就活で防衛チーム志望だったけど“お祈り”された女   作:よよよーよ・だーだだ

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2、Univers reels et irreels 〈現実と非現実〉 ~『シン・ウルトラマン』より~

 

 防衛チームが怪獣から受けた被害そのものについては、極めて軽いものだった。

 

 最終的に破壊されたのは防衛チームの基地建屋、それも無人の古い倉庫を一棟全壊させただけ。海から上陸してから途上で破壊した街もすぐに元通り、街の人たちも含めて死傷者もゼロ。あれだけの騒ぎになったのに踏み潰される人が一人も出なかったのは、まったくもって奇跡的と言っていい。

 しかし、破壊された基地へ調査が入ったところ、思いもよらぬ事実が判明した。

 

「まったく、ヒドイ話よねっ」

 

 休憩室に据えられたテレビ、そこに映るニュース番組を眺めながら、コーヒー休憩中のミネ=アンナ隊員は憤慨していた。ニュース報道の見出しはこうだ。

 

『防衛軍上層部、裏金作りが発覚』

 

 破壊された倉庫から発見された極秘資料、そこからすっぱ抜かれたのはなんと『防衛軍上層部の裏金問題』だった。おれたち防衛チームの母体である防衛軍、その上層部たちは怪獣打倒の名目で増税するよう政府へ働きかけておきながら、その裏で大企業と癒着して汚い金のやりとりをしていたというのである。

 さらに破壊された街も元に戻ったとはいえ、怪獣の接近を察知できずに易々と上陸を許してしまったことも槍玉に挙げられた。行政による監査が入った結果判明した原因は『基地設備の老朽化による怪獣予測警報システムの故障』。件の幹部たちは、基地の整備に充てるべきだった予算まで私腹を肥やすために使いこんでいたというのだからまったく呆れてしまう。

 

「ったく、偉い立場のくせに、皆から集めた税金を食い物にするなんて……!」

 

 暴かれた汚職の事実に、ミネ隊員はじめ防衛チームの隊員たちはカンカンだ。

 

上層部(うえ)がこんな不正をやらかしたら、そのシワ寄せを喰らうのは真面目にやってるわたしたち現場の隊員じゃん。恥を知りなさい、ってーの」

 

 ああ、まったく同感だ。

 汚職を行なっていた幹部たちはまとめて更迭されたものの、おれたち防衛チームへの世間の風当たりは一気に強くなり、ついには決まっていたはずの怪獣対策予算の見直しも決定してしまった。

 地球での活動においては、何につけてもお金は必要だ。ただでさえ予算が足りていない中をなんとか遣り繰りしていたのに、これ以上減らされてしまってはもはや怪獣たちと戦えなくなってしまう。

 実際、破壊された基地の修復も、予算が降りなくなってしまったために未だ手付かずである。こんな状態で外星人や怪獣の襲撃を受けてしまったら。

 

「ま、それでも出来ることをやるしかないんだけどね」

「まあな」

 

 ミネ隊員の言うとおりだ。

 『お金が貰えないから守れません』なんてのは言い訳にもならない。実際、おれたちの隊長をはじめ志ある上官たちが最低限必要な予算獲得のために動いてくれているし、そんな中で現場のおれたちに出来ること、それは今まで通り『人々を守る』という使命を全力で果たすことだけだ。おれたちは今いちど襟を正し、失われてしまった信用を取り戻せるように一層頑張らなくては。

 そんな決意を固くしていると、ふとミネ隊員が「……それにしても、」と呟いた。

 

「あの怪獣、いったい何だったんでしょうね?」

 

 おれたちの基地を破壊した怪獣は〈ギャンゴ〉と命名された。その行方については捜索チームが懸命に探してくれているが、今のところ進展はない。

 世間を騒がすだけ騒がした後、忽然と消えた怪獣ギャンゴ。その行方については捜索チームが懸命に探してくれているが、今のところ進展はない。カメラ機能がついた携帯端末が普及しているこの御時世、それなのにギャンゴの痕跡は不思議なことに皮膚片どころか足跡一つ、写真一枚さえも残ってない。

 そんな現状を鑑みて、ミネ隊員が深々と溜息をつきながら不思議なことを言い出した。

 

「ひょっとしてあいつは、現実の怪獣じゃあないんじゃないかしら」

 

 ……どういうことだ?

 おれが聞き返すとミネ隊員は「いや、だってさあ」と答えた。

 

「壊された街も元に戻ったし、わたしたちの基地が壊された以外は何の被害もない。いっそ『集団で幻を見てたんだ』って言われたらそんな気もするのよね」

 

 ミネ隊員の言うとおりだった。

 ギャンゴの姿が残っているのは、奴が暴れる様子を目の当たりにした街の人とおれたちの記憶の中だけにある。

 

「しかし、幻って、おいおい……」

 

 基地をぶっ壊す怪獣が『幻』なんてのは、いくらなんでも無茶があるだろ。

 おれが渋い顔をしていると、休憩室の入口から声が掛かった。

 

「その勘、案外当たっているかもしれんぞ」

 

 そう言いながら現れたのは防衛チームの科学技術担当、シルフィア=バルタニアである。基地が破壊されたときはおれも心配したのだが、シルフィアはおれからの連絡で即座にシェルターへ退避しており無事だったのだという。

 

「ラボの復旧は終わったのか?」

「もともとBCPサイトにデータをバックアップしていたからな。復旧といってもディザスタリカバリを掛けるだけで済んだ」

 

