(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第113話

世間話をするような気軽さでホーミングとドフラミンゴの影騎糸は当たれば即死の攻防を繰り広げていた。

 

ホーミングの新商品の宣伝は、次の日にはドフラミンゴを通じて行われ、世界水準の予言書となる。世界政府に独占された技術ではなく、今はなき空島ビルカの遺産とツキミ博士の遺した科学力とホーミングの提言あってこそ完成したものだ。実装された暁には、敵味方関係なくばら撒かれる新時代の標準装備となる。

 

ドフラミンゴの影騎糸はさまざまな攻撃で新商品の性能を知ろうとする。それだけで大きなアドバンテージだ。砲撃に対し、斬撃に対し、あるいは本体より劣る影騎糸の能力まで、泡のようなものを手に纏わせて弾き返す。そう、落とすのではなく、はじき返している。あやうく自爆しそうになった本体はさすがに冷や汗が浮かんだ。見聞色で見るだけでは偽装工作で騙されていただろう。

 

衝撃を吸収して跳ね返るゴムのようなもの。砲撃だけでなく、物理攻撃や斬撃に対しても防げそうだから、防御力でいえばかなり強力な銃だ。

 

問題はこの材質が海の成分でできていることだ。一発でも食らった能力者は能力も覇気も封じられ、それ以外しか攻撃手段がなくなる。ある一定の実力者の場合、そこに武装色や覇王色を纏わせ、見聞色の合わせ技でさらにえぐいことができる。

 

海楼石製なのか、グリーンブラッドの派生でニキュニキュの能力で抽出しているのか。弾丸が無制限とはどういう意味をもつのか。

 

これを量産することができれば、覚醒含め絶対的な優位を持つ強さを発揮する能力者に対し、非能力者でもかなり対抗しやすくなる。とくに六式使い、あるいはゾオン系の能力を持つフットワークの軽い者、そのどちらも持つような実力者が使用すれば、とてつもない脅威になるのは明白だ。

 

今、ホーミングがつかっているのは、非能力者でも使えるのに、能力者に対して強烈に作用する武器だ。かつて悪魔の実の能力者はひたすらに猛威を振るう存在だった。

 

しかし新世界では武装色の覇気によってある程度まで対抗できている。ここに専用のアイテムというべきものが実装されればどうなるか。少なくとも、持っていれば十分戦えるようになるだろう。それをウミット海運が独占販売すればどうなるか。

 

本体は考える。これが父上のいう新時代の闘い方か。これはある意味ひとつの時代の転換点であるといえるだろう。

 

化学兵器の研究開発、量産化が進めば、悪魔の実の能力者が持つアドバンテージはどんどん少なくなってくることを意味する。かつて科学技術の主導権を世界政府が握っていたが、ウミット海運の出現がそれを終わらせた。むしろ競争が激化し、さまざまな武器が開発されている。

 

「なるほど......アンタは大嫌いな大海賊時代を本気で終わらせにきたのか、ホーミング」

 

「そこに私が死んだらなおのこと世界は加速するだろう。誰もが止められなくなるに違いない」

 

「..................たしかにな」

 

いよいよ明言したホーミングに本体はかろうじて返す。世界で一番聞きたくない言葉だった。

 

「ロジャーやロックスが狙っていた世界をひっくり返すという行為の難易度は桁違いに跳ね上がるだろう。科学の進歩に従って難しくなってくる。そこに世界政府の権威が失墜したらどうなるかなんて分かり切ってるな」

 

「だろう?おまえの弟分達は、私たちの先導する科学の進歩とそれを保有する利権との関係からみても最後の抵抗の世代といえるだろう。それがなにを意味するのか、ほんとうに楽しみなんだ、私は」

 

「じゃあなんで見届けねえんだよ」

 

「カイドウが覇気が世界を制すると豪語するのは、そういう意味もある。私が憧れているのはあくまでも旧世代だ。ロックス世代ともいうがね。世界情勢を理解していなければ見当違いな解釈を生みがちだが」

 

「そんなことしなくても鍛えればすぐその領域にいけたじゃねえか、天竜人だったころのアンタなら」

 

「───────だからおれも敗北した」

 

「ちちうえ?」

 

「───────そういう意味じゃおれ達は似たもの同士だな、ドンキホーテ・ドフラミンゴ」

 

「......」

「やがて始まる本物の海賊だけが生き残れる世界がやってくることを予見しながら、準備が間に合わなかった。時代のうねりも人の夢も受け継がれる意志も濁流となっておしよせ、おれ達は豪傑共の新時代にたどりつくことなく負けたんだ。頂点に立つものが善悪を塗り替える。今この場所こそが中立だ。まだどちらにも属していない。決めるのは勝者だからな。正義は勝つとはいうが当然だ、勝者が属性を決め、それが新たな正義に置き換わるのだから」

 

「ほんと、あいかわらずだな、アンタ。おれは父上としてのアンタと話してんだ。シームレスに人堕ちとして話しかけてくんじゃねえよ。びっくりすんだろうが。ほんとになにがあったんだよ、なにをみたんだよ。なにとあったらそうなるんだ、ちちうえ」

 

「しりたかったら止めてみろ、それが勝者の特権だ」

 

ドフラミンゴは手を止めた。ホーミングの新商品の弾丸にとうとう糸人形が被弾したのだ。


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