【完結済】MASKED GUITER HERO ぼっちちゃん 作:リチウム
もっとも、今後も順番を遵守するかは未定ですが。
今回は注釈文が爆発しすぎてる感が否めないですが、自分の感性を信じてこのまま行きます。
これがなくなると原作成分が強くなりすぎてしまうので……
感想、高評価だけでなく、ここすきも確認してはニヤついているので、そこもつけていただけると更新速度が上昇するかもです。
結局、あの日の風邪は翌日になっても完治することはなく、治ったのは週が明け、月曜日になってからだった。
「憂鬱な月曜日がやってきた……」
いつもの押し入れで毛布にくるまりながら過ごすぼっち。
もうすぐ朝の支度が必要な時間。スズメが鳴き、朝日差す爽やかな時間帯にも関わらず、ぼっちの気分は雨模様だ。
月曜日と風邪による事実上の長期休暇明けのダブルパンチはぼっちの心に重くのしかかり、行動を鈍らせる。
しかし、サボる度胸もないので、のそのそと登校の準備を始める。
髪を(最低限)整え、朝食を取り、いつものピンクジャージの上から申し訳程度に学校指定のスカートを履く。
学校には行きたくないが、いかねば自分の存在が消滅してしまうジレンマ。
だって、存在感ないんだもの。
とはいえ、リョウさんには『人と話せ』って言われてるし、せめて目を合わせて挨拶だけでも……
いや、待てよ?
正式にバンド組んで、ライブして、飲食店でバイトして、友達の家にお泊りしちゃったりして……
あれ、もうこれ完全に陽キャでは? 陰超えて陽では?
随分と調子の乱高下が激しいやつである。
(よし! もう一度ギター持って行こ。そしたら誰か話しかけてくれるよね!)
そういって、また懲りずにギターケースを背負い、ウキウキ気分で登校し始めた。
この期に及んで他力本願なのだからしょうのない奴である。
とはいえ、月曜日気分が吹き飛び、
◆ ◇ ◇ ◇ ◇
(はい。そんな他力本願で誰も話しかけてくれるわけないよね)
昼休み、ぼっちは自席にて己の浅はかさを呪っていた。
リョウさんの言ってた『話してこい』とはそんなコンビニ店員にお箸いりませんと伝えるようなぬるいものではない。
もっと、日常きらら系みたいなふわふわでユーモラスかつ可愛らしい掛け合いだろう。*3流石に陽キャみたいなイケてるコーデとかスイーツとかイ……、イソスタ映えスポットとかの話をしろってわけではないはずだ。*4
な、なんとか話しかけねば……、話しかけられるのではなく、話しかけなければならない……!!
そうでなければ受付に回されてしまう!!*5
そんなの無理! 絶対無理! ハードル高すぎ! だって、会話量多いもん!
そうなるぐらいなら……、が、がんばって会話するんだ! そうでしょ自分!
ぼっちは耳をダンボ*6のようにして周囲の会話を拾い始めた。
せめて、音楽に関する話題であればまだ会話できるはず……
「サブスク解禁されたね~、アークウィンプス」
ぼっちのセンサーに感あり!
とっさに話者を割り出し、その人の会話に集中する。
「もうさ。昨日から聴きすぎて、聴いてなくても曲聴こえるもんね」
「えーやば」
バンドの話! これなら行ける!
幸い、会話中の二人との距離は机一個分、ここから話しかけても問題ない距離!
「あ!!」
「「!?」」
会話始めのボリューム調整が下手。
陰キャの悲しき習性である。
「ご、後藤さんどうした?」
「後藤さん話しかけてくるなんて珍しいー」
しかし、どうやら声をかけた相手は当たりだったようだ。
なにせ、こちらの名前を覚えている上にボールを渡してくれているのだから。
さぁ、あとは会話するだけだ! 頑張れ後藤ひとり!
「え……、あああぁっ……」(いつも話しかけてもらう前提だったから、話の振り方が……)
不味い、不味い、不味い不味い不味い!
このままだと、急に変な声出した変なやつで終わってしまう!