 そうか、それはよかったな。

 おれが安堵する一方、隣のミネ隊員が露骨に苦々しい顔をしていた。

 

「げ、出たわね、バルタン星人……!」

 

 そんなミネ隊員にシルフィアは「『出たわね』とは随分ご挨拶だな」と肩を竦めた。

 

「ミネ=アンナ隊員、君の日頃の粗野で無神経な単細胞ぶりはともかく、そのごく稀に当たる神憑(かみがか)りめいた本能的直感、君たち地球人が呼ぶところの“ヤマカン”に関しては殊更高く評価しているつもりなのだが」

「……それ、褒めてるつもりならコミュニケーション研修とか受けた方がいいんじゃない? イヤミにしか聞こえないんだけど?」

 

 ……まーた始まった、とおれは天を仰いだ。

 現場のエースであるミネ=アンナ隊員と科学技術担当のシルフィア=バルタニア、同じ防衛チームの仲間ではあるのだが実はあまり仲が良くない。

 感覚派の体育会系地球人であるミネ隊員と、理論派のインドア外星人であるシルフィア。正反対の二人はどうもウマが合わないらしく、顔を合わせればこのようにすぐしょうもない小競合いが始まってしまうのである。

 

「褒めてはいないさ。君たち地球人が言うところの『小粋なジョーク』という奴を試みてみただけだ。君こそ地球人のくせにそんなこともわからんのかね?」

「へえー、そうなんだ?」

 

 売り言葉に買い言葉で、ミネ隊員が青筋を立てながら言い返す。

 

「なら良かった。シルフィア、あんたもそういう面白くない冗談を言える程度にはちゃんと世間擦れしてんのね。ずーっとラボに引きこもってるから、てっきりそういう一般常識とか無いのかと思ってたわ」

「コミュ力と体力しかなくて本能だけで生きてる君とは違うからな、ミネ=アンナ隊員」

「なにおう!」

「やるかね?」

 

 はいはいそこまでにしとけ。

 ガルルル……と犬の喧嘩みたいにいがみ合おうとする二人のあいだへ、おれが割って入る。

 このままだと話が進まないし、なによりこれ以上くだらない諍いを繰り広げられても面倒くさいだけだ。おれは話題を軌道修正した。

 

「『当たってる』ってどういうことだ? 怪獣ギャンゴは幻ってことか?」

「あ……ああ、その話で来たのだったな」

 

 おれから水を向けられて、シルフィアはようやく本来の用事を思い出したようだった。

 

「今回の怪獣ギャンゴ上陸を防げなかった理由、公式発表は『怪獣予測警報システムの故障による初動の遅れ』という話だったが、そうではない可能性がある」

「どういうこと?」

 

 訊ねるおれとミネ隊員に、シルフィアは説明した。

 

「この基地のために開発提供した怪獣予測警報システム、アレの他に我々バルタンはステルス観測衛星を所有しているのだが、」

「ちょ、ちょっと待て!」

 

 ……外星人バルタンのステルス観測衛星? これまたトンデモないこと言い出したな。

 動じるおれと同じく、ミネ隊員も胡乱に眉をしかめる。

 

「しれっと言ったけどあんた、その衛星のことをちゃんと申告してるんでしょうね? こっそり打ち上げたりしてたら国際問題になりかねないんだけど?」

「してないな」

「ちょっ……!?」

「存在を知られていたら隠密(ステルス)の意味がないだろう。ちなみに高次元宇宙へ打ち上げているから、君たち地球人の技術では確認できんぞ。まぁそれは今回どうでもいいことだが」

「いや、どうでもいいはずが……まあ、いいわ。それで、その衛星がどうかしたの?」

 

 呆れ半分のミネ隊員に促され、シルフィアは説明を続けた。

 

「我々バルタンのステルス観測衛星では、君たち地球人へ供与した怪獣予測警報システムより遥かに高精度なものを運用している。あまり高度すぎるものを与えると、君たち地球人の科学力では管理できなくなってしまうからな」

「なんか馬鹿にされてるようでムカつく……」

 

 ミネ隊員のぼやきをスルーしつつ、シルフィアは続ける。

 

「我々のステルス観測衛星でも怪獣ギャンゴのことは観測していた。しかし、奴の出現に伴って観測できるはずの『マナの変動』が確認できなかった」

「マナ……こないだおれと話していた『現実性強度』がどうのって奴か」

「そう、その話だ」

 

 先日の会話を思い出すおれとシルフィアを見ながら、ミネ隊員が「ちょっとちょっと!」と口を挟む。

 

「あんたたち二人だけで納得しないでよ。マナって何? カードゲームかなにか??」

 

 ……ああ、そうか、ミネ隊員は知らないんだよな。

 おれは、先日シルフィアと話した『現実性強度』の話について、要点――無論おれの正体がウルトラマンであるという話だけは伏せて――を掻い摘んで説明した。

 

「ふーん……よくわかんないけど、つまりは怪獣が暴れようとしたらそのマナとかいうのが観測できるはずで、ギャンゴの場合はそれが無かった、ってことでOK?」

 

 ミネ隊員による要約に「厳密には違うな」と首を振る。

 

「街に上陸した時点において、ギャンゴは間違いなく高マナを持つ怪獣だった。だからこそ防衛チームの総攻撃も通用しなかった。ここまでは良い。だが問題は『それが突然現れたこと』だ」

 

 突然現れたこと?

