【完結済】MASKED GUITER HERO ぼっちちゃん   作:リチウム

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 前回は喜多ちゃんも巻き込んで作詞やろうぜ!となった感じでした。

 また、前話で☆9のバーに色が付きました。
 そして、時々日間ランキングに乗ったりするようになりました。
 ウレシイ、ウレシイ……

 今回は作詞会議と作詞確認会のお話です。
 そして、山田株は果たして高値を付け続けられるのでしょうか?

 今回も、高評価、感想、ここすき等お待ちしております。


8. 死んだから終い

 第3回バンドミーティングより、数日後……

 時は放課後、場所は秀華高校の階段裏。

 ここはぼっちのぼっち飯専用スペースであったのだが、ここ1ヶ月で喜多とのギター練習スペースと化している。

 

 だが、今日の集まりはギター練習のためではない、前回のミーティングで決まったオリジナルソングの作詞のための集まりだ。

 

「そ、それじゃあ、ノートを拝見してもよろしいですか?」

「もちろんよ! 後藤さんの要望通り、私の今の思いをいっぱい書き留めてきたんだから!」

 

 まず前提として、喜多は作詞の経験などない。

 そんな人間にいきなり作詞をさせてもまともなものが出来上がるはずがない。

 ましてや、二人で一つの楽曲を作るとなれば本職でも大分苦戦すること請け合いである。

 そのためにぼっちが取った手法は歌詞ではなく思いを書き起こしてもらい、そのエッセンスを自分が抽出して歌詞にするという方法だった。

 さらに、内容がとっ散らかるのを防ぐため、二人の共通のお題を出してソレに関連する内容だけに絞り込んでもらうことでより編集しやすいようにした。

 

 コレなら喜多の生の感情を活かしつつ、ちゃんとした楽曲のための詞にできるはずだ。

 自分が書く薄暗い歌詞にはない、想像で書く薄っぺらさの無い本物の陽の感情。

 ソレがあれば喜多の口から呪詛が流れ出すような状態は阻止できるはずだ。

 自分も作詞をするためにヒントとして中学時代の作詞ノートを掘り起こしたりしたのだが、控えめに言って『呪詛』以外の何物でもなかった。*1

 ソレを考慮すれば、例えどんな内容が来ようと自分一人で書くよりはマシだろうと思える。

 

 深呼吸してノートを開く。

 きっとノートの中はお砂糖とスパイスと素敵なものがいっぱい*2に違いない。

 意識を固めておかねば数行で()()()()()()()こと請け合いだ。

 

 そうして、意を決してノートの内容を確認すると出るわ出るわ陽キャの感性! 

 ぼっちは吸血鬼が聖書の一節に蝕まれるような気分*3でページを捲っていく。

 そうして、たった数ページの内容を死力を尽くして読み切り、振り絞った力で持ってノートを閉じる。

 

「あ、あの、とても良かったです……。

 すごくキラキラしてて、夢とか憧れみたいな思いがいっぱい詰まってて……。

 とてもわたしには書けない内容でした」

「本当!? ありがとう、後藤さん!」キターン!! 

「がっ!!」

 

 ぼっちに褒められた喜多はまたしても光った。

 いつもならなんとか耐えられたのだが、直前に大量の陽キャ成分を摂取したぼっちには耐えられなかったようだ。

 全身が痙攣してぶくぶくと泡を吹き始めるぼっち。

 

「だ、大丈夫!? 後藤さん!! 今、保健の先生呼んでくるわ!」

 

 そうして、すぐさま救助活動に移ろうとする喜多の腕を何者かがつかんだ。

 さっきまで泡吹いて倒れていたぼっちである。

 

「だ、だ、大丈夫です、喜多さん。

 陽キャ成分の過剰摂取でこうなっただけなので……」

「何そのアレルギー症状!?」

 

 もしかしなくても後藤さんって結構変な人なんじゃ、と今更ながら気付く喜多。

 そんな喜多を後目に、ぼっちのほうもノートを取り出してこちらに手渡してきた。

 

「そ、それより、こちらの歌詞もお願いします……。

 喜多さんの歌詞よりもだいぶ暗いですけど……」

 

