【完結済】MASKED GUITER HERO ぼっちちゃん 作:リチウム
文字数もソレにふさわしい労力になってしまいました。
約14000てお前。注釈もスゴイことになってるよ。
あと、日間や週間ランキングに時々名前が乗ったり乗らなかったりしました。
そして、評価バーが4つまで埋まりました。
ここまで来たからには、責任を持って完結させたいところです。だから5つ目まで埋めてくれ(強欲)
皆様には引き続き、高評価、感想、ここすき等いただければと思います。
そうすると、多分筆が早くなるので。
今回は喜多ちゃんの本格加入回の予定です。
「え~! 喜多ちゃんギター弾けなかったの?」
「…………はい……」
STARRYのいつものテーブルにて、会話する4人。
始業前のため、客もおらず。
「だから、合わせの練習頑なに避けてたんだね」「うん……」
(喜多さん気まずそう……、な、何か気の利いたことを言えれば……)
実際のところ、こうなった原因は10割喜多ちゃんが悪いのだが、自分が連れてきたせいで起爆したかのような状況に気まずさを覚えるぼっち。
学校での陽の中の陽みたいな喜多を知っているだけに、今の死にそうな彼女に思うところがあるようだ。
が、ここで気の利いたことが言えるならもっとマシな人生を歩んでいたに違いない!
オロオロしたまま会話が流れ、最終的に
が、ソレだけでは無いようで……
「んじゃ~、こっちで着替えて~」
「着替え?」
◆ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「フ~フ~フ~、フフフ~♪ フ~フフフ、フ、フ~♪」
そこにはメイド服で掃除をする喜多ちゃんの姿が!!
(店長さん、なんであんな服持ってるんだろう……)
コスプレ用と言い張るにはなかなか上等な代物である。
少なくともドン・キホーテ*1に売っているような安物では断じてない。
サイズ的に自分が着る用の可能性さえある。
えっ、店長にそんな趣味が……と戦慄するぼっちに恐るべき会話が飛び込んでくる。
「あいつ臨時なのに使えるな~」(えっ!)
「ほんと。喜多ちゃん手際いいね~」(確かに! あわわわわ……)
「惰眠をむさぼる時間までできてしまった……」「時給から引いとくな」
この時、ぼっちに電流走る!*2
有能なバイトが入る
↓
足を引っ張るだけのぼっちは不要なのでクビ
↓
バンドでも気まずくなって追放
↓
学校でも喜多さんと顔を合わせづらいので不登校
↓
ギターも嫌になって辞める
↓
自殺
おぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
一瞬でバッドエンドルートを幻視するぼっち。
幸い声には出ていなかったため、周りから変な目で見られることはなかった。
表情はアレだが、みんなの視線が喜多ちゃんに向いているのも功を奏した。
(よ、よし。今日のバイトは、が、が、が、ガンバルゾー*3)
せめてクビにならない程度に。
そう決意するぼっちであったが、この後、喜多の有能さに圧倒されることとなる!!
いつの間にかPAさんと仲良くなる喜多ちゃん!
受付業務まで任されて、完璧にこなす喜多ちゃん!
接客中もキラキラ笑顔でお客さんのハートを鷲掴みだ!
結果、(精神ダメージで勝手に)ゴミ箱に叩き込まれるぼっち。
うなだれて、ダイイング・メッセージ*4のようななにかまで書き始める始末。
「ぼっち。そんなところで何してるの?」
「ア、アイデンティティの喪失中です……」
たかが1日のバイト経験でよくもまあ、そこまで先輩面できるものである。
まあ、ソレだけぼっちの中で飲食店バイトをやったという経験が大きかったのもあるが。
「では聞いてください。
その日入った新人より使えないダメバイトのエレジー*5」
おもむろにギターを取り出すぼっち。
あれ? ゴミ箱の何処にギターが入るスペースが? とかは気にしてはいけない。
ギターヒーローともなればギター程度いつでも召喚できるのだ。
「らん、ら、ら、ら……
らん、ら、ら、ら……
ら~ら~ら~ら~ら~、ら-
らん、ら、ら、ら~ら~、らー、ら~
らん、ら、ら、ら~、らー、ら~、ら、ら、ら~」
そうやって、歌いながら魂が天に登っていく……
相変わらずマイナーコード主体の暗い曲である。
仮にぼっちが作曲担当になったらマイナーばっかになりそうだ。*6
メタル趣味だった時期の影響もあるのだろうか? *7
「短い間だったけど、貴重な体験できて楽しかったです」
そうして、ぼっちの魂は天へと還ったのであった。
死の安らぎは 等しく訪れよう
人に非ずとも 陽キャに非ずとも*8
「ぼっちちゃん、ぼっちちゃん。
喜多ちゃんにドリンク教えてあげてよ」
「はっ、はい!」
虹夏の一声でぼっちの魂は現世に返ってきた。
頼られる感じの声がけだったのも特に効力を発揮したと言える。
立ち上がり、ドリンクの機械の前に立つぼっち。
(名誉挽回のチャンス!)