 

「もしギャンゴが普通の怪獣なら、出現から活動が活発化するまでに低マナ状態から高マナ状態へ急上昇してゆく『変動の過程』が観測できるはずだ。その変動の過程を異変の前兆として観測するからこその、怪獣予測警報システムなのだからな」

「……たしかにそうだな」

 

 単に怪獣が目の前で暴れているのを報せるだけなら、予測警報システムの意味がない。怪獣が本格的に暴れだす前触れ、それを観測して先回りできてこその予測警報システムだろう。

 にもかかわらず、とシルフィアが口を開く。

 

「ギャンゴのマナ変動は、街に上陸する直前まで変動の過程がまったく観測できなかった。突如海中から高マナの塊として観測された。まるで『その場にいきなり出現した』かのようにな」

「それならテレポートとかじゃないのか? そういう怪獣もいないことはないだろ?」

 

 おれの指摘に、シルフィアは「それも考えにくい」と首を振る。

 

「テレポートのような時空間への干渉を起こそうとすれば、やはりそこにはマナの変動が生じる。まったく波紋を立てずに水面へ飛び込むのが不可能なのと同じだ。だが、ギャンゴの場合はそれすら無かった。奴は、何の予兆も無く突然現れた、としか言い様がない」

 

 ……そうだな、それはおかしい。

 地球の怪獣予測警報システムが故障しているのはともかく、外星人バルタンが使うステルス観測衛星でも怪獣ギャンゴのことを観測できなかったのはおかしい。そちらも故障したという可能性もあるかもしれないが、そのタイミングが地球のそれと重なるのはいくらなんでも時期が合い過ぎている。

 「ここから考えられる可能性は2つだ」とシルフィアが推論を述べる。

 

「ひとつは『ギャンゴがマナ概念を超越したある種の高次元怪獣である可能性』、だがこのパターンは考えにくい。我々のステルス観測衛星は、多元宇宙の物理の系に基づいたマルチバースパラメータ観測を行なっている。もしギャンゴがマナ概念を超越した高次元怪獣だとしても、ヤツが何らかの物理の系で活動する存在であるかぎりは別のパラメータが変動しているはずだが、それは見られなかった。暴れた様子の各種観測データから見ても、ギャンゴが飽くまでもこの時空世界に生まれ落ちた怪獣であることは間違いない」

 

 じゃあ『もうひとつ』ってのは?

 

「もうひとつは『現実改変者は別にいて、ギャンゴの正体はそいつが引き起こした現実改変の一部にすぎない可能性』だ。たとえば高マナの現実改変者が津波や竜巻を起こしたとして、それらは飽くまで『起こされた事象』にすぎない、よってそれらの津波や竜巻からはマナの変動が検出できない。ギャンゴもまた単なる怪獣ではなく、現実改変の一環で創造された存在である可能性がある」

「つまり、ギャンゴは『現実改変で創られた怪獣』ってことか?」

 

 おれが念押しすると「そうだ」とシルフィアは頷く。

 

「ギャンゴの正体が現実改変者の被造物にすぎないのであれば、突然現れて突然消えたのも説明がつく。現れるのも消えるのも何の理屈もいらない、現実改変者がただそのように現実を改変すればいい。ともすれば、ギャンゴに破壊されたはずの街が元に戻ったことや、録画映像に残らなかったのも、その現実改変の一環だったのかもしれん」

「ははあ、それで『幻』と……」

 

 ……ん、待てよ?

 

「ギャンゴが現実改変で創られた怪獣だとして、ギャンゴを創るためにはやっぱりマナが変動するんじゃあないのか? 現実を改変するときに、マナが変動するんだろ? その変動は観測できなかったのか??」

「そう、そこだ」

 

 素朴に訊ねたおれに対し、シルフィアは我が意を得たりと答えた。

 

「『怪獣ギャンゴが突然現れて突然消えたこと』『怪獣ギャンゴの出現に繋がる大規模なマナ変動が観測できなかったこと』、これらの事実からは『現実改変者の正体に繋がり得る側面』が見えてくる」

 

 現実改変者の正体に繋がり得る側面?

 

「そうだ。それは『この現実改変者は極めて強い現実改変能力を有しているが、一方でこの力は誰かから限定的に貸し与えられたものに過ぎず、しかも与えられてから間もなくて使いこなせてもいない、そして極めて杜撰で幼稚な人物である』ということだ」

「あんた、そんなことまでわかっちゃうの?」

 

 驚嘆するミネ隊員に、シルフィアは「考えてもみろ」と答える。

 

「マナ変動による現実改変というのは本来、規模の小さな改変から緻密に積み重ねてゆくものだ」

「そうなの?」

「でなかったらマナ変動を観測されて、現実を改変していることが露見してしまうだろ」

「あ、そっか」

 

 だが今回の改変者はそうしなかった、とシルフィアは言う。

 

「『怪獣予測警報システムが故障していた』『映像動画が一切残らなかった』という最低限の辻褄合わせこそしているが、『街を破壊するような大怪獣が突然現れて、建物一つを破壊したあと突然消える』、こんな理屈もへったくれもない大掛かりな現実改変を強引に行なったために我々防衛チームから尻尾を掴まれる結果となっている。現実改変能力を使いこなせている、もしくは多少なりとも理性的な人物ならこんな粗雑なことはしない。力を振るうにしてももっと慎重に行なうだろうし、ともすれば我々に違和感すら覚えさせなかったろうな」

