(未完)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
ドフィは最後に残った悲鳴を体から押し出す。声を出し切ってしまえば、一切の声はなくなってしまうだろう。7年間押し殺してきたものがたがが外れると、いろんな感情がないまぜになり、ブレンドされて吐き出されるらしい。
海賊王の処刑とそのあとで世界がこれだけ著しく変わった男はそういないだろう、とヴェルゴは思った。
「......すまねえ、ヴェルゴ。おまえの紹介に行ったのにな」
「気にするな、ドフィ。君が誰であろうと大した問題では無い」
「......たいしたことはない、か......」
何かを思い出すようにドフィは窓を見上げる。
「あん時、お前みたいなやつがひとりでもいてくれたら、おれの世界はもっとはやく広がったのにな」
「ドフィ?」
「今この時ほどお前がおれのコラソン(心臓)でよかったと思ったことはないぜ」
「そうか......それはよかった」
「あァ、言葉ひとつで人間はここまで絶望もできるし、希望を見出すことができるんだ。一番届けたい奴には響かないのが問題だが」
ふかいふかい、ため息がもれた。苦悩のあとがみてとれた。
ドフィが父上と口走った人堕ちホーミングの愛人と隠し子の噂は、弟子と実子では意味合いが全く違ってくるだろう。
実の父親が自分と違う母親と恋に落ち、愛し合い、子供を産んで、仕事をセーブしてまで通い詰めている。ドフィが人堕ちホーミングの実子だというならば、10歳でウミット海運から飛び出してから一切顧みなかったくせに何をしているんだという話になる。身内にはどこまでも愛情深い17のドフィには最大の裏切りに違いない。
今思えばあれは嫉妬を、大釜のなかのコールタールのように、雨上りの噴煙のように、泥といっしょに湧き立つ熱泉のように、はげしく掻き立てたような叫びだった。憎悪と羨望と嫉妬に満ちた感情に駆られた故の叫びだった。
それを嫉妬そのものが、権利だけ主張して義務は認めようとしない、愛玩用の猫ていどの代物だと切り捨てるような対応をされたら絶望感に苛まれた顔をするはずだ。
それなのに人堕ちホーミングは、まるで理解していなかった。実の子供相手なのにだ。どのような種類の感興をも覚えていなかった。それはただそこに状況として存在しているだけだった。ホーミングにとっては、ドフィのどんな叫びも違った時代の違った世界から切りとられてきた断片的な情景にすぎなかった。まるで相手にしていなかったのだ。
どうりで人堕ちホーミングのもとから飛び出すはずだと思ったのだが、違った。ドフィがショックを受けていたのは別のところにあったのだ。
世間一般の親子愛を諭しながらホーミングは反抗的なドフィを叩いた。実際は殺し合い一歩手前のやり取りである。とうぜん武装色をまとったドフィだが普通に痛いと叫んだ。北の海を制し、いよいよ偉大なる航路に行こうという話をしている最中である。武装色の練度でいえば北で一番であるはずのドフィが痛いと叫ぶのだ。ヴェルゴは驚いた。ドフィはそのあとからだ、部屋を出ていき、ヴェルゴはあわてて追いかけた。借りているホテルの部屋に入るなり、あらゆる感情を自制できないくらい大荒れのドフィによって大惨事になっていた。
ひととおり吐き出してようやく落ち着きを取り戻したドフィが、タバコに手を出していうのだ。
「......だからわからねえんだよ、父上......平然と愛の拳なんか使ってきやがって。いつもいつもそうだ、アンタがわからなくなる。アンタはなにをしたいんだ、なにがそうさせるんだよ、くそが......」
白煙が立ち上った。
すっかり冷静さを取り戻したドフィは、ホテルの支配人にホテルごと買い取るレベルの金を払って謝っていた。北の海の闇社会を物理的に制してウミット海運の支配域を広げてきたドフラミンゴの名は東の海でもしられていた。支配人は深く深く礼をして、ドフィが断ったのに別の一流の部屋に変えてくれた。
「ある意味賢いやり方だ、あの支配人は使えそうな人材だな」
笑いながらつぶやくくらいには、いつものドフィに戻っていた。
海賊王が処刑されたあと、またドフィは人堕ちホーミングを訪ねていた。ホーミングは相変わらずだったが、今度はまた苦悩を滲ませたような顔でヴェルゴの隣を歩いていた。
「......もっとはやくに気づくべきだった」
「ドフィ?」
「あんときのあの言葉はロックスがいいそうな言葉だったじゃねえか。あんとき、天竜人の頃に終わったはずのロックス時代をあんだけ懐かしそうに語ってたんだ。変だと思ってたが......あれはそういうことかよ。おれ達がいるくせに、ロックスに完全にこころを置いてきてやがる。あーくそっ!!なんで父上がおれ達を愛してること思い出しかけた矢先に、海賊王の処刑なんてあるんだよ!!!また塗り潰されちまったじゃねえか!ロックスかぶれがあんな最期みたら、憧れるに決まってんじゃねーか!ふざけんなよ!!!クソッタレ!!」