(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
頂上戦争から3週間後、麦わらのルフィがふたたび世界を騒がせることになる。
「あまりにも英霊を侮辱しているッ!!」
ブランニュー少佐は怒りのあまり後ろの黒板を叩いた。世界の均衡を司るという三大勢力の一つ、海軍本部。 その海軍で佐官である少佐に属している。 アフロヘアとサングラスが特徴的で、海軍内で懸賞金額を決める際には毎回のように司会進行を務めるこの男もまた、元海軍本部大将にして海軍遊撃隊となっているゼファーの教え子の一人だ。
海軍本部議事の間にて、ブランニュー少佐は叫ぶのだ。
麦わらのルフィが海軍の英雄ガープの孫にして、革命軍総司令官ドラゴンの息子であると判明した。不幸中の幸いか、兄弟盃を交わしたエースは人堕ちホーミングの実の息子ではなく海賊王ロジャーの息子だが、マリンフォード頂上戦争をみるかぎり、実の息子と考えているのは間違いない。麦わらのルフィは家族には入らない。ただ、人堕ちホーミングの弟子ドフラミンゴの弟分が死の外科医トラファルガー・ローであり、麦わらのルフィと同盟を結んだまま潜伏中である。
マリンフォード頂上戦争のあと消息不明だった麦わらのルフィと火拳のエースだったが生きており、ふたたび海軍本部とインペルダウンに現れたのだ。共に行動していたのは元王下七武海の海侠のジンベエ。さらに海賊王ロジャーの右腕にして副船長だった男冥王シルバーズ・レイリー。
マリンフォードもインペルダウンも復興のたむに作業員や世界各地から集まる野次馬、殺到する取材陣。停戦に持ち込まれたことで無事関係が復活したウミット海運含む民間の出入りも多い。かたや海では秩序の崩壊に沸く、本来新世界にいるような海賊達が楽園であるこの海で次々に事件を起こしている。
生き抜いた猛者たちは本部を離れるしかなく、警備が手薄になっている中、それを知ってか4人は一隻の軍艦を強奪し、その船でまずマリンフォードを一周した。これは海における水葬の礼である。
殺到する取材陣の真ん前である。もはや広場かすらわからない場所に堂々と乗り込み、西端に再設置したばかりのオックス・ベルを16点鐘。花束を投げ込み、黙祷。まったく同じことをインペルダウンでもやったのだ。花を手向けたのがマリンフォードはルフィ、インペルダウンはエースという違いはあったが意味はないだろう。
それより、オックス・ベルを強奪してまでインペルダウンで同じことをしたのだから、狂気じみていると言わざるを得ない。
単純によめばマリンフォード頂上戦争で命を落とした者達への追悼、黙祷。船の周回は水葬の礼で間違いないが、これは世界への挑戦状である。
オックス・ベルは大昔に活躍した軍艦オックス・ロイズ号に取り付けられていた神聖な鐘だ。
年の終わりに去る年に感謝して8回の鐘を鳴らし、新しい年を祈り8回鳴らし、計16回鳴らすのが16点鐘になる。古くから海兵の間で伝わっている習わしだ。
わざわざ軍艦を奪いマリンフォードを周回して16点鐘を行い黙祷する事で海軍が捉えたメッセージは、16点鐘の意味、戦争で失われた犠牲者への黙祷、自分はまだ生きている・海軍は俺を取り逃がすと言うミスをした、と言うメッセージである。さらにはこういいたいのだ。白ひげが海賊王の真の意味を全世界に知らしめたこの場所で。
「海賊王におれはなる」と。
ブランニュー少佐の演説は続いているが、ヴェルゴは参考資料の引き伸ばされた写真をみた。麦わらの一味の動向はマリンフォード頂上戦争を生き抜いたヴェルゴがいちばんよく知っている。
麦わらのルフィがどんな人間なのかよくしらない人間は騙される巧妙な罠だろう。入れ知恵はシルバーズ・レイリーあたりか。鐘を鳴らしたり、黙祷したりすれば何か意味のある行動だと思わせられる。実は意味など無く、腕に刻んだ刺青のメッセージを多くのマスコミに写真で撮らせて、確実にその刺青が新聞を通して仲間に伝わるようにしたのだ。モルガンズの世界経済新聞でヴェルゴ達がよくやるやり取りだから、なんだか不思議な気分になる。
「3D×2Y」
3Dが×で消されて2Yが強調されているので集合は3日後では無く2年後に変更になったと麦わらのルフィは伝えて仲間もそのメッセージを読み解いて理解するにちがいない。
麦わらのルフィが伝えたいのは、当初はハートの海賊団と麦わらの一味が同盟を組むため、シャボンディ諸島への集合は3日後だった。しかし、今の麦わらの一味もハートの海賊団も新世界の壁を超えられない。四皇が統べる新世界に行くには今の自分達では無理だ。だから、すべては2年後に持ち越すと言うメッセージを仲間に送る事なのだろう。
そして、その宣言に海任のジンベエがいるということは、遅かれ早かれ麦わらの一味に仲間入りすることを意味する。師匠はシルバーズ・レイリーか。エースも修行をつけてもらってから、白ひげ海賊団2番隊隊長に復帰するということだろう。
さらにいうなら、麦わらのルフィは一般的な生花の葬儀用の花束だが、火拳のエースはわざわざドライフラワーまで用意して、花を手向けた。シオンの花束だ。花言葉としてはこうなる。
『追憶、君を忘れない、遠方にある人を思う』
なぜ選んだのかは、ワノ国に一度でも足を踏み入れたことがある人間でなければわからないはずだ。ワノ国には、こんな説話があるのだ。
あるところに二人の兄弟がいた。
ある日、父親を亡くした二人は嘆き悲しみ、その日以降父親の事を忘れることなく墓参りを続けた。
しかし年月が経つにつれ、兄は仕事が忙しくなり、父親を亡くした悲しみを忘れる為に、見た人が思いを忘れてしまうといわれる萱草を墓へ植えた。
次第に兄は墓参りに来ることがなくなった。
一方、弟は父親の事を忘れないように、見た人の心にあるものを決して忘れさせないといわれる紫苑を墓に植え、それ以降も墓参りを続けた。
さらに年月がたったある日、いつものように弟が墓参りをすると、墓の中から鬼が語りかけてきた。
この鬼は、父親の屍を守っている鬼で、父親の事を想う弟の心根に感心し、弟に予知能力を授けた。
身の上に起こることを予知することができるようになった弟は幸せに暮らした。
嬉しいことなど、忘れたくないことがあるときには紫苑。愁いなど、忘れたいことがあるときには萱草を、植えると良いと語り伝えられている。
これがなにを意味するのか、理解できる者はそう多くはないだろう。