「あー、そうね……現実を完璧に弄れるなら、こうしてわたしたちに気づかれることもないはずよね。だから『使いこなせていない』『極めて杜撰で幼稚な人物』だと」

 

 ミネ隊員は納得した様子だったが、そこへおれが口を挟んだ。

 

「でも『誰かから限定的に貸し与えられたものに過ぎない』ってのはどういうことだ? 使いこなせていないのは、最近能力に目覚めたからなのかもしれないだろ?」

 

 おれの追及を受け、シルフィアは「ああ、それはだな」と言った。

 

「そのことは『怪獣ギャンゴの出現に繋がるマナ変動が観測できなかったこと』から読み取れる。肝心の現実改変がこんなに杜撰である一方、自分の身元に繋がり得るマナ変動に関してだけは抜け目なく隠し通している。本来なら地球人が関知しているはずのない、我々バルタンのステルス観測衛星のデータも含めてな」

 

 杜撰なくせに抜け目ない……言われてみれば矛盾してるな。

 

「改変の杜撰さと隠蔽における抜け目の無さ、これらの相反した二面性は『現実改変』と『隠蔽』を行なっている存在がそれぞれ別人である可能性を示唆している。おそらく、悪意を持った幼稚な人物に、狡猾な何者かが現実改変能力を限定的に貸し与えてサポートしているのだろうな」

「ふーむ、なるほどねぇ……」

 

 おれが素直に感心している一方、ミネ隊員は言った。

 

「でも、そんな魔法みたいな力を与えるなんて、一体何者なのかしら?」

「さあな。だが、我々バルタンのステルス観測衛星によるマルチバースパラメータ観測さえも出し抜く奴だ。極めて高度な科学力を持った外星人、それも相当の手練れには違いない」

 

 シルフィアの発言に、ミネ隊員が「あら?」と怪訝な顔をした。

 

「どういう風の吹き回し? 防衛チーム随一のマッドサイエンティストであるあんたが、他の外星人相手に科学ジャンルで敗北宣言するなんて珍しいじゃん」

 

 からかうかのようなミネ隊員の挑発を受け、シルフィアは「我々バルタンの科学力をナメるなよ」と応じた。

 

「勝負はまだ一回の表だ。今回の件は徹底的に洗い直して、次こそ彼奴(きゃつ)の正体を暴いてやる」

 

 そう憤然と答えるシルフィアを前に、ミネ隊員も「ふーん……あんたも燃えてんのね」と不敵に微笑む。

 

「でも頭脳労働担当のあんたがそう来るなら、現場担当のわたしも頑張らないとね。どこのどいつが、いったい何を企んでるんだかわかんないけれど、その悪だくみを必ず暴いてやるわっ!」

 

 息巻くシルフィアとミネ隊員の二人を見ながら、おれも「そうだな」と応える。

 

「どんなに現実を改変できようが、怪獣ギャンゴによる基地の破壊は『現実』だ、幻じゃあない。もしも、あんな怪獣を好き放題に創れるような存在が野放しにされているんだとしたら、とんでもないことになる」

 

 だからなんとしても止めないとな。

 おれからの決意表明に、二人も「うむ」「そうね」と同意した。

 

★ \(olo)/ < デュワッ! ★

 

 ギャンゴはもともと、わたしが子供の頃に考えたオリジナル怪獣だ。

 

 幼い頃から防衛チームに入るのが夢だったわたしは、防衛チームに入ったわたしに倒されるオリジナル怪獣も併せて空想していた。ゴメス、マンモスフラワー、パゴス、ガラモン……ウルトラマンがやってくる前に倒された本物の怪獣たち。そのうちの一体としてわたしが空想したのが宇宙から来た暴れん坊、脳波怪獣ギャンゴだ。

 かつて両親に連れられて行った民族学博物館で観たトーテムポールと、実家にあった古いブリキの玩具から着想を得たデザイン。他愛ない子供の遊びの産物ではあったのだけれど、わたしの記憶へ妙に焼きついて残っていたのである。

 

 ……とまぁ、そんな思い出話はさておいて。

 突如わたし:オニタ=サトミの目の前に現れた、『何でも願いを叶えてくれる』という外星人の黒い男。彼から『次の願い』を求められたとき、わたしはこう求めた。

 

「じゃあ『防衛チームの悪事を暴いてもらう』ってのはどうかしら?」

 

 そんなわたしの願いに対し、黒い男は「防衛チームの悪事?」と聞き返してきた。

 

「何か悪事の証拠でも掴んでいるのですか?」

 

 ないわよ、そんなの。

 

「ないのですか?」

 

 そうよ、たかだか一市民にすぎないわたしが持ってるわけないじゃん。もしも持ってたらそれこそ“消されちゃう”わ。

 だけど。

 

「だけどそんなの見れば明らかでしょう? あいつら防衛チームってことになってるけど要するに『軍事力』『暴力装置』なのよ? 悪いことの一つや二つ、やってるはず。都合が悪い情報は、きっとあいつらが力に任せてメディアを牛耳って握り潰してるに決まってるわ!」

 

 穏やかに耳を傾けてくれる黒い男へ、わたしは懸命に訴える。

 

「だけど本当に大切なことをわかってるわたしのフォロワーたちはみんな言っているわ、『防衛チームの連中は陰で悪いことをしてる、皆から集めた税金をチューチュー啜ってるに違いない!』って。ほら、『火のない所に煙は立たぬ』って言うじゃない?」

