『ペルソナ4短編集』   作:OKAMEPON

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リクエストされて書いた足立さんと番長君の話。


『この雨が上がれば』(足立&番長)

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 窓の外で降り続く雨を見て、小さく溜息を吐いた。

 梅雨はもう明けた筈なのだけれども、ここ数日はどうにもハッキリとしない天気が続き、急な雨などで洗濯物も十分に干せない状態が続いている。

 一日中家で過ごしている同居人が居るので、ゲリラ豪雨が来たとしても、彼がぶつくさと文句を言いつつも洗濯物を取り込んではくれるので大きく困る事は無いけれど。

 それはそうと、こうも雨続きなのは少しばかり気が滅入る。

 雨自体は嫌いではないのだけれど……、どうしても『マヨナカテレビ』の事を思い出してしまうからだ。

 

 今となっては、『マヨナカテレビ』が何であったのか、一体「何」を映していたのかは理解しているけれど。

 あれに誰かが映ってしまうのではないかと、不安と焦燥……そして幾許かの期待を綯い交ぜにしつつ窓の外から雨音だけが響く中で暗いテレビの画面を見詰めていた時の、何とも言えないあの時の気持ちが少しばかりの苦みと共に蘇る。

 まあ最近は雨続きとは言え一日中降り続いている訳ではないし、そもそも『マヨナカテレビ』自体はそれを引き起こしていた存在を倒した事でもう発生しなくなっている。

 もう稲羽の街で、あの噂が流れる事は無い。

 真夜中のテレビ画面を見た所で何も映る事は無い。

 盲目的な善意が、自己中心的な自暴自棄な逃避が、誰かの命を奪う結果に結び付く事は無い。

 現実と虚ろの森の境を喪わせる霧が街を覆う事も無いし、虚無に溺れる心が世界を終わらせてしまう事も無い。

 

 そう、あの街で起きた全てにはもう決着が付いている。

 全ての条件を整え盤上に駒を配しそれを高みから観察していた神は、人の可能性を認めて心の海に還り。

 あの街で起きた一連の『事件』の引鉄を引き、己がゲームマスターであるかの如く盤上で事態を搔き乱していた彼も、己の虚無を剥き出しにして世界を滅ぼそうとはしたが、その身に巣食っていた存在を祓われた事を切掛けにして己の行いに向き合い現実のルールに従う事を受け入れて。

 そうやって、全てに決着は付いた。

 まあその後も幾度となく、彼方側の世界に関連した事件に巻き込まれたりもしたが。それに関してはまた別件である。

 

 そう、だからこんな雨の日でも、『何か』が起こるという訳ではないのだけれど……。

 

「そんな風に溜息を吐くのは君らしくないんじゃない?」

 

 吐息にも満たない程度の小さな溜息であったと言うのに、彼はそれを耳聡く聞き付けたらしい。

 思えば、ヘラヘラとした道化師の仮面を被っていた時でも、案外細かい所までよく気付く人であった。

 まあ当時の彼は、そうやって気付いてはいても自分に大して関係無いのなら見ないフリ知らないフリをする人だったが。

 寧ろ面白半分に引っ掻き回す事すらしていた事を考えると結構質が悪かった気もする。

 あの街で【真犯人】として対峙するよりも前の彼は、演じられた道化師の仮面でしかなかったのかもしれないけれど。

 それでも多分、きっと全部が全部、嘘だけでは無かったのだと俺は今でも思っている。……本人に言ったら、また嫌そうな顔をするだろうから自分の心の内に留めているけれど。

 

 今の彼はもう道化師の仮面を被る事は止めている。

 目の前に居るのはその本心の奥底まで曝け出した相手であるのだから今更、と言う気持ちもあるのかもしれないが。

 それでも中々本心を素直には表してくれないのは、そうやって隠す事が彼の癖になってしまっているのだろうか。

 しかし、どうにも素直では無い彼のその心を、その言葉や小さな行動から読み解くのがどうにも楽しく思えてきているのだから、俺としても今の彼との関係性をとても心地好く感じているのだろう。

 

 些細な言葉の選び方に、その呼吸の僅かな合間に、ふとした時に見せる表情に、感じるその「想い」は嘘ではない。

 かつて、その心の虚無を写し取ったかの様に崩壊した稲羽の街の様相を呈していた領域で対峙したその時には。

勝手に思い込んだ「本当」を信じていただけだ、なんて。

 それに素直に頷く事は出来ないけれど、かと言ってその全てを否定する事も出来ない様な、何とも苦い指摘を突き付けられた事もあったけれど。

 確かにあの時の俺には分かっていなかった事は沢山あったのだし、本心を隠すのが上手く素直では無い彼のそれの心を理解するには見えていない物が多かったのだけれど。しかしあの時に感じていた物が全部偽りであったとも思わない。