 そう言って手渡されたノートの内容を確認する喜多。

 そこにあったのは確かに暗い内容の歌詞。

 孤独の辛さや夜の寂しさ、夕暮れの切なさが書き込まれた一節は、しかし一縷(いちる)の望みを感じる内容だった。

『普通になりたい』と暗い目で語っていたぼっちにも、やはり私と同じ憧れがあるのだと確認できた喜多は少し暖かい気持ちになった。

 

「後藤さんの歌詞も、私、好きよ。

 なんだか、ロウソクみたいで、暗いけど……、暖かいと言うか……」

「そ、そ、そ、そうですかね~、えへへへへ」

 

 自分の歌詞の感想にポジティブなワードが出てきたことで浮かれるぼっち。

 

「それじゃあ、この内容は後日、まとめさせてもらいますね……」

「うん! 楽しみにしてるわ!」

 

 そう言って、ノートをバッグにしまうぼっち。

 互いのノートの内容は個人ロインで共有した。

 

「それじゃあ、バイトに行きましょうか」

「あ、ハ、ハイ、ソウデスネ」

 

 浮いた気分が一気に沈んだ。

 労働。

 陰キャにあらずとも心を蝕む人類普遍の闇である。

 

 ウキウキ気分の喜多ちゃんの後ろを歩くぼっちが煤けて見えるのは、夕陽だけが原因ではないのは明らかであった。

 

 

 

 ◆ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 アレから数日、ぼっちは産みの苦しみのさなかにいた。

 言わずもがな、歌詞の編集作業である。

 

 現段階でも、歌詞の原型とも呼べる部分はできている。

 大方針として、喜多さんのパートをサビに使い、自分のパートをそこ以外にすることでサビの部分の明るさを引き立てる歌詞を目指すことにした。スイカに塩みたいなものだ。*4

 問題は、自分のパートが塩通り越して泥になってないだろうかという懸念が抜けないことにある。

 

 確かに、内容は期待通りになってる気はするのだ。

 自分の暗いAメロ、Bメロで溜めて溜めてサビで爆発させる感じは間違いなくうまく言っている……、はず……。

 なのだが、漠然な不安が抜けきらず、根拠もなく何度も書き直しては元に戻す作業を繰り返し、その内に不安がますます増大していく負のスパイラル。

 いわゆる183現象*5というやつだ。

 

 紙が擦り切れるまで同じ内容を書いては消してを繰り返すさまは新手の呪術か何かにしか見えず、母親が少し心配そうにチラと様子を伺うばかりだ。

 

 一方、父親の方は後方理解者面でうんうん頷いていた。

 かつて、バンドのフロントマンとして、楽曲制作も担当していた身としてはその苦しみが痛いほど分かるのだ。

 そして、そういうときほど、実は第一稿が一番出来が良かったりするところも。

 

 そんなうめき苦しむぼっちにロインの通知が届く。

 そのなんてことのない一文が、今のぼっちには死刑宣告にしか見えなかった。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「ぼっちちゃん、おはよう!」

「おはよう、後藤さん!」

「あっ、はい、おはようございます……」

 

 後日、ぼっち含む4人は下北沢の駅前にいた。

 いつも制服な3人は休日ということもあって私服で来ており、いつもとは違った印象を受ける。

 ちなみにぼっちは言わずもがな、いつものジャージ姿である。

 

 さて、今日はなんの集まりなのか。

 ロインでは知らされていなかったが、ぼっちには心当たりがあった。

 そう、作詞だ。

 

 前回会議から今日で1週間飛んで1日。

 進捗どうですか*6? と聞かれてもおかしくないタイミングだ。

 

 いや、ソレはまだいい。

 なにせ、こちらには提供できる現物があるのだから。

 だが、ソレのクオリティは保証できない! というかわたし自身がそう思ってるのにそんなものを進捗として見せて良いのか!? 

 喜多さんの歌詞を冒涜してるとか言われないか? 

