(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第10話

きっかけはウミットが海運会社社長に就任するときのパーティで知り合った隠匿士ギバーソンという男だ。ウミット海運が弱小運輸会社から北の海運王とまで呼ばれるようになったのはひとえにこの男の存在無くしては語れないのだ。

 

ギバーソンの職業は倉庫業、しかも老舗の最大手。ストライプ柄のスーツと帽子にマントを羽織った長身の中年男で、立派な口ひげと赤い長鼻が特徴的。 チェーンスモーカー並にパーティで酒を矢継ぎ早に浴びるように飲みまくっていたからよく覚えている。そのせいか目玉が飛び出している異形な姿だ。サイコパスな性格が災いして闇の稼業にも手をつけているようだった。

 

この男は普通の倉庫のほかに、この世界では法律に触れる物や悪魔の実を専門にした倉庫業をやっている。金さえ払えば企業秘密のセキュリティ体制を構築した絶対に奪われない警備で信頼を得た事で、すでに闇の帝王の1人になっている。

 

ウミット海運での私の主な仕事は、ウミット海運がギバーソンの会社から受け取った荷物を依頼人のところに運ぶ船の護衛だ。私の船で運ぶこともあるが基本はウミット海運の船だ。いつものように荷物を碇マークのトランクに積み込み、前金をもらう。社長室から出ようと立ち上がった私をめずらしくギバーソンが呼び止めた。

 

「どうされました、ギバーソン社長」

 

「朗報だ、ホーミング。やっとお前の儲け話の続きができる。お前が欲しがってたやつがやっと手に入ったぞ」

 

ニヤリと笑うギバーソンに釣られて私も笑った。

 

「それはいい!ついに見つかったんですか、ゴロゴロの実が?それとも電気を閉じ込められるような悪魔の実?はたまた新世界産の生き物?言い値で買おうじゃありませんか」

 

「まあまあ落ち着け、これだ」

 

よっこいせと成金趣味の机にギバーソンが重厚なトランクを置く。手慣れた様子で開くと、私の前にずいと差し出してきた。

 

「これは?貝のように見えますが」

 

「そう、貝だ、貝。ツテを頼りに買い集めたんだ、感謝しろよホーミング。お前の新たな儲け話のために骨を折ってやったんだからな!空島でしか獲れないといわれてるダイヤルだ」

 

「ダイヤル?たまに見かけるあのダイヤルですか。トーンダイヤルとはまた違った形ですね」

 

「そうだろう、そうだろう。実はダイヤルってのはいろんな種類があるんだよ」

 

そもそもダイヤルとは空島の浅瀬に生息する特殊な巻貝の貝殻の総称で、多くは掌大であるが稀に巨大な物も存在する。

 

いずれも不思議な特性を持っており、多くの種類が存在する中でも共通して特定の物質やエネルギーなどを貝の中に取り込み、それを自在に出し入れするというものがあるという。トーンダイヤルなんてほんの一部でしかない。

 

この貝殻にはエネルギーや物体を蓄積する性質があり、スカイピアを始めとした空島では貝が日常に取り入れられ、独自の文化を形成している。

 

そのさわりの話だけで私は思わず息を飲んだ。

 

「なんでもですって?」

 

「そう、なんでもだ。取り扱いには要注意だがな」

 

なんだその宝の山は。ウェザリアにいく時は真上にきてもらってから気球を使う、それ以外は宇宙船でショートカットするからウェザリアとビルカ以外の空島のことはよく知らなかった。なんて宝の島なんだ。

 

「詳しく話を聞いても?」

 

「勿論だ」

 

そういってギバーソン社長は得意げにいろんなことを教えてくれた。さすがは老舗の倉庫屋だ、空島出身の商人か海賊の繋がりがあるとみた。まだ全世界を掌握するシンジゲートが確立していない今、あらゆる物流の要はこの男だ。なにか新規事業を立ち上げるにしても力を借りるしかないのはみんな同じなのだろう。

 

私の想像以上に空島の人々にとってダイアルの使用用途は多岐にわたっており、エネルギーを吸収した後に死した貝から残された貝殻に各種エネルギーを蓄え、そのエネルギーを生活の中で利用しているようだった。