気合を入れてボタンを押し、コーヒーを淹れる。
……目線を強く感じるぼっち。
喜多ちゃんがキラキラとした目でじっとこちらを見ている。
メイド服効果でキラキラ感が5割増しだ。
緊張感に固まってしまい、ボタンを押す手が離れない。
あふれるコーヒー、口から溢れる謎の声、焼ける手、喜多ちゃんの悲鳴。
ぼっちは見事名誉返上*9してみせたのであった。
◇ ◆ ◇ ◇ ◇ ◇
「大丈夫? だいたい分かったから、後藤さんもう休んでて」
「イキってすみません……」
「よかった~。大事にならなくて」
ぼっちの手には濡らしたハンカチが巻かれていた。
いちごのワンポイントの入った可愛らしい柄。
言わずもがな、喜多ちゃんのハンカチだ。
ハンカチの上から、優しく手を擦る喜多ちゃん。
「あ、ありがとうございま……(あれ? この指先……)」
なにかに気づいたぼっち。
さっきの喜多ちゃんの
ソレは自身にとっても慣れ親しんだ────
「後藤さんってなんでバンド始めようと思ったの?」「えっ?」
その瞬間、脳内に駆け巡るぼっちの過去。
それは、ギターを始める切っ掛けとなった思い出。
そして……
◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◇
「かーくれんぼすーるひーと、こーのゆーびとまれ!」
それはひとりが幼稚園の時、なんてことのないよくある光景。
「やるー!」「やるー!」「わたしもー」
(わたしなんかが、あの指に止まっていいのかな……)
そう悩んでるうちに乗り遅れて、気づいたら一人ぼっちの子……
小学校でも、遠足の時に先生とお弁当のおかずを交換していた一人ぼっちな子……
中学校でも、部活も入らず、放課後は即帰宅。
スマホに届くのは親からのメッセージかクーポンのお知らせだけ。
それがわたし、この時は中学1年生。
その時は漠然とした不安があった、ずっとこのままでいいんだろうかって。
でもわたし、話す前に「あっ」って言っちゃうし……
目合わすのも苦手だし……
ザ・陰キャのような日々が身の丈に合って……
でも本当は、変わるきっかけがほしいと思ってた。
人に認められたい、隅っこでもいいから、居場所が欲しい。
──いや、居場所があるにふさわしい人間になりたかった。
そんな時に見た音楽番組。
そのインタビューがすべてのきっかけ。
『学生の頃は、教室の隅っこで本読んでるフリしてる奴でした。友達いなくて……』
『それが今では、若者に絶大な人気を誇るバンドになったと』
『まぁ、バンドは陰キャでも輝けるんで』
バンドは陰キャでも輝ける……
もしかしたら、わたしみたいな人間でも輝ける?
その一言がわたしの始まり。
すぐにお父さんにギターを借りて、教本片手に毎日練習。
放課後も休日も全部ギターにつぎ込んだのは不純でも具体的な目標があったから。
いつか、学校でバンドを組んで、それで文化祭でライブしてみんなからちやほやされるんだ!
