(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第124話

ドラゴンは、王族・貴族と庶民の階級差が激しく理不尽な差別が横行する東の海『ゴア王国』で生まれ育ち。世間一般にはモンキー・D・ガープの息子として認知されるまでの22年間、その活動がバレないよう水面下で活躍してきた。

 

海賊王の処刑を見届けたのち、自勇軍として本格的に活動することになる。

 

 

 

「最高の終わりってなんだと思います?」

 

ドラゴンが知る人堕ちホーミングは、世界で一番愛する家族のために、どこまでも堕ちることを決めた男だった。武力ではなく経済や思想からロックス再来を計画し、秘密裏に白ひげをはじめとした人々をつなげる役割をすべく活動をはじめていた。

 

そのときも、ウミット海運の船の一角をベガパンクに貸し出し、バスターコールを免れたオハラの叡智を1日も早く復興すべく、自らもその手伝いをしていた。

 

束の間の休息の時に、物思いにふけっていたホーミングからコーヒー片手にそう問われたものだから。ドラゴンは当然ながらオハラの未来のために、すべてを投げ出した考古学者たちを偲んでいるのだと思っていた。

 

「自勇軍」という言葉は、自由(リベラル)と義勇兵を合わせたドラゴンの当時の標榜を結集したような言葉だったが、オハラへのバスターコールがその基盤の弱さを見せつけていた。貧乏軍隊とベガパンクとホーミングに揶揄される理由を思い知っていた。ドラゴンは活動の転換を強いられるだろうと感傷的になっていたこともある。だから、こう返したのだ。

 

「天寿を全うした時、成すべきことを成した時、いや......誰かのために、なにかを遺した時かもしれん。オハラの意思はたしかに、ここに生きている」

 

歴史の本文の訳文を読みながら、ドラゴンはイワンコフとくまと共に「自勇軍」を「革命軍」と名を変えること。今と活動の方針を変え、打倒世界政府を目的に暗躍する反政府組織にすること。世界各地で同志たちをもっと集めてから開始することを決意する。ベガパンクとホーミングにも伝えた。ここに三者の密約が交わされた。

 

12年前、通りかかりに出会った貴族の少年・サボから、ゴミ山に棲む貧民達を虐殺する為に、貴族達が火事を仕掛けた真実と、自らが貴族に生まれたことを恥じる告白を聞く。故郷のゴア王国の不要な物を淘汰した格差社会を「不条理な世界の未来の縮図」と考え、恐ろしい世界と未来に変革を齎すべく決起した。

 

また、その翌日にゴア王国に訪れた天竜人の砲撃を受けて海に沈められたサボを救出しており、彼が革命軍に参加する切っ掛けを作っている。 サボとは後に師弟関係にもなり、ドレスローザに革命軍として現れたサボは彼に仕込まれた「竜爪拳」を使用している。

本拠地は「バルティゴ」と呼ばれる秘密の地であった。

 

ドラゴンは、革命軍総司令官として、ルフィやガープと同様に高いカリスマ性と確固たる強い信念を持つにいたっていた。『打倒天竜人』を掲げる革命家で世界各地・各国でクーデターを起こしているが、革命の名の下の争いがもたらす『負の側面』も深く認識している。

 

また勝利に浮かれる部下に対して「勝利を喜ぶな!! 戦争だぞ」と叱責する等、思慮深く厳格な一面も持ち、庶民に対して幾らでも冷酷になれる自らの国に強く失望しており、彼が革命軍として動いているのは、世界貴族やゴア王国に顕著な理不尽極まりない格差社会を変えようとしている為だ。

 

頂上決戦の顛末の記事や写真をみて、ずっと記憶喪失だったサボは、なにかを思い出したのか、あまりの衝撃に頭痛を訴え、そのまま気絶してしまった。医療班に運ばれていくのを見届けたドラゴンは、息を吐いた。

 

今、革命軍は、不条理な社会とその未来をただそうと、世界中にその思想を広め、悪政・圧政を行う国々にクーデターや革命を引き起こしている。 序列二番目の「参謀総長」はサボが務めているのだ。

 

各地域をまとめる「軍隊長」と呼ばれる役職があり、東西南北の海と偉大なる航路に1人ずつ、計5人置かれており、各軍隊長の下には彼らを補佐する副隊長が存在する。

 

王下七武海バーソロミュー・くまのように政府系機関に入り込みスパイ活動を行っている幹部もいる。

 

また「支部長」という役職も存在するが、CP9のジャブラ、クマドリ、フクロウの手によって23名(3名の支部長と護衛など20名)が消されてしまっている。

 

サボがいなければあらゆる作戦が棚上げになる。どのみち今回の頂上決戦がもたらす新時代に向けて、革命軍もよりいっそう気合いをいれなくてはならないだろう。

 

人堕ちホーミングからいつものように事前に通告はうけていた。いつもそうだ。情報提供はしてやったんだから、もし革命軍の作戦が失敗したら、その原因はひとえにそちらの実力不足だといいたいのだろう。革命軍の立場は闇のシンジケートと常に表裏一体だ。

