【完結済】MASKED GUITER HERO ぼっちちゃん 作:リチウム
年末明けても忙しいのが悪いですね。
今回はいよいよオーディション回です。
なんか筆が走っちゃって文字数気持ち多めですが、切りよくいった結果ということで。
あと、お気に入り登録が834件もあってびっくりしました。
みなさんも、ぼざろロスは重いようで……。
今回も、お気に入り、高評価、感想、ここすき等お待ちしております。
紫陽花咲き誇る6月も終わり頃。
いつものSTARRYに集まる4人。
今日の話題は期待の新曲Pt.2である。
「それじゃあ、早速お披露目しよう。
栄えある結束バンドの2曲目、『ギターと孤独と蒼い
「今回は前とは逆に私がAメロBメロをメインで担当した*2んですよ! もちろん、全体の編集は後藤さんですけど」
「あっ、ハイ。サビメインでやらせてもらいました……。
ちょっと暗すぎるかなとか思ったんですが、喜多さんが結構こっちよりの歌詞を書いてくれてありがたかったです」
それは、ぼっちとしても意外な発見であった。
光合成できそうな陽の中の陽みたいな喜多であっても自分のようなものを抱えているという共感は、今までよりもぐっと二人の距離感を近づけていっている。
もちろん、日々の練習による二人っきりの時間の多さも関係しているが。
「3曲目も鋭意制作中。
虹夏に止められなければ次のライブ(仮)までには練習期間も取れるあたりで仕上がるんじゃないかな」
「いや、流石にまたあーなったら止めるからね」
「「あー」」
山田以外の3人は先週の山田の様子を思い起こしていた。
山田かつて無い疲労困憊*3で色々とぶっ壊れていたときのことを。
『いらっしゃいませ~☆、今日はどのバンドを見に来られたんですかぁ~』
『虹夏ちゃ~ん、どうしたの? 今日なんだか元気ないぞっ☆』
『ん~、なんかいつもより変? えへへ~、そーかな~』
「うっ、蕁麻疹が……」
「正直、あの時の先輩は二重の意味で痛々しくて見てられなかったです」
「あっ、人ってあんなに壊れるものなんだなって思いました……」*4
山田がぶりっ子キャラみたいな人格になり始めてようやく虹夏は山田がまたも徹夜して楽曲を作っていることを悟った。
小賢しくも化粧でクマや顔色を誤魔化しており、練習やバイトの参加率がいつも通りだったことも見落としにつながった。
最終的に虹夏が山田の家に泊まり込んで無理矢理寝かしつけるのを繰り返すこと数日でようやっと解決し、健康的な生活を取り戻した山田は作曲は無理をしない範囲で行うという念書まで書かされるという結末で幕を閉じた。
なお、その間の伊地知家の食卓はPAさんに代行された。
本人曰く『たまには作っておかないと、腕が鈍っちゃいますから~』とのことで好意的に引き受けてもらえた。
「とーにーかーくー、リョウはあんまり無理しないこと!
そりゃあ、オリジナルソングは大事だけど、それ以上にリョウのほうが大事なんだから」
「虹夏……」
「じゃあ、今日も料理、掃除とモーニングコールよろしく」
「いい加減金とるぞ、お前」
「リョウ先輩、元気になって良かったね」「私にお金ないの知ってるくせに」
「あっ、はい。わたしもそう思います」「あたしにもあたしの生活ってもんがあるんだよ!? 時間は有限なんだから」
「ほら、虹夏。
ソレよりも曲を聴く会だから、その話は後で、ね」
「なんであたしが聞き分け悪いみたいな……。
うーん、とりあえず今は置いとくか……。
それじゃ! 改めて聞いてみよ~。あ、ポチッとな*5」
そうして流れた曲は、山田の熱意とギターコンビの思いの丈も相まって見事に誰かの心に深く刺さるような仕上がりになっていた。
それも、打ち込みの音源と山田のわざと平易に歌われた仮歌*6でそうなのだから、本職たちが生で演ればもっといい感じになること請け合いだ。
「おお~、通しは始めて聞いたけどかなり良いよね!?」
「はいっ……、とっても!」
「二人の歌詞が、ソレだけ私に刺さったから。だから、曲もスムーズに書けた」
「やったじゃん! 頑張った甲斐、あったね」
「きなさい、撫でてやろう」
「は~い」
そうして、山田に撫でくり回される喜多。
正直言って、人様にお見せできる状態ではない。
そんな、ちょっと引いてるぼっちの頭上にも誰かの手のひらが乗せられた。
虹夏の手だ。
「ぼっちちゃんも、よく頑張ったね」
それは、母親が娘にするような、ゆっくりと、それでいて優しい手付きだった。
髪の間を梳くように優しく優しく撫でる手付きは一朝一夕で身についたものではあるまい。
ぼっちは心の中の不安がひどく和らいでいくのを感じた。
「お、お母さん……」
「違うよ!?」
とっさに離された手を少し名残惜しそうに見つめるぼっち。
そうして4人がはしゃいでいると、入り口から封筒を持った星歌が現れた。
「はい、注目!
