(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第114話

「そんなに私と闘いたいなら申し出てくだされば、いつでもお相手いたしますのに。ねえ、センゴク元帥。こんな回りくどいことされなくても私はいつでも受けて立ちますよ」

 

興が乗るとどっかの狙撃手みたいなことをいいだす男がセンゴク元帥はこの世で二番目に苦手だった。

 

知将とよばれたセンゴク元帥の前に現れたのは、やはりこの男だった。トーンダイアルを仕込んでいるか、モルガンズに事前通告しているか、それとも白ひげに見聞色でみた全てを暴露しているか。

 

いくら戒厳令をひいても海軍も突き詰めれば個人の集合体だ。綻びは生まれる。だから最低限の情報共有をしたのだが無駄だったようだ。だからこちらもガープを待機させていたわけだが。

 

「笑うな、ガープ」

 

海軍公認で30年来の腐れ縁と殺し合い厳禁の闘いができる段階で、海軍の英雄ガープ中将が水を得た魚みたいに生き生きするわけがなかった。

 

「笑いたくもなるわい、おまえさんのいう通りになったんだ」

 

「全くうれしくない」

 

ホーミングの見聞色は群を抜いているのだ。あの王直すら凌駕する。本来見聞色は、相手の気配をより強く感じる覇気。 この力を高めることで、視界に入らない相手の位置や数を把握したり、相手が次の瞬間に何をするか先読みしたりすることができる。

 

更に錬度や精度を増せば、相手の力量を見極めることもできる。 見聞色を鍛えぬいた者は、少し先の未来を見ることができる。

 

だがこの男の場合、ES事件の時に未来が見えすぎてそれを前提に動くものだから、その段階ではその途中である可能性を考慮せず行動したことがある。アブサロムがスケスケの実の能力者となった今、それが逆説的に証明されてしまった形だ。天夜叉ドフラミンゴがフォローに回った段階で、師弟の覇気の練度は想像を絶するのは間違いない。

 

この最初で最後の失敗をものにできなかったせいで、世界政府も海軍も目の前の男に完全に手がつけられなくなってしまったのだ。

 

コング元帥の時代で自分が大将の時代なら心躍る状況だっただろうとセンゴク元帥は思う。今はもうひたすらに胃が痛い。

 

状況はさらに悪化の一途をたどっていく。空から軍艦が堕ちてきた。最悪のタイミングだった。ガープとセンゴク元帥は凍りついた。ホーミングのいう正当防衛が成り立つ状況に陥ってしまったのである。海軍最強戦力たるふたりとホーミング、エースがいるこの状況で。ホーミングが本気で殺しにくるタイミングが来てしまった。とっさに全員が空をみあげた。

 

ウェザリアは何を仕掛けてくるつもりだ!?

 

ひとつのシャボン玉がおちてきた。並々注がれた緑色の液体を蓄えたそれがエースの頭上に落ちてくる。意味がわからず困惑する誰もが固まっていた。のちにバブルガンと呼ばれることになる新商品を放り出してまで、動いたのはホーミングだけだった。

 

 

「おれの勝ちだな、父上」

 

 

カタンカタンと転がるバブルガンを拾い上げ、覇気なしだと殺傷能力がない、ただのジェルの弾丸でホーミングの頭を躊躇もなく撃ち抜く。その場で笑っていたのは、天夜叉ドフラミンゴだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

遡ること1週間ほど前のこと。

 

インペルダウンで黒ひげとハチノスの海賊をぶつけて、黒ひげにワプワプの力を奪わせ、それを後から強奪する。そんなにワプワプの力が欲しいなら、謀殺しないで直接奪いに来い楽しみにしてたのに失望したぞと抗議しに来た男がいた。

 

たまたまローとハレダスの話を聞いた男は話が違うと激怒した。黒ひげを倒せると信じているから自分はマリンフォードで金獅子と相打ちになり死ぬつもりだなんて知らない。聞いてない。生まれて初めて出来た話が合う同格の狙撃手仲間なのに。

 

男はローに賭けを持ちかけた。黒ひげが勝ったら、能力を奪う前におまえの力で人工悪魔の実と入れ替えろ。そして、ワプワプで作った雨を最愛の三男坊にぶっかけてやれ。黒ひげが負けたら、おれがあいつを殴りに行く。今のあいつなら間違いなく三男坊を庇って死に急ぐ。それが最高の終わり方だからだ。

 

それをほんの少し、想定よりも、わざとはやめるだけでいい。見聞色の誤差の範囲だと誤認させるくらいのはやさで。ほんの先の未来ならお前はみえるようだから、とローを指名して笑った。そういうことだ。

 

悪魔の実は、最初に口にしたものにしか、能力は発現しない。つまり、緑液体まみれのホーミングしかワプワプの力は発現しないのである。

 

「悪く思うなよ。とっさに子供を庇うのは良き大人の特徴だ、理屈だなんだじゃなくて、体が先に動いてしまう。そう教えてくれたのもアンタだったよな、ドンキホーテ・ホーミング」

 

悪魔の実を食べた人間は、能力が身体になじんで開花するまで時間かかるが、すぐにカナヅチになる。つまりバブルガンをぶつけられると、動けなくなるのだ。いくらかつて能力を使っていたことがあっても、今世の体は経験がない。ホーミングはひどい脱力感に苛まれて崩れ落ちる。

 

「アンタの負けだ。センゴク元帥、ホーミングを人質にすれば、ここ以外の戦場は休戦にできるはずだ。おれは先に離脱させてもらうぜ」

 

「孤軍は所詮数の暴力に圧殺されるのが世の常か」

 

「ちげえよ。アンタの見聞色は教えてくれてたはずだ。でも、アンタ自身が頭じゃなくて心で人の心の機敏てやつを理解し始めたばかりだから、理解できなくて見当違いなことをよくする。昔ほどトンチンカンじゃねえがな。覇気は精神状態に左右されるから絶対じゃないし。参考程度だ。だからアンタは人と話すことを覚えた。でも今回は誰にもいえなかった。邪魔する奴らしかいねえからだ。おれは話した。アンタに落ち度があるとしたら、邪魔する奴らしかいねえのに、最高の終わりに固執したことだ。ばーか」


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