ウミット海運は闇のシンジケートの一角をになう5大帝王のひとつだ。彼らは儲け話がすべてだ。敵になることもあれば、味方になることもある。代理戦争をすることもあれば、さらなる儲け話を提示すれば味方になることもある。時に作戦を邪魔されて無血革命が泥沼の果てに今だに内紛に陥ることもあれば。世界政府などから被害を受けた難民の保護に協力的なこともある。

 

その頂点に君臨する天夜叉ドフラミンゴは、残酷なほどに世界に対して平等である。敵味方問わず儲け話があるなら武器をばら撒く。医療品をばら撒く。経済から政治からなにから支配下に置かれた非加盟国は数知れない。人堕ちホーミングの息子として納得しかない男だった。

 

だからこそ、ドラゴンは、あの日、ホーミングにいった言葉が今回の不慮の事故と勘違いされるほど巧妙な自殺未遂の決定打だったに違いないと心底後悔していた。14年前のくまから聞いた天夜叉の反応をみるに間違いない。20年前のあの日から、人堕ちホーミングの誰にも知られてはならない最高の最期に向けた全ては始まっていたのだ。今回の偉業をなした男ですら自らの生まれや思想、あるいはさまざまな自己矛盾から逃れきれなくて自殺を選ぼうとするのだ。

 

肝に銘じなくてはならない。深淵を覗くとき、深淵もこちらを覗いているのだと。

 

そんなドラゴンから新聞を借りて必死で読んでいる少女がいる。

 

「......ホーミングさんも、悩むことあるんだ......。死んじゃいたいくらい.....ロックスに会いたくなるくらい......?」

 

「そうだな」

 

「......わたしだけじゃ、ないんだ......」

 

13年前、思想的な問題から対立しているホーミングが、サイファーポールに対して行う行動を目の当たりにして、ドラゴンに赤髪のシャンクスは少女を託した。

 

遡ること19年前、とある島で生まれるも2歳になったときに故郷を海賊に襲撃され、両親を失った少女は海賊に拐われてしまう。

 

しかし、その海賊は海で遭遇した赤髪海賊団に撃破され、宝箱に隠れていた少女は赤髪海賊団に拾われることになった。少女を発見した海賊団のメンバーは困惑したが、自身がロジャー海賊団に拾われた経緯が頭によぎったシャンクスは 「これも何かの縁か」と感じ、少女は赤髪海賊団の音楽家、そしてシャンクスの娘として育つことになった。

 

なお、赤髪海賊団に拾われた頃には既にウタウタの実の能力者だったようで、少女が歌えばシャンクスたちは眠り、海賊団が戦闘中の際には船で留守番しつつ、妄想する夢の世界で過ごすなどしていた。

 

13年前、赤髪海賊団の音楽家として東の海のフーシャ村に辿り着いた少女は、自由に生きることを目指す少年モンキー・D・ルフィと出会う。年齢が近かった2人は意気投合し、身長対決や可愛さ対決、腕相撲やチキンレース勝負といった真剣勝負を183回も繰り返す程の関係になった。

 

それぞれが思い描く「新時代」はまったく噛み合わなかったが、ルフィからシャンクスの麦わら帽子の絵(とても帽子には見えないもの)を「新時代の誓い」として渡された。

 

フーシャ村を拠点としていた期間の中で、少女は音楽の島エレジアへの航海にも同行し、上陸すると国王ゴードンから大歓迎を受ける。ゴードンからは国に残り歌手になるための英才教育を受けることを提案され、シャンクスにも残っていいのではないかとか尋ねられるが、赤髪海賊団の音楽家として海に出たい少女はその提案を断っていた。

 

しかしその夜、一曲でも多く歌って島を出航しようとしていた少女は、いつの間にか傍に落ちていた「Tot Musica」の楽譜を拾って歌ってしまい、エレジアに歌の魔王「トットムジカ」が出現。少女がまだ幼く能力を長い時間保てなかったのが救いであったが、赤髪海賊団の奮戦も虚しくエレジアはたった一夜で壊滅し、ゴードン以外の国民も死滅してしまった。

 

人堕ちホーミングがいなければ、少女はエレジアにいただろう。だが、赤髪のシャンクスをミーハーの代表格と嫌うホーミングにとって、少女が赤髪のシャンクスの急所になりえると気づかれるのは時間の問題だった。だから、シャンクスはドラゴンに少女を託したのだ。エレジアの悲劇とトットムジカの楽譜を託しても問題ない実力を備えていたドラゴンに。

 

エレジアのゴードンとは今も革命軍の拠点として活動させてもらっている。

 

それは結果的に1年後、サボやフィッシャー・タイガーの悲劇をきっかけに革命軍入りしたコアラを精神的にも身体的にも鍛え上げられた実績が、シャンクスの見聞色が正しかったことを証明することになる。

 

「ウタ」

 

「はい」

 

「時代は時として… あらゆる偶然と志気をおびて 世界に問いかける。それがこの時だ」

 

「!!」

 

「我らがいずれ、紙面の彼らと出会う日も来るだろう。だが、忘れるな。自由の為共に戦う意志のある者だけが、ここにいることを許される。お前がなんのためにここにいるのかだけは、忘れるんじゃないぞ」

 

「はい!!」

 


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