 

 いつものネガティブスパイラルに陥るぼっち。

 

「ぼっちちゃん、ぼっちちゃ~ん!」「はっ!」

「ぼっちちゃん、調子悪い? 今日はアー写撮影辞めとく?」

「アー写撮影?」

「そう! この前思いつかなかったけど、まだあったんだよバンドらしいこと。

 ってことでアー写を撮ろう! ……って思ってたんだけど、顔色悪い日にとってもしょうが無いしね」

「あっ、いえ、大丈夫です元気一杯です左上だけはご勘弁を!」「ゔっ……」

 

 写真→欠席→左上という地獄の連想ゲームがぼっちのネガティブスパイラルを断ち切った。

 あと、何故か喜多ちゃんに流れ弾が飛んだ。

 

「この前ライブ出るためにとったやつがあるけど、ぼっちはまだいなかったから。一応見る?」「あっ、はい」

 

 そう言って渡された写真には元気一杯の虹夏と少し斜に構えた山田。

 そして、左上に真顔で配置された欠席者(喜多ちゃん)のバストアップ*7が写っていた。

(こんなひどいアー写初めて見た……、いや、ある意味ロックなのか?)

 

「まあ、そんなわけで、今日は天気もいいし、みんなの予定も空いてたから、アー写撮っちゃおっかなって」

「えっ! そ……、外でですか?」

「スタジオで撮るのはお金ないから無理」*8

(下北の街中で写真撮るなんて、陰キャにはハードル高すぎる!)

 

 ただでさえ、未だに下北を歩くだけで毒ダメージを食らうぼっちにとって、そこで写真撮影など自殺行為以外の何物でもなかった。

 あらゆる写真撮影と言う行為にダメージを受ける。陰キャの悲しき習性である。

 

「まぁ、外じゃなくてSTARRYでもいいんだけど、アー写ってバンドの方向性とか、メンバーの特徴を1枚で伝える大切なものだからさ」

「じゃあ気合入れて撮らないとですね!」

 

 写真撮影と言う行為でHPが回復する。陽キャの習性である。

 旅先でやたらと写真を取る陽キャが目撃されるのは、その習性を利用しての事に違いないのだ。

 

「その通り! ライブハウスのサイト告知やフライヤーや雑誌、どんなところで使われてもインパクトがある感じにしないと」

「だそうだ」

「わ……、わかりました。

 でも、ちょっと歌詞持ってきてるんで、撮影後に見る時間を作ってもらっていいですか……?」

「おっ、なかなか仕事が速いね」

「本当!? 私もどんな感じになったのか楽しみだわ!」

 

 こうすることで、アー写撮影が早めに終わるかもしれない……

 ぼっちにしては珍しい頭脳プレーである。

 もっとも、その肝心の歌詞の出来で悩んでいたので苦肉の策*9と言わざるをえないが。

 

「よーし! それじゃあ、アー写撮影の旅にぃ、レッツラゴー!」

「おー!」「おー……」

 

 

 

 ◇ ◇ ◆ ◇ ◇

 

 

 

 アー写撮影は順調に進んだ。

 虹夏いわく、貧乏バンドマンのアー写の定番スポットを階段、フェンス、植物の前、公園と順調に消化していき、最後にぼっちが発見した良さげな壁を背景に撮影して今日の行程は終了した。

 

 そして、最終的なアー写は最後の良さげな壁を背景とした写真に決まり、いよいよぼっちの歌詞のお披露目会とあいまったのである。

 撮影会の途中で、ぼっちの魂が抜けたり、見た目がグリッチ*10を起こしたり、ツチノコ*11になったり、モンスター*12になったりしたが、いつものことなので割愛する。

 

 流石に落ち着けるところで確認しようということで、山田のオススメらしいカフェに移動することとなった。

 明らかに自分の人生に縁遠いオシャレカフェということで入る際に挙動不審になったのだが、そこら辺は手慣れた喜多と虹夏によってスムーズにテーブルに誘導され、被害は最小限に抑えられた。

 

「それじゃあ、早速歌詞拝見ターイム!」

「あっ、表紙に後藤さんのサインが書いてあるわ!」

「すいません、カレーライス1つ」

 

 早速ノートを開こうとする虹夏、表紙のBocchi☆サインに気を取られてる喜多、カレーを注文する山田。

 相変わらず結束力のない面々である。

 

 3人はそうしている間にも歌詞を読み進める。

 3人で1冊のノートを見る都合上、テーブルの向こう側に3人集まり、ぼっち1人だけがこっち側にいるのだが、自身の作品を審査されているプレッシャーからか圧迫面接のように感じてきていた。

