正調ウマ娘節   作:あとん

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 ずっと欲しかったウインディちゃんが来たのと、セカンドアニバーサリーという事で書きました。


激!! イナリ一家

 ――拝啓、お父さん、お母さんへ。

 私は貴方達の娘として生を受けた事を、とても感謝しています。

 姉妹の中でただ一人ウマ娘として生まれた私を、特別視もせず一人の子供として育ててくれたこと。

 トレセン学園に行って、レースで活躍したいという私の夢を応援してくれたこと。

 授業料は勿論、毎月仕送りまでしてくれること。

 本当に感謝しかありません。

 お父さん、お母さん。

 私は二人の娘であることを誇りに思います。

 本当にありがとうございます。

 そして、お二人共。

 私は今。

 修羅場にいます――

 

「やだやだやだ〜っ! 今日はお休みするの! 魔力が足りないから動けない〜っ!」

 

「だ、ダメですよ! トレーナーさんに怒られますよ!」

 

「使い魔ならきっとアタシの命令にしーたーがーうー! つーかーれーたー!」

 

 12畳程の広さを持つ部屋に、2つの叫び声が響いていた。見れば、小さな二人の少女――いや、ウマ娘が大声で争っている。

 一人は茶髪の小柄なウマ娘だ。

 魔女を思わせるトンガリ帽子を被り、手足をバタつかせて暴れる姿は子供そのもの。

 彼女の名はスイープトウショウ。

 中等部2年でこのチームにおけるマイルレース担当である。

 現在、時刻は午後四時半。

 いつもならトレーナーが組み立てた練習メニューを行う時間なのだが、スイープトウショウがそれを断固拒否するのである。 そのためもう一人小柄なウマ娘が、何とか練習場まで引っ張っていこうとしているのだった。

 

「あ、あの、ジョーダン先輩! スイープ先輩を練習場まで連れて行くので、協力を……」

 

 駄々をこねるスイープトウショウに困り果てた彼女は、すぐ傍らで座ってネイルの手入れをしているウマ娘に尋ねた。

 

「は? いつものことでしょ。ほかっときなよ」

 

 しかしバッサリと切り捨てられ、思わず涙目になってしまう。

 この我関せずといった様子で熱心に爪の手入れをするウマ娘、名をトーセンジョーダン。

 柔らかみのあるふわふわな鹿毛をツインテールに纏め、耳にはカラフルなピアスやアクセサリー。

 色とりどりなネイルに可愛らしい薄化粧の相貌は、正しく『ギャル』。

 そんな彼女であるが、基本はマイペースでスイープトウショウのいざこざには基本、ノータッチであった。

 

「うう……トレーナー、イナリ先輩、早く来て……」

 

「がぶっ!!」

 

「ひぃいいいいいーーー!!」

 

 そんな二人の先輩に悪戦苦闘をしているウマ娘に、さらなる受難が襲った。

 突然、右肩を襲った挟み込まれる感触と痛み。素っ頓狂な叫び声をあげた彼女は、その場で飛び上がらんばかりに驚くと、そのまま勢いよく振り向いた。

 

「あーはっはっ! 大成功なのだ!」

 

 見ればまた別のウマ娘が楽しそうにケタケタと笑っていた。

 この中では比較的に背が高いものの、幼さが残る面立ち。勝気そうな瞳とギザギザのような歯に、ざっくばらんのミディアムボブが特徴的なウマ娘。

 名をシンコウウインディ。

 このウマ娘もチームの一員で、しかもどちらかというと年長者であるのにイタズラ好きで暴れん坊という困った存在だった。

 現に今も、獅子舞のハンドパペットでスイープトウショウに悪戦苦闘している彼女の肩を、後ろから挟み込んだのだ。

 

「な、何してるですかウインディ先輩! び、びっくりするじゃないですか!?」

 

「あっはっは! その顔が見たかったのだ! ウインディちゃんのいたずらに恐れおののくといいのだ!」

 涙目で抗議する後輩に対して、シンコウウインディは悪びれもせずに、楽しそうに笑うのだ。

 こんなんでもこのチームのダート担当で、上級生で学園内でも屈指の実力者なのだから質が悪い。

 

「……ああ。お父さん、お母さん。私はやはり入るチームを間違えたのでしょうか……」

 

 そして泣きそうな顔で天を仰でいるのが、このチーム最年少、トレセン学園中等部一年生のハニーマイティである。

 背はスイープトウショウよりも低く、見るからに気の弱そうな少女だった。

 彼女は最年少且つ一番の新入りであるため暴れる先輩二人を止める事も出来ず、ネイルの手入れに没頭する先輩の横で、オロオロと慌てふためくだけである。

 

「せいやっ、と! イナリ様の到着だぜぃ!!」

 

