(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第126話

「さっきから何落ち込んでるんだ、火拳屋」

 

「いや......おれ、なにもわかってなかったと思って......」

 

「人堕ちホーミングのことか」

 

「ちがう......いや、ちがわないか、それもあるけど、親父の方だ」

 

エースの手にはウミット海運がもってくる物資に必ず入っている世界経済新聞がある。新聞王モルガンズが社長をつとめる世界各国に情報を伝達する新聞会社だ。世界規模のメディアにして最大手。世界中にいるジャーナリスト、情報屋から得た情報をまとめ、ニュース・クーが記事を配達する。

 

世界中のほとんどの地域に配られており、世界政府による検閲・情報操作こそあるが、手紙を確実に届けることさえ難しいこの世界において数少ない安定した情報源である。

 

ただし、ひとつだけ例外がある。モルガンズが匿っている人堕ちホーミングの妻がいるからか。ウミット海運や人堕ちホーミング、もしくはドフラミンゴファミリーに関する記事はかならず擁護する記者が書くことで有名なのだ。

 

どの新聞社よりも詳細でなおかつ論理的、独自調査で集めた証拠などを入れ込むから、余計タチが悪い誘導記事をよく書いている。普通なら記事の最後に苗字や名前をいれるのだが、その記者は絶対にいれないからすぐわかる。もしかしたら、もう編集者に昇進しているかもしれない。

 

マリンフォード頂上戦争をまるでライブ中継しているかのような臨場感で書き切った手腕は恐れ入る。おかげでエースは当事者だったはずなのに、うっかり読み込んでしまった。なにせエースは処刑台にいたわけで、センゴク元帥と人堕ちホーミングのやり取り以外はわからないのだ。

 

実際に白ひげ海賊団やウミット海運、海軍、そして、ルフィ達乱入者があの戦争においてどう動いて、どうなって、結果的にどう世間にうつったか。これからどうなるか。そういうものが予言書のように書いてある。

 

「......親父、海賊王になるつもり、ないんだな」

 

白ひげの新時代の到来の宣言は、エースが白ひげに対して抱いていたイメージとだいぶ違うものだったのは事実だ。だが、エースの無知が原因ではない。

 

海賊王という称号が意味する理由を知る者は白ひげが暴露するまではほとんどいなかった。東の海は特に世界政府の情報規制が行われている海のため、偉大なる航路の情報はまず入ってこない。

 

エース率いるスペード海賊団は東の海から偉大なる航路まで2年という破竹の速さで航海し、白ひげに挑んでから傘下入りした。そして、部下になり、昇進する間もなくいきなり2番隊長に抜擢された。自分達なりに情報収集はしていただろうが、白ひげのところに来てからたった2年だ。

 

新世界のどこかで壁にぶつかり、どこかの島で足止めさえ食らっていたら、もっと情報は入ってきただろう。それが早熟したエースの強みでもあるが、弱みでもあった。

 

「抜けるのか?」

 

「いや、それはない。おれが慕ってるのは親父だけだ。いや、父さんもだけど!ドフラミンゴもそうだけど!......と、とにかく、親父が海賊王になるつもりがないことを知らなかったのがショックなだけなんだよ。新聞で知ることになるとは思わなかったんだ」

 

「普通はそうだ、気にする必要はない。いい機会だったと思え、火拳屋。もしこれが戦場だったら、お前は死んでた」

 

「そうだな......動揺して覇気が使えなくなったかもしれない」

 

「仲間が死ぬ、自分が死ぬ、白ひげが死ぬ。......わるい、盗み聞きするつもりはなかったんだがな。診察の時間になっても来ないからドアの向こうで待たせてもらってた」

 

「あー......ごめん、そこまで頭が回ってなかった」

 

「ここはおれの船だ、見聞色しなくてもいい。優秀な航海士がいるからな」

 

「ミンク族だよな、副船長。ベポだっけ」

 

「そうだ、うちの優秀な航海士だ」

 

にやっと笑うローにエースは笑った。

 

この2週間のあいだ、エースは自分を助けるために沢山の人間が動いたことを知った。愛されていることを知った。頂上戦争になることが予見できたのに、ガープがホーミングを巻き込んだ真意を知った。ここまでされてはさすがに死ねない。生きなければならない。生きたいと思っている。

 

そう伝えると、ようやくロー達が安堵してくれたことを思い出す。

 

実は白ひげや人堕ちホーミング、カイドウの思惑を察して役割をこなしただけなのだが、いえなくなってしまった。

 

実際、白ひげからはよくやった、2番隊長の面目が保てたなとウミット海運経由で手紙をもらっている。なにも知らない人間には処刑という大事件はなんとかして助けたいと思わせてしまうようだ。それだけの愛を受けて育ってきたのに、エースが気づいていなかったともいえる。今のエースは嫌というほどわかっているので、二度ともういわないだろう。なんで生まれてきたんだろう、なんてことば。

 

「ところで話は変わるんだけど、ローってドフラミンゴの弟分なんだろ?」

 

「あァ、それがどうした」

 

「ローっていくつだ?」

 

「24だ」

 

「おれ、20」

 

「......で?」

 

「ドフラミンゴの船に乗ってたんだろ、すごいな」

 

「まあな......見習いみたいなものだが」

 

「海賊王の船に乗ってた道化のバギーみたいなもんか」

 

「そうだな......乗ってた船が新世界クラスだと知ったのが、海賊を旗揚げするときだったのは一緒だ。おれは病気だったから、他の奴らに名前が売れるほど活躍できなかったけど」

 

「え、病気?大丈夫なのか?」

 

「だから必要だったんだ、この力がな」

 

「あー......オペオペの実だっけか」

 

「そうだ。だから、火拳屋。おまえの気持ちはよくわかる」

 

「?」

 

「知らなかったんだろう、白ひげの本懐を。おれも同じだ。おれの場合は、たまたまドフラミンゴが教えてくれたが、14年前のあの日、ガープ中将が来なかったことが運命の分かれ道だったんだろうな」

 

「..................えっ」

 

「なんだ、火拳屋」

 

「えっ、えっ、ちょっと待ってくれよ、今アンタなんていった!?」

 

「?」

 

「じじいに引き取られるはずだったのか!?」

 

「別口の大事件があったから、来れなかったけどな」

 

「いやだから......その......」

 

「??」

 

「ほんとに運命の分かれ道だよ......14年前なら余裕でおれいたぞ」

 

「!?」

 

「あー......そっか、ドフラミンゴからしたら、ロシナンテ大佐を託したのみてるから......」

 

「!?!?」

 

「そっか......だからわざわざ、ルフィと同盟組んでまで助けにきてくれたのか」

 

「ちがうからな、火拳屋。お前が何考えてるか知らないが、絶ッ対に、ちがうからな!?」

 

「おーい、ルフィ!ちょっとこいよ、すごいことがわかったぞ、今!」

 

「やめろ!!!」

 

麦わらのルフィと同列だと他ならぬドフラミンゴに言われたダメージがまだ回復していないローである。致命傷を負いたくなくて、必死でエースを追いかけたのだった。


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