(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
標高10000メートルにある空島バロンターミナル。今はなき空島ビルカの民が集団移住して開拓したかつての廃墟は、今や空島の国々全体の経済活動の拠点だった。碇マークがたなびくウミット海運が一から作り上げてきた中立地帯のひとつである。もうひとつは空島ウェザリアであり、もうひとつはドレスローザ。
空を見上げれば、たくさんの気球がある。数名が乗船できる小型船に、気球がくっついている。
思い返せば、マリンフォード頂上戦争で金獅子が空島ウェザリアを攻撃しようとした時、ウミット海運の一隻が浮いたのはこの気球のおかげだった。
空島ウェザリアは、この2年で、門外不出のウェザーエッグの代わりに、ウミット海運と共同開発でバブルシールドというシャボン玉に企業秘密のなにかを閉じ込めた気球を商品化までこぎつけている。あの時の気球は試作品かなにかだったのだろうか。
バブルシールドはあらゆる物理的攻撃を無効化し、弾きかえす特性があり、絶対に割れない気球として名を馳せている。それは、世界一安全な空島への行き方として名高い。売っているが法外な値段であり、レンタルかタクシーが一般的だった。運転士はみんなビルカ式の翼を背負ったビルカ人である。
気球に乗ってやってきたキッド海賊団は、待ち合わせ場所に向かっていた。
「久しぶりだな、キャプテン・キッド」
怪僧ウルージがそこにいた。
「ビブルカードが上に行きやがるから、まさかと思ったらこれか。めんどくさくなったな?」
「残念ながら違う。青海を回る理由がなくなったのだ。知っているだろう?かつて超新星と言われた者達の現状を」
「ああ、知ってる。まさかここまで減っちまうとは思わなかったんだけどな。誰かしら残ってたら同盟考えてたんだが」
「私は海賊王に興味はない。その先の戦いに興味があるからな、他を当たりなされ」
「そんなもん2年前から知ってるから、期待してねえよ。ほら、今回の依頼分だ。翻訳よろしく」
この一年間、必死で集めてきた歴史の本文をキッドはウルージに渡す。ニコ・ロビンとの繋がりを持たないキッドにとって、この男は唯一の海賊王への道に必要な男だ。人堕ちホーミングが用意した盛大すぎる代替措置でもある。青海で死なれたら困るから、安心している自分がいた。一年前よりも分厚い枚数に感心したようにウルージはざっと眺めてからうなずいた。
かつて11人の超新星と呼ばれていた者達がいた。そこから彼らの現状は様変わりしている。
麦わらのルフィとトラファルガーは同盟を結んだまま、麦わらの一味は今だに潜伏中。
ハートの海賊団はトラファルガーが七武海になったため、2年前から厳密には海賊ではなくなった。海賊王を目指す上でキッド海賊団とは違う道を選んだのだろう。何度も共闘してきたが、初めて会ったときと全く闘志が失われていない。
キッド海賊団は歴史の本文を求めているうちに、成り行きの繰り返しとはいえ、共闘を通じて革命軍(特に革命の歌姫)や七武海(トラファルガーと天夜叉、鷹の目)、個人では海賊狩りと海軍の藤虎と繋がりが生まれた。
大喰らいのボニーは黒ひげに捕まり、なんらかの交渉材料にされそうになるが、黒ひげが逃走。仲間を皆殺しにされ、生け取りにされていたボニーは海軍に捕縛された。
カポネ・ヘッジはビッグマム海賊団の傘下に降り、子持ちの父親となった。バジル・ホーキンスとスクラッチメン・アプーは百獣海賊団の傘下に降った。
Xドレークは百獣海賊団の傘下に降ったはずだが、七武海の権限かウミット海運のコネか、トラファルガーがかなり怪しんでいるからなにかあるのかもしれない。
そういう意味では、ウルージの力を必要とするのは、もうトラファルガーとキッドだけなのだ。だからウルージはここにいるらしい。
「トラファルガーの野郎はどこまで進んでる?」
「お前さんの方が進んでおる。七武海の仕事と両立となると、やはり海軍に怪しまれないようにしなければならんからな。嬉しくないのか」
「本命は四皇か準四皇が握ってんだ、いくら集めてもおなじだろ」
「たしかに、避けられぬ運命ではあるな」
キッドはため息をついた。
この2年間でどうにか天夜叉ドフラミンゴのように仲間全員が強くなる方法を模索してきたが、限界を感じつつあるのだ。キッドとキラーはともかく、二人の他の仲間たちはどうしても壁にぶつかり、その先にいけないでいる。
白ひげや赤髪のように圧倒的な強さがあるのなら、いくら仲間や傘下の海賊は弱くてもいいのだ。守れるから。残念ながら、キッド海賊団は四皇に挑まなければならない挑戦者だ。その海賊の形がとれるのは、それこそ海賊王になったときだろう。
このまま戦いを挑んだら全滅か、キッドとキラーだけが生き残り、無理やり傘下に入る羽目になる。後者になるくらいなら、前者の方が先だ。ただそうなったとき、クロコダイルみたいに再起できるかどうか。キッドには確信があった。無理だ。絶対に無理だ。黒ひげみたいに、海賊らしい海賊と呼ばれることが多いキッドですら、仲間は急所でもあった。誰か死んだら復讐鬼になり、破滅の道を進むしかなくなるのが目に見えている。それだけキッドは仲間が大切だった。
もう同盟しか道はないとキッドはわかっていた。
「いくか、ドレスローザ」
麦わらの一味を待ちわびるように居座っているトラファルガーに同盟を持ちかけるべく、キッドは見聞色をつかうのだ。
今日も元気に空島ウェザリアを巡って、最強格のジジイどもが争っている。時々、カイドウが現れて共闘したり大乱闘したりしている。ジジイはジジイらしく引退しろよ、いつまで前線にいる気だと何度思ったかしれない。どうせ死ぬまで戦場だろう。なら引導を渡せるまで強くなるしかない。願うだけ無駄だから、少しでもわざとかを見たいのだ。なんかシンワザ使わねーかなとキッドは空を仰いだ。