あの時の私は確かにそう思ってた。
いや、3年の文化祭が終わるまではそう思ってた。
けど、今は……
◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◇
「後藤さん?」
バンドの動機について聴いてから、またしても意識が中空をさまよっているぼっち。
いつもこんな感じなのかしら、と言った感じでなんとなく慣れてきたため、返答を辛抱強く待つことにした。
そして、しばらくしてからこちらを向き。
珍しく自発的に目を合わせながら話しだした。
「わたしの目標は普通になることです」
「ふ、普通?」
一瞬、喜多には何を言っているのかよくわからなかった。
確かにぼっちはこの一日で分かる程度にはよくわからない感性をしていたり、挙動不審気味なところがあるのは間違いない。
でも、そもそもとして、普通になりたい人間がバンドをやろうとするものなのだろうか?
少なくとも、喜多の価値観ではバンドマンというのは特別側の人種であり、ぼっちもソレを望んでいるはずだと思っていた。
そうでなければ、学校で突如独演会など始めるのだろうか?
そう、喜多は知っていた。
今日の昼休み、ぼっちがクラスメイトの前でギターを弾いたことを。
自分は聞けなかったが、運よく聞けた幼なじみが絶賛していたのだ。
喜多がぼっちの名前を先に知っていたのはそのせいでもある。
少し戸惑っている喜多に対し、ぼっちが話を続ける。
随分と珍しい展開だ。
「わたしにはギターしかありません。
わたしは勉強できないし、人とうまく話せないし、運動も苦手で、器用でもなくて。
そんなわたしが普通になるには、ギターしかないんです」
想定していたよりも随分と暗い返答になんと返せばいいのかわからない喜多。
この空気で私は
まずは、空気を軽くしてからと判断した喜多はぼっちを慰める方向に舵を切る。
「そ、そんなに謙遜しなくてもいいんじゃない?
だって、うちのクラスでも話題だったわよ? お昼の演奏。
もう、後藤さんは普通を超えて人気者に「なりませんよ」」「え?」
珍しく、ぼっちが他人の発言を遮ってまで話す。
──その目はいつもより、ずっとずっと暗かった。
「たとえ、ギターがどんなに上手くても、流行りの曲をいくつ弾けても、仮にソレをうまく歌えても……」
「それで人気者になることは絶対にありません」
喜多の口から小さく悲鳴がこぼれた。
その目には、何も映っていなかった。
ただただ、底なし沼のように重く、深く、死臭さえ漂うような暗い眼差し。
もしも、この場に大人組の誰かがいたら理解しただろう。
この目は"折れた"人間の目。それも完膚なきまでに絶望の底に沈んだ人間の目であると。
ソレを理解するには高校一年の少女の人生経験はあまりにも浅かった。
「そういう喜多さんはどうしてバンドに?」
ソレがあまりにも自然なトーンで話すものだから、喜多は自身の動機をうっかり正直に話してしまった。
「わ、私はリョウ先輩の路上ライブ見て、一目惚れしたからかな?
ほら、ちょ、ちょっと浮世離れしてる雰囲気とか、ユニセックスな見た目とか、もう何もかもキャー! って感じ……、はっ!」
不味い、そんな空気じゃなかったのに話しすぎてしまった!
溢れる思いを押さえきれず、ついつい余計なところまで……!
普段なら、もう少し自制できていたはずだが随分と口を滑らせてしまった。
喜多自身も自覚はないが、重苦しい雰囲気に耐えかねた面もあったのだろう。
実際、先程のぼっちは100人が100人自殺志願者と見紛うばかりの仄暗さを醸し出していたのだから。
だが、今のぼっちはいつものぼっちであった。
うつむきがちで目線が合わず、陰キャ特有の暗さはあるが、先程のような死臭と絶望感漂う存在ではない。
そのため、喜多はとりあえず話を続けることにした。
「演奏聴いてから、リョウ先輩の活動ずっと追ってたんだけど、前のバンド突然抜けちゃって……。
その後、結束バンドのメンバー募集を知って思わず『やりたい!』って言っちゃって……」
ちらりとぼっちに目を向ける。
──完全に元のぼっちであった。
ほっと息をつく喜多。
その時のぼっちは呑気に『これが陽キャの行動力!*10』などと考えていたのだが。
これ幸いと、喜多ちゃんは話を続ける。
「だって、バンドって第2の家族って感じしない?」「家族?」
「本当の家族以上にずっと一緒にいて、みんなで同じ夢を追って、友達とか恋人を超越した不思議な存在な気がして……。
部活とか何もしてこなかったし、そういうのに憧れてたんだ」
そう、キラキラとした動機を語る喜多を見るぼっちの目はどこか優しげであった。
それはまるで、子供の語る夢を見守る母親のような穏やかさ。
そして、自分はもう、そうはなれないのだなという諦めと儚さを兼ね備えていた。
「そう! 私は結束バンドに入って先輩の娘になりたかったの!」「ん!?」
「友達より深く! 密に!」
(あれ? 喜多さんって結構やばい人?)