そして、この後裏で……
『後藤さんって~、突然話に入ってきたと思ったら、なんか変な声出して、よくわかんないよね~』
『後藤さんってやばい奴だったんだ~、もう近づかないようにしないと~』
『『ねー』』
こうなるに決まってる!!
こ、こうなったら!
ギターケースからおもむろにギターを取り出すぼっち。
二人がぽかんとする中、ストラップを掛け、ピックを弦に添える。
(陽キャっぽい人がアークウィンプスでイヤーワーム*7発症するほどヘビロテする曲ならだいたいタイアップ曲のハズ。
つまり、ここで弾くべきは……)
心のなかで4カウントを数え、ハンマリング*8から特徴的なイントロを
陽キャが見てるアニメ映画第三位(後藤ひとり調べ)*9、『君の名は』*10のテーマ曲。『前前前世』だ。
思わず息を呑む二人。
ほんの数秒で展開された、Oh!Tubeなどで見るPVさながらの生演奏に驚きを隠せない様子。
そうしている間にも曲はどんどん進んでいく。
ぼっちは完全に集中し、姿勢も猫背を超えてギターを前から覗き込むような体勢になっている。
その頃には、クラス全員がぼっちの演奏に聞き入るように手を止め、目線を送っていた。
そして、1番のサビと2番のAメロが過ぎた辺りでいい感じに演奏を畳んだぼっち。
「ど、ど、ど、どうでしょうか……?」
大分反応に困るボールである。
二人の主観的にはいきなり会話に割って入ってきたと思ったら、突然の凄いギター演奏。
ほんとに突然である。
この曲私も好きなんですよ、とかこれ弾けるんですよ、とかそういった前置き一切なしに始まったものだからどう反応していいかわからない。
しかし、とにかくすごいことだけはわかった。
そのため、とっさに出た行動は拍手であった。
この段階でようやくぼっちはクラスの全員。なんなら他クラスの人からも注目されていることに気がついた。
まあ、当然である。
学校のクラスで突然ギターの音がしたら目立つだろう。
ソレがとてつもなく上手ければ注目もされる、足も止まる。
鳴り止まぬ拍手、集まる注目。
想定外の事態にぼっちは限界であった。
「あ、あああ、あの……」
拍手にかき消されながらもようやっと再起動できたぼっちの行動とは……
「バ、バンドやってるんで、いつか見に来てくださいね~!」
逃走であった。
ぼっちに多数に注目された状態の会話などできようはずもなかった。
むしろ、よくぞ意味のあるセリフを吐けたものだとさえ感心する。
まあ、結果的には会話ですらなく、一方的なドッジボールだったのだが。
「後藤さんって、ギター凄い上手かったんだね」
「ね~、ちょっとカッコいいかも」
ああ……、せめてこの部分だけでも聞けていれば、まだマシだっただろうに。
◇ ◆ ◇ ◇ ◇
昼休みも半ば頃、ぼっちは階段下の余った机やイスを置くスペースにて一人で弁当を食べていた。
頬を伝う涙、何時にも増して陰鬱な空気はまさしく敗残兵のソレであった。
わたしってやつはなんでいつもこうなんだろうか。
詳しいはずのバンドの話題でさえもまともな会話一つできず、ギターと歌以外には何一つできない。
その歌でさえも、結局『ギターヒーロー』だよりなのは変わらないし……
はぁ、もうすでに今日が憂鬱だ……、所詮は月曜日だったということか……
もう調子に乗るのはやめよう、慎ましく生きよう……
そうして自己批判に明け暮れるうちに弁当を完食し、その片付けを始める。
ごちそうさまでした。
それにしても、ここは静かで、お昼ご飯には最適だな~。
いい場所見つけてよかった~。教室じゃ、一人で食べにくいし。
今日は何時にも増して……
あああああ! わたしは何を調子に乗って~!!!
おもむろに机に頭をぶつけ始めるぼっち。
いつもの
そうしてるうちに上のフロアから人の気配を察知したぼっち。
素早く気配を消し、上からの死角に潜り込み、耳を澄ます。
陰キャは人の気配に敏感なのだ。
「喜多ちゃんやっぱり歌うまいな~」
「辞めちゃったけど、バンドでギターもしてたらしいよ」
「へ~、音楽の才能もあるんだ~」
バンド! そういえば心が強そうなギターボーカルを探すって言っちゃってたっけ。
この前のバイトもあれから風邪ひいて休んじゃったし、私も結束バンドに貢献するためにギターボーカルのスカウトを!
