(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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新時代の2年間編
第122話


 

かつて見聞色は人智を超えているのに、肝心の人の心がわからない男がいた。商人として勢力争いにウミットに負け、武器商人になり、海賊になった変わった経歴の持ち主だった。ハチノスの儲け話に乗った時、あまりにとんちんかんなことをいうから、そうじゃねえだろと声をかけたのがきっかけだ。仁義を重んじる白ひげが見聞色を解説してくれて初めて、男の見聞色は使い物になった。そのうち男は人の心を理解した。

 

そのうち白ひげと金獅子とセット扱いされるようになり、ロックスが好きだった男は、ハチノスの元締めになった。

 

白ひげは知る由もないが。別の世界線で手を抜かなければならない状況に追い込んで謀殺してマスコミで白ひげの時代は終わったと喧伝されて訪れた新時代を許せなかった男がいた。盟友がああいう最後を迎えて自分は首謀者たる黒ひげに殺された時点で、世界線を超えた男はまた人の心がわからなくなっている。

 

「......逝きやがったか、王直」

 

白ひげの見聞色は四方八方を敵に囲まれた激戦の最中ですら、片手間で盟友の戦死を伝えてきた。赤髪は完全に百獣海賊団を抑えられていないようだ。金獅子陥落後、長らくあいていた四皇の座に王直と金獅子が嫌っていたミーハーの代表格たる赤髪が座った。

 

白ひげは海賊王の座に興味こそなかったが、ロックス世代である他の四皇や腐れ縁達がどこまで赤髪を認めていたかというと、不透明なところがある。そもそも四皇とはモルガンズをはじめとしたマスコミ連中が勝手に呼び始めて世間一般に使われるようになった単語のため、白ひげからすればどちらでもよかった。

 

ただ、他のロックス世代の連中は、自分達の名だと考えている節がある。そこに異物が混じっていると考えている者達がいる。赤髪の四皇としての格、あるいは実力をみる絶好の機会だと考えていた者達がいる。結果はどうだろうか。世間はどうみただろうか。

 

インペルダウンでハチノスと黒ひげ百獣がぶつかり、インペルダウンが壊滅して、黒ひげ百獣が勝ったという純然たる事実は。おそらく黒ひげがハチノスの元締めに収まるだろう未来は。

 

「......ワプワプの実は、お前の望み通り、お前によく似た男に渡ったぞ。いや、ワプワプの実がそうさせたのか?」

 

かつての自分達を思いださせるようなことばかりするロックスかぶれの元天竜人が緑の液体をかぶるのがちらついた。

 

ホーミングが大規模な自殺を計画して未遂で終わったことを白ひげはようやく知ることになる。てめえなにふざけたことしてんだと今すぐにでもぶん殴りに行きたいが、それはこの戦争を終わらせてからだろう。覚えてろよと思いつつ、エースがそのどさくさに紛れて奪還されたことを確認した白ひげは、手加減する理由を完全に失った。

 

「てめえら、いますぐひけ息子達!こっからはおれの戦場だ!!」

 

白ひげの宣言を聞いた瞬間に、ウミット海運が気球を飛ばしてウェザリアを助けに向かう。魚人達は白ひげの船の護衛や支援を開始する。しばらくして船は次々と深層海流に消えていった。

 

マリンフォード全土が隆起する。余波で地震や津波が押し寄せる。敵味方関係なく白ひげの覇気に耐えられた者達だけが戦争を続けることが許される時間がはじまる。制限時間はもう終わったのだ。赤髪がくるまで白ひげが止まる理由はもうない。

 

30年にわたる自らの最高の終わりでもって完結するはずだったロックス再来という壮大な計画。息子であるドフラミンゴの執念と神の天敵になると叫んだDの死の外科医、様々な思惑が絡まった結果最高の終わりだけは阻止された。ロックスに心おいてきた天竜人が自己矛盾に耐えきれなくなったのかと白ひげは思った。

 

「グララララ、やらかしたな、人堕ち。失敗したな。もう2度目はねえぞ。お前がこんなとこで退場することをおれも含めた誰もが許さねえだろうよ。これも運命だ、諦めろ。責任もって見届けろ、新時代を。新たな謀略でも巡らせておれ達を楽しませやがれ」

 

こちらに向かっている赤髪がこれ以上遅れたら大惨事になるのは目に見えていた。

 

「ロジャーの意思を継ぐ者達がいるように、ロックスの意思を継ぐ者達もいる。血縁を断てどあいつらの炎は消えることはねえ」

 

だから高らかに白ひげは宣言するのだ。

 

「そうやって遠い昔から、脈々と受け継がれてきた。そして、未来、いつの日かその数百年分の歴史を背負ってこの世界に戦いを挑む者が現れる」

 

そう、現れる、のだ。ホーミングのことではない。ホーミングはそれを待ちわびているのだ。だから動かない、準備をしたままじっと待っている。だから白ひげは手を組むことをしたのだ。まさかその矢先に自分の生まれに思い悩むあまりに自殺未遂するとは思わなかったが。エースに言ったように人間はみな海の子だという言葉は、ホーミングにこそ必要な言葉だったようだ。

 

「センゴク、お前たちは、世界政府は、いつかくるその世界中を巻き込むほどの巨大な戦いを恐れている。すでに準備を始めているせっかちな野郎がいるから尚更。奴に手を出したら、おれがゆるさん。おれ達は興味はねえが、宝を見つけたとき、世界はひっくりかえるのさ。誰かが必ず見つけ出す。ひと繋ぎの大秘宝は実在する!!!」

 

そして、高らかに宣言するのだ。

 

「よくきけ、てめえら。海賊なら!!! 信じるものはてめェで決めろォ!!!!白ひげエドワード・ニューゲートは、お前たちが本気で海賊王を目指すってんなら、いつの日か最果ての地で雌雄を決する日がくることをここに宣言する!!それまで海賊王という空の王座は誰にも渡さねえ!!」


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