(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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大海賊時代前
第1話


私はひとり、頭を抱えていた。どうしてこんなどうしようもないタイミングで思い出してしまうのか。その前ならばいくらでもやりようがあったものを。

 

ドンキホーテ・ホーミング聖とかつて呼ばれていた男が今にも死にそうな顔で鏡の前に立っている。

 

妻がいうにはこの家についた初日から高熱を出して倒れてしまい、ようやく熱が下がったらしい。そのせいで前世の記憶を思い出したのだろうか、笑えない。心配そうに後ろから様子を見に来た妻と子供たちに笑顔を返したはいいものの、愉悦にゆがむ不自然な顔に違和感がきえず、自室にかけこむ羽目になった。

 

昨日まで私は世界貴族天竜人だった。証明チップを世界政府に返したばかりだ。世界貴族の地位を放棄して一般人として生活できるようになるのだが、権力を自ら放棄する者は先ず皆無である。その理由を今の私は嫌というほど理解していた。

 

せめて、せめて昨日の段階で思い出していれば、撤回することもできたはずなのだ。ギリギリまで引き留めてくれていた者たちはたくさんいたのだから。

 

昨日までは安全だった。天竜人は意図的に歪んだ教育をされているとはいえポテンシャルが高いから、時間さえ許せばなんとでもなった。怪しまれて処刑されることに細心の注意を払って奴隷とコネを作り仲良くなって故郷に匿ってもらったり、子供たちに教育したりすることもできた。

 

そうすればもっと自分を鍛えられていただろうに。そうすればもっと殺せただろうに、なぜマリージョアで記憶を戻せなかったのだろうか、惜しいことをした。

 

だがすでに私達家族は非加盟国に降ろされている。思い出したのが今日なせいで無駄な足掻きすらできなかった。

 

当然世界貴族であることを放棄すれば、後ろ盾である政府や海軍の庇護もなくなるので、一度でも地位を放棄して素性が判明すると殺しても海軍は動かないという理屈から数百年分の憎悪を抱いても泣き寝入りするしかなかった者達の報復対象になってしまう。

 

なにせ非加盟国は非加盟国であるというだけで、

世界政府に加盟していないために表向きは禁止にされているはずの奴隷や人身売買の対象となり、テキーラウルフの建設等を行われたり。

 

成果の何割かを政府に収め、他の海賊への抑止力となっている王下七武海が公然と略奪行為をしても許されたり。

 

事実上天竜人の手足と化している海軍のほぼ管轄外になってしまい、海賊や人攫いが横行し無法地帯となる。

 

そんな中に元天竜人がのこのこやってくればどうなるかなんてわかり切ったものだろう。武器すらない丸腰の今の現状をみて思い知るのだ。これはそう、明らかに見せしめだ。

 

せめて1人くらいは奴隷が残ってさえいれば立ち回りも学べたろうが、この家には家族しかいなかった。

 

なんとかしなければ。なんとかして勝手を取り戻さなければ。半年、いや天竜人のポテンシャルなら一ヶ月でいけるだろうか。

 

惜しむらくは33年前ではまだオハラの悲劇をきっかけに創設されるはずの革命軍がまだないことだろうか。いやドラゴンは穏健派だからあんまり隠れ蓑には相応しくない。

 

門前払いを食らうだろうから世界政府や海軍には出せない。私はふらつきながら自室に戻ると手紙を書いた。一か八かだ。これがダメなら家族を守るために死に物狂いで生き残るしかない。場合によってはログポーズや船を奪うことも考えなくては。

 

いくつか便箋に仕舞い、買い出しにいってくると妻に告げた。

 

「お一人で大丈夫ですか?私も一緒に......」

 

「いや、大丈夫だよ。長旅で疲れが溜まっているだけだろうから心配ない。少し歩いてくるよ、太陽の光を浴びた方がいいだろう、きっとね」

 

「父上、大丈夫かえ?」

 

「大丈夫だよ、ありがとうロシー」

 

「父上、奴隷にやらせればいいのになんでこんなことしなきゃいけないんだえ?朝から疲れたえ」

 

「まあまあ、そういわずに手伝ってくれドフィ」

 

引越しの手伝いにあけくれる妻子を残し、私にできるのは真っ先に武器を買いに行くことだった。包丁しかない心許ない装備のままでかけた私に不思議そうな顔をして見送ってくれたロシナンテが最後に見たまともな顔だった。

 

非加盟国に海軍支社は当然ながらない。天竜人だとバレる前に武器を集めて籠城し、海軍に入れてくれと直談判するしかない。妻子だけは守ってもらわないと。特に妻は病弱だから一刻も早く逃げなければならない。

 

私は武器を買い、配達屋のところに手紙を出した。一見すれば新聞の契約依頼と海軍の英雄へのラブレターに見えるだろう。

 