でも、初対面の人に話しかけるなんて……
実際、今さっきトチったばかりである。
しかも、今度はバンドへの加入要請というもっと踏み込んだ会話が必要となる。
その上、相手は理由は不明だが、バンドを辞めた相手!
経験者としてはプラスだが、もうバンドやらない……、なんて心境になっている可能性も高い!
「あっ! 喜多ちゃ~ん、やっほー!」
はっ! と、ともかく顔だけでも確認しないと……
そうして、ぼっちが覗き見た先にいたのは……
か、かわいい!
鮮やかでキューティクルなさらさらヘアー、クマなんてないパッチリとした目、自分とは違って明らかに着こなした制服*11、白くて(多分)すべすべした肌! 比較するのもおこがましい完璧な陽キャの
しかも、絶対いい子だ……、かわいくて運動ができて人望があって、その上ギターまで弾けるなんてぇ……
そんな子を私が勧誘できるのぉ……?
というかアイデンティティが! 私のアイデンティティが崩壊するぅ~!
実際、ギターも歌もうまい上に陽キャで運動神経抜群までつくと『後藤ひとり』と『ギターヒーロー』も2枚抜きの勢いである。
密かに自信を持っていた『ギターヒーロー』へのダメージはある意味『後藤ひとり』へのダメージよりも深刻だ。
ペチョ
あっ、潰れた。
「ん? 何の音?」
その疑問に答えるものはいない。
いるのは、ゲル状に溶けて何故か素早さが高そうな形状になったはぐれぼっち*12のみである。
ぼっちはその形状から連想される速度そのままに足早に逃げ去っていった。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
時は放課後。喜多郁代は困惑していた。
教室の半開きのドアから突き刺さる一つの視線。
ソレが5分ほど刺さったまま動かないのだ。
そこにいるのは当然ながら我らがぼっちである。
喜多の人生において、こちらからもあちらからも話しかけづらいまま時間が過ぎるという経験をあまりしてこなかった。
そのため、要件があるだろうに話しかけに来ない相手の対応をどうしたものかと悩んでいたのだ。
しかし、結局根明な喜多である。
ソレならばこちらから話しかけようとするのは当然の選択であった。
(頑張って教室まで来たはいいもののまだ心の準備が……)
「2組の、後藤さんだよね?」「ハァッ」
(えっ! 私の名前知っ「ねぇ、誰かに用事でもあるの?」「あっ、あっ、あっ、あぁぁっ」
(い、言うんだひとり! バンドのギターボーカルを探していてうちのバンドに興味ないですかー……)
心臓が激しく暴れ、頬を汗が伝う。
逃げ出したいが、もはや状況は動いたのだ。ならば言うしかない!
「……バンドのギターボーカルを「突然のヒューマンビートボックス!?」」
案の定、ぼっちは会話の音量をミスった。
しかも、言いたいことが先行したためにやたらと早口になってしまい、結果として伝わったのはバギボという謎の三文字。
ソレを自覚したぼっちの顔はどんどん赤くなっていく。
もはや、うめき声しか出ない有様である。
一方、喜多の方は困惑しながらも、返答することにした。
この程度の悪球打ちができないようでは陽キャは務まらない。
「ええっと……、ブンツクパーツク、ツクツクパーツク……」
とりあえず、ビートボックス路線で合わせることにした喜多。
それっぽい身振り手振りも交えてやってみたのだが、ぼっちの反応を見るにダメそうだ。
「すっ……、すみませーん!!」「あっ、ちょっと!」
ぼっちは にげだした!