お待ちかねの給料だぞ。ふふーん」
そう言って、4人分の封筒を見せびらかす星歌。
ソレを見た4人もテンションが上っている。
次々と封筒を受け取り、中身を確認するメンバーたち。
そして、ぼっちの順番がやってきた。
「はい、ぼっちちゃんの分」「あっ、天引きされてる」
「あっ、ありがとうございます」
そうして受け取った封筒の中には燦然と輝く諭吉が一枚。*7
(い、1万円……。私の汗と涙の結晶!)
初任給というものは誰にだって特別なものだ。
ましてや自他ともに認めるコミュ障たるぼっちが接客業で稼いだものともなれば感動も一入というものである。
(何に使おう……、新しいスコア? 漫画大人買い?
あっ! お母さん達にケーキとか買って驚かせ「じゃあ、折角の所悪いんだけど、ライブ代徴収するね」)
ぼっちの皮算用は泡と消えた。
「聴いてください……。新曲、『さよなら諭吉』*8」
「ごめんねー! 私だって心苦しいんだよ」
そうして、思いの丈をぶちまけたぼっちは帰巣本能的ななにかに従い、いつものゴミ箱に入った。
なんか山田にツンツンされてるが、内面世界に入ってるぼっちは無反応だ。
(そういえば、ライブのノルマのためにバイトしてるんだった……)「喜多ちゃんも、ごめんね」「いえいえ」
(まぁ、毎月ここで頑張れば結束バンドが活動できるんだし、これでいっか「ええっ!」)
「アルバム作るのって、そんなにお金かかる*9んですか?」「え?」
なにやら聞き捨てならぬセリフが聞こえてきた。
「う~ん、折角ならライブの物販で置いてみたいし……。
それに、ミュージックビデオの撮影*10とかするのも、結構お金かかるんだよ~」「はえっ」
「じゃあ、夏休みは別のバイトも増やさないとですね!」
「だね~、みんなで海の家とかでバイトしちゃう?」
「いいですねぇ、海!」
(ううううう海ぃぃぃぃぃ!?)
海! それは陽でウェーイで頭パリピのみに許される超キラキラ空間!
その環境と陽キャの間に生じる圧倒的破壊空間は、まさに陰キャの
それから逃れるべく、ぼっちは悪魔の力に手を伸ばした。
「あーダメだ。やっぱり未成年には貸してくれない。いや、もっと闇に潜ればもしかしたら……」「遊園地でバイトとかもいいですよね!」「それ、楽しそう~!」
躊躇なく闇金に手を伸ばそうとするぼっち。
2022年ともなれば、スマホ1台から地獄への直行便が手ぐすね引いて待ちわびている時代なのだ。
ぼっちがまだ未成年で本当に良かった。
さもなくば、とてもきららではお見せできない状態になること間違いなしであった。
「肝臓売りに行かなきゃ……」
「ぼっち」「うえああええ」
集中しているところに話しかけられて取り乱すぼっち。
「ギ、ギギギギターを担保にすれば借りれるはずなので、バババイトを増やすのだけは!