 心臓が跳ね、顔色が青を超えて白になりつつある中、3人がノートを閉じる。

 

 神妙な面持ちでこちらを見る3人。

 や、やっぱり駄目だったのかな……

 どうしても全体的に暗い雰囲気が拭えないし、なんとか喜多さん成分で中和できたと思ったけど……

 いや、そもそも陰キャの感性が喜多さん(陽キャ)とはどうあっても水と油だったのか。

 

 ああ、結局のところ、編集だろうとわたしに明るい歌詞を書くことなんてできなかったのか……

 所詮わたしは陰キャを感染させるだけの陰キャゾンビよ……

 

 なにか目玉的な部位が取れかけてるぼっちに虹夏が代表して声をかける。

 

「ぼっちちゃん、この歌詞「あっ、カレーライスこっちです」間が悪い!」

 

 マイペースにカレーを受け取る山田。

 そのままいただきますを済ませ、食べ始める山田。

 気勢は削がれたが、改めて虹夏が発言する。

 

「それじゃあ、改めて。おほん! 

 ぼっちちゃん、この歌詞、わたしはすごくいいと思うな!」

「私もよ! 後藤さん! なんだか、私が書いたのにもっと詩的っていうか、バンドらしい歌詞になっててスゴイって思ったわ!」

「ほ、ほ、本当ですか!?」

 

 珍しく目がキラキラしているぼっち。

 

「うんうん、なんだかあたしもバンド始めたくなっちゃうようないい歌詞だよ! 

 って、もう始めてるんだけどね」

「私も、私の思いがギュッと詰まってて、なんだか私よりも私の思いが溢れてる感じがするわ!」

「うん、ごちそうさまでした」「おい」

 

 この歌詞が いいねと君が 言ったから 六月五日は作詞記念日*13

 珍しく褒められて浮かれ気分のぼっち。

 

「リョウはどう? コレでいい曲かけそう?」

 

 皿を店員さんに手渡し、口元を拭く山田に声をかける虹夏。

 山田はコップの水を飲んでから、口火を切る。

 

「正直なところ、安心したって言うのが本音」

「安心、ですか? やっぱり、あんまり期待されてなかった感じで……」

「いや、歌詞そのもののクオリティは心配してない。

 ただ、先週『バンドらしい歌詞』を書いてくるって言ってたから、売れ線ぽい当たり障りのない歌詞を書いてくるんじゃないかって心配してた」

 

 その言葉に少しドキッとしてしまったぼっち。

 実際のところ、そうするべきかギリギリまで悩んでいたからだ。

 

 だが、結局自分らしさを活かすことにしたのは、本編世界線とは違いボーカルとしての視点があったからだ。

 (ブルース)の乗らない歌がどれだけ薄っぺらいのか、ソレをよくわかっている。だからこそ、例え暗かろうとも自身の体重の乗った詞を書くべきだと感じ、踏ん張ることができた。

 とはいえ、それでも不安が拭えないからこそ喜多を巻き込んだ部分もあるのだが。

 

「でも、この歌詞はぼっちと郁代の個性がちゃんと乗ってる。

 だから、安心した。これはちゃんと『結束バンド』のらしい曲だから」

 

 そう言って穏やかに笑う山田。

 

「ぼっちと郁代には話してなかったっけ、前のバンドどうして辞めたのか」

「いえ、聞いてません」

「わ、わたしもです」

「……私は前のバンドの青臭いけど、真っ直ぐな歌詞が好きだったんだ。

 でも、売れるために必死になって、どんどん歌詞を売れ線にして。

 それが嫌になったから辞めたんだ。

 辞める時もちょっと揉めたりして、バンドそのものが嫌になってた頃……」

 

『ねぇ。暇ならベースやって!』

『何で?』

『だってあたしリョウのベース好きだし!』

 

「そう、虹夏に言われて、もう一度バンドやってみようかなって。

 個性捨てたら死んでるのと一緒だよ。

 私は結束バンド(みんな)に死んでほしくない」

 

「先輩……」

「リョウさん……」

 

 想像以上に切実な話に、喜多の胸の奥がキュッと傷んだ。

 自分の動機の軽さに、それ以上に自分の過去の行いに改めて罪悪感を覚えた。

 そして、また一つ決意を新たにした。

 