 

「主な取引先はスカイピアらしいが、近づかねえ方がいいぞホーミング。あそこはずっと内乱状態にあるからな」

 

「そうなんですか?あなたがたの差金で?」

 

「まさか!何百年も前からだってよ。なんでもビルカの信仰がまだ残っていてな、あのあたりの住民にとっては月の信仰は廃れたが大地が月の代わりってんで信仰の対象なんだそうだ。そこにノップアップストリームで島が打ち上げられたらどうなる?」

 

「ああ、なるほど。青海の先住民が追い出されて、空島の島民に奪われ、取り返そうと今なお抗争を続けていると」

 

「そういうことだ。俺たちはそのお手伝いをしてるだけだぜ」

 

「よくある話ですが可哀想なことをしますね。内乱が続けばダイアルの活用法も発展すると」

 

「そういうことだ。だからスカイピアには手を出さないでくれるか、ホーミング。商売が続く間はダイアル提供してやるからよ」

 

「なら手を引く時期になったら教えてください。それまでに青海でダイアルが養殖できるか研究を続けておきますのでね」

 

「養殖か、それもいいな。目処が立ったら教えてくれ」

 

「もちろんですよ。しかしちょうどよかった。ライジン島がああなったのはゴロゴロの実の覚醒かと思って占拠してから全く手がかりがないから、いい加減手を引こうかと考えていたんです。ちょうどいい実験場ができそうだ」

 

ギバーソンは上機嫌でダイアルの生態と種類を実物を見ながら教えてくれた。

 

「そしてお待ちかね、こいつが目玉商品の雷貝(サンダーダイアル)だ。衝撃貝みてーな圧倒的威力や出力は無え。相手をしびれさせる程度だが、こんなもん改良でどうにでもなるだろうよ。そんでこの謎貝。こいつは特定の生物と組み合わせると他の貝もどきができる」

 

「その生き物というのは?」

 

「そう慌てんな、今手配してるとこだ」

 

「さすがですね、ギバーソン社長。ありがとうございます」

 

「取引成立だな?」

 

「はい、もちろん。これからもよろしくお願いします」

 

ギバーソン社長から請求書の入ったトランクを受け取る。ようやく私は倉庫街を後にしたのだった。

 

「それでこんな時間になったのか、父上」

 

「そうなんだよ、待たせてすまないねドフィ」

 

「まったくだ」

 

やけに港が血だらけだと思ったらこれだ。相変わらず世界政府は油断も隙もない。通りで生首が綺麗に並べられ、大型海王類が波飛沫たてて真っ赤な海で群がっていたわけだ。

 

「アンタが無事でよかったぜ、なんかあったのかと思った」

 

めずらしく半泣きのドフィが慌ててサングラスを掛け直している。完全にお手上げ状態だった医療チームが手当を再開し始める。扉を外側から必死で押さえていたイールのいうとおり、ずっと私を迎えにいくといって聞かなかったというのは本当のようだ。

 

「ドフィがヘマするとは珍しい。よほどのてだれだったんだね」

 

「おう」

 

「なにかあったのかい?」

 

「みりゃわかるだろ。しくじったんだよ。ギバーソン社長んとこの見張りが全滅しやがった。あいつら、おれなんか庇う暇あったら海に突き落としたらよかったんだ。そうすりゃイールの電気で瞬殺だって知ってたくせに」

 

「ああ、なるほど。彼らはドフィを特に可愛がっていたからね、つい庇ってしまったんだろう。とっさのことだと案外頭は回らないものだよ。子供を庇うのはまともな大人の性質だ」

 

ドフィは唖然とした顔で私を見上げてくる。ほんとかといいたげな顔だ。無言で肯定してやると黙りこくってしまう。どうやら色々な感情がぶち込まれてぐちゃぐちゃになっているようだ。

 

「ドフィ、襲撃犯がどんな奴らか覚えているかい?」

 

「ちちうえ?」

 

「お前がやりたいとそこまで考えることは生まれて初めてだろう。やるようにやりなさい、使えるものは親でもつかいなさい。私はその全てを肯定しようじゃないか」

 


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