 嘘と偽りばかりであったからこそ、却って演じていたと本人が思っていたその中に真実が少なからず含まれていて。

 本性だと本人が思うそれですら、偽りが幾許か含まれて。

 まあ何とも面倒な人なのだと心から納得と共に理解して、そしてそんな「面倒臭さ」ごと大事に想ってしまう。

【真犯人】だと知った時には、既に彼は俺にとっては己の『世界』を形作る誰にも代替など出来ない掛け替えの無い存在になっていて。それは、彼が己の行いを現実のルールに従って向き合うと決めた後でも変わらず。

 もう二度と逢う事は無い、だなんて手紙で言い切られてしまったけれど。どうにも俺は諦めが悪いのだし、何だかんだと縁と言うものは確りと結ばれているのか、それとも俺が彼方側の世界の厄介事に巻き込まれる様になってしまった様に、彼もまた駒として選ばれた繋がりがあるからなのか同じ様に事件に巻き込まれたりして。

 そうやって再会する度に、とんだ腐れ縁だとか何だとか彼はそう言ってはいたが。しかしそうやって何度も出逢う事で諦めたのかちょっと素直になったのか。

 現実のルールに従って己の行いに向き合い、科されたものを果たし終えた彼に、「帰りましょう」と差し出した手は、振り払われる事は無く。

 渋々とでも言いた気な溜息と共に握り返されたのであった。

 そうして、彼との二人暮らしが始まった。

 

 彼は大層「面倒」な人ではあるし、面倒臭がりで何かと我儘な部分はあったが。それでいて本当に欲しい物には素直に手を伸ばす事の出来ない「難儀」な人であるし。そして何よりも大事に想えば想う程に、それを壊してはいけないとばかりにその手を離そうとしてしまう。

そうでありながらも本当に手放してしまったりする事も出来なくて、その結果儘ならない状態で雁字搦めになる。

 ……それは、自分の行いを言葉にする以上に重く受け止めているからであるのだろうし、そしてきっとこれから先も烙印の様に心に刻まれたそれと向き合うしかないのだろう。

 それに関しては、俺が代わってやる事など出来ないのだし、どんな結果であれ己の選択や行いの結果は自身で背負うしかないのだけれど。それでも、何かに向き合う時に拠って立つ為の場所、帰る為の場所、支えになる「何か」にはなれるのだと、例え自惚れであったとしても思いたくて。

 だから、時折何処か遠い場所を見詰める様に昏い目をしてしまう彼に寄り添う様に傍に居た。

 まあ、叔父さんたちも彼にとっては「帰る場所」の一つではあるのだし、それに関しては彼も何だかんだと認めているので、本当の「孤独」にはならないけれど。

 しかし、叔父さんたちが居る稲羽の街は、彼にとっては様々な意味で帰る訳にはいかない場所だ。

 だからこそ彼には、叔父さんたちの所以外にも「帰る場所」が必要だと思ったし、そんな存在になりたいと思ったのだ。

 

 そうやって同居生活が始まって、外に出るには色々と差し障りがある(と本人は思っている)彼が在宅で出来る仕事を見付けてきてそれなりの時間が過ぎて。

 今では、ずっと前からこうして二人で過ごしてきたかの様な時間が流れる様になって。これからもずっと、こんな穏やかな時間が過ぎていくのではないかと、そう思ってしまう。

 それでも、時折何かの拍子に、あの一年の事を思い出して。

 そして、穏やかな時間なんて呆気なく崩れてしまう事も強く意識してしまう。それを嫌と言う程思い知ったのだから。

 守りたいと願った命を守れない事も、俺にとっては大切な人の一人であった存在が元凶であった事も。

 そう言った事を、思い出してしまうのだ。

 そう、例えば。深い霧が立ち込めた様な日や、或いは長雨が続く様なこんな日に。

 それは、雨と霧が事件に深く関わっていたからなのだろう。

 

「……この雨が止んだらさ、少し何処かに出掛けようか」

 

 彼がそう言葉にした事に少し驚いてしまう。

 道行く誰も彼もが彼の事を知っている訳ではないけれど、しかし彼の事を知らない人ばかりでも無い。

 己の行いに向き合った結果、決して軽くは無い様々な罰を背負う事になった彼への世間の目はどうしたって厳しくて。

 だからこそ、彼は基本的にあまり外には出たがらない。

 そうやって世間の目に晒される事で、共に暮らしている俺に何かしらの迷惑や害が降りかかる事を避けようとする。

 俺が彼を少しばかり強引に連れ出す事はあっても、その逆なんて殆ど無くて。これが初めてであった。

 

「えっと……良いんですか?」

 

 勿論断る理由なんてないけれど、思わず聞き返してしまう。

 

「まあ、偶には気分転換ってやつも必要だからね?

 それに、雨なんかよりも晴れた青空の方が似合うし」

 

 そう答えた彼のその表情は、何処か優しいものだった。

 

 

 

 

 

 

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