(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第105話

水面下とはいえメディア、経済、軍事、民間、あらゆるところで一斉抗争が始まっている。全面戦争とは言い得て妙といえた。いつか仕掛けてくるとは思っていた。それだけのことを世界政府は世界で一番愛している家族のためならどこまでも堕ちることができるドンキホーテ・ホーミングという男にしでかしたのだ。それだけならセンゴク元帥の中でも大変な時間を要するだろうがいつかは折り合いがつけられたのに。

 

センゴク元帥の手元には絶対に表には出せない血統因子を使用した調査で海賊王ゴール・D・ロジャーとエースの調査結果があがっている。間違いなく親子。ホーミングとの血のつながりは一滴もない。外れてくれと心の底から願っていたことを無情にも最先端科学は簡単に証明してしまい、センゴク元帥は全てを察してためいきをついた。隣には悪戯がバレた子供みたいな顔をしたガープがいる。

 

「ばれたか」

 

「ばれたかじゃない、なんてことをしてくれたんだガープ。なんでホーミングを巻き込んだ。どこまでやらかしたら気が済むんだお前は。お前が海軍の英雄じゃなけりゃ一族もろとも死罪だぞ」

 

「だからロジャーはわしに託したんだろう、シルバーズ・レイリーじゃなくてな」

 

そこには本気で孫を守ろうとしていた祖父の目をしたガープがいた。

 

世界経済新聞にはホーミングの妻がいる。この時点でいつもの賄賂による情報捏造報道はできない。モルガンズはいつの時代も面白いことしか提案しないホーミングの肩をもってきた。新聞王が圧力をかければ、革命軍発行のタブロイド紙でもない限り、大体の新聞は右に倣えだ。

 

そもそもウミット海運とドフラミンゴファミリーの巨大なシンジケートはメディアと蜜月な関係だ。今回、言外に世界政府側につくなら取引を未来永劫全て切ると通告しているのだから、メディア関係者にとっては死活問題だ。なにせ、あのリュウグウ王国ですら一度本気でホーミングを失望させて関係が白紙になりかけたのだ。ホーミングはどこまでも信用に重きをおく。やるといったらやるのだ。そうして信用を得てきた男だから。

 

ここまでやるということは。もはやホーミングにとっては、エースは血が繋がっていなくても、息子なのだ。ドフラミンゴの協力がなければ今の今までバレなかったんだから、了承は得ているのだろう。完全に蚊帳の外だったことが発覚したロシナンテである。心中複雑な顔をして、無言のままナギナギを発動させて後ろで待機している。

 

父親と子供なら、簡単に血統因子でわかるが、それ自体が機密にあたるため、それ自体証拠としては出すことができない。世界政府としては唯一の正当性を見出すことができるから、海賊王の息子としてゴリ押すしかない。

 

ゴリ押すから疑わしいと煽る。人堕ちホーミングの息子として通っていたはずのエースの処刑の正当性に疑問をなげる。

 

「常々思っていたが、ホーミングは形をかえたロックスだな」

 

センゴク元帥は唸るしかない。海軍としてはありがたいが、ウミット海運の血の掟そのものが実はロックスの目指した世界の派生系なのだ。

 

海賊王ロジャーの処刑後、インペルダウンの囚人達もまた大海賊時代とひとつなぎの大秘宝(ワンピース)の存在に歓喜した。そこから十数年の闘病生活の果てにようやく普通の囚人となったシキだけは静かに怒りで震えていたことを思い出してしまう。

シキだけは静かに怒りで震えていたことを思い出してしまう。

 

「くだらねェ…宝目当てのミーハー共が海にのさばったって邪魔なだけだ…!!何が新しい時代…!!海賊は海の支配者だ…!!いずれわからせてやる…」

 

なぜ金獅子がインベルダウンを脱獄しなかったのか。理由はホーミングも一因ではあるのだ。

金獅子が言っていたすべての不満を解消するために、世界の海に強いた制度こそがウミット海運の血の掟なのだ。だから赤髪が人堕ちホーミングをロックスの亡霊呼ばわりする。建前を守るからガープと仲良くできるし、白ひげの琴線に触れて同盟が結ばれた。

 

なにが問題なのか。問題しかないのだ。エースの処刑からの救出自体が予定調和、実質タイムリミットでしかない。今回の頂上戦争ともいうべき様相を呈してきたすべての本懐は旧世代が世界政府側を新世界の平和も守るに値するか試しに来ていることにある。

 

暴力の世界が叶いそうな今食い止められないならここで脱落しろと旧世代のカイドウと白ひげとホーミングがいっているも同じなのだ。

 

処刑を止める選択肢はない。ホーミングがくるのをわかっていても、カイドウと手を組んで海軍の威信失墜するためだとしても、白ひげはでかい借りがあるしロックス時代を思い出しているからもう誰にも流れを止めることはできないのだ。

 

ここが正念場であることは誰の目にも明らかだった。世界政府直轄の裁判所がある「司法の島」。 世界政府中枢に繋がる「政府の玄関」とされ、海底監獄インペルダウン、海軍本部と並ぶ三大機関とも評されていたエニエス・ロビーが堕ちた今。

 

「間違いなく今いい空気を吸っとるのは、カイドウじゃろうなあ」

 

「......赤髪頼むから止めてくれよ。カイドウまで来たらさすがに士気が保てん......」

 

センゴク元帥はらしくない弱音を吐いた。

 

カイドウは百獣海賊団の運営方針として完全実力主義をとっている実に海賊らしい男だ。ロックス時代に今の世界は天竜人や王族、金持ちという権力や財力という強さを持つ存在によって支配されていることを知った。

 

カイドウはそれも力だと認めているが、権力や財力は法や秩序の中でこそ力を持ち得る存在であり、そちらが力を持ちすぎるとカイドウ達は弱者に変わりうる可能性が高い。

 

どんな権力者でも、金持ちでも、それを気にも止めない圧倒的な暴力の前には威厳は保てない。

カイドウが言う暴力の世界とは、まさに獣の世界のような弱肉強食の世界のことを指す。

 

誤魔化しの効かない本当の実力主義の世界を作ろうとしている。自分の力はただ自分のやりたいようにだけ使い、その力をぶつけ合い、敗れた者は死ぬか従うか、ただそれだけのシンプルな世界。

 

強者が今ある法や秩序による抑制を受けずに報われる世界。それこそがカイドウが求める『暴力の世界』。その実現に王手がかかるかどうか、まさに正念場なのだ。

 

そんな時に限っていつもいつもデンデン虫が鳴り響くのだ。ガープは笑ったまま促してくる。センゴク元帥はしぶしぶ出た。

 

「......またお前の家族だぞ、ガープ。次から次へと......。お前の家族の血は一体どうなってるんだ!」

 

また麦わら一味が騒動を起こした。よりによって天竜人への反撃が許容されているシャボンディ諸島で。あのドフラミンゴファミリーとウミット海運が管轄しているオークション会場で。天竜人3名を人質に取った前代未聞の凶悪事件である。ドフラミンゴの弟分トラファルガー・ローを含む超新星と共謀して起こしたと勘違いされるような状況下で。海軍の威信をかけた防衛戦を間近に控えたこの時期にだ。どうでもいい事件すぎるが誰が行くんだこんな時に。

 

「ワシが行こうか?」

 

「シルバーズ・レイリーがそこにいると報告あげなかったお前だけは絶対に許さん。というかお前が普通に海軍の要なんだからいくな。私を一人にするな」

 

「本音がもれとるぞ、センゴク!」

 

「......」

 

誰がいくんだろう。センゴクは三大将を呼ぶことにした。


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