もしかしなくてもやばいやつである。
ここで、山田を母とするか父とするかは有識者の意見を伺いたいところだ。
「まぁ、だからこそ、バンドにはもう入らないけどね」「えっ?」
「一度逃げ出した私みたいな無責任な人間は駄目よ。バンドなんてしちゃ」
しかし、そう語る喜多の目には、その諦めの奥底にロウソクのように灯されたものがあることがぼっちにも伝わってきていた。
そもそも、自分にギターの教えを請うたのはなんのためだった?
ただ謝りたいだけなら、ギターを覚える必要がどこにあるというのだ。
まだ、バンドに入りたいと思っているからこそ、バイト終わりに押しかけてでもギターを覚えようとしていたのだろう。
だが、自分はどうすればよいのだろうか?
こういう時に、うまく話せない自分が情けない。
明らかな心情、歓迎すべき状況、それなのに、後ひと押しの言葉が出ない。
それで全部うまくいくのに、彼女の心を少し軽くできればいいのに。
結局、ぼっちはバイト中にうまく声をかけることはできなかった。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇
「じゃあお疲れ。今日はもう帰っていいよ」
「「「お疲れ様でした」ー」」「お、お疲れ様です……」
喜多もすでにメイド服から制服に着替え直している。
足早に出口へと向かう喜多。
「今日はありがとうございました。
これからもバンド活動頑張ってください。
陰ながら応援してます」
それは、今日の学校で見たときと同じ笑顔のはずだった。
しかし、そこにはぼっちが灼かれるような陽のオーラがない。
傍目に見ても明らかに無理に取り繕った笑み。
「それでは!」
「や、あ、あの!」
早々に立ち去ろうとする喜多、即座に追うぼっち。
しかし、普段走らないぼっちの体幹はとっさのダッシュに耐えかねてあっけなく崩れた。
転ぶぼっち、浮かぶ体、とっさにつかんだカーテン。
だが、カーテンに50kg*11を支える力はなく、カーテンはレールごと外れてしまった。
結局、ぼっちはそのまま額から壁に衝突!
うずくまり、そのまま沈黙してしまった。
「後藤さん大丈夫!?
あ、もしかして、まだ私の事を……。
ごめんね、さっき言った通り、私結束バンドには入れないわ。
ギター弾けないし、一度逃げ出した人間だし……」
「うっ、ううっ、ううう……」「え?」
「わ、わたしもライブ前に逃げ出して、ゴミ箱に隠れて……。
あ、あ、あと……「ぼっちちゃん起こすよ~。せーのっ。よいしょー」」
虹夏と山田が倒れたぼっちを起こす。
何故かぼっちの顔をまじまじと見る山田。
しかし、ぼっちはソレに気づかない様子。
「き、喜多さんの左手……。
ゆ、指の先の皮が硬くて……。
そ……、それは!」
「かなりギター練習してないとならない*12」「うん、うん!」
激しくうなずくぼっち。
ギターだこが慢性化しているぼっちだからこそ、それができるまでどれだけ弾かなければならないかよくわかっている。
そんな二人の後押しを聴いて、虹夏も手を伸ばす。
「喜多ちゃんも! これから結束バンド、一緒に盛り上げてほしいな!」
「何で、私にそんな……」
そうだ。ギターボーカルが欲しいなら、ギターを弾ける人を集めるのが普通だ。
確かに自分なりに練習したとは言え、結局まともに音すら出せなかった人間よりも。
「え? だって、喜多ちゃんが逃げ出してなかったら、ぼっちちゃんとも会えてなかったよ?」「うん! うん!」
一歩を踏み出せない喜多に半歩歩み寄る虹夏。
「あたしもずっとバンドやりたかったからさー。
引け目感じちゃうのも、でもまだ憧れちゃうのも、気持ちわかるんだよね」
実際、その気持ちが先行した結果が2ピースなのだから笑うに笑えない。
「リョウも戻って来てくれたら嬉しいよね!」
「スタジオ代もノルマも4分割」
「素直な言い方しなよ~」
「あっ、先輩分のノルマ……、貢ぎたい!」
「爛れた関係が爆誕しそうなんだけど……」
娘になりたいとか言ってたやつは言うことが違うぜ!