 一方、ぼっちは恐怖と安堵を覚えた。

 一歩間違えば、そんな心の傷を抉るような歌詞を見せていたかもしれないと言う思いと、ソレを防いだ自分の判断と幸運に感謝した。

 

「だから、二人にはこれからも自由に書いてほしいんだ。

 バラバラな個性が集まって、一つの音楽になって、それが結束バンドの色になるんだから」

「うんうん! やっぱりバンド組むからには、みんなの良いところをいっぱい見せていかないとね」

「さて、そろそろ出ようか。

 正直、一刻も早くこの曲を書き上げたい」

 

 そう言うと、足早に席を立ち、そのまま店のドアを開けた。

 ──お会計を済ませずに。

 

「あっ、そうだ。虹夏、奢って」

「おい、ここお前のオススメじゃろがい」

「最近草しか食べてなくて限界で……」

「じゃ、じゃあ、私が出しますから」

 

 喜多が声を上げる。

 実際、その貧相な食生活の主原因が自身の多弦ベース買い取りにあるのだから、いつもの憧れとは別にそう切り出すのも無理はない。

 

「いや、甘やかしちゃ駄目だよ、喜多ちゃん。

 アレから月跨いだから今月のお小遣い出てるの知ってるんだからね。

 それでこうなってるってことは、またしょーもない買い物したに決まってるんだから」

「バンドマンなら楽器と機材は設備投資。プロなら経費で落ちる内容」

「で、トゥイッターでMy New Gearってそのまま寝かせてるんでしょ、いつものパターンだ」

「虹夏、お店の人が待ってる。あんまり待たせるのも迷惑だから」

「誰のせいだと思っとるか!」

 

 虹夏が抗議するが、結局そのまま虹夏払いで決着した。

 もっとも、『今日の分は給料から天引しとくから』の一言で、山田に膝をつかせたのだが。

 こういう時、経営者の親族は強い。

 結局、山田は少し項垂れたまま帰路に就いたのであった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 深夜、ギターとベース、キーボードを並べつつ、机に向かう少女の姿があった。

 少女はDTM用のDAWソフト*14にMIDIキーボード*15で音楽を打ち込んでいく。

 

 ソレが一段落すると、大きく背筋を伸ばし、ホッと小さく息を吐いた。

 そして、出力されたmp3*16のファイルに名前を入力していく。

 『Distortion!!』*17、結束バンドのオリジナルソング、第一号の完成の瞬間であった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◆

 

 

 

「できた」

「えっ、早くない?」

 

 アレからまだ1週間も経っていない、STARRYの一角にて、山田はそう切り出した。

 

「インスピレーションを活かしたかったから、ちょっと頑張った」

「あー、もう、そう言って、ここ何日も寝てないでしょ。珍しくクマスゴイもん」

「授業中に寝溜めしてるから大丈夫」

「だいじょばないの、今日は早めに上がって。なんなら、家で寝ていってもいいから」

「恩に着る。でも、コレをみんなに聞かせてから」

「はいはい。そういえば、ぼっちちゃんと喜多ちゃんはもうそろそろかな?」

 

 そういった直後に二人がやってきた。

 喜多はいつもどおり元気いっぱいなのだが、ぼっちの方はなぜか山田と同じくクマがすごい。

 そのためか、喜多がぼっちに肩を貸しながら歩いてきている。

 

「あ、あの……、歌詞……、また、できたんですけど。

 ちょっと、その、2曲ほどなんで、読んでいただけないかなと」

 

 どうやら、この前の山田の発言に触発されて、追加で書いてきたようだ。

 

「後藤さん、ここのところ、寝る間も惜しんで書き続けてるみたいで……、

 早く読んで安心させてあげたいんです」

 

 喜多もまだ歌詞の内容は見ていないようだ。

 見るならみんな一緒にということだろう。

 

「あ……、あと2曲、追加……」

 

 そう呻くと、山田は倒れた。

 何かが限界を超えたらしい。

 

「リョ────ウ!! しっかりして~!!」

「先輩! 大丈夫ですか!?」

 

 そうやって、二人が山田を支えようとしたところで、喜多の隣がカクンと落ちた。

 どうやらぼっちもつられて落ちたようだ。

 