 

 わたしからの熱心な説明に、黒い男も「なるほど、たしかに」と納得してくれたようだった。

 

「『火のない所に煙は立たぬ』、良い言葉ですね。わたしも好きな言葉です。ではその願い、叶えて差し上げましょう……」

 

 かくしてわたしが黒い男に頼んだ『防衛チームの悪事を暴いてほしい』という願い。そんなわたしの願いを叶えてもらった結果がこれだ。

 『防衛チームの基地を大怪獣ギャンゴに踏み潰させる』という展開になったときは流石に驚いたけれど、途中でギャンゴが踏み潰してしまった街並みについてはちゃんと綺麗に元通りにしてくれたし、ギャンゴの正体やわたしの身元に繋がるものは黒い男がすべて抹消してくれて、最終的には防衛チームの悪事を暴いただけの結果となった。まさに“あとしまつ”もバッチリだ。

 今夜は祝杯だ。こんなときのために用意していた『とっときの御酒』を空けながら、黒い男と互いにグラスを酌み交わす。

 

「嬉しそうですね、オニタ=サトミ様」

 

 そうニコニコ笑いかける黒い男に、わたしは「ええ、もちろんよ!」と答える。

 

「だってわたしの正しさが証明されたんですもの! 思っていたとおり、防衛チームの連中は腐敗の巣窟だったんだわ!」

 

 ありがとう外星人さん、あなたのおかげで真実が明らかにすることができた。正義は果たされたわ!

 わたしが御礼を言うと、黒い男は「ご満足いただけたようで何よりです」と微笑んだ。そんな黒い男の丁寧な態度にますます気を良くしたわたしだけれど、一方でふとこんなことを思った。

 

「外星人のあんたがこんなに親切なのに、それに引き換えウルトラマンときたら……」

「ウルトラマン?」

 

 そう、ウルトラマンよ、とわたしは答える。

 どこからともなく現れては怪獣を退治しては去ってゆく謎のヒーロー、ウルトラマン。ネットの都市伝説では彼の正体も外星人だと噂されているけれど、そういえばウルトラマンっていつも決まって防衛チームが困っているタイミングで出てくるのよね。

 

「まったく、ウルトラマンは戦うべき相手を間違えてるわ。防衛チームの邪悪な本性が明らかになった今、防衛チームこそウルトラマンが成敗すべき悪党でしょー?」

 

 案外、裏で防衛チームの奴らと結託してるのかもしれないわね。現に、ネットの噂だと政府や防衛チームに協力している外星人もいるらしいし、ウルトラマンだってきっとそうに決まってるわ!

 

「ウルトラマン、ですか……」

 

 冗談めいたわたしの言葉に対し、黒い男はやけに真剣な様子で考え込んでしまっていた。もー、そんなマジに悩まなくたっていいのよぉ~。

 

「ウルトラマンが難しかったら、怪獣でもいいわ。そう、ギャンゴよ。邪悪な防衛軍の暴走と、それを成敗して真の正義を果たしてくれる怪獣! これぞまさに本当のヒーローって感じじゃなあ~い?」

「なるほど……」

 

 わたしの他愛ない冗談に対し、黒い男はやけに得心した様子で言った。

 

「心得ました。善処しましょう」

 

 ふふ、頼んだわよ~?

 

「……ところで、オニタ=サトミ様」

 

 なあに、外星人さん? ほろ酔い気分の上機嫌で聞き返すわたしに、黒い男は何気なく言った。

 

「あなたは本当に素晴らしい地球人だ。これまで出会ってきた中でも一番です」

 

 いやぁ~、それほどでもぉ?

 飾り気の無い率直な御世辞にわたしが鼻の下を伸ばして照れていると、黒い男はふとこんなことを言い出した。

 

「宇宙は無限に広く、しかも素晴らしいものです。こんな地球とは違って戦争もなく、交通事故もなければ何百年何千年も生きてゆける、そんな天国のような星がいくつもあります」

 

 天国のような星、かあ……そこにはきっと鬱陶しい就活なんてのもきっとないんでしょうね。

 わたしの呟きに「もちろんです」と黒い男は微笑む。

 

「どうです、オニタ=サトミ様。こんな地球なんかサラリと捨てて、そういう星の人間になりたくはありませんか」

 

 黒い男の問い掛けに、わたしは少し考える。

 

「うーん、そんな星が本当にあるなら是非行ってみたいものだけれど……」

 

 酒の席での冗談だと思いつつも素直にそう返すと、黒い男は「そうですか、それはよかった!」と声を上げて喜んでいた。

 

「どうです。ここでひとつ、わたしに『地球を譲っていただく』というのは」

 

 地球を、譲る?

 

「ええ。たった一言、『あなたに地球をあげましょう』と言っていただきさえすれば、それでよいのです」

 

 ……何言ってんだろ、このヒト。

 黒い男からの奇妙な言葉に(かす)かな引っ掛かりを覚えつつ、わたしは答えた。

 

「そりゃあ無理な相談よ」

「どうして?」

 

 首をかしげる黒い男に、わたしはグラスの酒をぐいと飲み干しながら答えた。

 

「そういうことはわたしみたいな一般市民ではなくて、総理大臣にでも頼んでみたら? あんたみたいな親切な外星人だったら大歓迎だと思うけど」

 

 わたしがそう答えると、黒い男は困り気味に眉を落とした。

 

「総理大臣、ですか……以前お願いしてみたのですが、結局頓挫してしまいましてね」

 

 総理大臣に、頼んだ?