あとに残されたのは何か気不味い思いをした少女一人。
喜多はぼっちの逃げ出した先を見ると、教室を抜け出し、後を追うのだった。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
ぼっちはまたしても階段下の謎スペースに陣取っていた。
地べたに俯いて三角座りする姿は誰がどう見てもやっちゃった人である。
畜生! 台無しにしやがった! わたしはいつもそうだ。
今日一日はわたしの人生そのものだ。わたしはいつも失敗ばかりだ。
わたしは時折、謎の行動力を発揮するが、ひとつだってやり遂げられない。
誰もわたしを愛さない。*13
聴いてください……、新曲。
ダブル黒歴史ぼっち弾き語りバージョン。
おもむろにギターを取り出し、弾き語りを始める。
自分の内に止め置けないストレスを吐き出すためのぼっちのルーティーンだ。
「憂鬱な日々、増えてくトラウマ。
いらない、私の負の遺産~。
思い~出しては~、ひっそり泣~い~てるぅ〜。
暗ぁい、
いつか、笑い飛ばせたらいいのになぁ〜」
マイナーコード*14のみで構成された悲しげなメロディと情感たっぷりの語り。
この世界線のぼっちは歌の表現力も豊かなので、悲しさも200%増しだ。*15
密集地で演ればテロ認定もらえるレベルである。
ギターに滴る涙。
「ううっ、忘れたい……」
閉所に響く
ん? 二人?
「後藤さん!」
突如、後頭部に感じる柔らかい感触。
あっ、なんかいい匂いしゅる……
「私で良かったら相談に乗るから! だから、泣かないで!」
本人も涙ぐみながらも励ましの言葉をくれる当たり本当に優しい人なんだろうな……
問題がわたしのしょーもない弾き語りのせいってところなんだけど……
確かに本人は涙を流すほど落ち込んでいたのは間違いない。
しかし、ぼっちとしても主観的にはともかく客観的にはそこまで泣かれるような酷いことが合ったわけではないことは自覚していた。
それが、ぼっちの豊かな表現力でもって叩きつけられてしまったせいで、なんとも言えない状況のギャップを生み出してしまっている。
バカ正直に言えないぼっちは、現状最も深刻な問題、つまりギターボーカルの勧誘を切り出すことにした。
「あっ。今、自分のバンドのギターボーカルを探してて、えっとその喜多さんギター弾けて、歌も上手いって聞いたので」
「あ、あ~、そうなのね……」(ア、アレ?)
喜多の目が不自然に泳ぐ。
「ごめんね後藤さん。私、そのバンドには入れない」
「あっ、いや、えっと……」
不味い! ここで逃したら、ギタボの宛なんて一生見つからない……
ただでさえ、ボーカル嫌だってワガママ言っててギターも微妙なのに、メンバー集めでも貢献できなければ追放されてしまうぅぅぅ……
喜多さんみたいないい人が詳細に話を聞く前に断ったあたり、多分前のバンドに未練があるか、バンドそのものに何か嫌なことがあったかの2択!
ちなみに、3択目の後藤ひとりが生理的に無理な可能性は頑張って頭の隅に追いやった。
ここでその択を追いやれる辺りにぼっちの成長を感じる。
そこで問題! この状況でわたしはどうやって喜多さんを勧誘するか?
3択―ひとつだけ選びなさい
答え①かっこいいひとりちゃんは突如気の利いた勧誘フレーズがひらめく
答え②仲間がきて助けてくれる
答え③言葉が出ない。現実は非情である。
わたしがマルをつけたいのは②だけど、そもそも学校に友達いないわたしにはどうしようもない。
それに、後数秒の内に他校の虹夏ちゃんやリョウさんがコブラみたいにかっこよく登場して助けてくれるとはとても期待できない。
そもそも、向こうだってギタボ探しをしてるはずなんだから、何でも頼るわけには……
やはり答えは①しかない!
がんばれ、ぼっち! 今こそ小中9年間学校では図書室に籠もってた文学少女のパワーを見せろ!