海とか遊園地だけはどうか何卒~!!」
念のために補足しておくが、ギターは親からの借り物である。
ソレを躊躇なく差し出そうとするあたり、よほど追い詰められている証といえよう。
「いや、そうじゃなくて、次のライブの話」「えっ」
「あと、流石にぼっちからギター取り上げたりしないから」「えっ」
バイト前に結婚資金を受け取ろうとしたやつのセリフとは到底思えない。
山田に言わせれば、それと音楽は別枠だとでも返すのだろうが。
そうしている裏では虹夏が次のライブの算段を語っていた。
が、どうやらまだ枠を確定させていなかったらしい。
「え? まだ言ってなかったんですか?」
「大丈夫~、この前もすぐ出させてくれたもん。ね! お姉ちゃん!」
「あ? 出す気ないけど」
時間にしてきっかり1秒、間違いなく3人の時は止まった。
「……え?」
「「えっ?」」
呆然とする3人。
そんな中でやれやれと言わんばかりに額に手を当てる山田の姿が印象的だ。
しょうがなく、虹夏の肩を突付く山田。
再起動した虹夏は姉に詰め寄る。
「え? 何で? オリジナル曲もできたのに……。
このペースなら、8月には3曲全部オリジナル曲のライブだって……」
「それはこっちに関係ない」
ノートPCで8月の出演予定者をまとめている星歌。*11
当然ながら、そこに結束バンドの名前はない。
(な、なんだか空気が……、やばい……)
「ああ、集客できなかった時の、ノルマなら払えるよ……」
「お金の問題じゃなくて、実力の問題」
「う……、この前は出してくれたじゃん」
「アレは正直後悔してる。あの時、ぼっちちゃんが目ぇ覚まさなかったらどうなってたと思う?」「うっ」
「それに、普段はデモ音源*12審査とかしてんの、知ってんだろ」
「そう……、だけど……」
「それとも、またぼっちちゃんにワンマンやってもらうつもりか?
もしそうなら、ますますお前を出す必要はないな」
言い返すこともできず、ぐっと堪える虹夏。
実際、何一つ間違ったことは言われていないのがなおのこと辛い。
「それに、そもそも喜多ちゃんは今どんだけできるんだよ。
フロントマンがド下手だってんなら、流石に許容できない」
「ド下手だなんて!」
「大体、喜多ちゃんがギター始めたの何時だっけ? 学校入ってからならまだ3ヶ月だろ。
むしろ、ド下手なのが普通だ。別に貶しちゃいない」
原作世界線と違って、初ライブでのダメージが大きいためか、少し喜多に対するあたりが強い星歌。
喜多ちゃんも大分気不味そうだ。
「それじゃあ、あたしたちは……」
「一生仲間内で仲良しクラブやっとけ」
もはや何も言えない虹夏。
内側のグルグルとしたよからぬものが爆発しそうな感覚を必死に堪えている。
「まだ何かあんの?」「ん~!」
「未だにぬいぐるみ抱かないと、寝れないくせにー!」
そう言って虹夏は走り去っていった。
「伊地知先輩!」
「何だ? 今の捨て台詞は」
「ぬいぐるみって、このヨレヨレのうさぎとパンダのこと?」
そうして山田が見せた写真には、寝巻き姿でうさぎとパンダのぬいぐるみを抱いて寝る星歌の姿が!
ご丁寧にプリクラ風のカワイイ落書きまでされている。
日常的に伊地知家に入り浸る山田にとって、星歌のあられもない姿を手中に収めることは造作もない事なのだ。
「あらかわいい」
「その画像消せ! 今すぐに!」
「何してるんですか! 追いかけますよ!」「えー」
「面倒そうにしないでー!」
虹夏の逃亡でパニックになるぼっち。
他人が喧嘩しててもダメージを食らう陰キャにとって、自分の関係者の喧嘩は脳機能を麻痺させるには十分すぎる効力を発揮した。
結果、なんだかオドオドするだけで行動に移ることができていない。
「ほら後藤さんも! 行きましょう!」「はっ、はい!」
ようやっと喜多ちゃんの一声で再起動するぼっち。
焦る喜多とは対照的に山田は面倒そうな感じを崩そうともしない。喜多ちゃんがグイグイ押してようやっと歩いている有様だ。
喜多と山田が出てから慌てて二人の後を追うぼっち。
「……はぁ。待って、ぼっちちゃん」「は、はい!」
しかし、階段の半ば辺りで声がかかる。
なんだかんだでバイト開始前以外でサシで話したことがない二人である。
ぼっちの頭の中はすでにパニック状態だ。
「虹夏に伝えて、ライブに出たいならまずオーディション。
1週間後の土曜日に演奏見て決めるから……、って、え? 何してんの?」
「せ、精一杯服従心を表現しようと……」
そこには犬が腹を見せるポーズで地べたに寝転がるぼっちの姿が!