「後藤さん! しっかり!! 後藤さ~ん!!!」

 

 結局、新曲の確認と新たな歌詞の確認は、翌日二人がしっかり寝てから行うこととなった。

 そして、ぼっち含む二人はまたしても虹夏の家に泊められることとなったのであった。

*1
『呪詛』の詳細な歌詞はアニメ4話か原作1巻7話を参照のこと。その歌詞の元ネタは『山崎ハコ』、1979年発表のアルバム『人間まがい』より『呪い』と思われる。内容としては他人を恨み、丑の刻参りで呪いをかけようとするのだが、その実他人を呪おうとしている自分が一番呪いで傷付いているという、恨むことの虚しさや切なさに焦点を当てた内容になっている。だが、楽曲全体のおどろおどろしさから、恨みの念が煮詰まった内容のように誤解されがちであり、同時期にその女の情念を歌い上げた『中島みゆき』の『うらみ・ます』の発表もソレを後押ししてしまったと考えられる。ちなみにぼっちの書いた内容はそんなところとは一切関係なくストレートな恨み節である。ぼっちの中学校時代が心配だ。

*2
元ネタはマザーグースの一節『What Are Little Boys Made Of(男の子は何で出来てるの)?』より。人によってはパワーパフガールズが先に出てくるかも。内容は男の子と女の子は何でできているのかと詠う詩で、男の子は『カエルとカタツムリと犬のしっぽ』、女の子は『お砂糖とスパイスと素敵なもの』でできていると詠っている。ちなみにこの詩には続きがあり、男の子は『ため息と流し目と嘘の涙』、女の子は『リボンとレースと甘い(かんばせ)』と続く。ぼっちが生物学的に女子なのは間違いないのだが、この詩でどっちが原材料っぽいかと言われると圧倒的に男の子のほうがしっくり来てしまう。だから感性が中学生男子とか言われるのか? 

*3
ちなみに、吸血鬼に聖書や十字架でダメージを受けるのは『ブラム・ストーカー』の『吸血鬼ドラキュラ』という小説のイメージが大きく影響している。同小説では吸血鬼ドラキュラは生前敬虔なカトリック信者であったため、キリストを思い起こさせるものに罪の意識を大きく感じて怯むという設定だったものがどんどんと拡大解釈され、現在では物理的にダメージを受けるまでになっている。また、ソレ以前にもキリスト教のアピール戦略として十字架や聖書には魔や病などを退ける力があるという宣伝を強く行っており、それらが複合してこんな形になっているものと思われる。

*4
スイカに限らず、甘いものに少量の塩で甘さを引き立てると言う手法は一般的に用いられるものである。人間の舌で感じる味は『塩味・甘味・酸味・苦味・うま味』の5種類あるのだが、この時に単体の味にアプローチするより、複数の味に強弱をつけてアプローチしたほうがより複雑な味になる。塩味と甘味では対比効果と呼ばれるものが働き、より甘さが引き立つようになる。しかし、当然ながら塩が一定量を超えると塩辛くなってしまうので注意。なお、酸味や苦味を含む複合の場合は逆に抑制効果というものが働き、苦味や酸味が抑えられるようになる。コーヒーに砂糖とか、焼き魚に塩やレモンとかが代表例か。推測だが、塩や甘味は人体にとってポジティブな味のためにより強調されやすく、酸味や苦味は人体にネガティブな味のためにより抑制される方向に働いているのだろうと考えられる。

*5
『いいネタ思い付く→作るのに時間がかかる→何度も見聞きする内に自分が飽きる→これ面白いか……? という疑問を抱く ←いまここ』。元ネタは2ch(現5ch)YouTube板『音声MAD総合スレ』の183番目のレス。前述した、作ってる内に面白さに自信がなくなっていくという過程と現象があまりにもあるある過ぎて共感を呼び、その負のスパイラル、及びソレによってボツにしてしまったネタを指して183と呼称するようになった。元ネタは動画編集に関する内容だが、その創作時に陥る普遍的な悩みは特にジャンルを問わず幅広いクリエイターからの共感を得るに至っている。解決法としては、第三者に見せるのが一番手っ取り早い。自分がどう思おうが、他人が面白いと言ってくれるだけでやっぱり面白いんだという気にさせてくれるし、ダメでもダメな部分がわかるのは創作にとって大きなプラスとなることだろう。作者としても、183を抱えた読者がいれば、とりあえず短編で出してほしいものである。