 そんな時、扉が開いて小柄なウマ娘が中へ勢いよく入ってきた。

 暗めの鹿毛をツインテールにし、右頭部には狐のお面を、左頭部には黄色のリボンを結びつけている。勝ち気そうに釣り上がった瞳と可愛らしい童顔の似合う、いなせなウマ娘。

 このチームのリーダーであるイナリワンであった。

 

「おうおう、皆の衆。今日も元気にやってるかい?」

 

「い、イナリ先輩〜っ!!」

 

「おうおう、藪から棒にどうしたんでぃ」

 

 部室に着くなり飛びついてきた後輩を、イナリワンは驚きつつも優しく撫でた。そして部室内で暴れる後輩二人を見て実情を把握したイナリワンは、大きくため息をつくとその場に近づいていく。

 

「おい、またいつものかい?」

 

「あっ、イナリ! 聞いて! スイーピーは今日魔力切れなのにマイティが!」

 

「ふっふっふっ……ウインディちゃんの悪事に恐れおののいているのだ!」

 

「いつものです! イナリ先輩、助けて下さい!」

 

「ていうか、使い魔はまだなの!? ご主人さまを待たせておいて、何をやってるのよ!」

 

「……トレーナーは会議だ。遅れるから先に始めといてくれとさ」

 

 そう言うとイナリワンはスイープトウショウの肩をポンと叩いた。

 

「しかし、惜しいねえ。今日はイナリ様直伝の追込魔法を伝授してやろうと思ったのに」

 

「え?」

 

 暴れるスイープトウショウの身体がピタリと止まった。

 

「古くから大井に伝わるこの魔法を受け付けるのは魔法少女スイーピーだけかと思っていたけど、しょうがねぇか」

 

 次第に輝き始めるスイープトウショウの瞳。バツの悪そうなハニーマイティの顔。それらを確認したイナリワンは更にオーバーな手振りで捲し立てるのである。

 

「まあ、くよくよしてても始まらねぇ! 無理して練習させて怪我でもしちゃあ、元も子もねえ。ここはスイープは休ませてあたしらだけで、練習始めようか!」

 

「ま、待って! そういう事なら天才魔法少女スイーピーに任せておきなさい!」

 

 先程の駄々から一転、スイープトウショウは目を輝かせて立ち上がった。その様子にイナリワンは苦笑し、ハニーマイティはため息をつく。

 

「こらーっ! ウインディちゃんを無視するななのだ!」

 

「おうウインディ。そういや今日トレーナーは、そのままグランドに直行するらしいぞ。そこならすぐに驚かせられるんじゃねぇか?」

 

「むっ……それなら早速、グランドで罠を仕掛けるのだ! くっくっく!」

 

 シンコウウインディも瞳を輝かせながら一目散に校庭へと駆けていった。

 

「終わった? ならそろそろ練習始めっか」

 

「うおっ、ジョーダン先輩いつの間にジャージ姿に……」

 

 すっかり準備万端となっなトーセンジョーダンの姿に驚きつつも、ハニーマイティもすぐに練習用のジャージへと着替え始めた。

 

「……ああ三女神様。私は間違っているのでしょうか……」

 

 哀しげにつぶやきつつも、彼女は着替えて練習の準備をし始めた。

 

 日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称トレセン学園。そこでは全国から「ウマ娘」と呼ばれる娘たちが集まった、巨大な教育機関である。そこに集ったウマ娘たちは、様々なレースに出場し、栄光を掴む。そのためのトレーニングや勉学に励むための場所であった。

 トレセン学園の校庭。広大な練習場の端の端、一角の隅にその建物はひっそりと建っていた。

 日の当たらない場所に建築されたその建物は、二階建てのプレハブ小屋。その玄関には手作り感溢れる木製の看板に『チーム・バルカン』と書かれている。

 だがそれ以上に目立つのはその壁に書かれたシンコウウインディの落書きの数々。あまりに異様な雰囲気に普段はそのチームメンバー以外はほとんど寄り付かない。

 集まっているウマ娘は皆、実力はありつつも性格や素行の問題で学園側も手を焼く優秀な問題児達。

 そんな彼女たちを『永世三強』と称されるイナリワンとそのトレーナーが集めて結成した訳ありチーム。

 通称『問題児収容キャンプ』、『トレセン学園の愚連隊』、『崖っぷちシスターズ』……それがこのチームの現状であった。

 そんな場所で一年生の新入り、ハニーマイティは良くも悪くも普通のウマ娘なのだ。

 そして彼女には、この面子は些か濃すぎた。

 

 この物語はトレセン学園を熱く駆け抜けたウマ娘達と、それに振り回された少女の物語である。

 




 この作品での設定を最後に書いていきたい……
 あくまでこの作品の世界観の話です。

 イナリワンのヒミツ

 実は、チーム内にフルーツ牛乳を布教し、好評を得た。
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