(未完)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第125話

頂上戦争から2週間後。世間の喧騒を離れ、ここは凪の帯女ヶ島アマゾンリリー。ルフィとエース、ジンベエの療養を目的として、ハートの海賊団は緊急特例により、女ヶ島海岸に停泊を許していた。

 

魚人のF型の輸血剤ほか、さまざまな物資の支援をしてくれているウミット海運から、あたらしいトーンダイヤルがエースあてに届けられた。

 

マリンフォード頂上戦争において、とうとう思想犯となったドンキホーテ・ホーミングの供述調書の一部抜粋だった。七武海ドフラミンゴのドレスローザに捕縛されているため、直接会うことはできないと社員はエースに伝えた。もちろんすべて建前だ。

 

ドンキホーテ・ホーミングを世界政府に引き渡すことは、ドフラミンゴファミリーが牛耳る裏表とわず物流社会および、シンジケートから世界政府と海軍を永久追放することを意味している。

 

強行すればマリンフォード頂上戦争の立役者のひとりであるドフラミンゴの離脱を招き、いよいよ公然とドンキホーテ・ホーミングと合流することにつながる。

 

そうなれば、ドンキホーテ・ホーミングが33年かけて築き上げてきたあらゆる国地域を一気に敵に回すことを意味する。ただでさえ、秩序側が完全敗北手前まで追い込まれ、ドフラミンゴが最悪の事態を辛うじて防いだ事実はあまりにも重かった。

 

マリンフォード頂上戦争における立役者七武海の評価と白ひげの戦争から生き残った猛者達の存在がかろうじて世界政府の秩序の体面を守っているこの状況で。世界政府はそれを承認するのは当然の流れといえた。

 

完成したビブルカードを渡してくれと社員に渡しながら、エースは安堵のため息をこぼした。唯一の生存確認方法ではなくなったからだ。

ちなみに、映像デンデン虫もあるといわれたが、高すぎてエースでは分割でも支払いは無理だった。

 

供述調書といいながら、エースに問いかけるように記録されていた。

 

ドンキホーテ・ホーミング聖がオトヒメの書状に感化され、天竜人の地位を捨て、一家4人で非加盟国に移住した。人間になりオトヒメの天竜人としての署名が無効になったことが心残りだった。ホーミングは、引越し当日から死ぬ寸前の高熱を出し、人智を超えた見聞色を発現。

 

熱に浮かされ、目を逸らすことも許されず、無理やり見せられた未来予知。ホーミングの人格とその未来予知でみせたある男の人生をぐちゃぐちゃにしてしまうほどの衝撃だった。

 

目が覚めたホーミングの中には、ふたつの人格がぐちゃぐちゃになり、今だにどこからどこまでがホーミングなのかわからない、新たな人格が形成されていた。記憶は継承しているが、彼はその日から人生が始まった。

 

未来予知がみせたある男の人生は、ホーミングに現実を突きつけた。見せしめに非加盟国に降ろされ、明日からは迫害で殺されそうな状況下であると彼は理解した。自分のことを考えるより、愛着もなにもないはずの家族のために動くしかなかった。それが彼の中にあるホーミングの愛情がそうさせたのは、間違いない。そして、彼はその一カ月の中で運命について考えた。

 

そこからは、エースがよくしる人堕ちホーミングが、世界で一番愛する家族のために地獄に堕ちていくまでの経過だった。非加盟国を滅ぼして、ウミット海運に入り、ウミットの右腕として運輸王にのし上げるまでの成り上がり物語でもある。

 

「私が愚直なまでに建前を守るのは、かつてその建前を宣誓し、盟友に違わないか見てもらいながら、戦うのが当たり前だったからだ。お前がウミットに負けたのは仁義をわかっていないからだと教えてくれた盟友を謀殺した世界への復讐も兼ねている」

 

この段階では意味がわからなかったのだが、ホーミングが語る時代が大海賊時代に差し掛かるとエースは体がこわばるのを感じた。

 

ホーミングを形作る、ある男はロックスに深く傾倒しているようなのだ。ガープから何度も聞いたことがあった。

 

約40年前に存在したとされるロックス海賊団の船長。 海賊王ゴール・D・ロジャーの最大の宿敵であり、彼が現れるまでは、全海賊達の覇権を握っていたとされる世界最強と称された伝説の大海賊。ガープとロジャーが共闘して倒した最初にして最強の敵。このロックスを討ち取ったのが、現海軍本部中将モンキー・D・ガープの『英雄伝説』の始まり。

 

エースはロジャーの子供だ、しかもガープに託された子供である。それだけでホーミングがエースを愛せる理由がなにひとつ存在しないにもかかわらず、ルージュの世話を2年も行い、ガープと共にフーシャ村まで送り届けてくれたことになる。今もなお、父さんと呼ぶことを許してくれている。

 

エースは無性に不安になった。やはり、ガープへの恩義からくる義理立てにすぎず、迷惑をかけていたのではないか。負担になったのではないか。頂上戦争で父親として啖呵をきってくれたのも実は......。

 

ホーミングの話はルージュがいかにエースを愛していたかに終始している。ホーミングが内心を語るところが一度も訪れないことに気づいてしまったエースは、その先を聞くのが怖くなり、一度止めようか迷った。そのときだ。

 

「お前さえ助かれば、盟友は助けられる確信があった」

 

さっき出てきた、仁義を教えてくれた盟友だった。

 

「お前が確実に麦わらのルフィに助けられれば、盟友は手加減する理由を失うからだ。お前は成し遂げてくれた。本当にありがとう、エース。これは誰にも明かしたことがない、私の本音だ」

 

エースは目頭が熱くなるのを感じた。

 

「私がみた未来は、お前が処刑され、盟友は手を抜かなければならない状況に追い込まれ、謀殺され、マスコミで白ひげの時代は終わったと喧伝された。訪れた新時代に、白ひげに守られていた非加盟国の名はもうなかった。グラグラの実は奪われ、あらゆるものが奪い尽くされ、皆殺しにされ、黒ひげの支配下になった。私も殺された。旧世代の敗北者として真っ先に脱落した。だから、思ったんだ。今度はうまくやろう、ロックス再来も、運命にも争ってやろうと」

 

ルージュの最期や海賊王ロジャーの処刑、オハラの最期を通じて、途中で自分の最後があんまりだと気づいたらしいホーミングは、自分の最高の終わりを模索しながら、頂上決戦に望んだ。

 

「ドフィに散々いわれたが、ほんとうに申し訳ないことをしたね、エース。未来予知の果てに見た私の終わりは盟友を殺した首謀者に仇も取れずに殺され、ワプワプの力も奪われたものだから、また人の心がわからなくなっていたようだ。お前のことも、ドフィのことも、ロシーのことも、妻のことも、ロックスのことを忘れたこの世界のことも、いつしか私は愛せるようになっていた。そうなったら今度こそ、ロックスに会いに行くと決めていたから、お前を守れたらそれで最高の終わりになると思っていたんだ」

 

「......とうさん......」

 

「お前が私の未来予知を変えてくれたんだ、ありがとう、エース。私の見聞色はもう、悪夢はみないだろう」

 

エースは涙を拭った。未来予知が外れるのとひきかえに、ホーミングに悪夢のような未来予知を見せてくれたはずの男が、エースの生存と引き換えに死んだのはなにかの因縁な気がしてならなかったのだ。

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