(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第11話

地道な長期にわたる現地調査の暇つぶしには、この島の歴史はちょうどいい長さになる。私が話し始めると大体の社員達には好評なので雑談は静まり返る。

 

内容は以下の通りだ。

 

太古月には高度な文明があったことが全ての始まりとなる。そこには人の営みがあり、ロボットの兵士を作り出す程に高い技術力が存在した。

 

しかし、ある時資源不足に陥ってしまう。

 

その資源が何を指すのかは未だ不明だが、その何かを求めて月の人々は青色の星に旅立ったとされている。この世界は月面でも生身の状態で呼吸ができ風船での行き来が可能だ。

 

太古の昔、月に存在した都市の名はビルカ。そして、それと同じ名前を持つ空島が存在する。それがウェザリアを生み出したハレダス博士の出身地である空島ビルカなのだろう。

 

ここで大体の社員は反応するのだ。私は頷きながら続ける。

 

太古の昔、月から青色の星にやってきた者達の一部はこの空島に降り立ち、もしくは自分達の科学力で空に島を作った。その地に月の故郷と同じビルカという名前をつけ、そこに文明を築いたのだと思われる。

 

ビルカにあったあの壁画に描かれた月の人々をみると、大きく3つの種に分類されていた。それは被り物と翼の形から判別したものだ。大まかに分類すると一般の民と科学者と戦士だ。

 

その1つはギバーソン曰く黄金都市の戦士シャンディアの酋長のような被り物をしていた。月から青色の星に降りてきた月の人々の一部は地上に降り、そこに集落を築いたのではないだろうか。それが青海人の起源だ。

 

うそつきノーランドで有名な400年前にノックアップストリームによって空島に飛んでいってしまったのは、何か運命めいたものを感じるというと古代のロマンを感じるのか目を輝かせる者もいる。

 

そして3種の内のもう1種は空島スカイピアの住人だ。

 

つまり、ビルカとは別の空島に降り立ち、そこに空の楽園を築きあげたのだろう。もしくはどこかのタイミングで枝分かれしたか。いずれにせよ、スカイピアの空島での戦いは、同じ故郷を先祖に持つはずの者同士が戦いをしているというわけだ。

 

ここにも、月の人々の足跡が続いている。

 

現在の聖地マリージョアがある場所は大昔、神の国と言われる国があったそうだ。そこにはルナーリア族という、現在では絶滅したと思われている種族が棲んでいた。カイドウの部下以外に見たことなかったが今もどこかにいるのだろうか。

 

どのみちルナーリアという種族名、神と呼ばれていた事、レッドライン上に棲んでいた事実。太古の昔、月からこの地に降り立ったのは間違い無いだろう。

 

どうやって降りてきたか。風船で降りてきたことはわかっている。その痕跡がのこる空島に私達はいる。

 

それがここ、廃墟バロンターミナル。ビルカの遺跡によく似た意匠の空島だ。世界中の子供がうっかり飛ばしてしまった風船が気流の関係で必ず辿り着く終着駅であり、島の底にはおびただしい数の風船がくっついている。

 

それが由来かと思ったのだが、案外月の民が着陸するのに使ったのかもしれない。

 

そう結んでやると、みんなやる気を出してくれるから助かるのだ。

 

ちなみにこの空島のログポースはハレダス博士からもらった特別性だ。

 

今の今までなんで空島にあるダイヤルという資源の情報提供をしなかったのかどういうつもりだと問い詰めたら、ハレダス博士がダイヤルの養殖の拠点にどうだと教えてくれたのだ。

 

ダイヤルの養殖に最適な浅瀬もあるし、恵まれた気候である。なんなら定期的にウェザリアの力もかしてくれるというのでしぶしぶ手を打った。

 

