(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

103 / 136
第103話

両脇にドフラミンゴファミリーのマーク、その下にウミット海運のマーク。中央には「売」という文字がでかでかと飾られていた。

 

「それではみなさま!大変長らくお待たせいたしました!まもなく毎月恒例1番G!!人間大オークションを開催したいと思いまーす!司会はもちろんこの人!」

 

大袈裟なドラムロールが鳴り響く。スポットライトがステージ中央に集め、ひとりの男を映し出す。恭しく一礼した男はにこりと笑った。

 

「歩くスーパーバザールこと!ミスターッ!!ディースコー!!」

 

ドフラミンゴファミリーがオークションを牛耳る前は売り上げナンバー1の人間屋をやっていたが、その才能を見込まれてスカウトされた男が登場する。ローの記憶よりもだいぶ老けたが威勢のよさと弁論のたつ姿は変わっていなかった。大歓声があがる。

 

「今回も良質な奴隷達を揃えることができました!!皆様超ラッキー!本日残念ながらここにいらっしゃる方だけが参加できるオークションの目玉商品は1つしかございませんが、ご期待に添えると確信しております!」

 

ローが台無しにした商品の穴埋めをどうするつもりなのか、ディスコはカーテン越しにライトアップをした。会場がどよめく。水槽の中には人魚の姿があったのだ。表向きは人魚も魚人もミンク族もオークションにかけられ、売られる。それが偽物か、さくらに売られてから国に買われるかの違いだ。天竜人も知らないシステムである。

 

「お楽しみは最後にとっておきましょう!お好みの奴隷をお持ち帰りいただけますことを心よりお祈りしています!!それではまずはこちらから!」

 

ここからだ。ローとベポは息をのんだ。いくら見聞色を鍛えても見える世界を理解できる頭がなければ何の意味もないのだと思い知らされたのは。ローの見聞色がみせた光景に嘘はなかった。ただ、ローが理解できなかっただけなのだ。

 

映像電伝虫が並べられる。映像と音声を送信・受信できる特殊な電伝虫で、大小2つのサイズの電伝虫が存在し、小さい方がビデオカメラ、大きい方がプロジェクターという機械の役割を果たす。 機械の原理をわざわざ説明しながらディスコは話をすすめる。

 

「ベガパンクすごいね、キャプテン」

 

「説明できるディスコもすごいな。機械いじる機会ないと理解できないだろ、こんなの」

 

「だよねえ」

 

潜水艦で航海しているハートの海賊団でもギリギリ理解できるかあやしいものだ。天才発明家のヴォルフをしるロー達だからかろうじてついていけるレベルのことをディスコ達は平然とやっている。

 

ベガパンク率いる海軍特殊科学班SSGによって産み出された、不特定多数の電伝虫に念波を送れる最新の電伝虫は、ウミット海運が利権ごと買い取ったためフル活用されているようだ。

 

まるで目の前にいるような錯覚を覚えるような映像が現れる。

 

「東西南北の海、楽園、新世界から現地中継で選りすぐりの奴隷をご紹介いたしまーす!落札いただいた奴隷は全世界どこでも半日以内に送料無料でご指定の場所にウミット海運がお送りいたしまーす!!品質保証付き!返品は無料!ぜひこの機会をお見逃しなくご利用ください!!」

 

ドフラミンゴファミリーの世界規模の闇のシンジケートとウミット海運、そして時代の進歩がもたらす技術が組むとこんなことになるのだ。

 

ローがいた頃は人攫い屋から人間屋に売られた現地だけのオークションで、その月により奴隷の人種もばらつきがあり、品質の保証も出来なかった。わざわざ明言するということは、土壇場で自殺しない対策が確立したか、奴隷の品質を保証できる技術がまた生まれたからだろうか。

 

さすがに部外者になってしまったローにはわからないが、すさまじい変化なのはわかる。あまりにも先進的な企画のため、熱に浮かされた観客達の財布が緩んだのか、一気に値段が跳ね上がっていく予感がする。

 

「いずれ全世界の皆様が参加できるよう我々も努力いたしますので、今後にご期待ください!それでは初めます!」

 