「でも、私ギター弾けないし……」
「大丈夫! ぼっちちゃんが先生してくれるよ! っていうか、今日はもともとその予定だったんだし」
「アッハイ」
「私達も一応サポートするから」
「せ、先輩が……、手取り足取り!?」「あのー、うち、そう言うのやってないんですけど」
「私、頑張ります! 結束バンドのギターとして!」
なんか、感動的になるはずの雰囲気に邪な思いが混ざって台無しになってるような気がする。
が、今は喜ぼう。
ここに、結束バンドは本当の意味で活動を始めることになったのだから。
「でも私、いくら練習しても、本当にギター弾けなかったの。
なんかボンボンって低い音がして」
「え、そ、それベースじゃあ……」
「私そこまで無知じゃないって」*13
「まあ、チューニングミスってる可能性はある*14」
そうして、喜多は背負っているギターケースを開いてみせた。
「ベースって弦が4本のやつでしょ? ほーら、ちゃんと6本あるでしょ」
「げ、弦が6本とかのもあります*15」
「それ多弦ベース」
ついに
何度も互いに見合う4人。
どんどん表情が崩れる
途端に泣き崩れる喜多ちゃん。
ごめん……、もうギターは買えない。
だって、お小遣いとお年玉2年分前借りしちゃったんだもん。
私は確認を怠った私を絶対に許さない。*16
「喜多ちゃーん!!」
こうして、今度こそ結束バンドは晴れてメンバーが勢揃いしたのでした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆ ◇
翌日、スタジオでは喜多、山田、ぼっちの三人が集まっていた。
言わずもがな、喜多のギター練習……の前に、喜多に代わりのギターを渡して試奏させるためである。
山田の楽器コレクションからの提供のようだ。
早速お披露目……、と行きたいのだが、山田の食ってるものが無性に気になって仕方がない。
「あの、リョウさん……、それ、どうしたんですか?」
「郁代のベース買い取ったから、今月の食費無くなった。*17
今日から私は草を食べて生きていきます」
そう言って、草を食べる山田。
枝付きな辺り、明らかに山菜とかの一般的な野草類ではない。
「先輩……、そこまで私のことを……!」
何かピンクのオーラを放ち始める喜多。
この短時間で疎外感を覚え始めるぼっち。
そして、ソレをスルーしてギターケースから1本のギターを取り出す山田。
「郁代は初心者だから、弾きやすいのを重視して選んでみた。
練習しやすいように軽くて、ハイポジション*18を弾きやすいダブルカッタウェイ*19。
そして、ボディの振動までピックアップ*20に伝わる直接ボディにマウントされたP-90*21のロックオブロックなサウンド……。
すなわち……、これだ!!」
珍しく早口かつ大きめな声で喋る山田が取り出したのは淡い青色のギター。
レスポール・スタンダードの廉価版*24で、ぼっちのレスポール・カスタムとは音域も微妙に違うからアンサンブル*25としても棲み分けがしやすい。
我ながら、いい選択だと思う」
「リョウ先輩……、ありがとうございます!」
ドヤ顔で語る山田。
ここらへんは楽器を買い漁っているだけはあるということだろうか。
喜多ちゃんも普段見られない山田の一面に普段よりも光量が増している。
──ぼっちは翌日の日焼けが心配になった。
そうして、ギターをさながら騎士の叙任式の如き厳かさで手渡す山田。
喜多も恭しくソレを受け取った。
「さて、ソレじゃあ試し弾き……、と行きたいところだけど、一つ重大なことをまだ確認していない」
「? 何ですか?」
「ギターヒーローについて……、ぼっちから聞いてる?」「はうっ!」
山田の口から出たギターヒーローと言う単語にダメージを受けるぼっち。
初ライブの傷は未だ深い。
「……聞いてないなら、現物見せたほうが手っ取り早いか」
そう言って、スマホを取り出す山田。
ぼっちは未だに呻いていて話を聞いていない。
「ぼっちは『
まずはソレを見てほしい」
そういって、再生されたのは……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◆
「えっ、スゴイ……」
スマホの中に映るヒーローの姿。
ギターがうまいのは聞いてたけど、歌もこんなに上手いなんて!
