(未完)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第12話

三日月形をした島マリンフォードは、国際統治機関世界政府直下の軍事兼治安維持組織海軍が所有する島で、海軍本部が置かれている総本山である。その元帥室にて何度目になるかわからない海軍の英雄ガープ中将の昇進をコング元帥は打診していた。天竜人嫌いのガープ中将の性質は知っていたものの、コング元帥は根気強く説得を続けていた。

 

いつもならゴールド・ロジャーと決着をつけるために目撃情報があれば任務や会議をセンゴク大将に丸投げして飛んでいく破天荒なガープ中将だ。そもそもコング元帥の呼び出しに応じることはすら稀だった。今回あっさり応じてお茶をがぶ飲みし煎餅を貪り食い、くつろぎまくっているくせに何も言わないでいる。どこをどう見ても嵐の前の静けさのようで不気味ですらあった。

 

今回はなにをやらかしたんだと引き出しに常備している胃薬の補充を気にしながら、コング元帥は嫌な予感がして冷や汗が止まらなかった。なにせ相手は毎回無茶苦茶な事後報告をいけしゃあしゃあと報告してくる海軍の英雄である。こんなあっさり昇進の打診の呼び出しに応じるなんておかしすぎるのだ。

 

コング元帥の疑いの眼差しに気付いているのに当のガープ中将本人はコング元帥の話は完全に上の空であり。右から左へ話を聞き流すどころかコング元帥専用のデンデン虫をそわそわしながら見ている始末だった。

 

コング元帥はようやく気づくのだ。ガープ中将はゴールド・ロジャーと他の海賊のいざこざをいち早く入手するためにここに来たんじゃないだろうかと。これが1番効率がいいと気付いたのだ。誰だ脳筋にこんな入れ知恵をしたのは。

 

脳裏にはガープ中将を慕う海兵達が浮かぶが浮かびすぎて特定できそうになかった。だんだん憂鬱になってきて慌てて脳裏から追い出していく。

 

こんな時に限って狙ったようなタイミングでビービーと専用デンデン虫が鳴き始める。コング元帥の嫌な予感は残念ながら的中してしまった。

 

「コング元帥、新世界エッド・ウォー沖にてロジャーと金獅子が接触を!」

 

「やっときたかァッ!!待ってたぞロジャーッ!!!」

 

当然ながら本来コング元帥に指示を仰ぐ伝令だ。しかし、ガープ中将が待ってましたとばかりに水を得た魚のようにイキイキしながら元帥室を後にする。

 

「ガープ貴様ッ、やっと呼び出しに応じたと思ったらやっぱりかァッ!おい待たんか、まだ話は終わっとらんぞ!!」

 

「あんたはそうでもおれは終わった!」

 

「おい待てこらァッ!!」

 

元帥室の扉の両脇を固める海兵はガープ中将を止める実力などあるわけもなく、ひきとめようとはするのだが豪快に扉が閉められたあとだった。しばらくして、盛大にため息をついたコング元帥は、いつものように体を少しでも労わるべく引き出しに手をかけ、待機していた気の利く海兵の1人が水をとりに給湯室に向かった。

 

「えー、こちらコング元帥。大将センゴクとおつるの部隊を派遣する」

 

どたどた廊下を歩くガープ中将と不運にもばったり出くわしてしまったおつるは元帥室の扉から漏れ聞こえた会話に露骨に嫌な顔をした。

 

「どこいくんだい、ガープ。出撃要請出てないだろ、アンタ乗せるのだけはヤダからね。大人しくしときな」

 

「ガハハ、心配するなおつるちゃん。今回はおれの船でいくからな!」

 

「いくらロジャーを仕留めるチャン......は?」

 

「いつでも出航できるからな、がはは!」

 

「や、やけに準備いいね、アンタ?」

 

「今度こそ千載一遇の大大大チャンスじゃからな!」

 