家でジミヘン(後藤家の飼い犬)が妹のふたりによく見せるポーズである。
ぼっちには見せない。ナメられているからだ。
「早く追いかけないと、見失うんじゃないの?」「フフフッ、フフフフフッ」
「あっ、ワン!」
そうしてぼっちは慌てて駆け出していった。
PAさんは先程のぼっちがツボに刺さったようで、まだ笑いが抜けてない。
「そういえば、さっきの写真、なんで撮ってたんですか?」
しれっとぼっちの服従ポーズを撮影していた星歌。
ぼっちは気づいてないようだが、隣で見ていたPAさんにはバレバレである。
そもそも隠すような撮り方でもなかったが。
「あー、ほら……、意趣返し、的な?」
「店長さん、カワイイもの好きですもんね~」
そもそも意趣返しなら山田の弱みでなくば意味がないだろう。
でまかせは明らかであった。
「お前、減給してやろうか」
「きゃー、ごめんなさーい」
じゃれ合いを他所に手元のPC作業を進める星歌。
表示されるのは変わらず8月のバンド予定のファイルである。
しかし、そこには先程は見られなかった一行が……
◆ ◇
虹夏は下北線路街空き地*13に居た。
キッチンカーでジュースを購入し、ストローから大きな音を立てて飲んでいる。
子供が分かりやすく拗ねている時のようなふるまいだ。いや、ようなというかそのままだが。
そこに、山田と喜多が追いついてきた。
「わかりやすく拗ねてる」「うっさい」
珍しく攻撃的な虹夏。
ツッコミ以外でこうも刺々しい虹夏を見るのが始めてな喜多は少し戸惑い気味だ。
「あの……、先輩。大丈夫ですか?」
「ごめんね、急に飛び出して。でも、あんな言い方しなくてもさー」
ほっぺたをぷくーと膨らませて怒ってますアピールをする虹夏。
そこに、ぼっちが遅れてやってきた。
走ってきたためか、だいぶ息が荒い。
STARRYからここまでは距離にしておおよそ250m程度(徒歩3分)。
曲がり角の存在も考慮すれば、喜多ちゃんレベルでも1分程度はかかる計算である。
むしろ、よくぞ全力疾走しきれたものとさえ言えるだろう。
なお、その代償は推して知るべしといったところか。
「あ、あ、あの! はぁ……、はぁ……、えふっ……、あのっ、かふっ……。
さっきっ……、ハー……、カッ……、テンチョウサンカハッ……、アッ……、ハー……」
「ぼっちちゃん、まず息しよう!」
想定の数十倍ダメそうなぼっちに怒りよりも心配が勝る虹夏。
顔色はともかく、手足の肌まで変色している辺り、よほど酸素が足りていないようだ。
そうして、呼吸を整えること数分、ようやっと顔色が元通りになってきた。
そして、その間に虹夏はぼっち用のドリンクを買ってきてくれたようだ。
喜多や山田もしれっと自分の分の買い物を済ませている。
「はい、ぼっちちゃん」
「ありがとうございます……」
ドリンクを受け取るぼっち。
その後ろで自撮りしてイソスタに上げている喜多。
今どき珍しい○ラえもん土管は今風のドリンクも相まってとても映えるようだ。
一方、山田はガッツリ主食にいっていた。
ドリンクで喉を潤してから、ようやく話し始めるぼっち。
内容は先程の店長からの伝言だ。
そうして、伝言を伝えた後山田が一言。
「犬がお腹を見せるポーズ、服従っていうより、戦闘的なサインを現してる説、あるらしいよ」*14「えあっ!?」
「リョウ先輩物知り~! ってそうじゃなくて、つまり!」「アッアッアッ、アアアアッ!?」
「オーディション!」
「ええ! それに合格したら、ライブに出られるってことね!」
「は、はい……」
「なーら最初からそう言えばいいのに。お姉ちゃんの意地悪」
「でも、じゃあ後は頑張るだけですもんね!」「うん! うん! うん!」
珍しく満面の笑みでうなずくぼっち。
先程までの気まずい空気からの解放がぼっちの気分をハイにさせたのだろうか?