ローは海賊だ。正義の味方ではない。英雄願望があったわけではない。奴隷を解放するような襲撃を繰り返したのは、ドフラミンゴ達の目に早いとこ止まるだろうなと考えたからだ。これでは北の海と今回のオークション会場にいた商品達をいくら解放しても焼石に水なわけだとローは改めて闇の世界の深さを思い知る。14年もあればさらに深くなって当然だろう。

 

「メスのシロクマいねぇかな」

 

「ランボル・ブギーニと勝負したら破産するからダメだ」

 

「キャプテンは奴隷買わないの?」

 

「興味引く奴がいたら考えるけど、天竜人がきてるからな」

 

ローの視線の先には、特等席で座っている親子がいた。オークションは始まったばかりである。

 

「みなさま長らくお待たせいたしました!本日のメインイベント!超目玉商品の登場です!ご覧ください、このシルエット!探し求めておられる方も多いはず!多くは語りません、その目で見ていただきましょう!魚人島からやってきた人魚のケイミー!!」

 

そして、いよいよオークションは終盤に差し掛かる。茶番劇にすぎない人魚のオークションに会場全体が盛り上がっている。

 

「5億ベリー!5億ベリーで買うえー!」

 

チャルロス聖がさけんだ。

 

「5億5千万」

 

これはわざと釣り上げてリュウグウ王国に買ってもらうか、ウミット海運で働くことになるだろう、普通なら。一千万単位の競争が加速していく。いつもならそうなのだ。今日はいつもじゃないからロー達はわざわざ参加したのである。

 

「来るよ、キャプテン」

 

ベポに預けていた鬼哭をローは受け取る。視界の隅でキッド達が立ち上がるのが見えた。

 

豪快な音がした。

 

オークション会場の壁を豪快に突き破り、何者かが襲撃してくる。会場は騒然となり、阿鼻叫喚となる。エニエス・ロビーを襲撃してニコ・ロビンを奪還した麦わら一味が、今回は人魚の友達を助けるためにわざわざ乗り込んできたのである。麦わら一味をみるなり、一般の観客達は一斉に逃げ出し始める。その混乱からはずれた席にいたローとベポはそのままオークション会場の階段を降りていく。

 

「ケイミー!!助けるぞ!!おい、おまえら!ケイミーは売り物じゃないぞ!!」

 

狂気の沙汰としか思えないこと本気で思っているのだとよく分かった。叫びながら全速力で走っていく大馬鹿に大馬鹿の一味が一斉に走っていくのがみえた。ローは思わず笑ってしまう。ここまで突き抜けた馬鹿だと笑ってしまう。ドレスローザの凶弾が意気投合するのがわかる気がした。知能指数が戦闘中だけ跳ね上がるタイプの大馬鹿なのは違いない。

 

チャルロス聖がなにか叫んでいるのが聞こえる。麦わら一味がギョッとして振り返る。タコの魚人に黄金の銃が向けられていた。

 

だからローは能力を使うのだ。ドフラミンゴの父、ホーミングを唯一認めていた魚人アーロンに敬意を表して。

 

あまりにも常識はずれすぎて見過ごしてしまった見聞色が現実となって現れたことに混乱する灼熱のランボル・ブギーニの武器と。今まさに撃とうとしているチャルロス聖の黄金の銃とを。

 

いきなりブキーニが銃声と共に倒れてしまい、あたりが騒然となる。通路の真ん中でチャルロス聖が撃とうとしていた銃がいきなり全然違う武器にかわり、動揺するチャルロス聖。

 

ただ、振り返った麦わらのルフィには見えていたはずだ。よくわからないがチャルロス聖が友達のハチを撃とうとしていたことを。そして真顔のまま一気に武装色をまとい、拳を振り上げるのだ。チャルロス聖が宙を舞った。

 

「ローッ!!なにしやがる、このやろう!!!」

 

オペオペの力をよく知る激怒したブキーニが悪戯の主犯格を叫ぶ。

 

「海軍大将と軍艦を呼べ!!目にものを見せてくれるわ!!」

 

市民の反撃が許容されているシャボンディ諸島に親子連れでやってくる頭おかしい父親の方が絶叫する。これでもドフラミンゴが出てこないなら裏で動いているのは相当なことになるが。

 

なにはともあれ、大乱闘の始まりである。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。