これで天気予報という海運業で必須の情報源でなければ今すぐにでもウェザリアを乗っ取ってやったのに。ハレダス博士との交渉は性善説を前提にしなければならないから、いつも効率が悪くて嫌になる。面倒だが仕方ない。それがウェザリアが世界政府に消されない理由でもあるのだから。

 

現地調査が必須だが空島の人以外はあまりたちいらないだろうから比較的安全な場所だ。廃墟の中に拠点をつくろう。島の底にある風船や必ずたどり着くという気流を上手いこと活用できないか、またウミット社長に投げてみようか。

 

バロンターミナルの現地調査が終わったら、ハレダス博士との取引どおり、ビルカの人々を雇い入れるだけの環境を整えなければならない。忙しくなりそうだ。

 

色々と思案を巡らせていると、現地調査団に手を挙げてくれたイールが声をかけてきた。

 

「なあ、船長。ドフィのこと止めなくてよかったのか?」

 

「止めるとは?」

 

「そこいらのガキと違って腕は立つだろうが、ドフィはまだ10の子供だぞ」

 

「なにかと思えばまたその話かい、イール。何度もいうがドフィはまだ10歳じゃない、もう10歳だ。あの日からもう3年もたった。今がその時なんだろうさ」

 

「だがなあ......」

 

「そんなに心配ならついていけばよかっただろうに」

 

「ついてきたら殺すといわれたらどうしようもねえよ」

 

「おや、そうだったのかい?なに、魚人島への投資がニュースになって、妻からの手紙が来ていただろう。ロシー達の近況を聞いて思うところがあったのかもしれないしな。次に再会したら海兵になっていても私は驚かないよ」

 

「それだけはないと思うぞ、船長。3年もたっているのなら、尚更するようなことじゃないだろう」

 

「それはどうだろうね。ドフィは身内認定した人間には心底甘くなる性質があるのは、イールも知っているだろう?今なお妻を母上と慕っているんだ。私の元で学んでいてはダメだと思ったら自分から手を離す子だよ、あの子は」

 

「でもドフィは本気で船長の元を去ると決めたら撃ち殺すだろう」

 

「それは私も同感だ。その時は父として受けて立つまでだがね。なんであれ、いい儲け話ができることを期待しているよ。ドフィは賢い子だからね」

 

「人間の世界だとそういうの獅子の子落としっていうんだったか?マフィアってのは厳しい世界なんだな」

 

どうも魚人やミンク族達は一様に私がドフィにとってちゃんと父親をしていると思い込みたがるらしい。

 

違うに決まってるじゃないかと笑いたくなる。ドフィは愛情溢れる家族想いな父親が、愛情という言葉を母親の胎盤に忘れてきたような男に一夜にして変貌した私にとうとう耐えられなくなったのだ。今までよくついてきたものだと思う。常時愛情に飢えているドフィと私はあまりにも相性が悪すぎるのだ。

 

そう思っていたのだが。

 

「いい儲け話を持ってきてやるまで待ってろ」

 

長々と書いてあったが要約すると一文で収まってしまうような、内容のまるでない手紙が後日届いたものだから、イール達がほらみろとばかりに笑ったのは参った。返事を書かないといけない空気になっている。

 

ドフィにはその素質を見込んで、闇社会においては信頼に重きを置くよう教育してきたつもりだ。散々マフィアの体制や近代雇用、闇の世界の秩序やこの世界の歪み最前線でみせてきたのはなんのためか。

 

ドフィのシンジケート確立前だからこの世界の取引の効率があまりにも悪いからに他ならない。海賊を立ち上げないならないで別の方法考えるとこだったからよかったが、それはそれとしてだ。

 

ドフィが死ななければ世界最大のシンジケートを築き上げ、崩壊するその日まで私の役に立ってくれることは間違いないだろう。ただ、あれだけ徹底的に英才教育をしたのだ、10年くらいはドフラミンゴもファミリーもドレスローザの国取り後に堕落が遅くなってもらわなければ困る。それだけは返事の手紙に書いてやることにした。

 


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