あるいは、店長への威嚇未遂が頭から吹っ飛んだことの反動も含まれるかもしれない。
「良かった~」
「アー、ウン。ソダネ」
「この二人が一番不安なんだけどって顔してる」「ドキッ!」
「えっ、私はともかく、後藤さんもなんですか?」
「あ~、喜多ちゃんはギターヒーローに脳を焼かれちゃったから解りにくいかもだけど……」
「バンド演奏のぼっちは異様にゆっくり走る自転車みたいな感じ。
不安定で何時ズッコケるかハラハラする」「うぐぅ」
「後藤さん、あんなに上手いのに……」
「バンドはみんなで1つの音楽を作ってこそだからね。
楽譜の音符より細かい間隔……、それこそ、ミリ秒単位が噛み合わないと正しい演奏はできてもいい演奏にはならないんだよ」
「はい……、噛み合わず、申し訳ございません……」
「いや、そんな気にしないで! むしろ、単純な実力ならぼっちちゃんが一番なんだから。
あたしたちはあたしたちで頑張らなきゃだし」
「実際、私達リズム隊がぼっちが暴れても大丈夫なぐらい支えられてれば問題にならなかった。
だから、お互いに目標に向けて頑張っていけばいいんだよ。
そうすれば、どこか交わったところでいい演奏になると思うから」「あ、はい!」
なまじ実力のある山田だからこそ、自分の実力不足を痛感している。
ぼっちを不安定な自転車と称したが、何故不安定かと問えば自分たちの歩幅に合わせてるせいだと山田は考えている。
もしも、自分たちが自転車ほどでなくても走るような速さで弾けるのなら、ぼっちがここまでふらつくことは無いはずだ、と。
そして、このままのペースでは何時かぼっちが
そう考えてしまうほど、山田の傷は深く、重い。
作曲で無茶を重ねるのも、そういった焦りからくる側面が決して無いとは言い切れないのだ。
「そうそう! それに、へたっぴでも、頑張れば熱意は伝わるって!」
「「へたっぴ……」」
「ああ、ごめん! でも、二人共最初より全然うまくなってるし……。ね? リョウ」
「うーん」
「ちょっと、フォローして! ああ! ぼっちちゃん!?
土管の中ひきこもらないでー!」
ダメージがしきい値を超えてグロッキーになったぼっち。
結果、手近な薄暗い所にのそのそと移動し始めた。
今回は例のドラ○もん土管の中だ。
「さ、作詞してまたちょっと調子に乗ってすみません。すぐに調子に乗ってしまう私のような人間は、この土管の中のような薄暗くジメジメ湿めぼったい場所でじっとしてるのがお似合いですね。フフフフフフ…………」
「ああ、ぼっち節が響いてぇ……」「おー」
「とにかくほ~ら~、出ておいで~」
その後、山田が食い終わるのを待って4人は帰路についた。
オーディションに対する明確な回答を持たないまま。
◇ ◆
アレから6日、いよいよオーディションが翌日に迫る金曜日。結局、ぼっちはオーディションへの明確な回答を出せずに居た。
わたしがギターヒーローとしての100%を引き出せれば良い?
いや、ソレじゃあダメだと店長さんは言った。
じゃあ、喜多さんがうまくなれば良い? 虹夏ちゃんやリョウさんが私が暴れてもいいぐらい上手くなれば解決する?
──何かしっくりこない。
虹夏ちゃんは言った。
店長さんはバンドとしての熱量や成長を見たいんじゃないかと言った。
じゃあ、成長ってなんだろう?
わたしの最近を振り返る。
バンドに入って、バイトを始めた。
人の目が少し怖くなくなった。
でも、ソレってバンドにはあんまり関係ないような気がする。
喜多さんは言った。
バンドとしての成長は、頑張りを伝えることができればいいと。
でも、頑張りってどうやったら伝わるんだろう?