決意を持って強く喜多と目を合わせるぼっち。
何かを察してじっと話を聞く体勢に入る喜多ちゃん。
────そのまま、何も発されないまま1分間。
困惑する喜多、焦るぼっち。
ぼっちの脳内では幾つもの本の名シーンが飛び交っているが、一向に言葉にならない。
そもそもああいったセリフはかっこいい主人公とかメインキャラが発するから響くのであって、自分のような教室の隅のナメクジ怪獣が言ったところでどうしようもない。
そして、本以外で他人の心を動かすようなセリフはひとりの人生には存在しなかった。
決意が霧散し、うなだれるぼっち。
答え-③ 答え③ 答え③
ここで、勧誘の断りに心を痛めたと判断した喜多ちゃんがフォローに入る。
「その、正直に言うと私、ギターまったく弾けないのね」「えっ」
「前にちょっといたバンドもね、先輩目当てで弾けるって嘘ついて入っちゃったというか……
けど、結局何一つわからなくて逃げちゃって」
「何一つ?」「うん」
喜多の告白は、即ち自身がそもそも勧誘に値する人物ではないという恥をさらす物であった。
「ギターってこっちジャンジャンするだけじゃないのね」「えっ」
そういって、ボディの部分の弦を
「
メジャーコード? マイナー? 野球の話?」(わからないの次元が違いすぎる)
野球で言うならストライクとボールの区別がついてないレベルでアウトである。
これで
「後藤さんは誰かに教えてもらったの? ギター」
「あっ、い、いや、ほとんど独学で」
「えっ! ほんと!? すごい!」
「いやぁ~、全然……、えへ、えへ、えへへへへ」
ほぼ初対面の人に褒められてまたしても溶け始めるぼっち。
しかも、心なしか光ってる気がする。
あるいは
「えへへへへへへへへへ」「そうだ! 後藤さん、ギター教えてくれない? 私の先生になって!」
「ええっ!」
ひ、人に教える!?
それって、つまり……、人に教えるってことですかぁ~~~!!!
教えるということは、つまりマンツーマンであれこれ喋らないといけないわけで。
しかも、分かりやすく伝えないといけないし……。ギター覚えた時にあらゆるところで躓いたわたしにできるのか!?
そもそも、こういうのって独学よりもちゃんとした理論とか学んだ人が教えたほうがいいんじゃ……
仮に喜多さんに変な癖とかつけちゃったら……、間違いなく責任問題! ギロチンで飛ばされる!!
『くすん、くすん。
後藤さんにギター習ったら、なんだか余計に下手になっちゃった……』
『開けろ!! ギター警察だ!!
おまえには逮捕状が出ている、陽キャのギター人生を狂わせた罪でだ』
『はわわわわわわわ』
『君には黙秘権の行使と弁護士の立会いを要求する権利がある。*20
もっとも、陰キャに弁護士の用意ができるかは別だがね』
ヒイイィィィィィ……
危機感メーターがレッドゾーンまで跳ね上がる。
いや、しかし、これはチャンスなのではないかという理性の声も無視できない。
普通の会話(失敗)→バンドの会話(失敗)ときても、ギターの会話なら最終防衛ラインになりうるのではないか、という儚い希望がある。
「こんなうまい後藤さんが教えてくれるなら、頑張れる気がするかも!」
「あっ、いやぁ~、えへへへへへへ」
危機感メーターがグリーンまで一気に下がった。
いい加減なメーターである。
「今度こそちゃんとギター弾けるようになって、前にいたバンドの先輩達に謝りに行きたい!
ねぇ! いつ教えてもらえるかしら? 放課後とか?」
「あ、わ、わたし、放課後はライブハウスで、バイトが……」
希望がどうとか言っておきながらとっさに出たのは逃げ口上であった。
しかも、あんなに嫌がっていたバイトを盾にして。もちろん、今でもバイトは嫌だが。
しかし、一度こうと決めた陽キャの突進力は陰キャの木盾ごときに止められるものではない!
相手の手を取り、目を合わせて頼み込む動作。
奇しくも山田と同じ構え!
「じゃあ、バイトの後でいいから! 隣にスタジオとかない? そこでお願い!」
いや、違う! 山田とは! 圧倒的に!! 光量が!!!
「ああ……、あ、ああああ~……」
ぼっちは灰になる前に決断せざるを得なかった。
「わ、わかりました……(これでよかったんだ……、これで……)」「ほんとー! ありがとう!」
「今日早速行ってもいい!?」「は、は、はい……」
ううぅ……、流石にバイト上がりに
ここは虹夏ちゃんかリョウさんに援軍の要請を……
援軍要請のロインを送り、ギターをケースに収めて準備を整える。
向かうは下北沢、バイト先のSTARRYだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
「バイト先って下北沢だったのね……」
喜多を先導して歩くぼっち。
バイト前ということで足取りが重いのだが、何故か喜多ちゃんも足が重いためか結果的に足並みが揃っている。
「あっ。来たことあるんですか……」
「私の前のバンド、下北系だったから……、それにメンバーの先輩達がここに住んでて……」
「そうなんですね」
確かにソレは気まずい。足取りが重くなっても仕方がない。
あれ、でもそうなると、喜多さんとの定期練習とか無理なのでは?