 

「ええ。『苦渋の決断』『白紙撤回』『お蔵入り』、いずれもわたしの苦手な言葉です。かの総理大臣閣下も些かお困りだったようなので御力になれれば、とわたしなりに手を尽くしたつもりだったのですが、どうも折が悪かったようで」

「ぶふゥ……ッ!」

 

 ぶっひゃっひゃっひゃっ、折が悪かった、かァ~! 面白い冗談ね~!!

 わたしが腹を抱えて爆笑している一方、黒い男は「ですから、」と続けた。

 

「ですから、この星で一番素晴らしい地球人であるオニタ=サトミ様、あなたにお願いしているのです。どうかわたしに言っていただけませんか、『あなたに地球をあげましょう』と」

 

 黒い男が語った言葉に当初こそ涙目になってゲラゲラ笑い転げていたわたしだけれど、ふと顔を上げたときに我へと返った。

 

「………………。」

 

 わたしからこれだけ笑い飛ばされても、黒い男は丁重に頭を下げていた。表情こそ微笑を浮かべたまま変わらないが、その真摯な態度からは冗談や酔狂で言っているようには到底思えない。この黒い男は本気で、そして心の底からわたしに言って欲しいのだ、『あなたに地球をあげましょう』と。

 ……ねえ外星人さん、あなたには散々親切にしてもらった。わたしなんかのことを『素晴らしい地球人だ』なんて惚れ込んでくれてもいる。そんなあなたの気持ちに応えてあげたいのは、わたしだって山々だ。

 けどね。

 

「でもやっぱり無理よ、そんなの。」

 

 なぜです、と食い下がってくる黒い男にわたしは言う。

 

「だって、地球はわたしの所有物(もの)ではないもの」

 

 たしかにわたしは地球人だ。けれど、地球の代表でもなければ所有者ってわけじゃあない。いくらあんたが素晴らしい外星人で、わたしが素晴らしい地球人だとしても、わたしが勝手に『地球をあげます!』なんて言えないのよ。

 総理大臣だろうが国連事務総長だろうが、誰だってそうよ。この地球上の誰ひとり、他所の星の誰かに対して『あなたに地球をあげましょう』なんて言える権利なんか無い。

 

「ましてや就活ひとつ上手くこなせない、人生ひとつ思い通りにできない学生風情のわたしにあるわけないでしょうが」

 

 自嘲気味なわたしの言葉を受け、黒い男は「ふむ、そうですか……」と思案する様子を見せたあと、やがてこう言った。

 

「では、あなたがこの星の支配者になれればいいわけですね?」

 

 え?

 

「あなたがこの星を統べる支配者、いいや『神』になれば。この星の何もかもをあなたの思い通りに出来るようになれば、この星はあなたの所有物(もの)になったのと同義になります。それならば、どうです?」

 

 え、えっ、なにを言ってるの?

 あまりにブッ飛んだ話で戸惑うことしかできないわたしに構うことなく、黒い男は話を続けてゆく。

 

「『邪悪な防衛軍の暴走と、それを成敗して真の正義を果たしてくれる怪獣』でしたね? では手始めにそれを実現して御覧に入れましょう」

「ちょ、ちょっ、ちょっと待っ……!」

 

 そして黒い男は指を鳴らした。

 

★ (V)o¥o(V)  ★

 

 怪獣ギャンゴがまたしても現れた。

 

 今度は海から上陸なんてまどろっこしい段取りすらない、市街地の真ん中に突如として現れたのだ。

 驚かされたのはそれだけじゃあない、そこでおれたち防衛チームへ下された指令もとんでもないものだった。

 

「防衛チーム総出動でギャンゴを撃滅ゥ!?」

 

 なんて滅茶苦茶な命令だろう。

 前回の出現時は海から現れたのもあって、街の人たちを逃がす時間だけはなんとか稼げた。しかし今度現れたのは街の人口密集地、街の人たちだって未だ避難しきれていない。そんな状況、そんな場所で怪獣と戦ったりしたら。

 ギャンゴ出現に併せて防衛軍は既に動き始めており、おれたち防衛チームもそれに加勢しろというのが上層部の意向のようだった。

 

上層部(うえ)は何考えてんのよっ!? そんなことしたら巻き添えで犠牲者が出ちゃうじゃないっ!」

 

 不満のあまり今にも爆発しそうなミネ隊員を横目にしながら、おれもここまでの経緯(いきさつ)を推察する。

 ……防衛軍の上層部はおそらく、昨今の不祥事で損なわれてしまった威信を取り戻そうと焦っているのだろう。あるいは、それらが暴かれる引き金になった怪獣ギャンゴに対する意地や私怨めいたものもあるのかもしれない。

 

 だが、そんなくだらない面子(メンツ)のために、罪もない街の人たちが巻き添えにされてしまうのではたまったものではない。そもそも上層部の不祥事は自業自得、たとえギャンゴが居なくても遅かれ早かれ露見していたはずで、街の人たちからすれば全く関係のない話だ。ギャンゴ撃滅よりも、まずは街の人たちの避難こそ優先するべきじゃあないのか。

 そう考えたおれたち現場の隊員からも即座に上申、猛烈に抗議したが結局却下。おれたちは出撃することになってしまった。

 

