(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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あの日の残響④(ドフィの過去 ローについてロシーと)加筆

ドフィと再会するたびにロシーはナギナギの力だけは上達していた。うっかりでドフィとロシーの繋がりや兄上とローやドフラミンゴファミリーの前で口走ろうとする。だから蹴り飛ばす羽目になっているが、ドフィはそこだけは評価していた。

 

ナギナギの実は、声を含むあらゆる音を遮断する能力を持ち、能力を使うと周囲や自分に対象が出す音が聞こえなくなる。 安眠において右に出るものはないと豪語する実にうらやましい能力だ。

 

ES事件のとき入手した血統因子から完成品の人工悪魔の実か、グリーンブラッドから生成予定のスケスケの実の能力者と組めば『見えない・聞こえない』攻撃が可能になる。ロシーは血さえ渡さなければ大丈夫だと考えているが、髪の毛一本でビブルカードが作れるのに甘い認識だと思う。だからガープ中将の愛弟子なのにまだ中佐なんだろうけど。

 

最近ようやく持病と化していた不眠症が解消されたばかりのドフィにとっては、実に羨ましい力だ。その天性のドジっ子が全てを台無しにするから、海軍にいられなくなるような案件にまきこまれても、大幹部クラスの地位をあたえるにしても、なにもしない係に任命するだろう。それがドフィが天夜叉という通り名を持つ理由を話すことにもつながる。元天竜人だと明かしても大丈夫な世界になってもドフィは明かす気にはなれなかった。

 

流石に見聞色の覇気までは誤魔化せないが、それでも強力な攻撃になりうるのにもったいないと常々ドフィは考えていた。

 

「ドジっ子でさえなければスパイとか内部監査の部署にとっては垂涎の能力なのにな」

 

「うるさいなあ!?気にしてること、いわないでくれよ、兄上!」

 

ローには「何の役に立つんだよ そんな能力っ!! かっこよくもねぇし!」と言われてしまっているナギナギの力である。ドフィに言わせればロシーだからその程度なのだ。

 

音による攻撃を用いる能力者にとっては音そのものを遮断されて無効化されるため天敵となる。赤髪が父上を警戒して革命軍に匿ってもらっているウタウタの実の能力者の愛娘。四皇ビッグ・マムのソウルポーカスも無効化しうる。ペトペトの実やゴエゴエの実などへの強力な対抗策にもなり得る。

 

さらに音とは空気の振動であるため、あらゆる振動を操るグラグラの実にも有効なのではないかとドフィはふんでいる。覚醒にまで至れば封殺することすら可能だろうに。すさまじい力をもつ能力者に対して、特攻とも評されうる。ドフィの中では評価が急上昇しているのに、すでに能力者がロシーなのだ。これが全てを台無しにする。

 

ロシーほど海兵に向いている人間はいない。海軍の正義の矛盾を飲み込めるくらい成長して、覚悟を決めたらどこまでも突き抜けるほどの爆発力と周りを巻き込む天賦の人たらしは脅威たりえるだろう。父上と同じで死んだらなおのこと周りの人生を激変させることができる。悪い方向にも、いい方向にも。本人が無自覚なのが余計タチ悪いが。

 

能力者がロシーなだけで世界は平和なのだ。ナギナギが平和が好きなんだろう、きっと。

 

「また降してあげるんだ、兄上。しかも今度はオペオペで命の恩人になってまで?よく我慢できるね、大海賊時代も海賊王もロックスも大嫌いなのに」

 

「たしかに嫌いだ、むしろ好きになる要素あるか?あらゆる人間を海に駆り立てるような海賊王の最期なんて、すでに頂点にいるような奴らやロックスの再来を目標にしてる父上には、自分の終わり方について意識させる劇薬でしかない。だが、殺すってのは違う。そりゃやつあたりだ。海賊王の処刑前に生まれたおれ達と大海賊時代に生まれた奴らの価値観が同じわけねえだろう」

 