わたしの頑張りはいつも空回りしてきた。
ギター以外の頑張りはどうにもならなかったし、現に学校でも喜多さん以外に友達も居ない。
そのギターも技術じゃなくて人間としての問題でつまずいて実力が出せないでいる。
リョウさんは言った。
そもそもそんなぼんやりした基準を無理に考える必要はないと。
確かにそうだ。
わたしだけじゃなく、頭がいいだろう他の3人*15も出せていない答え。
そもそも、答えがあるような問題でもないんだろう。
じゃあ、考えるだけ無駄なのかな……
結局練習して、昨日よりマシな自分たちになっていくしか無いんだろうか……
でも、わたしはどれだけ
バンドに入ってからのわたしはようやくミジンコ以下から人間のスタートラインにやっと立っただけ。
せっかく夢だったバンドをやれてるのに、成長した気になってただけで……、私は……
憂鬱さが抜けず、ソレが音にも現れる。
今はオーディション前の最終練習。
それなのに、いやだからこそ、頭の中に不安と思考が渦巻いて、モヤと自虐が埋め尽くす。
──そんなぼっちを虹夏はじっと見つめていた。
「……よし! 今日はここまでにしよーか」
「え? もうですか?」
「うん、明日のオーディションに備えて、ゆっくり休んでね」
「お疲れ」「お疲れ様です」
虹夏の一声で、その日の練習は解散となった。
暗い夜道を1人歩くぼっち。
俯いた表情は、真上からの電灯と長い前髪によって真っ暗な影になっていた。
その奥の瞳は目の前を映さず、ただ帰路までの道のりをなぞるためのセンサーのようだ。
そんな彼女の意識に声が届く。
「ぼっちちゃーん!」
「あっ……」
虹夏がこちらに走ってきた。
足を止め、振り返るぼっち。
「ごめんごめん。驚かせちゃって」
「あっ、いえ……」
「コーラでいい?」
「え? あ、ええ? え、あ、ハイ?」
虹夏は近くの自販機に小銭を投入し、こちらに奢るジュースの種類を確認する。
問答無用で奢られるという人生初の事態に、ぼっちは戸惑いを隠せずに返事も覚束ない。
自販機がコーラを吐き出し、虹夏からぼっちに手渡される。
ぼっちは事態を理解しないままに、しかしとりあえずお礼だけは言うことができた。
「もし、あたしに付き合わせちゃったりしてたら、ごめんね」「え?」
「いやほら。ぼっちちゃんが結束バンド入ってくれたのって、その場の成り行きだったでしょ?」「はあ」
「ぼっちちゃんあの時、ずっとバンドやりたかったって言ってたけど……
そういえばあたし、ぼっちちゃんがどんなバンドしたい? とか、何のために今バンドしてる? とか、聞いたことなかったなーって」「あ……、いや……」
そう言いながら、虹夏は自販機を操作し、レモネードを吐き出させる。
虹夏の横顔はいつもよりも真剣だが、どこか薄暗いのは決して夜のせいだけではあるまい。
一方のぼっちもうまく返すことができない。バンドを組んだだけで満足していた自分の空虚さに悩むぼっちには明確な回答が無いからだ。
「そもそも、あたしたちのバンドがぼっちちゃんに何をしてあげられるんだろう。
リョウ以外はそこまでうまい訳でもないし、お姉ちゃんがライブハウスやってたって、そこまで贔屓にしてくれるわけでもないのははっきりしたしね。
結束バンドじゃなきゃ駄目な理由を、あたしはギターヒーローさんに……、いや、後藤ひとりちゃんにあげられてるのかな」
「そ、そんなことは……」
「実際、ぼっちちゃんはインターネットで大人気な実力者で、その気になれば多分メジャーデビューもすぐにできると思う。
合わせるのが下手って言っても、合わせなくても良い実力だ! って言い切っちゃってもいいと思うし」
そうやって合わせずに合わせさせた結果を知っているからこそ言える言葉だった。
今の結束バンドの全力よりも、ギターヒーローの全力のほうが圧倒的なのは周知の事実であり、だからこそ虹夏の悩みも尽きない。
「あたしはさ、目標、っていうか夢があるから。
だからつい熱くなりすぎるっていうか……。
だから、ぼっちちゃんに無理させちゃってたりするかなーとか」
正直に言ってしまえば、後藤ひとり程の実力者の存在はその
だが、そのために無理やり巻き込むのは違う気がするし、何よりもそんな歪なバンドは虹夏の望むところではない。
「そ、そそそそんな、全然! むむむ無理なんて、ないです!」
「そう、だと良いんだけどね」
虹夏の心の霧は晴れない。
ぼっちが押しに弱く、他人を気遣うあまり自分を押し殺すタイプの人間であるということをこの2ヶ月でよくよく理解してしまっているからこそ、真にぼっちのセリフを信じられずにいる。
「あー、ごめんね。なんか暗くしちゃって。
本当は、悩んでるぼっちちゃんを励まそうと思ってたはずなのに……」
虹夏はなんとか笑顔をつくりながら話す。
しかし、ソレが無理やりな笑顔であることは誰が見ても明らかだ。
「あー、うん。この話、おしまーい!