*6
傷害罪は人の生理的機能を害することにより発生し、言葉だけでもプレッシャーやストレスによる体調不良を引き起こした場合、成立する可能性がある。成立した場合、15年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑に処される。あるいは発言の裏にあるもの移管によっては脅迫罪が成立し、2年以下の懲役または30万円以下の罰金刑に処される可能性がある。みんなは間違っても年末にこんな言葉使っちゃダメだぞ☆

*7
写真の取り方のうち、顔から胸を写す取り方をバストアップ、腰から上の上半身を写すのをウエストアップ、全身写真をフルショットという。決して喜多ちゃんの板ちゃんは関係ない。

*8
都内でのスタジオレンタルは()()()()()1時間/4000円程度が相場。コレに機材レンタル費やカメラマンのヘルプなんかも加えると、まず高校生に出せる金額ではないだろう。そして、そこまでやっても満足の行く写真になる保証はどこにもないのだ。

*9
苦しまぎれに考えた手段の意。元々は孫子の兵法より『苦肉計』と呼ばれる策であり、自分の不利益でもって相手を罠にはめる計略の一種である。互いに最善手を打とうとする、自身に不利益な行為をわざと行うことはないだろうという心理的盲点を付く策であり、三国志時代の赤壁の戦いで用いられ一躍有名になった。内容としては『肉を切らせて骨を断つ』が最も近いかもしれない。昨今の苦しまぎれと言う意味合いは誤用ではあるが、そちらが一般的になってしまったためにそちらの意味で用いられるようになっており、誤解を招かないためには『苦肉の策』と『苦肉計』は分けて記載するのが望ましい。

*10
プログラムにおける一時的な障害や異常の事。近年に置いては特にゲームで異常な挙動や見た目などが発生した場合、または意図的にそういったものを発生させる行為そのものを呼ぶ。バグとの違いは一時的か永続的か、軽微か致命的かの違いであり、より重いものがバグと称される。例えば、キャラクターの見た目がグチャグチャになった場合、再起動やステージのロードなどで解消される。また、これによって理不尽に即死したりしないならグリッチであり、データを消さないと治らなかったり、まともに移動ができなくなるなどの重篤な不利益が生じる場合はバグとして扱われる。ぼっちの場合はどんなに酷くてもほっとけば治るのでグリッチでよいだろう。

*11
日本で最も有名な未確認生物(UMA)の一体。蛇のようだが大きめな頭と太く短い胴体を持つ、推定爬虫類。その正体については諸説あるため割愛するが、スラングとしては希少生物などを指して〇〇のツチノコなどと称される。この希少とは生物学的ではなく、社会的に(嬉しくない意味で)レアなステータスを持つ人間を指すこともある。本編では、小中高と集合写真以外に写真に写っていない女子高生たる自身を指してそう自称していた。

*12
『ここすき』くれー! 

*13
元ネタは俵万智の短歌集『サラダ記念日』の表題詩。短歌集でありながら280万部を売り上げた異例の大ヒット作の代表的な短歌であり、そのキャッチーさから多くのパロディを生んだ。なお、作者いわく、思いついたシチュエーションで褒められたのは唐揚げだったらしい。しかし、主食よりも副食の味を褒められたほうが印象が強そうに感じること、唐揚げだと重すぎるためもっと爽やかなものでサラダになったらしい。サラダは英語圏では青春や若々しさを表す単語としても用いられるため、フレッシュなイメージにはピッタリと言える。

*14
DTMはDesk Top Musicの略語で、PCでの音楽作成の環境を表す和製英語。海外ではコンピューターミュージックと称される。現代では、作曲作業は五線譜やピアノではなく、こういったソフトでの作業が多数を占めている。ちなみにDAWはDigital Audio Workstationの略語で、名前の通り、PC上で各種音声を編集しDTMを作成することのできるソフトのことを指す。DTMではこういったソフト、PCとギターやベースを繋ぐオーディオインターフェイス、MIDIキーボードとヘッドホンあたりが鉄板の組み合わせとなっている。