 ……現場のおれたち防衛チームが出撃をボイコットするのは簡単だ。いくら上からの命令とはいえ街の人たちの安全には代えられないし、そのためだったら多少の懲罰を受ける覚悟もできる。

 しかし組織の本体である防衛軍が既に動き始めてしまっている以上、おれたち防衛チームだけがボイコットしたところで何の意味も無い。現場の隊員に過ぎないおれでは動き出してしまった防衛軍を止められないし、そもそも防衛軍と防衛チームの命令系は別系統だから、仮におれが指揮官クラスだったところで停めようがない。

 いっそ、防衛軍が本格的に動くよりも先におれが“変身”してギャンゴをさっさと倒してしまう、という手段もなくはない。しかし、何しろギャンゴは先日の防衛チームの総攻撃をものともしなかったような強豪だ。おれがウルトラマンに変身して戦ったとしても苦戦は必至だし、なにより街の人の避難が進んでいない以上やはり巻き添えの被害が出てしまう危険は否めない。

 市街地の真ん中でギャンゴと戦うことになってしまうのは仕方ないにしても、せめて街の人の被害だけでも抑えられるような巧い手管はないものか……?

 出撃準備を整えつつもおれが思案していると、隣で準備していたミネ隊員が唐突に「あ、そうだ!」と声を上げた。

 

「この件、“オジサマ”に頼んでみようかしら」

 

 オジサマ? 誰だそれ?

 初めて聞く人物におれは訝しんだが、構うことなくミネ隊員は続けた。

 

「わたし、実は防衛軍の上層部にコネがあるの。わたしが防衛チームに入れたのもオジサマの伝手だったのよ。あの人に頼んだらあるいは……」

 

 ……なあ、ミネ隊員。

 

「なあに、ハヤト隊員?」

 

 振り返るミネ隊員に、おれは恐る恐る訊ねた。

 

「……いつだったか一緒にメシ喰ったとき、あんた、母子家庭だって言ってなかったっけか? それで苦学して学生ローンの奨学金借りて、やっと防衛チームに入ったとか言ってたような……?」

「ええ、そうよ。だから……アレ?」

 

 途端、ミネ隊員も違和感に気づいたようだった。つい先ほどまで溌溂していたはずの表情が、見る見るうちに強張り曇ってゆく。

 

「わたしは凄く頑張って……だけどオジサマのコネで……いや、そんなはずはっ……!?」

 

 そしてミネ隊員は、両手で頭を抱え始めた。まるで、頭の中身をまるごと書き換えられるのを必死に抑え込もうとしているかのように。

 

「ち、違うっ! わたしはコネなんかじゃないっ! 違うっ、そんなわけがないっ! いや、嘘ッ、そんなッ、でもっ……わたしは……わたしぃはぁあああアアアアアアアアっ!!!!」

 

 やがて精神が限界に達したのか、ミネ隊員は声を張り上げてその場へ崩れ落ちた。混乱のあまり泡を吹いて倒れてしまったミネ隊員を、おれは咄嗟に抱き止める。

 

「おい、大丈夫か、しっかりしろっ!」

 

 パニック状態のミネ隊員を助け起こそうとしていると、「フゥーハハハ!」と高笑いが響いた。見ると、チームの科学技術担当:シルフィア=バルタニアが、いつになく上機嫌な様子で大掛かりな機械を抱えて入ってきた。

 

「見たまえハヤト、遂に完成だッ!」

 

 あとにしてくれっ、今取り込み中なのがわからないのかッ!?

 おれは咄嗟に声を荒げてしまったのだが、シルフィアは意に介することも無く声高に言った。

 

「こんなこともあろうかと、かねてから開発していた新兵器がやっと完成に漕ぎ着けた! その名も超反応N2兵器:UN-105X-ウルトロイドスパイナーR1!」

 

 超反応N2兵器だって?

 聞き捨てならないフレーズに、おれは思わず自身の耳を疑ってしまう。超反応N2兵器、つまり核爆弾並みの破壊力ってことだ。シルフィアの奴、そんなものを開発してたのか?

 驚くおれを尻目に、シルフィアは続ける。

 

「これを使えば怪獣はおろか、惑星丸ごと吹っ飛ばせる破壊力さ! さあ、ハヤト、これを使って怪獣ギャンゴを倒すんだ!!」

「おいおい、冗談にしたってほどがあるぞ!?」

 

 惑星丸ごとって、怪獣ギャンゴを倒すために地球もろとも吹っ飛ばすつもりか? そんなことしたら……!

 堪えかねたおれは、シルフィアへ怒鳴り返す。

 

「シルフィア、あんた、さっきから言ってることが支離滅裂だぞ!? だいたいあんたの故郷だって、反応兵器の実験の失敗で棲めなくなって地球に移住してきたんじゃあないのかっ!?」

 

 おれの一喝を受け、シルフィアはハッとしたようだった。一気にしょげ返り、ひどくぼんやりした表情でぶつぶつと独り言を呟き始める。

 

「あ、ああ……そうだ、我々バルタンの故郷はそうやって滅んだ……」

 

 ことここに至って、おれは異常な事態が進行しつつあるのを理解した。

 権力者と不正なコネがあると言い出すミネ=アンナ隊員、滅茶苦茶な発明をするシルフィア=バルタニア、どちらも普段の二人からは考えられない異常な言動だ。どう考えてもおかしい、いったい何が起こってる……?

