(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第130話

キッドにとって楽園(パラダイス)とは暖かい家庭のことだ。東の海ほど治安は安定していないが、北の海ほど荒れている海域ではない南の海、非加盟国に生まれた彼らにとって最も縁遠い存在でもある。喉から手が出るほど欲しいのに手に入らない。キラーとは幼馴染だが、ヒート、ワイヤーも、それぞれ別の不良グループを率いるリーダー格にすぎず、日々抗争に明け暮れていた。

 

非加盟国を牛耳っていたギャングの頂点に君臨する男に、初恋の女の子を殺された。それがきっかけで報復するために4つの不良グループは結束、その勢いのまま殺しまくり、気づけば報復は終わっていた。そして「こんな狭い世界に居たくない」と感じたキッドは悪友となったキラーたちを引き連れて海賊となった。キッド海賊団の旗揚げである。

 

偉大なる航路前半の海楽園で逆走しながら歴史の本文を集めて回る羽目になり、気づけば一年がすぎていた。シャボンディ諸島でシャクヤクというレイリーの愛人にいわれた言葉の意味をキッドは苦虫を噛み潰したような顔をして反芻していた。気に入らなかった。

 

海賊王ゴールド・ロジャーは、よほど弱者に人権を与えられるほどの強者だったとみえる。カタギに手を出したら死ね。そんな甘ちゃんな主張がまかり通るのはそのルールを守ることができる生まれながらの強者だけだ。キッドのように弱者がジャイアントキリングするには手段なんて選んでいられなかったのである。生まれや育ちから手段なんて選んでいられなかったキッドにとって、虫唾が走るような話だった。

 

キッド達にとって唯一の生きる手段を嫌いだという理由だけで叩き潰そうとするような連中がいる。四皇の中にいる。そいつとだけは当たるな。殺される。おそらくキッドが一番嫌いな綺麗事を吐きながら完膚なきまでに叩きのめされるやり方で殺される。そういいたいのだ、この女は。

 

誰だと思った。もし敵対するとしたら最後にすべきだ。マリンフォード頂上戦争の白ひげの災害じみた強さを目の当たりにして、あれが四皇が四皇たる理由なら麦わらやトラファルガーが潜伏をする理由がわかる気がした。しょうには合わないからやらないが。

 

「どの四皇だ?」

 

女の目がきらりと光った。どうやら望む回答を返せたようだ。頭が回る坊やは嫌いじゃないわと笑っている。

 

「赤髪のシャンクスはね、ロジャーの見習いしてたのよ。ついでに傘下の海賊達は弱いわ。白ひげみたいにね」

 

「......生まれながらの強者と見習い時代が最高峰な奴らか......なるほどな。麦わらとトラファルガーじゃねえか」

 

舌打ちするキッドに女は愉快そうに目を細めた。

 

「ほんと、ホーミングが好きそうな海賊してるわね、坊や」

 

なぜここで人堕ちホーミングがでてくるのかわからないが、覚えておいた方がいい気がした。

 

シャボンディ諸島をぬけ、魚人島に辿り着く。血判状を提出して入国したキッド達がまっさきにやったことは、怪僧ウルージのビブルカードの確認だった。今まで集めた歴史の本文を翻訳してもらわなければならない。

 

楽園を逆走するついでに必死で情報を集めたのだが、魚人島の記録指針の記録が溜まる期間は半日だが、以降は偉大なる航路で唯一頼りになった磁気すら変動する環境となるため、指針が3つあるものに変える必要があるらしい。 ウミット海運に行って大金払って購入した。

 

そのとき、受付にいた男がいったのだ。

 

「キャプテン・キッド。お前達は毎回随分と派手に暴れてるみたいだが理由はあるのか?」

 

「あ?理由なんかねえよ、そういう生き方をしてきたんだ。今更変えられるかよ」

 

「そうか。タイミングがよかったな、お前達の探している男は今朝出たばかりだ。急げば間に合うぞ」

 

「!」

 

キッド達は慌ててビブルカードと新たなログポースを重ね、航路を確認するため地図を開く。

偉大なる航路前半の旅路をおえ、ここに足を踏み入れた者は口を揃えて「前半は楽園(パラダイス)だった」と語って脱落していく程の過酷な海域だと人はいう。

 

キッドは笑いたくなった。楽園とは手に入らないものをいうのだ、ふざけるな。

 

偉大なる航路後半の海域は、今なお海賊王を真剣に目指す、あるいは海賊王を目指す者達を待ちわびる。態度が完全に二分していながら、互いに凌ぎを削り合う四皇が統治し、前半までの常識が全く通用しない恐るべき海。 この新世界を制した者が「海賊王」の称号を得られると云われている。 なお、四皇以外の大物海賊達も新世界でナワバリや拠点を置いているがさておき。

 

 

偉大なる航路後半の海を新世界というのは知っていた。

 

しかし、まさか前半のサバイバルを乗り越えた猛者が集い、最早奇怪だの過酷だのと言ったレベルを通り越したメチャクチャな天候や海流、地理が目白押しの「世界最強の海」という物理的な意味だとは思わないではないか。

キラーにいわせれば偉大なる航路前半の海域でも十分過酷だが、新世界のレベルの高さには遠く及ばないと情報屋の魚人から断言されてしまい、絶句することになる。

 

記録指針も前半で使っていた物は役に立たず、新世界用の記録指針は一度に3つの島を指し示し、航海する者はその3つの指針の中からどれか1つを選んで進む。 「針が激しく動いているほど危険度が高い」という一応の目安はあるものの、どっちにしてもギャンブル的な要素が強く、航海士の勘も試される。

 

航海士にとっては船の運命を託される精神的な意味でも過酷な海だとは思わなかったのである。

 

 

次の島はライジン島、リスキーレッド島、ミストリア島を示す。

 

ビブルカードはライジン島の方に動いていた。


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