*15
通常の楽器としてのキーボードと違い、DTMの打ち込み用に特化したキーボードのこと。PCのキーボードに技術が必須でないように、MIDIキーボードも演奏が一切できずとも、DTMでの打ち込み作業の効率化には何ら問題はなく、むしろ楽器ができない人ほど必要になってくる。DTMソフトのミキサーを調整するつまみが付いてたり、ドラム用のパッドコントローラーがついていたりと、コレ一つあるかないかで作曲効率は大きく変わってくる。一方で多くの場合、最低限の鍵盤しか付いていない(音のキーの高低はPC側で調整する)ため、実演奏にはほとんど使えない。実用に耐えうる61鍵盤や88鍵盤タイプも存在するが、作曲に用いるなら設置スペースのことも含めて、最低限度の25鍵盤、または32鍵盤で十分だろう。

*16
音響データの圧縮する技術の1つであり、世界の音楽ファイルの中でおそらく最も利用されている拡張子。圧縮技術の特徴として、聞こえにくい音や脳内で補完されやすい音など、人間心理と性質を利用した有機的な圧縮を得意とするため、音の印象をほとんど変えずに圧縮できる他、その圧縮を行うエンコーダー次第で音の印象をガラッと変えることができる点も大きく評価された。また、そのmp3ファイルに特化した音楽プレイヤー、iPodやウォークマンなどの存在もこの普及を後押しし、覇権を握るに至った。昨今では音楽はサブスクリプションが基本なため、あまり利用されることのない一方、その派生形や後継となる拡張子は今日もCDや各種配信サービスで活躍するに至っている。

*17
アニメ、ぼっち・ざ・ろっく!第1話~第3話のEDテーマ曲。タイトルの由来はギターサウンドに用いられる『ディストーションエフェクター』及びそのエフェクトが効いた音をディストーションと称している。本来作中には登場しない楽曲だが、作中設定的に全結束バンドの楽曲は作詞・後藤ひとり、作曲・山田リョウなため、結束バンドのファーストアルバム『結束バンド』収録曲である本楽曲も結束バンドのオリジナルソングとして扱う。と言うか、全人類はこんなもん読んでないで『結束バンド』聴け、早急に。アニメEDは4つの楽曲を各メンバーがボーカル兼任と言う形で担当しており、本楽曲は喜多ちゃんの担当楽曲に当たる。そのためか、ぼっち作詞だが喜多ちゃん的エッセンスが多分に含まれた楽曲となっており、特にサビの歌詞がほとんど前向きなキーワードで構成されているあたりが作中のぼっち作詞曲と大分違う印象を生んでいる。本楽曲はアニメ冒頭3話のEDにふさわしくこの先の期待感を高める内容となっており、過去の孤独にギターを弾く自分とバンドを始めてからの希望に満ちた今と未来をハイテンションで仕上げた楽曲となっている。一言で言うなら『バンドサイコー!!』みたいな感想をぼっち流に仕上げた一曲と言える。一番の『スネアのリズムが重なって』の一文がバンドに誘ってくれた虹夏の存在を暗示し、ラスサビの『君も同じかい? 理想像 追いかけた日々 Fコード』は同じバンドへの憧れを共有するぼっちと喜多のことを暗示しており、まさしく作中3話分の心情をダイレクトに叩きつけてきてる感じがとても良い。コレ以上語ると文字数がパンクするため、それ以上はアルバム買って歌詞カード片手に各自でニヤついておくように。




 今回も高評価を頂いた、以下の方々に心より感謝を。
 敬称略です。
 ☆10 カプリコイチゴ味 Mihiro-in-Circumf
 ☆9 黒南瓜 けちゃっぷかみ メンタス ゴマあざらし Kakukaku123 もんぺの妖怪 humility Rife ドリアスピス ノーバディ621 NBRK ソニオール

 今回の話では、喜多ちゃんが作詞の一員として本格始動しました。
 もちろん、主はぼっちですが、サブとして、色々と活躍してくれることでしょう。
 そして、山田は山田でしたね。
 でもなんか儚さを感じちゃうのは自分だけでしょうか?
 こんなしおらしいキャラだっけ? まあ良いか。

 次回はオーディション回……、になったらいいな。
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