だって、1回2回ならともかく、バイト後に練習するなら道なりで合わない奇跡はそう何度も期待できるかどうか。
じゃ、じゃあ、結局今日唯一の成果もパーってことに……
ぼっちの心にかつてない重さがのしかかり、足が半ば止まる。
それに加えて周辺地域の記憶も飛んでしまった。
そもそも、今日でまだ4回目だし、しかも風邪で1週間程度空いてるのも影響している。
なにより、ぼっちに辺りを観察する勇気がないため、そもそも目印となるものをほとんど記憶できていないのだ。
ぼっちの速度が落ち、相対的に喜多が前に出る。
「ちょっと!? 後藤さんが後ろだと、道分からないじゃない!」
「すみません、この街まだ慣れなくて……、恥ずかしい~……」
「こっちの方が恥ずかしいって~!」
ついにぼっちの足は止まり、喜多にしがみついて引きずられる有様である。
それでも喜多も振り払わないのは、あくまでも頼んだ側であるという認識があるためだろうか。
「ああもうすぐなんで、場所はSTARRYって所です。そこに虹夏ちゃんとリョウさんがもういるはず……」
「えっ!?」「うっ!」
急に足を止めた喜多、そのせいで喜多のギターケースに顔面をぶつけるぼっち。
「ごめんね、私やっぱり帰る!」「えっ? 何で……」
「ごめん、理由は言えないけど、そこにはどうしても行けない。
ここに来たことは絶対にその人達には言わ「ぼっちちゃーん!」」「がっ!!」
そこには手を振りながら走ってくる虹夏の姿が!
何故か異様に焦る喜多。
彼女に浮気がバレたやつでももう少し落ち着いてるだろうほどに取り乱している。
「いやー、一週間ぶりだから道忘れてないか心配で~。って、あっ! 逃げたギター!」
「えっ、えっ、うえええぇぇぇぇ……」
ゆっくり、ゆっくりと振り返る喜多。
もはや、幼稚園児程度まで退行した喜多は小さく声にならない鳴き声を発するだけに成っていた。
「逃げた、ギター?」
「喜多ちゃん、何でここに?」
「あ、あ、あの……、私……」
「アレ?」
そこに遅れて山田も合流してきた。
そこで、ついに心の器が溢れ出した喜多。
即座に土下座の構えに入る。
「何でもしますからあの日の無礼をお許しください! どうぞ私をめちゃくちゃにしてください!」
「おー、さすがぼっちの弟子」
「そんなとこに共通点見出さないであげてよ!」
いつぞやの病室でみたものを彷彿とさせる土下座。
山田はそこにこの短期間での師弟の絆を感じ取った。
言うまでもなくそんなものはない。
結局、半泣きの喜多は虹夏に引きずられながらSTARRYに拉致された。
これ以上の話し合いは公の場ですべきでないと判断したためだ。
一列になってSTARRYに向かう4人。
この時、山田が眉間にシワを寄せるほど考え込んでいることに、誰も気付くことはなかった。
また、新たに高評価を頂いた、以下の方々に心より感謝を。
そして、遅ればせながら☆8を頂いた方々にも感謝を。
敬称略です。
☆9 矢车菊 ネオジム 彼岸沙華 si-ga ブーーちゃん 爆弾 武蔵出身 たあん Aoboshi @98@ ひねもす1119
☆8 夜市よい ノーバディ621 ガバチェブ humility
今回の話は原作をなぞる話が大枠でした。
細かい差異はぼっちが会話に積極的になっているところでしょうか? まぁ、所詮ぼっちなので失敗はしてるのですが。
次回は喜多ちゃんが本当にギターボーカルに成れるのか、その信を問うお話です。