そして、私はこの日からダメ元で銃を扱い始めた。妻は物騒なものを持つ私に驚いたが非加盟国の立場をオブラートに包んで説明したら納得してくれた。

 

 

 

 

 

 

一ヶ月がたち、なんとかかつての自分を取り戻した私はある日、我が子たちを裏山の散歩に呼び出した。今更ドフラミンゴたちの教育ができるとは思えなかった私はひとつ賭けにでることにしたのだ。

 

「ドフィ、ロシー。今まで黙っていたことがあるんだ」

 

「なんだえ?最近買い物に連れて行ってくれないのと関係あるんだえ?」

 

「......父上、最近、血の匂いがするけど、そのせいかえ?」

 

「ああ、そうだよ、ふたりとも。このことはお母さんには内緒にしておいてくれるかい?」

 

「......母上に言えないことかえ?」

 

「父上、なんだか顔が怖いえ」

 

私は頭を撫でたがドフィは真顔でロシーは怯えていた。

 

「実は前までいたマリージョアから引っ越したというのは嘘なんだ」

 

「......え?」

 

「え、え、どういうことだえ、父上!?」

 

「飽きたんだ」

 

「あき、えっ!?」

 

「!?」

 

「実はね、私はずっと人を殺してみたかったんだよ。だが奴隷だと誰も反抗してこないだろう?あそこではチンケな武器しか使えないし、私が天竜人のままでは歯向かってくるやつらもいない。それが退屈で退屈でたまらなくてね。非加盟国に降ろしてもらったのは、元天竜人という立場になれば報復してくる奴らがたくさん現れるだろうと思ってワクワクしたからさ。さすがにロシーには気づかれてしまったようだから明かすことにしたんだ。お母さんはなにも知らないからね、黙っていてくれるかい?」

 

愕然としているロシーの横でドフィもさすがに困惑した様子で私を見上げていた。私は手紙を2人にさしだした。

 

「ち、ちちうえ......?」

 

「ロシー、父上はこんな酷い嘘つく人じゃないえ」

 

「で、でも......」

 

「これは私からの父親としての最後のプレゼントだ。元天竜人だと明日いよいよ街中にばらそうと思っていてね。明日から私達の生活は報復に燃える人々によって地獄と化すだろう。私はその全てを皆殺しにするか否かのゲームをしたいと考えているんだ。さすがにお母さんを巻き込んでしまうのは忍びない。だから明日の早朝、沢山のカモメたちに乗ってやってくるモルガンズという新聞社の船に乗せてもらいなさい。なんなら海軍への願書もある。社長に話はつけてあるからね、悪いようにはされないだろう」

 

私は二つの封筒をドフィに渡した。

 

「ちちうえ......嘘、そんな、だって......」

 

「受け取らないなら、私と一緒に地獄に堕ちてくれるということでいいんだね、ロシー?」

 

「ひっ」

 

ロシーが固まった。私の練習場に到着したのだ。そこには私が元天竜人だと噂を流して悲劇を起こそうと画策していた工作員たちの陰惨な光景が広がっていた。一ヶ月鍛えただけで仕留められるんだからCP9じゃないのはたしかだ。

 

「......父上がやったのかえ?」

 

「私が元天竜人だと先にバラして台無しにしようとする世界政府の工作員が紛れ込んでたからね」

 

「......」

 

ドフィがロシーに手紙を渡した。

 

「兄上......?」

 

「面白そうだえ」

 

「兄上っ?!?」

 

「正気かい、ドフィ。明日からはきっと国の全てが敵になるよ。貧困の吐口に晒されることもあるだろう、それでもいいのかい?」

 

「あいつら、下下民の癖に土下座しないからムカついてたんだえ、ちょうどいいえ。だからロシーは母上と一緒に逃げればいいえ」

 

信じられないという顔をしているロシーとニヤリと笑うドフィを見て私は笑うしかなかった。

 

「いいだろう。一緒にきなさい、ドフィ」

 

「わかったえ」

 

「私がここにくる理由を世界政府は知っていたからね、後から私を殺してもマリージョアには戻れない。後から逃げようにもこの国が私達を逃さないだろう。構わないね?」

 

うなずくドフィと私をみてかわいそうなロシーは今にも泣きそうな顔をしてやめてくれと縋ってきたが私はそれを突き返した。

 

そろそろ限界だったのだ。

 

よりによってこの世で1番嫌いな天竜人になってしまった私を殺すのはこの世界を破壊し尽くしてからでもいいだろう。

 

妻やロシーを逃すのはホーミングとしての最後の情だ。

 

よりによって黒ひげに殺された私を天竜人に生まれかわらせたなんて、神がいるのだとしたら殺さなければ気が済まないのである。

 

この世界にも私はまだいるのだろうか。なら奪い取らなければならないだろう、本来そこに座るべきは私なのだから。


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