 そこまで考えて、おれはようやく思い至る。まさか、これは。

 

「現実改変か……ッ!?」

 

 ……思えば、気づくのがむしろ遅すぎた。

 おれたち防衛チームの基地を破壊して消えた怪獣ギャンゴ。そんな風に現実を改変するような悪意ある人物が、おれたち防衛チームそのものに手を出さないはずが無かったのだ。

 あまりの状況におれは呆然とするしかなかったけれど、それでも現実改変は着々と進行してゆく。おれの胸の中で抱き止められていたミネ隊員が、不意に起き上がって口を開いた。

 

「そうよ! 反応兵器なんてとんでもないわ!」

 

 あ、ああ、そうだな。おれは胸をなでおろす。

 よかった、まともに戻ってくれて……

 

「ちゃあんと怪獣だけを殺せる兵器を使わなくっちゃね!」

 

 ……んん??

 

「でも怪獣退治の邪魔になる人間なんて人間じゃあないわ、×××××よ!!」

 

 アアッ、とうとうハーメルンの利用規約的に載せられない感じの表現がッ!?

 もはや文章に書き表すことすら許されないようなミネ隊員の発言を受けて、すかさずシルフィアが「ああ、そのとおりだとも!!」と賛同する。

 

「平和のためなら、地球人の×××××は殺しても構わんよな!!」

 

 シルフィアまで!?

 唖然とするおれを前に、二人はトチ狂った戯言を続けてゆく。

 

「よォーし、今すぐ環境に悪い感じの新兵器開発をしよう! ミネ=アンナ隊員、すぐに実験材料にしてよさそうな地球人の×××××を捕まえてきてくれ!」

「オッケー、シルフィア! ×××××を×××××してくるわねっ!」

 

 あーもー、そういうヘンなところだけ息ピッタリになるなよっ、普段はあんなにしょっちゅうくだらんことで喧嘩してるくせにっっ!!

 やけにぐるぐるした目つきで飛び出してゆこうとする、ミネ=アンナ隊員とシルフィア=バルタニア。そんな二人を、おれはなんとかその場へと押し留める。

 

「ちょ、なによう!?」

「はなせハヤトっ!」

 

 うるせえ!

 続けておれは、両者の肩を同時に掴んで抱き寄せ、思いきり揺さぶり起こす。しっかりしろ、二人ともッ!!

 

「……はッ!?」

「わ、わたしは今、何を……!?」

 

 そして二人は、すぐ隣にあるお互いの顔を見合わせる。

 

「ち、近いわよッ!」

「こっちの台詞だッ!」

 

 そしていつも通りのド突き合い漫才を繰り広げようとする、ミネ隊員とシルフィア。

 ……よかった、やっと正気に戻ったか。内心でほっとしつつ、おれは気を引き締めて言った。

 

「今は喧嘩している場合じゃあない! これは『現実改変』、ミネ隊員のコネもシルフィアの反応兵器も偽物の現実だ、本物じゃあない!!」

 

 そんなおれの言葉に、二人も自らの身に降りかかった異常事態をようやく認識できたようで、「え、ええ、そうね!」「う、うむ、そうだ!」と気を取り直して同意してくれた。

 まずシルフィアが、すぐさま状況分析を始めた。

 

「我々の、いやこの時空世界全体のマナ値が急激に低下している……不味(マズ)いぞ、これは」

 

 マズい、って……まさかっ。

 

「いつだったか言ってた、『周りのマナを下げ過ぎて、時空世界の物理法則が破綻してしまう』とかいうアレか!?」

 

 おれは訊ねるが、シルフィアはぶつぶつと熟考に入っていて答える様子が無い。つまり、それだけこの事態が『マズい』のだろう。

 

「地球人相手ならまだしも外星人のわたし、それも外的状況だけでなく精神、記憶、内面の『自分だけの現実』にまで侵食してくるほどの現実改変……そうだっ、今回のマナ変動源、改変している最中の今なら観測できる!」

 

 シルフィアが結論に至ったのと同時、おれとミネ隊員の携帯端末が鳴る。シルフィアは言った。

 

「『マナ変動源の座標』と、逆に『一切マナが低下していないポイントの座標』、それぞれ君たちのデバイスにデータを送った。そいつらが今回の元凶だ」

「そいつらを止めればギャンゴも止められるんだな!?」

「うむ。今のうちならまだ追跡できるはず」

 

 続けてシルフィアは「そしてこんなこともあろうかと」と、あるものを取り出した。数は2つ、大きさは手のひらサイズ。ナスカンフックでユニフォームへぶら下げられるキーホルダーだ。

 ……これは? 渡されたキーホルダーを手に取るおれとミネ隊員に、シルフィアは説明する。

 

「これはとある財団と共同開発した、メタフィールド発生ガジェットだ。起動時、使用者のマナをこれ以上書き換えられないよう固定する機能がある。このまま街に出たら、また現実改変に巻き込まれる可能性があるからな」

 

 なるほど、バリアーみたいなものか。

 シルフィアに促され、おれたちはすぐさま起動ボタンを押した。静電気のような感触がぞわっと走るが、それは一瞬のことですぐに収まる。

 正常な起動を見届けたあと、シルフィアは「だが気を付けろ」と言った。

 

「このガジェットの起動可能時間には限りがあるし、これほど大規模な現実改変だと長くは持たん、いずれ突破されるだろう。一刻を争う事態だと思った方がいい」

 

 わかった!

 そう返事をすると同時に、おれとミネ隊員は基地を飛び出した。




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