その歌には情熱があった、意志があった、魂があった。
私みたいなカラオケで高得点を取るような歌い方じゃない。
全体重を掛けてぶつかってくる感覚はまさしく私の想像していたロックンローラーそのものだった。
それが、ギターで増幅されて、たかがスマホのスピーカーなのに全身にビリビリとしたものが走る。
「と、言うわけで、ぼっちはギターだけでなくボーカルも上手いことが伝わったと思う。
ついでに言うなら有名人ってことも」
ソレを聞いて、一つの疑問が浮かんだ。
あれ? 私ってギターボーカルで採用されたんだよね?
後藤さんがいるなら、私っていらないんじゃ……
そう思った矢先に山田が畳み掛ける。
「ぼっちはボーカルはやらない、やりたがらない。
あくまでも、リードギターだけに専念する」
ソレを聞いて残念と思うと同時に少しホッとする。
流石にここまで来てやっぱりナシは辛い。
「問題は、周りがどう思うか。
ぼっちがギターヒーローなことはいつか必ずばれる。
その時にぼっちがフロントマンでなかったら、みんなは必ずこう思うはず。
『なぜ、ギターヒーローを差し置いてあいつがギターボーカルを?』と」
ソレを聞いてゾッとした。
なぜなら、その疑問は今さっき自分も抱いたものであり、あるいは誰にとっても当然の疑問であったからだ。
そして、その疑問をぶつけられる先は他でもない自分なのだ。
「ギターの技術は私達がカバーする。
心理的な負担もできるだけ掛けさせないつもりではいる。
でも、それでも、どうしようもないことはある」
あんなに嬉しいはずのリョウ先輩の言葉が、今は鉛玉のようだ。
「郁代は必ず、『ギターヒーロー』と比較され続ける」
全身に鈍く突き刺さり、血液が引いていくような感覚。
「誰かに言われなくても、自分で比較して、傷ついてしまうかもしれない」
そのくせ、心臓は血管を突き破るほど暴れている。
「それでも郁代は……」
この感情は不安か、期待か……
「結束バンドのギターボーカルになってくれる?」
でも、どっちでもいい。
決断はすでに済ませた。
もう一度、はっきりと自分の口から言うんだ!
「私を……、結束バンドに入れてください。
今度は逃げません! たとえ、何があっても!!」
「……そう。ありがとう」
山田はソレを聞くと、少し微笑んだ。
ソレは一度も見たことがないような、朗らかな笑みで……
喜多はもう二度とこの笑顔を裏切らないことを心に強く誓うのであった。
今回も高評価を頂いた、以下の方々に心より感謝を。
敬称略です。
☆9 mr.ジーン Hiro1983 sin0904 umrat_tawil サンチェ レジギガス yuyuyu ゲッソー1012 気弱
☆8 so_rei_zero 涼介三等兵
今回の話は喜多ちゃんの決意とぼっちの闇のちら見せ回でした。
お忘れかもしれませんが、本世界線のぼっちは中学最後の半年不登校です。
それはつまり、そうなるだけの何かがあるわけで……
そこら辺はいつかオリジナル会が挟まるんでしょうね。
ソレを踏まえて30話以内に終わると良いのですが……
次回は日常回!
なお、いい感じにならなければ容赦なく飛びます。