されるように、自分がそう思ったという前提は時に通常の何倍もの感覚を発揮する。
今回の場合、ぼっちはギターが間違いなく上手いという前提が山田に何故下手に聞こえるのかという疑問への嗅覚を鋭くさせた。
もしも、その前提がなければこうもスラスラと分析することはできなかっただろう。
「つまり、ぼっちにはもっと人と話してもらう」
「えっ」
「あたしたちは下高だから、学校でのサポートはできないけど……。
その分、放課後とバイトでいっぱいお喋りしようねっ!」
「えっ」
「もちろん、併せ練習は積極的にやるけど、多分そっちのほうが効率がいい」
「えっ」
「まあ、今日はもう眠いから、明日から頑張って」
「明日はせっかくだから、受付に挑戦してみるとかどう?」
「えっ、あっ、あああっ……」
あっ、マズイ。
いきなり追い込みすぎたかと焦る虹夏。
ぼっちも心なしかブルブルしてきている。
よくよく考えれば、人と話すのが苦手な人間が初バイト→練習のスケジュールだけでも大変なのに、追い打ちをかけるような真似までしてしまうとは……
「い、イヤ、やっぱりまだ早かったかな?
ほら、そんなに焦らなくても大丈夫、大丈夫!
だって、今日もしっかりできたんだから、ね?」
慌てて励まそうとするも、時すでに遅し!
ついにぼっちの何かが限界を迎えた!
「ハックション!!!」
風邪である。
慣れないバイト、立て続けの練習、心理的圧力は前日の氷風呂と合わさって、ついにぼっちの免疫機能を上回ってしまったのだ。
軽く額に触れる山田。
「うわっ、凄い熱」
「ええっ、大丈夫!? お家……、は無理そうか。
とりあえず、家に泊まっていきなよ!」
えっ、いや、大丈夫です、お構いなく。
そう言おうとしたが、声が出ない。
風邪ではなく、普段声を出さないからだ。
「布団とか準備しとかないと。
リョウ、お金渡すから、スポドリと冷えピタと風邪薬買ってきてくれる?」
「仕方ない、任されよう。そっちはそっちの準備しといて。ついでにぼっちの実家に連絡しておくから」
「ありがと~う! 普段もこれぐらい色々してくれたらいいのに」
「普段からしてたら体力が尽きてベースが引けなくなってしまう」
「こっちも色々あるんだよ? せめて私の部屋ぐらいは片付けて欲しいな」
「虹夏、自分の部屋は自分で片付けるべき」
「リョウが私物持ち込まなきゃ、きれいな部屋なの! 責任とって!」
なにやら、自分を置き去りに状況が進んでいく。
しかし、コミュ障が会話に割り込んで止めるなどできるはずもなく。
ぼっちは結局流されるまま、『友達の家に初めて泊まる』のトロフィーを取得したのであった。*12
「ごめんね、ぼっちちゃん。
私が無理させちゃったせいで……」
(すいません、わたしがバイトサボるために氷風呂とかしてなければ……、すいません、すいません、すいません……)
翌朝に母親が引き取りに来るまで、二人(と星歌)は互いに罪悪感を覚えながら、気不味い夜を過ごしたのであった。
今回新たに高評価を頂いた、以下の方々に心より感謝を。
敬称略です。
☆9 人間失格 shark kure 気弱 Saih しやぶ ムラサ 伊乃
なんか、今までの話を読んでると、山田のクズ係数が低くてびっくりします。
音楽系の真面目な話をしてるからでしょうか?
あるいは、この山田は暗殺されてないから影武者じゃないんでしょうか?
次回はついに喜多ちゃん登場の予定です。
はたして、喜多ちゃんは登録者数30万人のギターヒーローを乗り越えてギターボーカルになれるのでしょうか?
いま、作者も考えています。