いつもと違うガープ中将に肩透かしをくらって驚くおつるだったが、命令違反なのは変わらない。我に返ってあわてて追いかける。ガープ中将の足は港のおつるの船ではなく、昨日修理が終わったばかりのガープ中将の船にまっすぐ向かっているのがみえた。本気なのだと気付いたおつるは必死に止めるがガープ中将は見えなくなっていく。

 

今回の出撃要請は金獅子を一任されているセンゴク大将を総大将として乗せることになっているのだ。いつもみたいに船の上で喧嘩する流れだと思っていたのに、ガープ中将に船を出されて勝手に動かれるとそれはそれで非常に困る。出航準備の指示をついてくる部下に的確に指示しながら、おつるはセンゴク大将にこの緊急事態を話すことにしたのだった。

 

おつるの船が出航準備を整えた時にはすでに港にガープ中将の船はなかった。

 

「ガープのやつ、またか!金獅子はおれが一任されてんだぞ、なに考えてんだ!」

 

「なんも考えてないと思うよ。ロジャーがいるんだ。ガープがじっとできるわけないよ」

 

「にしたって様子がおかしいと思わないか、おつるちゃん。いつものガープならおつるちゃんの船に乗り込んでるはずだ、なんだってわざわざ自分の船に?」

 

「嫌な予感がするね」

 

「つうかもう船がみえないだと!?なんて速さだ!」

 

おつるとガープ中将は海上から完全に見失ってしまったガープの船に思わず顔を見合わせるのだ。海軍の船では考えられない速度である。

 

「なあ、おつるちゃん」

 

「なんだい、センゴク大将」

 

「たった今すごく嫌なことを思い出してしまったんだが、どうしよう。口にしたくないんだが......」

 

「もう現実になっちゃってるんだ。一緒だよ。いってみな、楽になるよ」

 

「そうだよな......。ガープの奴、あの船知り合いの造船所で無理言って格安で修理したっていってたのを思い出したんだよ」

 

「そうだね、前のロジャーとのいざこざで派手に壊したから海軍御用達のいつもの造船所に匙投げられたとかなんとか。知り合いっていうくらいだ、ウォーターセブンじゃないのかい?しょっちゅう壊してるから、顔馴染みみたいなもんだろう?」

 

「それ、ほんとにウォーターセブンで直したのか?」

 

「は?」

 

「早くしろってウミット海運に無理言って運んでもらったっていってたが、今のあいつの船、ウミット海運にコーディングしてもらってるはずだろう?財務担当者が届いた請求書見て悲鳴あげてたし」

 

「だろうね、じゃないと深層海流に耐えられるはずがない」

 

「ウォーターセブンで格安で直してウミット海運に運んでもらうより、ウミット海運に全部任せた方がはやくないか?安上がりだし」

 

「いやいやいや、いくらなんでもそれはおかしよ。ウミット海運にそんな無茶聞いてくれる知り合いなんかいな......いたね」

 

「いたろ?」

 

2人の脳裏には1人の男の顔が浮かんでいた。6年前非加盟国に降ろされた妻子だけでも助けてくれと懇願する元天竜人の手紙を受け取り、海軍の正義とはと散々苦悩していたガープ中将は記憶に新しいことだ。託された息子は2人と聞いていたが弟だけだった。苦い顔をするガープ中将曰く、モルガンズ社長からは父と運命をともにするから非加盟国に残ると上の兄はガンとして乗らなかったと聞いたらしい。何も知らないまま保護された妻は当時同情するほどの精神的ショックを受けていた。モルガンズに匿ってもらいながら働いているはずだ。

 

「いたね......あのバカ、ホーミングに無理言ってウミット海運に仕事してもらったのか。託された息子を故郷の知り合いに丸投げしてるくせになんてことを」

 

「困ったことにガープの船、昨日届いたばっかりだろう」

 

「まだウミット海運の社員が乗ってるはずだね。深層海流で最速でエッド・ウォー沖にいけるはずだよな」

 

「ガープ!!おまえ、おまえ、おまえええ!よりによって民間人巻き込んで何してんだ、お前ええええ!!!」

 

センゴク大将の絶叫が新世界に向かう軍艦で響き渡ったのだった。

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