「それでもさ、ローだっけ。海賊王になるって飛び出すでしょ最終的に」

 

「うちに居座られるよりはマシだ。傘下に入りたいってうちにくるやつに限って、アンタは海賊王になる男だとかさせてやりたいだとかのたまいやがる」

 

「兄上の本懐推し量るのは無理だよ、それこそ最古参幹部じゃないと」

 

「だからドフィって呼ばせるの許してんだよ」

 

「兄上がそんな感じでずっと来たから、ローみたいなやつがよく来るんじゃないの?命の恩人になるつもりなのはびっくりしたけど」

 

「ローが海賊王になるって宣言した時点で儲け話の邪魔したら本気で殺しに行くし、庇護から抜けたかったら喧嘩売れというつもりではいる。そっからは本気で殺しても問題ない」

 

「兄上なりの血の掟きた。律儀だね、ほんと。

オペオペを強奪してまで助けて、海賊王になりたいって宣言するところまでみえてるのに、旗揚げまで匿うってさ。兄上。めんどくさいことになるってわかってるのに」

 

「みなまでいうな、ロシー。わかってんだよ。生きることを諦めない、努力をやめない、そういうチャンスすらもらえない奴らをみるとつい助けたくなる。これは衝動的なもんだから我慢できる類のもんじゃねえんだ。見捨てちまったら最後だ。あきらめてるくせに、今だに夢をあきらめきれない自分にとどめをさしたくないんだよ、おれは」

 

 

ミンク族部隊最古参の黒ウサギ、シデがドフィは嫌いだった。無邪気でスキンシップが好きで無神経なことをよくいうし、ドフィとおないどしの癖に反抗期もあいまって素直になれないドフィの前でせんちょーとよく甘えている。密航したのが8歳のときだから、態度を改めないのはそういうものかと父上は放置していた。だからムカつくのだ。シデはそこまで考えてない。天竜人のポテンシャルを鍛え抜いて開花させたせんちょーは忙しいから、代わりにドフィにかまってほしいだけ。

 

14年ぶりにあっても相変わらずで、その結果、北の海にあるルーベック島が物理的に平地になった。

 

シデのいう父上の嫌な予感。怖い顔をして手帳睨んでいる。オペオペの実の取引のページみてたのは間違い無い。迷わず撤退も視野に入れと念押しして、警戒を促す。その意味をドフィは後日手紙で思い知る羽目になる。

 

世界政府で存在しないはずの最高権力を独占する者の姿と共に、聖地マリージョアのパンゲア城にて巨大な麦わら帽子が冷凍保存されていた。聖地マリージョアのパンゲア城の麦わら帽子が果たして何を意味するものなのか、そこには書いてあった。聖地マリージョアにある重大な「国宝」の事をドフィはこの瞬間に知ることになった。それは存在自体が世界を揺るがすと同時に、「オペオペの実」には、人格の移植手術(シャンブルズ)や人に永遠の命を与える「不老手術」がある。なるほど、オペオペと組み合わせると世界を握れることも理解できた。デメリットを踏み倒し、メリットを最大限に活用する。アラバスタの豪水やリュウグウ王国のESを欲しがる父上みたいな考えをするやつが世界政府にはかつていたらしい。

 

「......どおりで暗殺者も妨害もこねえわけだ。世界政府はようやくおれ達から手を引いたのか。やっとウラヌスから解放されるのか。ここまでしないとダメなのかよ、くそ......」

 

もうドフィは25になっていた。

 

「バレてもいいだろ、こんなの。権力は足が早いんだ、どうせすぐに腐っちまうモンだろうが。そのためだけに、どんだけ苦しませりゃいいんだてめーらは」

 

ドフィはため息をついた。

 

忌み名とDの意味を知りたくて海賊王になりたいとようやく気づいてしまうであろうローになんて言葉をかけてやるべきか。父上には一度ももらえなかった言葉を手向けることが、ドフィにとってはかつての自分を慰める数少ない方法だった。

 

 


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