また明日、張り切って頑張ろー!」
会話をぶった切るように手をパンと叩き、振り返る虹夏。
そして、そのまま自販機の前から逃げるように立ち去って行った。
──いや、行こうとした。
「ぼっちちゃん?」
その左手を掴まれなければ。
ぼっちは奇跡的に発揮した反射神経で虹夏を捕まえた。
その目にはもはや迷いはなく、真っ直ぐに暗がりの虹夏を見つめていた。
「わ、わたしは!」
「わたしはあの日、虹夏ちゃんに声をかけてもらって嬉しかったです。
わたしが虹夏ちゃんに何も言えないのは、わたしがバンドを組むことだけで満足してしまっていたからで……。
そもそもバンドだって、組まなかったんじゃなくて組めなかったんです!
メジャーデビューできるとか、もっと上手い人だとか、そんな事言われたって……。
あの日、わたしを薄暗い影から引っ張ってくれたのは虹夏ちゃんなんです!」
そう言って、虹夏を強く引き寄せた。
ぼっちには珍しく、ほとんど零距離で目を合わせながら話す。
「だから……、だから、わたしは結束バンドが良い。
ギターヒーローよりも、もっと上手い何処かの誰かなんかよりも、喜多さんが居て、リョウさんがいて、虹夏ちゃんがいる結束バンドが良いんです!
そして、みんなの夢を一緒に叶える本物のヒーローになります! 成ってみせます!
──だから、そんな悲しいこと言わないでください」
「ぼっちちゃん……」
後藤ひとりが内に秘めた爆発力。
その熱量がひとり自身に決意を灯す。
かつての自分は『普通になりたい』と言った。
本当は今もそう思っている。
でも、虹夏ちゃんの夢も叶えたい。
そして、結束バンドで夢を見たい。
これも嘘偽りない真実だと気付いた。
結束バンドの目指す先はまだ曖昧で、ただなんとなく語るような子供の夢想でしか無いのかもしれないけど。
それでも、その先を見たい、見せたい。
そのためには、明日のオーディション
そして、その決意は虹夏にも伝わった。
ギターヒーローとは違う、『後藤ひとり』の熱。
ソレが、彼女の心情を言葉よりも雄弁に伝えてくれる。
彼女が結束バンドに本当の本当に本気であってくれること、それを心からようやく信じられた瞬間であった。
虹夏がそっとぼっちを抱きしめる。
「うん、ありがとう。
励ますつもりが、励まされちゃったね。
バンドメンバーを信じられないなんて、これじゃあリーダー失格かも」
「そんなことは!」
「うん、だからこれから。
今日が本当の結束バンドのリーダー、伊地知虹夏の始まり。
そして、改めて言わせて。
あたしたちと一緒に、結束バンドのリードギターとして、バンドを組んでもらえませんか?」
「はい!」
虹夏が伸ばした手を強く、強く握るぼっち。
もはや、二人に憂いはない。
そこには同じ星を目指す者の友情だけがあった。
「それじゃ、また明日ね!」
そう言って、虹夏は今度こそ去っていった。
今度は本当の笑顔を携えて。
その翌日、オーディションで会心の演奏を披露した4人は晴れて8月のライブ権を獲得した。
──オーディション後に後藤ダムが放流したりしたが、まあ気にすることでもないだろう。
これから、結束バンドは本当の門出を迎える。それに比べれば些細な事だ。
今回も高評価を頂いた、以下の方々に心より感謝を。
敬称略です。
☆10 はやまり
☆9 天上桜 山本田中山本佐藤34 こんそめ( ̄q ̄)zzz ぱちぱち nitonito02 バニラ ブレーメン タイヤ機君 TAKA 8888 kintarou23 ヨミタカ なべやま そーえもん
なんか筆がノッちゃった結果、オーディション吹っ飛びましたね。
いや、だって勝確じゃないですかあんなん。
というわけで、オーディションライブはアニメで確認してください。
余談ですが、虹夏がライブをおねだりする一連の流れで山田だけ平常運転だったのは、オーディション受けろの流れになることが理解っていたからだと思っています。
アニメ5話冒頭にて、山田が過去の所属バンドのライブポスターを眺めるシーンが有るのですが、そのライブ場所がSTARRYになってるんですよね。
つまり、山田はその正規ルートを通ったことがあるわけで、だったら2回目以降はそうなるだろうことは経験から分かるだろうと思うわけです。
以上、余談でした。
次回はいよいよ例のあの人が登場する予定です。